製造原価は、製品をつくるために実際にかかった「材料費」「労務費」「経費」などを正確に集計したもので、ものづくり企業の利益管理に欠かせない指標です。しかし、似た言葉である売上原価との違いが分かりにくく、直接費・間接費や、固定費・変動費といった複数の分類が絡むため、どこから理解すべきか迷う方も多いのではないでしょうか。
本記事では、製造原価の基本的な考え方から、計算方法、製造原価報告書の役割、間接費配賦のポイントまでを解説します。
目次
製造原価とは?
製造原価とは、製品をつくるために必要となる費用を合計したもので、材料費や労務費、経費といった製造活動に直結する支出をまとめた指標です。企業が利益を把握するうえで欠かせない要素であり、材料仕入れの価格が変動すれば原価全体にも影響が及びます。
さらに、製造現場の効率が改善されれば労務費の比率が変わることもあるため、製造原価は単なる数字ではなく、経営判断に直結する情報として扱われます。こうした性質から、正確な集計と分類が求められ、日々の管理体制が企業の収益構造を左右する大切な基準となります。
製造原価と売上原価の違い
製造原価と売上原価の違いは、製品をつくる段階で発生した費用を示すのか、販売時点で計上される費用を示すのかという性質にあります。製造原価は「製造プロセスに必要なコスト」であり、工場で製品を作り上げるための材料費や作業員の賃金などが含まれます。
一方、売上原価は販売した製品に対して対応させる費用で、製造原価に期首と期末の在庫調整を加えて求められるものです。製造原価と売上原価の違いを理解しておかないと、利益計算や原価管理が正確に行えず、経営判断にも影響が生じます。
なお、原価計算については、こちらの記事も参考にしてください。

製造原価の費用形態における分類
製造原価の費用形態は、材料費・労務費・経費に分類され、それぞれが製造活動にどのように関わっているかを示す大切な指標です。材料の使用量が変われば材料費が変動するように、各費用の性質を理解することで原価管理の精度を高めることができます。
材料費
材料費とは、製品をつくるために使用した原材料にかかる費用を指し、製造原価の中でも特に変動の影響を受けやすい項目です。例えば、市場価格の変動によって仕入れ単価が上下すれば、そのまま製品の原価へ反映されます。
また、材料の歩留まりやロス率が高いほど材料費が増えるため、調達方法や在庫管理の仕組みも重要になります。材料費は事業の収益構造に直結するため、適切な仕入れ量の見極めや無駄の削減を行うことで、原価全体のコントロールにつながります。このように材料費の性質を理解しておくことが、安定した製造活動と利益確保の基本です。
労務費
労務費とは、製品をつくるために従業員へ支払われる賃金や手当などの人件費を指し、作業量や就業形態によって変動することが特徴です。例えば、繁忙期に応じて残業が増えれば労務費も増加し、逆に作業効率が改善されれば比率が下がることもあります。
労務費は単に賃金を集計するだけでなく、作業時間の管理や人員配置の最適化とも深く関わっています。生産性向上の取り組みが労務費の削減につながることも多いため、企業にとって継続的な見直しが欠かせない費用項目です。労務費の性質を踏まえて管理することで、製造コストの安定化につながります。
経費
経費とは、製造活動に必要な各種の付随費用を指し、材料費や労務費に分類されない幅広い支出を含む点が特徴です。例えば工場の水道光熱費や設備の維持費など、製造過程を支えるために欠かせない費用が該当します。
これらの経費は直接的に製品一つひとつに結び付けることが難しい場合もあり、一定の基準で配賦することが求められます。また、経費は固定的に発生するものから変動するものまでさまざまで、管理方法を誤ると原価全体の把握があいまいになることがあります。
なお、製造業やメーカーの経理については、こちらの記事も参考にしてください。

直接費と間接費における分類
