複合仕訳は、1つの取引を複数の勘定科目で同時に処理する仕訳方法で、実務では給与計上や手数料差引、固定資産の取得など、さまざまな場面で使われます。便利な一方で、単一仕訳との違いや書き方を正しく理解していないと、入力ミスや転記漏れの原因にもなります。
この記事では、複合仕訳の基本的な考え方から単一仕訳との違い、具体的な仕訳例、活用に向くケース、ミスを防ぎながら効率化するためのポイントまで解説します。経理処理の精度とスピードを両立させたい方はぜひ参考にしてください。
目次
複合仕訳とは?
複合仕訳とは、1つの取引について借方または貸方のどちらか、あるいは両方に複数の勘定科目を用いて記録する仕訳方法です。実務の現場では、取引内容が単純に一対一で対応しないケースが多く、その全体像を1つの仕訳でまとめて表現できる点に特徴があります。
例えば、給与の支払いで総支給額から源泉所得税や社会保険料を差し引いて振り込む場合には、支払額と控除額を同時に処理する必要があります。このような取引を個別に分けずに記録できるため、証憑との対応関係を保ちやすく、仕訳の流れを把握しやすくなります。
一方で、内訳の理解が不十分なまま入力するとミスや誤解が生じやすいため、内容を整理したうえで用いることが大切です。なお、記帳や仕訳についてはこちらの記事でまとめています。

複合仕訳と単一仕訳の違い
複合仕訳と単一仕訳の違いは、1つの仕訳の中で使用する勘定科目の数にあります。単一仕訳は借方と貸方がそれぞれ1科目ずつで構成される基本的な形式で、取引内容が明確で分解しやすい点が特徴です。
これに対して複合仕訳は、どちらか一方または両方に複数の科目を用いて、関連する要素をまとめて記録します。例えば、備品購入と同時に送料や設置費用が発生した場合、それぞれを分けて記帳するのが単一仕訳、まとめて1つの取引として処理するのが複合仕訳です。単一仕訳は確認や修正がしやすく、複合仕訳は仕訳本数を抑えやすいという違いがあり、取引の性質や管理方法に応じて使い分けることが重要になります。
複合仕訳を用いるメリット
複合仕訳を用いるメリットとして、以下のような点があります。
- 取引の全体像を把握できる
- 証憑との突合がしやすい
- 仕訳入力の工数を削減できる
ここでは、それぞれのメリットについて具体的に解説します。ぜひ、参考にしてください。
取引の全体像を把握できる
取引の全体像を把握できることは、複合仕訳を用いるメリットです。複数の要素を含む取引を1つの仕訳にまとめて記録することで、お金の動きと費用・負債・資産の関係を同時に確認できます。
例えば、給与の計上で支給額、社会保険料、源泉税、預り金などを分けて入力する場合でも、複合仕訳で処理すれば一連の流れを一行の仕訳から読み取れます。仕訳を分割してしまうと、後から見返した際に関連性を追う手間が増えますが、複合仕訳なら取引単位で内容を把握しやすくなります。月次チェックやレビューの際にも理解が進みやすく、担当者以外が確認する場面でも内容を共有しやすくなる点でもおすすめです。
証憑との突合がしやすい
証憑との突合がしやすい点も、複合仕訳を活用するメリットです。請求書や精算書、給与明細などの証憑は、内訳が複数項目に分かれて記載されていることが多く、構成に合わせて仕訳をまとめることで照合が行いやすくなります。
例えば、1枚の請求書に商品代金と送料、手数料が記載されている場合、複合仕訳で同じ内訳構成にしておけば、金額の一致確認を一度で行えます。単一仕訳で分割して登録すると、合計の整合性を別途確認する必要が出てきますが、複合仕訳なら証憑と仕訳の対応関係が明確になります。
なお、証憑の取り扱いについては、こちらの記事も参考にしてください。

仕訳入力の工数を削減できる
仕訳入力の工数を削減できることは、複合仕訳のメリットです。関連する処理を1つの仕訳として登録することで、入力回数や仕訳本数を抑えることができます。
例えば、立替経費の精算で交通費、宿泊費、交際費をまとめて支払った場合、それぞれを個別に単一仕訳で起票するよりも、1つの複合仕訳で処理した方が入力時間は短くなります。仕訳件数が減ることで、チェックや承認の作業量も連動して軽減されます。ただし、工数削減を優先するあまり内訳が分かりにくくなると後工程で手間が増えるため、摘要欄の記載や補助科目の設定とあわせて運用することが大切です。
なお、仕訳業務の効率化に自動仕訳という手もあります。自動仕訳については、こちらの記事でも詳しく解説しています。

