
ホテルや旅館などの宿泊施設では、日々多くの顧客とお金のやり取りが発生するため、経理業務は施設運営を支える重要な役割を担います。ホテルや旅館では、宿泊費や飲食代、スパ利用料など収益源が幅広く、それぞれ異なる勘定科目や仕訳処理が必要です。さらに予約経路によって入金方法やタイミングも変わるため、現金やクレジットカード決済、オンライン決済などの管理も欠かせません。
本記事では、ホテル・旅館・宿泊施設の経理業務の流れを日次・月次・年次に分けて整理し、よく使う勘定科目や仕訳例、業界特有の特徴や課題を解説します。また、経理担当者に求められるスキルや効率化のポイントも紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
ホテル・旅館・宿泊施設の経理業務とは?
ホテル・旅館・宿泊施設の経理業務は、宿泊費や飲食、スパなどさまざまな収益と費用を正確に記録や管理をする仕事です。予約サイトからの入金やクレジットカード決済、現金売上など複数の入金方法を整理し、帳簿に反映させる必要があります。ここでは、経理の業務内容を日次・月次・年次にわけて解説します。
ホテル・旅館・宿泊施設の経理の日次業務
日次業務では、その日の取引をすべて確認し、売上や支出を正確に記録することが求められます。例えばフロントでの宿泊費受領、レストランの会計、物販やスパの売上、予約サイトからの入金データなどをまとめ、日計表を作成します。
さらに現金残高や預金の入出金を照合し、差異があれば原因を確認します。レジ締めや伝票整理もこの段階で行い、仕訳を会計ソフトへ入力することで、日ごとの収支状況を可視化します。毎日の記録を欠かさず行うことで、月次や年次の集計作業がスムーズになり、経営判断にも役立ちます。
ホテル・旅館・宿泊施設の経理の月次業務
月次業務では、1か月分の取引を集計し、損益計算書や試算表を作成して経営状態を確認します。例えば宿泊売上や飲食収益、仕入や水道光熱費などを集計し、季節による変動やコスト増減を分析します。
また、給与計算や社会保険料の納付、源泉所得税の支払いといった労務関連業務も月次で行う重要な業務です。さらに未払費用や前払費用を調整し、月末の残高が正しいか確認します。月次で数字を整えておくことで、年次決算の準備が進めやすくなり、経営者への報告資料もすばやく提出できます。
ホテル・旅館・宿泊施設の経理の年次業務
年次業務では、1年間の取引を締めて決算書を作成し、税務申告や経営報告を行います。例えば固定資産の減価償却計算や棚卸資産の評価、長期前受金の処理など、月次では行わない精緻な調整を実施します。
さらに税理士や会計士と協力し、法人税や消費税の確定申告書を作成・提出します。金融機関や株主への報告資料を作る場合もあり、数字の正確性と根拠の明確さが求められます。そのため、年次決算を丁寧に仕上げることで、翌期の予算策定や資金計画の精度も高まるでしょう。
ホテル・旅館・宿泊施設でよく使う勘定科目と仕訳例
ホテル・旅館・宿泊施設でよく使われる勘定科目を以下の表にまとめました。
勘定科目 | 内容 | 具体例 |
---|---|---|
宿泊収入 | 宿泊料金に関する収益 | 宿泊料・サービス料 |
飲食収入 | レストランやルームサービスの収益 | 朝食代・夕食代・ドリンク売上 |
物販収入 | お土産や館内販売の収益 | 売店の商品代・アメニティ販売 |
スパ・施設利用収入 | 館内施設利用に関する収益 | スパ利用料・カラオケ代・貸切風呂代 |
前受金 | 宿泊やサービス提供前に受け取った代金 | 予約時に受け取った宿泊代・デポジット |
売掛金 | 法人や旅行代理店への未回収売上 | 旅行会社への宿泊代請求分 |
仕入高 | 飲食や物販に必要な仕入費用 | 食材・ドリンク・物販商品の仕入 |
外注費 | 外部委託費用 | 清掃委託・ランドリー外注費 |
水道光熱費 | 施設運営にかかるインフラ費用 | 電気・ガス・水道代 |
消耗品費 | 日常業務で消費する備品の費用 | リネン類・トイレットペーパー・文房具 |
減価償却費 | 建物や設備の費用を分割計上 | 客室設備・厨房機器の減価償却 |
支払手数料 | 決済関連の手数料 | クレジットカード手数料、予約サイト手数料 |
預り金 | 従業員や顧客から一時的に預かった金銭 | 源泉所得税、旅行代理店保証金 |
