
冠婚葬祭の場で欠かせない「ご祝儀」や「お見舞金」などの慶弔費は、個人の感情による支出と思われがちですが、実は条件を満たせば経費として計上することができます。取引先や従業員など事業に関係する相手へのお祝い金であれば、交際費や福利厚生費として処理することが可能です。
ただし、誰に、いくら渡すかによって勘定科目や仕訳方法が変わるため、正しい判断が必要です。本記事では、ご祝儀や慶弔費を経費にする際の勘定科目や仕訳例、処理手順、注意点までをわかりやすく解説します。
目次
ご祝儀(お祝い金)・慶弔費は経費にできる
ご祝儀やお見舞金などの慶弔費は、事業に関係のある支出であれば経費として計上することができます。例えば、取引先の結婚式に出席して贈ったご祝儀や、従業員の家族に不幸があった際の香典などが該当します。
ご祝儀などの支出は、円滑な人間関係を築き、信頼を維持するための必要経費とみなされるためです。ただし、経費として認められる範囲は明確に定められており、プライベートな贈り物や個人的な感情による支出は対象外です。経理処理の際は、勘定科目を正しく選び、支出の根拠を残しておくことが大切です。
なお、贈答品やプレゼント代も経費にできます。贈答品やプレゼント代の経費処理については、こちらの記事もご覧ください。

ご祝儀の経費計上は事業に関係ある相手に限る
ご祝儀や香典を経費として処理できるのは、あくまで事業に関係のある相手への支出に限られます。例えば、取引先や業務上の関係者、従業員などに対して贈る場合は、業務上の必要経費として認められる可能性があります。
しかし、恩師や友人といった私的な関係の相手に渡すご祝儀は、事業とは無関係な支出と判断され、経費計上は認められません。どの範囲が「事業関係者」に当たるかを明確にし、慶弔見舞金規程などの社内ルールを整備しておくことで、処理の透明性を保つことができます。
ご祝儀(お祝い金)・慶弔費の勘定科目と仕訳例
ご祝儀(お祝い金)・慶弔費の勘定科目は、基本的に「福利厚生費」「接待交際費」「給与・役員賞与」のいずれかで処理します。しかし、誰に贈るかによって勘定科目が変わります。ここでは、それぞれの勘定科目について仕訳例とともに解説します。
ご祝儀・慶弔費が福利厚生費となるケース
従業員やその家族の結婚・出産・葬儀などに際して会社が支出するご祝儀や香典は、福利厚生費として処理されるのが一般的です。例えば、従業員の結婚祝いとして3万円を支給した場合、その目的は従業員の生活支援やモチベーション向上にあり、業務上の必要経費と認められます。
福利厚生費として扱うためには、すべての従業員を公平に対象とすることが条件です。一部の従業員だけに支給すると給与扱いとされるおそれがあるため注意が必要です。社内規程に沿った運用を行うことで、正しい経費処理と信頼性の高い管理が可能になります。
ご祝儀・慶弔費を福利厚生費とした場合の仕訳例
ご祝儀・慶弔費を福利厚生費とした場合の仕訳例は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
福利厚生費 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
ご祝儀・慶弔費が接待交際費となるケース
取引先や顧客など、事業上の関係者に対して支出するご祝儀や香典は、接待交際費として処理します。例えば、取引先担当者の結婚式に出席し、ご祝儀として5万円を包んだ場合、その支出は取引関係の維持や信頼構築を目的とするため、経費として計上可能です。
ただし、金額が社会通念を超える場合や、個人的な付き合いによる支出と判断される場合は、経費として認められないこともあります。支出の目的・相手・金額の妥当性を明確にし、社内で記録を残しておくことで、適正な会計処理と税務対応が可能になります。
ご祝儀・慶弔費を接待交際費とした場合の仕訳例
ご祝儀・慶弔費を接待交際費とした場合の仕訳例は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
接待交際費 | 50,000円 | 現金 | 50,000円 |
ご祝儀・慶弔費が給与・役員賞与となるケース