複合仕訳を用いるデメリット
複合仕訳を用いるデメリットとして、以下のような点には注意が必要です。
- 仕訳が複雑になりやすい
- 入力ミスや金額の不一致が起きやすい
- 総勘定元帳の転記の際は特定しづらい
ここでは、それぞれのデメリットについて具体的に解説します。
仕訳が複雑になりやすい
仕訳が複雑になりやすい点は、複合仕訳を用いる際のデメリットです。複数の勘定科目と金額を1つの仕訳にまとめるため、内容の整理が不十分だと、後から見返したときに取引の意図が読み取りにくくなります。
例えば、1枚の証憑に複数の費用区分や控除項目が含まれている場合、それらをすべて一度に仕訳へ反映すると行数が増え、確認作業の負担が大きくなります。担当者本人は理解していても、第三者がチェックする場面では判断に時間がかかることがあります。複合仕訳は便利な方法ですが、常にまとめればよいわけではなく、内容の分かりやすさとのバランスを見ながら使い分けることが重要です。
入力ミスや金額の不一致が起きやすい
入力ミスや金額の不一致が起きやすいことも、複合仕訳の注意点です。借方と貸方の両側に複数の金額を入力するため、どこか一か所でも数値や科目を誤ると合計が合わなくなります。
例えば、手数料を差し引いた入金処理で、売上高と手数料の金額を分けて入力する際に一部の数字を誤ると、残高の整合性が崩れてしまいます。単一仕訳であればミスの箇所を見つけやすい場合でも、複合仕訳では確認範囲が広がります。入力時点で内訳を整理し、証憑の合計額と仕訳の合計額を都度照合する運用が欠かせません。
総勘定元帳の転記の際は特定しづらい
総勘定元帳の転記の際は特定しづらい点も、複合仕訳のデメリットです。1つの仕訳に複数科目が含まれていると、元帳上では同じ伝票番号の記録が複数行に分かれて表示され、取引全体の対応関係を追いにくくなります。
例えば、固定資産の取得と付随費用をまとめて複合仕訳で処理した場合、各勘定科目の元帳には部分的な情報だけが転記されます。そのため、全体の内容を確認するには仕訳帳や伝票に戻って照合する必要があります。検索機能がある会計システムでは対応しやすいものの、帳票ベースで確認する運用では手間が増えます。
なお、総勘定元帳の書き方については、こちらの記事も参考にしてください。

複合仕訳の書き方と仕訳例
複合仕訳の書き方は、1つの取引を複数の勘定科目に分けて記録し、借方合計と貸方合計を一致させて起票する方法です。単一仕訳と異なり、入金手段や費用の内訳が複数に分かれる取引をまとめて表現できます。
例えば、商品7,000円を販売し、商品券3,000円と現金2,000円を受け取り、残額を掛けにした場合は次の形になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 受取商品券 | 3,000円 | 売上 | 7,000円 |
| 現金 | 2,000円 | ||
| 売掛金 | 2,000円 |
また、商品6,000円を掛けで販売し、送料1,200円のみを現金で受け取った場合も複合仕訳です。例えば次のように処理します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売掛金 | 6,000円 | 売上 | 6,000円 |
| 現金 | 1,200円 | 受取運賃 | 1,200円 |
このように内訳ごとに科目を分けて1つの取引としてまとめるのが基本です。
複合仕訳を単一仕訳にする2つの方法
複合仕訳を単一仕訳にすることも可能です。具体的には以下の2つの方法があります。
- 方法1:諸口を用いる
- 方法2:勘定科目を金額を分ける
ここでは、複合仕訳を単一仕訳にするそれぞれの方法について詳しく解説します。
方法1:諸口を用いる
諸口を用いる方法は、複合仕訳を単一仕訳の形に分解して記録するための手段です。諸口は相手勘定が複数にわたる場合に使うまとめ科目で、片側だけを1つの科目として処理できるようにします。
例えば、複数の費用を現金で同時に支払った取引を個別に単一仕訳へ分ける際、貸方を諸口として処理することで、それぞれの借方科目を独立した仕訳として登録できます。帳簿上では取引が分割されますが、摘要欄や伝票番号をそろえておけば関連性を保てます。仕訳入力を単純な形式にそろえたい場合や、チェック担当者が多い運用体制では、理解しやすい形に整理できる点がメリットです。
なお、諸口の使い方については、こちらの記事も参考にしてください。

