売上原価は、企業の利益構造を理解するうえで欠かせない重要な指標です。売上高から売上原価を差し引いた粗利は、事業の収益力を測る土台となるため、計算方法や考え方を正しく押さえておく必要があります。
しかし、製造原価との違いや棚卸しとの関係、業種ごとの取り扱いの違い、仕訳方法の選択によって処理内容が変わる点など、迷いやすいところも多くあります。そこで本記事では、売上原価の基本から計算方法、仕訳例、よくあるミスをまとめて紹介します。
目次
売上原価とは?
売上原価とは、販売した商品やサービスに直接対応する原価のことです。企業が利益を計算する際には、売上高から売上原価を差し引いた金額が売上総利益となり、事業の採算性を判断する土台となります。
例えば、小売業であれば販売した商品の仕入額が該当し、製造業であれば製品の製造に要した材料費や労務費などが含まれます。単に仕入額や製造費用の総額を指すのではなく、その期に実際に売れた分に対応する原価だけを集計する点が重要であり、期間対応の考え方を踏まえて把握する必要があります。
売上原価と製造原価の違い
売上原価と製造原価の違いは、費用がどの段階を対象としているかにあります。製造原価は製品を作るために発生した原価の総額を指し、材料費や労務費、製造間接費などが含まれます。
一方で売上原価は、そのうち当期に販売された製品に対応する部分だけを切り出した金額です。例えば当期に100個製造し、そのうち80個だけが売れた場合、製造原価は100個分ですが、売上原価となるのは80個分のみです。売上原価と製造原価を混同すると利益計算が正確に行えないため、在庫との関係を踏まえて区別することが求められます。
なお、製造原価については、こちらの記事も参考にしてください。

売上原価の計算に棚卸しが欠かせない
売上原価の計算に棚卸しが欠かせない理由は、売れた分と売れ残った分を区別する必要があるからです。売上原価は「期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高」という算式で求められますが、この期末棚卸高が正確でなければ計算結果も適切になりません。
例えば在庫の数量を実地で確認せず帳簿上の数字だけで処理してしまうと、実際の在庫との差異が生じ、利益が過大または過少に表示される可能性があります。棚卸しは単なる在庫確認ではなく、損益計算の土台を支える重要な手続きといえます。
なお、棚卸しの基本については、こちらの記事でも詳しく触れています。

売上原価は粗利を決める大切な要素
売上原価は粗利を決める大切な要素です。売上総利益は売上高から売上原価を差し引いて算出されるため、売上原価の増減はそのまま利益水準に影響します。例えば仕入単価が上昇したにもかかわらず販売価格を据え置いた場合、売上高が同じでも粗利は減少します。
逆に原価管理が適切に行われていれば、価格競争の中でも一定の利益を確保しやすくなります。売上原価を正しく把握することは、単なる会計処理にとどまらず、価格戦略や経営判断の前提となる情報を整えることにつながります。
売上原価の計算方法
売上原価の計算方法は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」です。この算式は、当期に販売可能であった商品の総額から、期末に売れ残った在庫分を差し引くことで、実際に販売された分の原価を導き出す考え方に基づいています。
例えば、期首在庫が20万円、当期の仕入が90万円、期末在庫が30万円であれば、20万円+90万円-30万円=80万円となります。この80万円が当期の売上原価となり、売上高が150万円であれば、150万円-80万円=70万円が売上総利益として把握できます。
【業種別】売上原価の考え方
売上原価の範囲や考え方は業種によって異なります。どこまでを原価に含めるかは事業の内容や収益構造に左右されるため、業種特性を踏まえた整理が欠かせません。ここでは代表的な業種ごとの考え方を確認します。ぜひ参考にしてください。
小売業の売上原価
小売業の売上原価は、販売した商品の仕入原価です。基本式は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」で求められ、売れた分だけが原価となります。
例えば期首在庫が50万円、当期仕入が200万円、期末在庫が70万円であれば、50万円+200万円-70万円=180万円が売上原価です。仕入に伴う引取運賃などは原価に含めますが、店舗スタッフの給与や家賃は販売費及び一般管理費として区分します。商品の流れと費用の性質を対応させることが重要です。
なお、小売業の経理については、こちらの記事も参考にしてください。

飲食業の売上原価
飲食業の売上原価は、提供した料理に対応する食材費が中心です。計算式は「期首材料棚卸高+当期材料仕入高-期末材料棚卸高」で、食材ごとに集計した金額を合算します。
例えば米や肉、野菜などの期首在庫が30万円、当期仕入が120万円、期末在庫が25万円であれば、30万円+120万円-25万円=125万円が材料費相当の売上原価です。ホールスタッフの給与は通常販管費ですが、例えば調理専任者の人件費を労務費として原価に含める場合もあり、区分の一貫性が求められます。
なお、飲食業の経理については、こちらの記事も参考にしてください。