直接費と間接費の分類は、製品ごとに費用を正しく配分するための基本的な考え方であり、原価計算の精度を左右する重要な視点です。例えば、特定の製品だけに使われる材料費は直接費となりますが、多数の製品にまたがる光熱費は間接費として扱われます。
直接費(製造直接費)
直接費とは、特定の製品に対して直接的に結び付けて計上できる費用を指し、原価を構成する要素の中でも最も明確に把握しやすい区分です。例えばひとつの製品を作るために使用した材料の金額や、特定の作業に従事した従業員の賃金などは、製品単位で紐づけることができます。
直接費は製品ごとの採算を判断する際に欠かせない指標となり、材料の歩留まりや作業効率の変化がそのまま数値に反映される点が特徴です。こうした性質から、製造工程の改善やコスト削減の効果を把握しやすく、企業の原価管理の基盤を支える役割を持っています。
直接材料費
直接材料費は、製品そのものを構成する材料にかかる費用を指し、製造原価の中で特定製品へ最も明確に対応づけられる費用です。例えば、特定の製品にだけ使用される部品や原材料は、数量と単価から直接材料費として集計できます。材料の選定や仕入れ価格の変動はこの費用に直結するため、調達ルートの見直しや適切な在庫管理が重要になります。
また、材料ロスや歩留まりの改善によっても費用は変化し、こうした取り組みは利益率の向上につながります。直接材料費は製品価値を形づくる中心的な要素であり、正確に把握することが原価管理の第一歩となります。
直接労務費
直接労務費は、特定の製品の製造に直接従事した作業員に支払われる賃金や手当を指し、作業時間や工数に応じて計算される費用です。例えば、ひとつの製品を仕上げるために必要な作業時間が明確であれば、その時間に対する賃金を直接労務費として計上できます。
作業効率が変わればこの費用も変動し、現場の改善活動や教育体制が費用に反映されやすい点が特徴です。また、作業内容の標準化や稼働率の把握など、労務管理との関係も深く、企業にとって継続的な見直しが求められる費用です。そのため、直接労務費の正確な把握は、生産性向上と原価削減の判断材料になります。
直接経費
直接経費は、特定の製品にのみ発生する外注加工費や特別な工具利用料などを指し、材料費や労務費に含まれないが製品に直接紐づく費用です。例えば特注品を製造する際に必要となる特殊加工や検査費用などは、その製品固有のコストとして直接経費に分類されます。
直接経費は発生のタイミングや内容が案件ごとに異なることが多く、把握や管理に注意が必要ですが、正しく分類することで製品ごとの収益性をより正確に評価できます。また、外注先の選定や加工条件の見直しなどによってコストが変動するため、継続的な確認が求められる費用でもあります。
間接費(製造間接費)
間接費は、複数の製品に共通して発生するため、特定の製品へ直接結び付けることが難しい費用を指します。例えば、工場全体の光熱費や現場管理者の給与などは、製品別に正確な使用量を把握することが難しいため、一定の基準を設けて配賦する必要があります。
間接費は種類が多く、変動するものも固定的に発生するものも含まれるため、分類方法や配賦基準を誤ると原価計算の精度が大きく損なわれます。また、改善活動によって削減しやすい領域も多く、管理体制が企業全体のコスト構造を左右する点も特徴です。正確な原価把握のためには、間接費の性質を理解し、配賦方法を適切に運用することが欠かせません。
間接材料費
間接材料費は、製品ごとに使用量を特定できないが製造活動に必要な材料にかかる費用を指します。例えば、工場で共通して使われる潤滑油や消耗工具などは、どの製品にどれだけ使われたかを正確には把握できないため、間接材料費として扱います。これらの費用は製品単位での計算が難しいため、作業時間や生産量などの基準を使って配賦することが一般的です。
間接材料費は少額の支出が積み重なることで全体に影響を及ぼす場合もあるため、発生状況を定期的に確認し、効率的な使用を促す管理が求められます。こうした費用の性質を理解することで、原価計算の精度を高めることにつながります。
間接労務費