方法2:勘定科目を金額を分ける
勘定科目を金額を分ける方法は、複合仕訳の内容を要素ごとに分解し、それぞれを単一仕訳として起票するやり方です。1つの伝票にまとめず、取引の内訳単位で仕訳を分けて登録することで、各仕訳の構造を単純にできます。
例えば、商品代と送料が同時に発生した支払を処理する場合、商品代は仕入、送料は荷造運賃として、それぞれ別の単一仕訳に分けて計上します。合計金額は同じでも、仕訳が独立するため元帳の確認や科目別の集計が行いやすくなります。一方で仕訳本数は増えるため、入力ルールを決めておかないと処理のばらつきが出るため注意が必要です。
なお、よく用いられる勘定科目は以下の記事で一覧でまとめています。ぜひ参考にしてください。

複合仕訳を活用したほうがよいケース
複合仕訳を活用したほうがよい場合には、以下のようなケースがあります。
- 1枚の証憑に内訳がまとまっているケース
- 手数料や源泉徴収などの差引処理があるケース
- 給与・賞与など控除項目が多いケース
- 固定資産の購入に関連費用が含まれるケース
- 仕訳本数を減らして効率化したいケース
ここでは、それぞれのケースについて具体的に解説します。
1枚の証憑に内訳がまとまっているケース
1枚の証憑に複数の内訳がまとまっているケースは、複合仕訳を活用したほうがよい場面です。請求書や領収書に複数の費用区分や金額の内訳が記載されている場合、それらを1つの仕訳として処理することで、証憑と帳簿の対応関係を保ちやすくなります。
例えば、備品代と消耗品費、送料が同じ請求書にまとめて記載されている取引では、科目ごとに分けつつ同一伝票で登録することで内容のつながりを把握できます。しかし、仕訳を分割してしまうと、後から証憑との照合に時間がかかることがあります。そのため、証憑単位で管理する運用では、複合仕訳の形式が実務に合いやすくなります。
手数料や源泉徴収などの差引処理があるケース
手数料や源泉徴収などの差引処理があるケースは、複合仕訳の利用が適した取引です。入出金の金額が総額と一致しない取引は頻繁に発生します。しかし、差引後の金額だけで仕訳を登録すると、控除された金額の内訳が帳簿上に残りません。
そのため、総額・控除額・実際の入出金額を同時に記録できる複合仕訳が有効になります。例えば、売上入金から振込手数料が差し引かれている場合でも、売上と手数料を同時に計上すれば差額の理由が明確になります。取引の構造を1つの仕訳で示せるため、後日の確認や説明も行いやすくなります。
なお、外注費の源泉徴収については、こちらの記事も参考にしてください。

給与・賞与など控除項目が多いケース
給与・賞与など控除項目が多いケースは、複合仕訳で処理したほうが整理しやすい取引です。給与計算では支給額だけでなく、複数の控除や預り金が同時に発生します。しかし、これらを単一仕訳で分割して登録すると、伝票数が増え、どの仕訳が同じ給与計算に基づくものか把握しにくくなります。
そのため、総支給額と各控除額、実際の支給額を1つの仕訳でまとめて処理する方法が適しています。例えば、税金や社会保険料を差し引いて振込を行う場合でも、同時に仕訳へ反映させることで給与明細との照合がしやすくなります。結果として、月次処理の確認作業も効率化されます。
なお、給与計算についてはこちらの記事も参考にしてください。

固定資産の購入に関連費用が含まれるケース
固定資産の購入に関連費用が含まれるケースは、複合仕訳の活用が有効な取引です。固定資産の取得時には本体価格以外にも複数の付随費用が発生します。しかし、それぞれを別々の仕訳で計上すると、どこまでが同じ取得取引に含まれる支出なのか帳簿上で追いにくくなります。
そのため、関連する支出を同一の仕訳としてまとめて記録する方法が適しています。例えば、機械の購入と同時に運搬費や設置費を支払った場合でも、科目を分けつつ1つの取引として処理すれば取得原価の範囲を把握しやすくなります。結果として、資産計上額の根拠も確認しやすくなります。
仕訳本数を減らして効率化したいケース
仕訳本数を減らして効率化したいケースは、複合仕訳を選択する理由が明確な場面です。単一仕訳で細かく分割する方法は内容を追いやすい反面、入力件数とチェック対象が増えます。しかし、取引単位でまとめて処理できるものまで分割すると、作業負担が大きくなります。
そのため、関連する内訳を1つの仕訳に集約できる複合仕訳が有効になります。例えば、1回の支払に複数の経費科目が含まれている場合でも、まとめて登録することで入力と承認の手間を抑えられます。摘要欄で内訳を補足すれば、効率と確認のしやすさを両立できます。
なお、経理業務の効率化については、こちらの記事も参考にしてください。