製造業の売上原価
製造業の売上原価は、完成品の製造原価を基礎に算定します。まず「材料費+労務費+製造経費」により当期製品製造原価を求め、そのうえで「期首製品棚卸高+当期製品製造原価-期末製品棚卸高」により売上原価を算出します。
例えば当期製造原価が500万円、期首製品が80万円、期末製品が100万円であれば、80万円+500万円-100万円=480万円が売上原価です。工場の光熱費や減価償却費も製造経費に含まれ、製造段階と販売段階を区別して把握することが前提となります。
なお、製造業の経理については、こちらの記事も参考にしてください。

サービス業の売上原価
サービス業の売上原価は、役務提供に直接要した外注費や直接人件費です。物品在庫がない場合が多いため、棚卸計算よりも発生主義に基づく集計が中心となります。
例えば外部パートナーへ業務委託し、その報酬が300万円発生した場合、その金額が売上原価となります。一方で営業担当者の給与や事務所家賃は販管費として処理します。売上原価が相対的に小さく見えることもありますが、間接費との区分を誤ると利益構造の分析が難しくなるため、費用の性質を見極める必要があります。
なお、外注費の経費処理については、こちらの記事も参考にしてください。

IT・コンサル業の売上原価
IT・コンサル業の売上原価は、案件に直接紐づく人件費や外注費です。例えばシステム開発案件に専従するエンジニアの給与や、外部のフリーランスへ支払う報酬は原価に含まれます。
年間のプロジェクト原価が800万円で、そのうち当期に完了した部分が600万円分であれば、その600万円が売上原価として計上されます。一方で管理部門の人件費や広告宣伝費は販管費です。プロジェクト単位で原価を把握し、売上との対応関係を明確にすることが収益管理の基本となります。
なお、IT企業の経理については、こちらの記事でも詳しく触れています。

建設業の売上原価
建設業の売上原価は、工事に直接要した材料費や労務費、外注費などです。工事進行基準を採用している場合には、進捗度に応じて原価を対応させます。
例えば総工事原価が1,000万円と見積もられ、当期の進捗が60%であれば、600万円が当期の売上原価となります。現場監督の給与や重機の減価償却費も原価に含まれることがありますが、本社管理部門の費用は販管費です。工事別の原価管理を徹底することが、適正な利益把握につながります。