未払金 | 仕入や外注の未払い債務 | 取引先への請求書未払分 |
通信費 | 業務で必要な通信費用 | Wi-Fi契約料、電話代 |
以下は、ホテル・旅館・宿泊施設における仕訳例です。
仕訳例(12月時点:前受金計上)
例えば、12月に宿泊予約を受け付け、代金20,000円を事前決済(クレジットカード決済)で受領し、実際の宿泊は翌年1月の場合の仕訳は以下の通りです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
売掛金 | 20,000円 | 前受金 | 20,000円 |
仕訳例(1月:宿泊サービス提供時)
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
前受金 | 20,000円 | 宿泊収入 | 20,000円 |
このように、ホテル業でも代金の受領とサービス提供のタイミングが異なるため、収益の認識を適切に行うことが重要です。サービス提供前は「前受金」として処理し、宿泊完了時に「宿泊収入」に振り替えるのが基本です。
ホテル・旅館・宿泊施設の経理における特徴
ホテル・旅館・宿泊施設の経理における特徴として以下のような点があげられます。
- 飲食・スパ・物販など幅広い収益源がある
- 予約の経路にて入金方法が異なる
- 宿泊税や入湯税など特殊な税金がある
ここでは、それぞれの特徴を具体的に解説します。
飲食・スパ・物販など幅広い収益源がある
ホテルや旅館の経理は、宿泊料だけを管理するわけではなく、館内で発生するさまざまな売上を正確に集計する必要があります。例えばレストランの飲食代、スパや温泉の利用料、売店でのお土産販売、宴会場の使用料など、複数の収益源が存在します。それぞれ異なる勘定科目を用いて仕訳を行い、日計表や月次報告に反映させる必要があります。
特に宿泊プランに飲食やスパ利用がセットになっている場合、売上を宿泊と付帯サービスに分けて計上することもあります。幅広い収益源を把握しておくことで、どの部門が利益を生んでいるかを正確に分析でき、経営判断に役立ちます。
予約の経路にて入金方法が異なる
宿泊施設では、予約の経路によって入金のタイミングや方法が異なるため、経理ではそれを踏まえた処理が求められます。例えば自社サイトや電話予約の場合は現地決済が多い一方、OTA(オンライン旅行代理店)経由では事前決済や代理店からの後日精算になることがあります。
旅行代理店との契約では月末締め翌月払いなど売掛金の管理が必要です。また、クレジットカード決済ではカード会社からの入金時期を考慮して前受金として計上することもあります。このように予約経路ごとに異なる入金パターンを整理し、売上と入金が正しく一致しているかを照合することが、資金繰りや決算精度の向上につながります。
宿泊税や入湯税など特殊な税金がある
ホテル・旅館の経理では、通常の消費税や法人税に加えて、宿泊税や入湯税といった地域特有の税金を扱う必要があります。例えば東京都や京都市では宿泊税が課税され、宿泊料に応じて宿泊客から徴収し、後日自治体へ納付します。
温泉地では入湯税が発生し、宿泊費とは別に徴収して会計処理を行います。これらの税金は施設が負担するのではなく宿泊客から預かる性質のため、勘定科目として「預り金」や「仮受金」を用いて管理します。納付漏れや計算ミスがあると行政からの指摘や追徴課税につながるため、正確な集計と納付スケジュールの把握が重要です。
ホテル・旅館・宿泊施設の経理における課題
ホテル・旅館・宿泊施設の経理における課題として、以下のような点があげられます。
- 繁忙期と閑散期で忙しさが違う
- キャッシュレス決済への対応が増加している
- 地方の宿泊施設では経理人材が確保しづらい
ここでは、それぞれの課題について解決策も含めて解説します。
繁忙期と閑散期で忙しさが違う
宿泊施設の経理は、繁忙期と閑散期で業務量に大きな差があります。例えば夏休みや年末年始、観光シーズンには宿泊客が急増し、売上データや決済処理、領収書発行などの作業が集中します。一方で閑散期は取引が減少するため、日々の仕訳や入金確認は落ち着きますが、代わりに月次や年次決算に向けた集計、固定資産管理、棚卸などを進める時期として活用されます。
