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敷金の勘定科目は「敷金」か「差入保証金」!仕訳例や経費計上の仕組みを解説
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敷金の勘定科目は「敷金」か「差入保証金」!仕訳例や経費計上の仕組みを解説

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事務所や店舗、駐車場を借りる際に支払う敷金は、金額も大きくなりやすく、経理処理で迷いやすい項目のひとつです。返ってくるお金だから経費にしなくてよいのか、それとも費用として処理すべきなのか、勘定科目は「敷金」と「差入保証金」のどちらを使うのかなど、判断に悩む場面は少なくありません。

 

さらに、原状回復費用に充当された場合や、あらかじめ償却が決まっているケースでは、仕訳や消費税の扱いも変わってきます。本記事では、敷金の基本的な考え方から、借主・貸主それぞれの勘定科目、具体的な仕訳例、経費計上できるケースや注意点までを、実務の流れに沿ってわかりやすく解説します。

 

敷金とは?

敷金とは、賃貸借契約において借主が貸主に差し入れる担保的な性質を持つお金です。物件を借りる際に一時的に預けるものであり、家賃の滞納や退去時の原状回復費用などに備える目的があります。

 

そのため、敷金は単なる初期費用ではなく、契約期間を通じて管理される金銭といえます。例えば、入居中に家賃の支払いが遅れた場合や、退去時に修繕が必要になった場合に、その一部が充当されることがあります。このような性質から、敷金は会計上も収益や費用とは異なる位置づけで処理され、内容を正しく理解しておくことが重要になります。

 

敷金は原則として全額返還される

 

敷金は原則として契約終了時に借主へ返還されるお金です。敷金の本来の役割は、賃貸借契約上の債務を担保することにあり、問題なく契約が終了すれば貸主が保有し続ける理由はありません。そのため、家賃の滞納や物件の損耗がなければ、預けた敷金はそのまま戻ってくるのが基本です。

 

例えば、通常の使用による経年劣化のみで退去した場合には、修繕費用として差し引かれることはありません。ただし、実務では原状回復費用が発生するケースも多く、全額返還が当然と誤解しているとトラブルにつながるため、返還の仕組みを理解しておく必要があります。

 

敷金と礼金の違い

 

敷金と礼金の違いは、返還されるかどうかという点にあります。敷金は担保として預ける性質を持つのに対し、礼金は貸主に対する謝礼として支払うお金であり、返還されることはありません。

 

契約時に同時に支払うことが多いため混同されがちですが、会計処理や契約上の意味合いは大きく異なります。例えば、敷金は退去時に精算が行われますが、礼金は支払った時点で役割を終えます。敷金と礼金の違いを理解せずに処理すると、経費計上や仕訳を誤る原因になります。初期費用の内訳を正確に把握することが、適切な経理処理につながります。

 

敷金と仲介手数料の違い

 

敷金と仲介手数料の違いは、支払先と対価の内容にあります。敷金は貸主に預ける担保金である一方、仲介手数料は不動産会社が行う仲介業務に対する報酬です。そのため、仲介手数料はサービス提供の対価として支払われ、返還されることはありません。

 

例えば、物件紹介や契約手続きのサポートを受けた結果として発生するのが仲介手数料です。このように目的が異なるため、会計上の扱いも異なり、敷金は資産として処理されるのに対し、仲介手数料は原則として費用計上されます。そのため、敷金と仲介手数料を同じ初期費用として一括りにしないことが重要です。

 

住居の敷金と駐車場の敷金の違い

 

住居の敷金と駐車場の敷金の違いは、契約内容と想定されるリスクの範囲にあります。住居の場合は、室内設備や内装の原状回復が前提となるため、敷金が高めに設定される傾向があります。

 

一方、駐車場の敷金は、地面や区画の損耗に限定されるため、比較的少額であることが一般的です。例えば、車止めの破損や区画線の修繕などが対象になるケースが考えられます。この違いは金額だけでなく、返還時の精算内容にも影響します。用途ごとの敷金の性質を理解しておくことで、契約時や経理処理の判断がしやすくなります。

借主側の敷金の勘定科目は「敷金」か「差入保証金」

借主側の敷金の勘定科目は「敷金」または「差入保証金」です。敷金は将来返還される可能性があるお金であるため、支払った時点では費用ではなく資産として処理されます。

 