売上原価の仕訳方法と仕訳例
売上原価の仕訳方法は「三分法」「売上原価対立法」「分記法」「総記法」の4種類が代表的です。どの方法を採用しても最終的な損益は同じですが、期中管理のしやすさや仕訳の手間に違いが生じます。ここでは4つの方法における仕訳例を紹介します。
三分法
三分法は、仕入勘定を中心に期中処理を行い、決算時に売上原価を確定させる方法です。例えば1個1,200円の商品を10個仕入れ(12,000円)、そのうち8個を1個1,750円で販売(14,000円)した場合、期中は次のように処理します。
【仕入時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 仕入 | 12,000円 | 現金預金 | 12,000円 |
仕入は費用として計上されます。
【売上時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 14,000円 | 売上 | 14,000円 |
例えば期末に2個(2,400円)が残っていれば、決算整理で繰越商品へ振り替え、売上原価9,600円を確定させます。
売上原価対立法
売上原価対立法は、売上と同時に原価も計上する方法です。例えば1個1,200円の商品を10個仕入れ(12,000円)、8個を1個1,750円で販売(14,000円)した場合、仕入時は資産計上します。
【仕入時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 商品 | 12,000円 | 現金預金 | 12,000円 |
販売時には売価と原価を同時に処理します。
【売上時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 14,000円 | 売上 | 14,000円 |
| 売上原価 | 9,600円 | 商品 | 9,600円 |
例えば販売の都度、利益4,400円が把握できる点が特徴です。
分記法
分記法は、商品販売益を用いて原価と利益を区分する方法です。例えば1個1,200円の商品を10個仕入れ(12,000円)、8個を1個1,750円で販売(14,000円)した場合の処理は次のとおりです。
【仕入時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 商品 | 12,000円 | 現金預金 | 12,000円 |
販売時には売価を受け取り、原価と利益を分けて記録します。
【売上時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 14,000円 | 商品 | 9,600円 |
| 商品販売益 | 4,400円 |
例えば1個あたり550円の利益が8個分計上される形になります。
総記法
総記法は、販売時に売価全額を商品勘定から減少させる方法です。例えば1個1,200円の商品を10個仕入れ(12,000円)、8個を1個1,750円で販売(14,000円)した場合の処理は次のとおりです。
【仕入時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 商品 | 12,000円 | 現金預金 | 12,000円 |
販売時には売価をそのまま商品勘定から減額します。
【売上時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金預金 | 14,000円 | 商品 | 14,000円 |
例えば期末棚卸しで残存2個(2,400円)を確定し、差額を調整して売上原価を算定します。期中処理は簡潔ですが、決算整理が前提となります。
売上原価の計算でよくあるミスや間違い
売上原価の計算でよくあるミスや間違いとして、以下のような点に注意しましょう。
- 期末在庫の金額や数量のカウント漏れ
- 仕入の計上漏れや計上時期のズレ
- 販管費と売上原価の区分を誤っている
- 返品・値引や付随費用が正しく反映されていない
ここでは、それぞれのミスや間違いについて詳しく解説します。
期末在庫の金額や数量のカウント漏れ
期末在庫の金額や数量のカウント漏れは、売上原価のミスの原因です。売上原価は期末在庫を差し引いて算定するため、在庫が実際より少なく計上されれば原価は過大となり、利益は過少に表示されます。
例えば棚卸しの際に一部の商品を数え忘れたり、破損品を誤って販売可能在庫として扱ったりすると、在庫金額が正確に把握できません。さらに、単価の入力誤りや評価方法の適用ミスが重なることにもなり、実地棚卸と帳簿残高を突き合わせ、差異の原因を検証する手続きが欠かせません。また、定期的な内部チェック体制を整えることもおすすめです。
仕入の計上漏れや計上時期のズレ
仕入の計上漏れや計上時期のズレは、期間損益をゆがめる要因です。仕入は売上原価の基礎となるため、当期に到着した商品を翌期に計上してしまうと、当期の原価が過少となり利益が過大に表示されます。
例えば月末に納品された商品について請求書の到着を待って処理した結果、計上が翌月になってしまうケースが考えられます。また、検収が未了であることを理由に計上を見送る場合も注意が必要です。納品基準や検収基準を明確にし、締日付近の取引を重点的に確認することが重要です。そのため、証憑書類の保管と照合も徹底する必要があります。
販管費と売上原価の区分を誤っている
販管費と売上原価の区分を誤っていることは、利益構造の分析を困難にします。売上原価は販売した商品やサービスに直接対応する費用であり、間接的な管理費用とは性質が異なります。
例えば店舗スタッフの給与を原価に含めてしまうと、粗利が実態より低く見える可能性があります。一方で、製造現場の直接労務費を販管費として処理すると、原価が過少になります。加えて、水道光熱費など共通費の按分方法が曖昧なまま処理すると、部門別の採算分析にも影響が及びます。費用の発生目的と機能に着目して区分する姿勢が求められます。そのため、社内ルールを明文化し、継続的に見直すことが重要です。
返品・値引や付随費用が正しく反映されていない
返品・値引や付随費用が正しく反映されていないことも、売上原価の誤りにつながります。販売後に返品が発生した場合、本来は売上と同時に原価も戻す処理が必要です。
例えば8個販売したうち1個が返品されたにもかかわらず、原価の戻し入れを行わないと、売上原価が過大なままとなります。また、仕入に伴う運賃や保険料などの付随費用を原価に含めていない場合も実態とずれが生じます。値引処理を売上だけで調整し原価を見直さないケースも見受けられます。取引の全体像を踏まえて処理することが重要です。また、関連書類をもとに一連の流れを確認する習慣づけもおすすめです。
まとめ
売上原価は利益計算の土台を構成する重要な要素です。売上高との対応関係を正しく整理し、製造原価との違いや棚卸しの役割を理解することで、粗利の水準を的確に把握できます。業種によって含まれる費用の範囲は異なり、仕訳方法の選択によって期中管理の見え方も変わりますが、最終的に求められるのは実態に即した原価の集計です。
また、期末在庫の確認不足や計上時期の誤り、費用区分の混同といった基本的なミスを防ぐことが、正確な損益計算につながります。日々の記録と確認を積み重ねることが、安定した経営判断を支えるでしょう。なお、経理業務や記帳業務は経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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売上原価に関するよくあるご質問
売上原価についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、売上原価に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
売上原価の計算式は何ですか?
売上原価の計算式は「期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高」です。この算式は、当期に販売可能であった商品の総額から、期末に売れ残った在庫分を差し引くことで、実際に販売された分の原価を求める考え方に基づいています。在庫金額が正確でなければ結果も変わるため、棚卸しの精度が重要です。
売上原価の勘定科目は何ですか?
売上原価の勘定科目は「仕入」です。三分法を採用している場合、期中は商品を仕入勘定で処理し、決算時に期首・期末在庫を振り替えることで売上原価を確定させます。一方、売上原価対立法などでは「売上原価」勘定を直接用いる方法もありますが、小売業などで広く使われる基本的な勘定科目は仕入です。
売上原価に含まれる項目は何ですか?
売上原価に含まれる項目は、販売した商品やサービスに直接対応する費用です。小売業であれば商品の仕入原価が中心で、製造業では材料費や直接労務費、製造経費などが該当します。また、仕入に伴う引取運賃や保険料など、要した付随費用も含まれます。一方、広告宣伝費や本社管理部門の人件費などは販管費に区分されます。