間接労務費は、特定の製品に直接従事していない従業員に支払われる賃金で、例えば現場監督者の給与や設備保守担当者の人件費などが該当します。これらは複数の製品に共通して関わるため、直接労務費のように製品別に集計することができず、一定の基準に沿って配賦されます。
間接労務費は工場運営に不可欠な費用ですが、人数配置や業務内容の改善によって効率化が図れる領域でもあります。また、間接部門の業務量や役割を見直すことでコスト構造を整理でき、原価の透明性を高める効果も期待できます。管理の質が企業全体の製造効率に影響する点が特徴です。
間接経費
間接経費は、製品ごとに直接対応づけられない製造関連の費用を指し、例えば工場の水道光熱費や建物の減価償却費などが含まれます。これらの費用は製造活動に不可欠である一方で、特定の製品だけに使用された量を把握することが難しいため、作業時間や稼働面積などの基準を用いて配賦する必要があります。
なお、間接経費は固定的に発生する場合も多く、管理方法を誤ると原価全体が不正確になる恐れがあります。そのため、定期的な見直しや使用量の把握が重要であり、コスト削減の観点でも改善余地の大きい領域です。原価計算の信頼性を高めるために、間接経費の性質を理解して適切に管理することが重要になります。
減価償却費については、こちらの記事も参考にしてください。

固定費と変動費における分類
固定費と変動費の分類は、費用が生産量に対してどのように変化するのかを理解するための基本的な考え方です。例えば、生産量が増えても変わらない家賃は固定費となり、逆に材料費のように数量に応じて変動する費用は変動費として扱われます。
固定費
固定費は、生産量の増減に関係なく一定額が発生する費用を指し、企業が製造活動を続けるための基盤となる支出です。例えば、工場の家賃や設備の減価償却費などは、製造量が増えても減っても同じように発生します。この性質から、固定費は企業の規模や生産能力によって影響を受ける一方で、短期間では大きく変化しにくい点が特徴です。
また、固定費が高い企業は生産量が増えると製品あたりの原価が低下しやすく、逆に生産量が少ない時期は原価が高くなるという構造を持ちます。固定費の水準を適切に管理することは、経営の安定性や利益計画に直結するため、長期的な視点での改善が求められます。
変動費
変動費は、生産量に応じて増減する費用を指し、製品をつくる量が変わるほど費用も比例して動く点が特徴です。例えば、製造に必要な原材料費や外注加工費などは、製品数が増えればその分だけ多く発生します。変動費は生産活動との結びつきが強く、効率化や仕入れ条件の見直しによっても変動幅が変わるため、管理の方法が利益率に大きな影響を与えます。
また、変動費の割合が高い企業は生産量の変化に柔軟に対応しやすく、固定費が多い企業とは異なる収益構造を持ちます。変動費の特徴を理解することで、損益分岐点の分析や原価戦略の立案に役立てることができます。
製造原価の計算方法
製造原価の計算方法は、製品をつくるために投入した材料費・労務費・経費を集計し、在庫の増減を反映させて算出します。例えば材料費は、その期に使った金額を正確に把握するため、期首と期末の材料棚卸高を考慮して求める必要があります。基本となる計算は次の流れで整理されます。
- 当期材料費=期首材料棚卸高+当期材料仕入高−期末材料棚卸高
この材料費に労務費と経費を加えることで、その期に製造にかかった総額が求められます。
- 当期総製造費用=当期材料費+当期労務費+当期経費
さらに、その期に仕掛品が残っている場合には、仕掛品の在庫を反映させて製品として完成した部分を算出します。
- 当期製品製造原価=当期総製造費用+期首仕掛品棚卸高−期末仕掛品棚卸高
このような手順を踏むことで、どの製品にどれだけの原価がかかったのかを明確にでき、原価管理や利益計算の基礎が整います。また、計画原価と実際原価の差が大きい場合には、その差額を在庫に反映させるなど、社内の原価計算ルールに基づく調整も重要になります。
なお、棚卸しについては、こちらの記事も参考にしてください。

製造原価報告書とは?