実務では、賃貸借契約に基づいて差し入れる担保金という性質から、「差入保証金」を用いるケースも多く見られます。例えば、事務所や店舗を借りる際に高額な敷金を支払った場合、その金額を経費として処理してしまうと、利益が実態とかけ離れてしまいます。このような誤りを防ぐためにも、敷金の性質を理解したうえで、勘定科目を適切に選択することが重要です。

貸主側の敷金の勘定科目は「預り金(預り敷金)」

貸主側の敷金の勘定科目は「預り金(預り敷金)」です。敷金は貸主にとって自由に使える収益ではなく、あくまで借主から一時的に預かっているお金という位置づけになります。そのため、受け取った時点では売上や収入として計上せず、負債として管理する必要があります。

 

例えば、退去時に原状回復費用へ充当する可能性がある場合でも、その金額が確定するまでは預り金として処理されます。敷金を安易に収益計上してしまうと、返還時に帳簿上の不整合が生じるため、貸主側でも正確な勘定科目の理解が欠かせません。

 

なお、不動産業界における経理については、以下の記事も参考にしてください。

 

不動産業界における経理の業務内容とは?よく使う勘定科目や注意点と効率化のポイント
不動産業界における経理の業務内容とは?よく使う勘定科目や注意点と効率化のポイント

敷金は基本的に経費として計上できない

敷金は基本的に経費として計上できないお金であり、資産として計上します。敷金は賃貸借契約に基づき貸主へ一時的に預ける性質を持ち、将来返還されることが前提となっています。そのため、支払った時点では費用ではなく資産として扱われ、損益計算書に影響を与えません。

 

例えば、事務所を借りる際に数か月分の敷金を支払った場合、その全額を経費として処理してしまうと、実際の事業活動による費用と区別がつかなくなります。敷金を経費にできない理由を理解しておくことで、初期費用が多い契約でも、会計処理を落ち着いて判断できるようになります。

敷金を経費として計上できるケース

敷金は一定の条件を満たす場合に限り、経費として計上できるケースがあります。代表として、以下のようなケースがあります。

 

  • 原状回復費用に充当されるケース
  • あらかじめ償却額が決まっているケース

 

返還される前提が崩れ、その金額が事業に必要な費用として確定したときには、資産としての性質が失われるためです。例えば、退去時に原状回復費用へ充当されることが確定した部分や、契約時点で返還されないことが明らかな金額については、経費として処理することになります。

 

すべての敷金が同じ扱いになるわけではないため、契約内容や精算のタイミングを確認しながら、どの時点で費用化できるのかを見極めることが重要です。

 

原状回復費用に充当されるケース

 

原状回復費用に充当される敷金は経費として計上されます。退去時に修繕や清掃などの費用に敷金の一部が使われ、その金額が確定した時点で、返還される可能性がなくなるためです。

 

この場合、敷金という資産が減少し、同時に修繕費などの費用が発生したと考えます。例えば、壁紙の張り替えや設備の修理費用に敷金から充当された場合、その金額は経費として処理されます。精算内容を正確に把握し、充当額と返還額を区別して処理することが、帳簿を整えるうえで欠かせません。

 

あらかじめ償却額が決まっているケース

 

あらかじめ償却額が決まっている敷金は経費として計上されます。契約書により、退去時の状況にかかわらず一定額が返還されないことが明示されている場合、その部分は実質的に費用とみなされます。

 

そのため、返還されないことが確定している金額については、支払時または合理的な期間にわたって経費処理を行います。例えば、敷金のうち何割かが償却される契約では、その償却部分は資産ではなく費用として扱われます。契約条件を確認せずに全額を資産計上すると、後から修正が必要になるため注意が必要です。

 

なお、経費精算のやり方については、こちらの記事も参考にしてください。

 

経費精算とは?やり方の流れと種類や効率化のポイントを解説
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敷金の勘定科目と仕訳例

敷金の勘定科目は、発生したシーンによって仕訳方法が異なります。敷金には、大きく以下のようなシーンがあります。

 

  • 借主側が敷金を支払った場合
  • 借主側に敷金が全額返還された場合
  • 借主側の敷金の一部が原状回復費用に充当された場合
  • 貸主側が敷金を受け取った場合
  • 貸主側が敷金の一部を原状回復に充てて返還した場合