季節の変動に合わせて人員配置やシフトを調整しないと、繁忙期に経理業務が滞るリスクがあります。そのため、繁忙期と閑散期の業務量を見越した計画を立てることで、安定した帳簿管理とスムーズな決算対応が可能になります。
キャッシュレス決済への対応が増加している
キャッシュレス決済の普及により、宿泊施設の経理は現金管理だけでなくさまざまな決済方法への対応が求められます。例えばクレジットカード決済やQRコード決済、オンライン予約サイト経由の事前決済など、入金のタイミングや手数料の計上が異なります。これらを正しく仕訳し、カード会社や決済代行会社からの入金明細と売上データを照合する作業が必要です。
また、複数の決済手段を導入している施設では、入金の遅れや差異を見落とすと資金繰りや決算数値に影響する可能性があります。そのため、決済手段ごとに管理方法を標準化し、自動照合ツールや会計ソフトを活用することで、業務負担を軽減し正確性を高められます。
地方の宿泊施設では経理人材が確保しづらい
地方にあるホテルや旅館では、経理担当者の採用や育成が難しいという課題があります。例えば都市部と比べて求職者が少なく、経理経験者が見つかりにくいため、フロントや事務スタッフが経理を兼務しているケースもあります。
兼務体制では日次処理や入金管理が後回しになりやすく、月末や決算期に業務が集中して負担が増大します。また、経業務が属人化すると担当者が退職した際に引き継ぎが滞るリスクもあります。こうした課題に対応するには、クラウド会計ソフトを導入して入力作業を効率化することや、記帳代行や経理アウトソーシングを活用して人手不足を補うといった対策がおすすめです。
なお、経理人材の不足で起こりうるリスクとして「一人経理」という状況があります。「一人経理」のリスクについてはこちらの記事も参考にしてください。

ホテル・旅館・宿泊施設の経理担当者に必要なスキル
ホテル・旅館・宿泊施設の経理担当者に必要なスキルとして以下のような知識や能力が求められます。
- キャッシュフローの管理スキル
- ITツールやAIへの知識
- 現場でのお金の流れの把握
ここでは、それぞれのスキルについて具体的に解説します。
キャッシュフローの管理スキル
キャッシュフローの管理スキルは、ホテルや旅館の経理担当者に欠かせない能力です。宿泊業は、繁忙期と閑散期で売上が大きく変動するため、収入と支出のタイミングを正確に把握し、資金が不足しないように計画を立てる必要があります。
例えば、繁忙期の収益を閑散期の運転資金に回すための資金繰りを考える場面もあります。人件費や光熱費、仕入代金など固定費も多いため、手元資金の動きを予測しながら適切な資金管理を行うことが重要です。
なお、キャッシュフローについてはこちらの記事も参考にしてください。

ITツールやAIへの知識
ITツールやAIへの知識も、現代の宿泊業経理では求められるスキルです。予約管理や売上集計、支払処理など多くの業務がクラウドシステムや自動化ツールで行われるようになっています。
例えば、会計ソフトと予約管理システムを連携させることで、仕訳の自動計上が可能になり、手作業による入力ミスを減らせます。AIを活用した売上予測やコスト分析を行えば、経営陣へのレポートも迅速に作成できます。効率化だけでなく、データを活用した提案力も高まる点が特徴です。
なお、経理とAIの関係についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

現場でのお金の流れの把握
現場でのお金の流れを把握する力は、正確な経理処理のために重要です。ホテルや旅館では、宿泊代金以外にも飲食、物販、アクティビティなどさまざまな収入があります。
例えば、フロントで受け取った現金、レストランの売上、オンライン決済の入金など、それぞれ入金タイミングや処理方法が異なります。現場スタッフとの情報共有が不十分だと、売上計上の漏れや入金確認の遅れが発生する可能性があります。そのため、現金管理のルールを整え、日々の流れを把握することで正確な帳簿作成につながります。
ホテル・旅館・宿泊施設の経理を効率化するポイント
ホテル・旅館・宿泊施設の経理を効率化するポイントとして、以下のような点があります。
- 会計ソフトや自動仕訳システムを導入する
- DX化やペーパーレス化を進める
- 経理代行会社や記帳代行会社に相談する
ここでは、それぞれのポイントについて具体的に解説します。
会計ソフトや自動仕訳システムを導入する