ご祝儀や香典を特定の従業員や役員だけに支給した場合、その支出は福利厚生費ではなく給与や役員賞与として扱われる可能性があります。例えば、社長が特定の社員に対して出産祝いとして5万円を個別に渡した場合、全従業員を対象とした福利厚生とはいえず、給与として課税対象になります。
同様に、役員に対して支給した慶弔金は「役員賞与」とみなされ、損金不算入となる点にも注意が必要です。支給の公平性や社内規程の有無が判断の分かれ目となるため、あらかじめ明確なルールを設けておくことが重要です。
ご祝儀・慶弔費を給与・役員賞与とした場合の仕訳例
ご祝儀・慶弔費を福利厚生費とした場合の仕訳例は以下のようになります。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
---|---|---|---|
福利厚生費 | 50,000円 | 普通預金 | 50,000円 |
なお、経理でよく使う勘定科目については、こちらの記事も参考にしてください。

ご祝儀・慶弔費が経費に計上できない場合もある
ご祝儀・慶弔費が経費に計上できない場合として、以下のようなシーンがあります。
- 事業関係者ではない相手に渡す場合
- 明らかに高額なご祝儀の場合
- 個人事業主が福利厚生費として処理する場合
ここでは、それぞれのシーンについて具体的に解説します。
事業関係者ではない相手に渡す場合
ご祝儀や香典は、相手が事業に関係する人物である場合に限り経費として認められます。したがって、恩師や友人といった私的な関係の相手に渡すご祝儀は、たとえ仕事に影響があったとしても原則として経費にすることはできません。
例えば、経営者の親戚の結婚式に出席して包んだご祝儀は、事業とは直接関係がないため個人的支出とみなされます。このような支出を経費処理してしまうと、税務上は「経費の私的流用」と判断される可能性があり、否認の対象になることもあります。公私の線引きを明確にし、事業関連性を示せる根拠を持つことが重要です。
明らかに高額なご祝儀の場合
ご祝儀や香典の金額が社会通念上の範囲を大きく超える場合は、たとえ事業関係者への支出であっても経費として認められないことがあります。例えば、ご祝儀として100万円など一般的に高額な金額を支払った場合、税務署から「事業に必要な支出ではない」と判断される恐れがあります。
経費と認められるかどうかは、支出の目的や金額の妥当性、相手との関係性など総合的に判断されます。無理に経費計上すると、否認や追徴課税のリスクもあるため注意が必要です。金額設定は慶弔見舞金規程などを基準に、社会常識の範囲で行うことが望ましいでしょう。
個人事業主が福利厚生費として処理する場合
個人事業主の場合、ご祝儀や香典を福利厚生費として処理するのは基本的に認められません。福利厚生費は従業員のための支出を対象としており、個人事業主自身や家族のための支出は含まれないためです。
例えば、自分自身の冠婚葬祭に関連する支出を経費に計上した場合、事業とは無関係な「個人的支出」と判断されます。一方で、従業員に対して支給する慶弔見舞金などであれば、福利厚生費として処理できる場合があります。経費にできるかどうかの判断は「事業のための支出か」「従業員への福利目的か」が基準となるため、区分を明確にしておくことが重要です。
ご祝儀・慶弔費を申請する手順と流れ
ご祝儀・慶弔費を申請する手順は、以下のような流れで進みます。
- step1:慶弔見舞金規程を確認する
- step2:申請書の作成する
- step3:上長の承認を得る
- step4:経理部門で処理をする
- step5:証憑書類と承認履歴を保管しておく
ここでは、それぞれの流れについて具体的に解説します。
step1:慶弔見舞金規程を確認する
ご祝儀や香典を経費として処理する前に、まず自社の「慶弔見舞金規程」を確認することが大切です。例えば、支給対象となる範囲や金額の上限、手続き方法などが規程で明確に定められている場合があります。慶弔見舞金規程を把握しておくことで、社内ルールに沿った適正な申請ができ、後のトラブルや税務上の指摘を防ぐことができます。