 

ここでは、それぞれの場合の勘定科目と仕訳例について具体的に解説します。

 

借主側が敷金を支払った場合

 

借主側が敷金を支払った場合は、将来返還される可能性があるお金として資産計上します。敷金は事務所や店舗を借りる際に差し入れる担保的な性質を持つため、支払時点では経費にはなりません。契約開始時点では原状回復費用の金額が確定していないことが多く、全額が戻る可能性も残されているからです。

 

例えば、開業にあたって事務所を借り、まとまった金額の敷金を支払ったとしても、その時点で費用処理してしまうと、利益を正しく把握できなくなります。まずは敷金として資産に計上し、後の精算結果に応じて処理を行うことが実務では基本となります。

 

現金で60万円の敷金を支払った場合の仕訳例は以下のようになります。

 

借方 金額 貸方 金額
敷金 600,000円 現金 600,000円

 

借主側に敷金が全額返還された場合

 

借主側に敷金が全額返還された場合は、計上していた資産をそのまま取り崩す処理を行います。敷金は返還される前提で預けているお金であるため、退去時に修繕費などが発生しなければ、損益には影響を与えません。

 

例えば、通常使用による経年劣化のみで退去し、貸主から敷金がそのまま返金された場合、支払時と逆の仕訳を行うだけで完結します。このとき、新たな費用や収益は発生しないため、帳簿上の残高を正確に消し込むことが重要です。返還処理を誤ると、不要な資産が残ってしまう点には注意が必要です。

 

現金で支払った60万円の敷金が全額返還された場合の仕訳例は以下のようになります。

 

借方 金額 貸方 金額
現金 600,000円 敷金 600,000円

 

借主側の敷金の一部が原状回復費用に充当された場合

 

借主側の敷金の一部が原状回復費用に充当された場合は、充当された金額のみを経費として処理します。退去時に修繕や清掃が必要となり、その費用が敷金から差し引かれると、その部分は返還されないことが確定するためです。

 

例えば、敷金のうち一部が壁紙の張り替えや設備修理に使われた場合、その金額は修繕費などの費用として計上し、残額のみが返金されます。このようなケースでは、敷金の減少と費用計上を同時に行う必要があり、返還額との区別を明確にすることが帳簿管理のポイントになります。

 

現金で60万円支払った敷金のうち、10万円が原状回復費用に充当された場合の仕訳例は以下のようになります。

 

借方 金額 貸方 金額
現金 500,000円 敷金 600,000円
修繕費 100,000円

 

貸主側が敷金を受け取った場合

 

貸主側が敷金を受け取った場合は、収益ではなく預り金として処理します。敷金はあくまで借主から一時的に預かっているお金であり、自由に使える売上ではありません。将来返還する可能性がある以上、負債として管理する必要があります。

 

例えば、賃貸契約の開始時に敷金を受領したとしても、その時点で利益が確定するわけではないため、売上計上は行いません。敷金を正しく預り金として処理しておくことで、退去時の返還や精算をスムーズに行うことができます。

 

60万円の現金で敷金を受け取った場合の仕訳例は以下のようになります。

 

借方 金額 貸方 金額
現金 600,000円 預り敷金 600,000円

 

貸主側が敷金の一部を原状回復に充てて返還した場合

 

貸主側が敷金の一部を原状回復に充てて返還した場合は、充当した金額を収益として処理します。原状回復費用に使われた部分は借主へ返還されず、貸主の収入として確定するためです。

 

例えば、修繕や清掃を行い、その費用相当額を敷金から差し引いたうえで残額を返金する場合、差し引いた金額は売上として計上されます。この処理を行うことで、預り金として管理していた敷金を適切に精算でき、返還額との対応関係も明確になります。

 

敷金60万円のうち、10万円を原状回復費用として差し引き、残金を全額返還した際の仕訳例は、以下のようになります。

 

借方 金額 貸方 金額
預り敷金 600,000円 売上 100,000円
現金 500,000円

 

敷金の消費税は非課税になる

敷金の消費税は原則として非課税になります。敷金は賃貸借契約において将来返還されることを前提に貸主へ差し入れるお金であり、役務の提供や資産の譲渡に対する対価ではないためです。そのため、支払時点では消費税の課税対象にはなりません。