製造原価報告書とは、製品を作るために発生した費用を一定期間ごとに整理し、外部に向けて明確に示すための資料です。例えば、材料費や労務費といった費用がどの工程でどの程度かかったのかを確認する際、製造原価報告書を参照することで全体の流れが把握できます。
製造活動に関わる原価を体系的にまとめる役割を持つため、経営側にとってはコスト構造を理解しやすくなり、改善策の検討にもつながります。また、財務諸表の中で重要な位置づけを持つ書類として、製造業の原価管理を支える基礎資料のひとつとなっています。
なお、財務諸表や財務三表については、こちらの記事も参考にしてください。

製造原価を計算する際の注意点
製造原価を計算する際には、費用の区分や配賦方法を正しく整理することが重要です。例えば、同じ費用でも部署ごとに役割が異なることがあり、あいまいにすると原価の精度が下がってしまいます。正しい計算を行うためには、日常の記録方法から確認する姿勢が求められます。
製品や部署にまたがる間接費の基準を設ける
製品や部署にまたがる間接費の基準を設けることは、原価計算の精度を保つうえで欠かせない取り組みです。結論から言えば、明確な基準がないまま配賦を行うと、どの製品にどれだけの費用がかかったのか判断しづらくなり、結果として採算管理にも影響が生じます。
例えば、電気代や設備の維持費といった費用は複数の工程で利用されるため、使用量や作業時間など適切な指標を決めて配分しなければ実態と離れた数字になってしまいます。事前に基準を共有しておくことで、担当者間の認識のズレも防げるため、分析結果の比較や改善策の検討もしやすくなります。間接費は目に見えない形で積み上がることが多いため、日頃から配賦ルールの見直しを行うことが、原価管理の質を高めることにつながります。
従業員の賃金など人件費の分類に気をつける
従業員の賃金など人件費の分類に気をつけることは、製造原価の正確さを保つための基本的なポイントです。結論として、人件費を目的に応じて適切に区分できていないと、どの工程にどれだけの費用がかかったのか判断しにくくなり、経営判断の精度にも影響が出てしまいます。
例えば、生産ラインでの作業に直接携わる従業員の給与は製造直接費に分類されますが、工場全体の管理を行うスタッフの給与は製造間接費として扱われます。この違いを曖昧にすると、製品別の利益率を求める際に誤差が生まれやすくなります。また、残業代や手当などもどの範囲に含めるかを決めておくことで、後の計算がスムーズになります。人件費は企業活動の中でも大きな割合を占めるため、日常の記録から分類方法を見直すことが原価管理の基盤を整えることにつながります。
まとめ
製造原価は、企業が製品を生産するうえでかかった費用を正確に把握するための重要な指標です。材料費や労務費、経費といった各費用の性質を理解し、直接費と間接費、固定費と変動費の分類を適切に行うことで、原価計算の精度が高まります。
また、製造原価報告書を通じて費用の流れを把握し、原価の透明性を確保することは、収益構造の理解や改善策の検討に直結します。正確な原価管理は、利益率の向上や経営判断の信頼性を高める基盤となり、持続的な事業運営に不可欠な要素です。そのため、製造原価の管理には、経理代行会社への相談もおすすめです。
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製造原価に関するよくあるご質問
製造原価についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、製造原価に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
製造原価とは何ですか?
製造原価とは、製品を生産するために実際にかかった費用を集計したもので、材料費や労務費、経費の合計で構成されます。製造活動に直接関わる費用を正確に把握することで、製品ごとの利益やコスト構造を理解でき、経営判断につながります。原価の内訳を分類し、直接費と間接費、固定費と変動費を整理することが重要です。
製造原価と売上原価の違いは何ですか?
製造原価は製品を作る段階で発生した費用を示すのに対し、売上原価は販売した製品に対応させる費用です。製造原価には材料費や労務費などの製造に直接かかったコストが含まれ、売上原価は期首・期末在庫の調整を加えて計算されます。製造原価と売上原価の違いを理解することで利益計算や原価管理の精度が向上します。
製造原価の原価率は何%が目安ですか?
製造原価率は、売上に対して製造原価が占める割合を示す指標で、業種や製品によって目安は異なります。一般的には30%から70%程度が多く、低い場合は効率的な生産を、高い場合は製造コストが大きくなります。原価率を把握すると、利益率改善や適正な価格設定、コスト管理の参考となり、経営判断に役立ちます。