もし、規程が存在しない場合は、会社や事業規模に応じて新たに整備しておくとよいでしょう。また、支出の妥当性を示す根拠としても、慶弔見舞金規程の存在は重要な意味を持ちます。
step2:申請書の作成する
規程を確認したら、次に慶弔費の支出を正式に記録するための申請書を作成します。例えば、「誰に・どのような理由で・いくら支出したか」を具体的に記載することで、支出の正当性が明確になります。
申請書には、結婚式や葬儀の日付、関係性、金額などの基本情報を記載し、添付資料として案内状を加えることが望ましいでしょう。口頭報告だけでは証拠が残らず、後から説明がつかなくなる恐れもあります。正確な申請書を作成することで、経理処理や承認の手続きがスムーズに進みます。
step3:上長の承認を得る
作成した申請書は、まず直属の上長や部門責任者の承認を得る必要があります。例えば、支出の妥当性や金額が社内規程に沿っているかを上長が確認することで、不適切な経費計上を未然に防ぐことができます。
承認の過程を経ることで、経理部門も安心して処理でき、社内のチェック体制が明確になります。特に支給金額が高額な場合や、取引先との関係性が曖昧な場合には、上長の判断が重要な役割を果たします。上長承認は単なる形式ではなく、会社の信頼性を保つための重要なプロセスです。
step4:経理部門で処理をする
上長の承認を得た後は、経理部門で正式な会計処理を行います。例えば、福利厚生費や交際費など、支出内容に応じた正しい勘定科目を選定し、仕訳を記録します。
経理担当者は、申請書と証憑資料を照らし合わせながら内容の整合性を確認し、必要に応じて支払伝票を作成します。この段階での誤りは後の決算や税務申告に影響するため、正確な処理が求められます。また、社外への支出であれば、振込先や支払日などの情報も管理し、全体の流れを把握しておくことが大切です。
step5:証憑書類と承認履歴を保管しておく
最終的な処理が完了したら、関連する証憑書類や承認履歴を適切に保管することが重要です。例えば、結婚式の案内状や弔電の控え、上長の承認印が押された申請書などをまとめて保存しておくことで、後の税務調査にも対応できます。
ご祝儀や香典は現金支出となるケースが多いため、領収書がない場合でもメモ書きや日付記録を残しておくことが大切です。これらの記録を整理しておくことで、支出の透明性が高まり、経理部門や監査対応も円滑に進められます。正確な保管は信頼できる会計管理の基盤となります。
なお、証憑書類については、こちらの記事も参考にしてください。

ご祝儀・慶弔費の経費計上における注意点とポイント
ご祝儀・慶弔費の経費計上における注意点とポイントとして、以下のような点を意識しましょう。
- あらかじめ慶弔見舞金規程を定めておく
- 金額は「社会通念上で一般的」な範囲であること
- 領収書がないためメモ書きや案内状などの資料を保管する
- 交通費や宿泊費も経費に計上できる
- 社外でも交際費に計上できない場合がある
ここでは、それぞれの注意点やポイントについて具体的に解説します。
あらかじめ慶弔見舞金規程を定めておく
ご祝儀や香典を経費として適正に処理するためには、事前に「慶弔見舞金規程」を整備しておくことが重要です。例えば、支給の対象者・金額・申請手続きなどを明文化しておけば、支出の基準が明確になり、担当者の判断にばらつきが生じにくくなります。
規程がないと、同じようなケースでも処理が異なってしまい、税務調査時に説明が難しくなる恐れがあります。規程を設けることで社内統制が強化され、経理処理の透明性も高まります。結果として、適正な経費管理と社内の信頼性向上につながるのです。
金額は「社会通念上で一般的」な範囲であること
ご祝儀や香典の金額は、「社会通念上で一般的」とされる範囲でなければ経費として認められません。例えば、ご祝儀であれば30,000〜50,000円、香典であれば5,000〜10,000円程度が一般的です。そのため、ご祝儀で100万円などを渡した場合、事業に必要な支出とは見なされず、税務上は否認される可能性があります。
金額の妥当性は、相手との関係性や業界の慣習、会社の規模などを考慮して判断する必要があります。慶弔見舞金規程などで上限を定めておくと、支出の基準が明確になり、無用なトラブルを防げます。経費計上では感情よりも客観的な妥当性が重視される点を理解しておきましょう。