会計ソフトや自動仕訳システムを導入することは、ホテルや旅館の経理を効率化するための基本的な手段です。宿泊代や飲食、物販など複数の売上データを手作業で入力すると、時間がかかるうえミスが発生するリスクも高まります。
例えば、予約管理システムやPOSレジと会計ソフトを連携させることで、売上仕訳が自動で作成され、入力作業の手間を削減できます。また、振込明細との突合も自動化すれば、入金消込のスピードも向上します。業務負担を軽減し、より分析や改善提案など付加価値の高い業務に時間を割くことが可能になります。
なお、自動仕訳についてはこちらの記事も参考にしてください。

DX化やペーパーレス化を進める
DX化やペーパーレス化を進めることは、経理業務のスピードと正確性を高めるうえでおすすめです。請求書や領収書を紙で管理すると保管場所が必要になるだけでなく、検索や集計に時間がかかります。
例えば、請求書を電子化しクラウド上で承認フローを回せば、出張先からでも確認や承認ができ、支払処理の遅延を防げます。また、紙の仕訳帳や現金出納帳もデジタル化すれば、複数人での同時閲覧や更新が可能となり、情報共有がスムーズになります。結果として、業務の属人化が減り、ミスや漏れの防止にもつながるでしょう。
なお、経理DXについてはこちらの記事も参考にしてください。

経理代行会社や記帳代行会社に相談する
経理代行会社や記帳代行会社に相談することも、効率化を図る方法のひとつです。特に人手不足や繁忙期の負担が大きい宿泊施設では、専門家に日常の仕訳や月次決算を任せることで社内の負担を軽減できます。
例えば、現金出納帳や売上データを共有するだけで、正確な帳簿作成から試算表まで整えてもらえるサービスもあります。外部に委託することで担当者は資金繰りや経営分析などの重要業務に集中できるようになり、結果的に経営判断のスピードアップにもつながります。そのため、コストと効果を比較しながら検討することがおすすめです。
なお、経理代行についてはこちらの記事を参考にしてください。

まとめ
ホテル・旅館・宿泊施設の経理は、宿泊費や飲食、スパ、物販といった複数の収益源を正確に記録し、予約経路ごとに異なる入金方法や宿泊税・入湯税といった特殊な税金にも対応する必要があります。
また、繁忙期と閑散期で売上や業務量が大きく変動するため、キャッシュフローの把握が欠かせません。キャッシュレス決済やオンライン予約が増えているため、会計ソフトや自動仕訳システムを導入して効率化を図ることがおすすめです。さらに、DX化やペーパーレス化を進め、必要に応じて経理代行サービスを活用することで、経営判断に役立つ情報を迅速に提供できる体制を整えられます。
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ホテル・旅館・宿泊施設の経理に関するよくあるご質問
ホテル・旅館・宿泊施設の経理についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、ホテル・旅館・宿泊施設の経理に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
旅行代理店業の経理の仕事内容は何ですか?
旅行代理店業の経理は、旅行商品や宿泊・交通手配に関する売上と費用を正確に記録や管理をする仕事です。ツアー代金の前受金や売掛金の管理、仕入れ先への支払い、従業員の旅費精算などを行います。また、月次で損益計算書や試算表を作成し、経営者への報告や税務申告の準備も担当するため、決済に関する知識も必要です。
ホテル業の経理に必要なスキルは何ですか?
ホテル業の経理では、正確なキャッシュフロー管理スキルが求められます。繁忙期と閑散期で売上が変動し、収入と支出のタイミングを把握して資金繰りをする力が必要です。また、会計ソフトや予約管理システムの操作、データ分析などのITスキルも求められます。複数部門の売上や費用を整理できる能力が必要です。
ホテル業の経理は忙しくて大変ですか?
ホテル業の経理は、繁忙期と閑散期で業務量が大きく変わるため忙しさに波があります。年末年始や観光シーズンには宿泊や飲食、物販の売上処理や決済照合、領収書発行が集中します。一方で閑散期は決算準備や棚卸、固定資産管理などの整理業務に時間を使います。業務の繁閑を見越した計画が負担軽減のポイントです。