複合仕訳のミスを防ぎ効率化するコツ
合仕訳のミスを防ぎ効率化するコツとして、以下のような点を意識しましょう。
- 勘定科目のルールをあらかじめ決めておく
- 摘要欄に内訳が分かるメモを残す
- 経理代行や記帳代行会社に相談する
ここでは、それぞれの効率化のコツについて具体的に解説します。
勘定科目のルールをあらかじめ決めておく
勘定科目のルールをあらかじめ決めておくことは、複合仕訳のミスを防ぐための基本的な対策です。複合仕訳では1つの取引に複数の科目を使用するため、担当者ごとに判断が分かれると処理結果にばらつきが出ます。しかし、使用する科目や補助科目、判断基準を事前に整理しておけば、入力時のミスや迷いを減らせます。
そのため、社内で科目選択の基準表や簡単なマニュアルを用意しておく方法がおすすめです。例えば、送料を販売費で処理するのか仕入関連費で処理するのかを統一しておくだけでも、仕訳の整合性が保ちやすくなります。結果として、チェックや修正の手間も抑えられます。
摘要欄に内訳が分かるメモを残す
摘要欄に内訳が分かるメモを残すことは、複合仕訳の確認性を高める有効な方法です。複数科目を含む仕訳は金額の対応関係が見えにくくなります。しかし、取引の背景や内訳を文章で補足しておけば、後から見返したときの理解が進みます。
そのため、証憑番号や内訳の要点、差引内容などを摘要欄に記録しておく運用が役立ちます。例えば、請求書番号と費用の構成を簡潔に記載しておくだけでも、証憑との照合がしやすくなります。入力時に少し手間はかかりますが、月次確認や監査対応の場面では確認時間の短縮につながります。
経理代行や記帳代行会社に相談する
経理代行や記帳代行会社に相談することは、複合仕訳の運用を安定させるためにおすすめです。複合仕訳は便利な方法ですが、判断基準や処理方法が整理されていないとミスが繰り返されます。しかし、外部の専門家に相談することで、取引パターンごとの処理方針を整備できます。
そのため、自社だけで悩むよりも早く運用ルールを固められます。例えば、給与や差引入金など複雑な取引について標準的な仕訳例を用意してもらうことで、入力判断が安定します。結果として、担当者の負担を抑えながら処理品質を維持しやすくなります。
なお、経理代行と記帳代行の違いについては、こちらの記事も参考にしてください。

まとめ
複合仕訳は、1つの取引に複数の勘定科目を用いて記録する方法であり、差引処理や内訳の多い取引を正確に表現できる点に意味があります。単一仕訳との違いを理解したうえで使い分けることで、仕訳本数の調整と取引内容の可視化を両立できます。
一方で、科目選択や金額入力を誤ると整合性が崩れやすいため、ルール整備と摘要記載が欠かせません。証憑との対応関係を意識して処理することで、確認や修正の負担を抑えられます。自社の運用体制に合わせて方法を整理することが、継続的な効率化と精度維持につながります。また、経理代行や記帳代行会社に相談することもひとつの手です。
弊社では、経理代行と記帳代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な記帳業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。
複合仕訳に関するよくあるご質問
複合仕訳についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、複合仕訳に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
複合仕訳とは何ですか?
複合仕訳とは、1つの取引について借方または貸方、あるいはその両方に複数の勘定科目を用いて記録する仕訳方法です。取引内容を内訳ごとに同時に処理できるため、実務では使用頻度の高い形式です。複数の動きをまとめて表現できるため、証憑の内容と帳簿の対応関係を保ちやすくなる点がメリットです。
複合仕訳と単一仕訳の違いは何ですか?
複合仕訳と単一仕訳の違いは、1つの仕訳の中で使用する勘定科目の数です。単一仕訳は借方と貸方がそれぞれ1科目ずつで構成されるのに対し、複合仕訳はどちらか、または両側に複数科目を用います。例えば、備品購入と同時に送料や手数料が発生した場合、単一仕訳では複数本に分けますが、複合仕訳ではまとめて処理します。
複合仕訳のデメリットは何ですか?
複合仕訳のデメリットは、仕訳の構造が複雑になりやすく、入力や科目選択のミスに気づきにくい点です。例えば、内訳の一部だけ金額を誤って入力しても、合計が一致していればそのまま通ってしまうことがあります。効率性がある反面、チェック体制が弱いと誤記帳が残りやすい点には注意が必要です。