領収書がないためメモ書きや案内状などの資料を保管する
ご祝儀や香典は現金で支払うことが多く、領収書が発行されないのが一般的です。そのため、経費として処理する際には、支出の事実を証明するための補足資料を残すことが大切です。
例えば、結婚式や葬儀の案内状、出席者名簿の写し、金額と日付を記載したメモ書きなどを保管しておくと良いでしょう。これらの資料があれば、税務調査時にも支出の根拠を示すことができます。証憑の保管を怠ると、経費として認められないリスクがあるため、日常的に記録を残す習慣を持つことが重要です。
交通費や宿泊費も経費に計上できる
ご祝儀や香典を渡すために出向く際の交通費や宿泊費も、業務上必要な出費であれば経費として計上することができます。例えば、取引先の結婚式や葬儀に出席するために新幹線やホテルを利用した場合、その費用は「旅費交通費」や「宿泊費」として処理できます。
ただし、観光や私用を兼ねた場合には、その部分は経費として認められません。経費に計上する際は、目的や行程がわかるように記録を残しておくことが大切です。支出の必要性と合理性を明確にしておくことで、税務上のトラブルを防げます。
社外でも交際費に計上できない場合がある
ご祝儀や香典が事業関係者に対するものであっても、内容によっては交際費として認められない場合があります。例えば、特定の役員や個人の利益を目的とした支出、または取引に直接関係のない相手への贈答は、経費ではなく個人的支出と判断されることがあります。
交際費に該当するかどうかは、支出の目的・相手・金額の妥当性などを総合的に見て判断されるため、単に「社外への支出だから」といって安易に処理するのは危険です。適正な経費計上を行うには、社内ルールと税務上の基準をしっかり理解しておくことが必要です。
まとめ
ご祝儀や香典といった慶弔費は経費として正しく処理することが大切です。これらの支出は一見個人的なものに見えますが、事業に関係のある相手へのものであれば、福利厚生費や交際費などとして計上できます。
例えば、従業員の結婚祝いは福利厚生費、取引先へのご祝儀は交際費として扱うことが可能です。ただし、恩師や友人といった私的な関係への支出や、社会通念を超える高額な金額は経費として認められません。経費処理を行う際は、慶弔見舞金規程の整備、支出内容の記録、証憑資料の保管といった基本を徹底し、税務上のリスクを防ぐことが大切です。
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ご祝儀・慶弔費の経費処理に関するよくあるご質問
ご祝儀・慶弔費の経費処理についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、ご祝儀・慶弔費の経費処理に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
ご祝儀(お祝い金)や慶弔費は経費で落とせますか?
ご祝儀や香典といった慶弔費は、事業に関係する相手への支出であれば経費として計上できます。例えば、取引先の結婚式に出席して包んだご祝儀や、従業員やその家族への香典などが該当します。ただし、友人など私的な関係の相手に対する支出は、事業とは無関係な個人的支出と判断され、経費にはできません。
ご祝儀の経費処理はいくらまでですか?
ご祝儀や香典を経費として認めてもらうには、社会通念上で妥当とされる金額の範囲である必要があります。例えば、ご祝儀であれば3万円から5万円程度、香典であれば5,000円から1万円程度が一般的な相場です。これを大幅に超える高額な支出は、事業に必要な経費とはみなされず、税務上否認される可能性があります。
結婚式のご祝儀は経費として処理できますか?
結婚式のご祝儀も、事業に関係する相手に対する支出であれば経費として計上できます。例えば、取引先担当者の結婚式に出席してご祝儀を包んだ場合、その目的が業務上の信頼関係を維持するものであれば「接待交際費」として処理可能です。領収書がないため、支出の対象・目的・金額の記録のメモを残すことがポイントです。