 

例えば、事務所を借りる際に賃料とは別に敷金を支払った場合、賃料部分には消費税がかかりますが、敷金には税額が上乗せされることはありません。消費税の扱いを誤ると、仕入税額控除の計算にも影響が出るため、敷金が非課税とされる理由を理解しておくことが重要です。

敷金の仕訳における注意点とポイント

敷金の仕訳における注意点とポイントとして、以下のような点を意識しましょう。

 

  • 償却額が20万円以上で「長期前払費用」に勘定科目が変わる
  • 返還されない敷金は消費税の対象になる場合がある
  • 仕訳ミスによる借方と貸方での差額が発生しないようにする

 

ここでは、それぞれの仕訳における注意点とポイントを詳しく解説します。

 

償却額が20万円以上で「長期前払費用」に勘定科目が変わる

 

償却額が20万円以上の敷金は「長期前払費用」として処理する必要があります。契約により返還されない金額があらかじめ決まっている場合、その部分は実質的に費用と同じ性質を持つためです。

 

ただし、支払時に一括で経費計上するのではなく、使用期間に応じて費用配分を行います。例えば、契約期間が数年にわたり、返還されない敷金が高額である場合、全額を一度に処理すると期間損益が歪んでしまいます。敷金の内容と金額を確認し、適切な勘定科目へ振り替えることが、正確な会計処理につながります。

 

返還されない敷金は消費税の対象になる場合がある

 

返還されない敷金は消費税の対象になる場合があります。敷金のうち返還が前提とされていない金額は、実質的に賃貸借に関連する対価とみなされることがあるためです。

 

例えば、契約書により一定額が償却されることが明記されている場合、その部分は単なる預り金ではなく、貸主の収入として扱われます。この場合、消費税の課税関係が生じる可能性があり、非課税と考えて処理すると申告誤りにつながります。返還条件の有無を契約内容から読み取り、税区分を判断することが重要です。

 

仕訳ミスによる借方と貸方での差額が発生しないようにする

 

仕訳ミスによる借方と貸方の差額は、敷金処理で起こりやすい注意点のひとつです。敷金は支払時、返還時、原状回復への充当時など、複数のタイミングで処理が分かれるため、金額の対応関係を誤りやすくなります。

 

例えば、返還額と費用計上額の合計が敷金の元の金額と一致していない場合、帳簿に差額が残ってしまいます。こうしたミスを防ぐためには、敷金残高を常に把握し、精算内容と仕訳金額が合っているかを確認することが欠かせません。

 

なお、記帳や仕訳のコツについては、以下の記事も参考にしてください。

 

記帳とは?する意味・やり方・仕訳のルール・会計における注意点
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まとめ

敷金は、支払時点では経費ではなく資産として扱う点が、経理処理の基本になります。借主側では「敷金」や「差入保証金」、貸主側では「預り金」として管理し、返還や精算のタイミングに応じて仕訳を行う必要があります。

 

また、原状回復費用に充当された部分や、あらかじめ償却が決まっている金額は経費となり、内容によっては消費税の課税関係も変わります。契約条件や精算内容を正確に確認し、勘定科目や金額を整理して処理することで、帳簿の不整合や税務上のリスクを防ぐことにつながります。

 

弊社では、経理代行と記帳代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な記帳業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。

敷金の勘定科目に関するよくあるご質問

敷金の勘定科目についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、敷金の勘定科目に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。

敷金が20万円以下の場合の勘定科目は何ですか?

敷金が20万円以下の場合でも、原則として勘定科目は「敷金」または「差入保証金」を使用します。金額によって勘定科目が自動的に変わるわけではなく、将来返還される前提があるかどうかが判断基準です。事務所や駐車場を借りる際に20万円以下の敷金を支払った場合でも、返還される可能性があれば資産として処理します。

敷金は負債ですか?

敷金は立場によって資産にも負債にもなります。借主側にとって敷金は、将来返還される可能性のあるお金であるため資産として扱われます。一方、貸主側にとっては借主から一時的に預かっている金銭であり、返還義務があることから負債として処理します。貸主が敷金を受け取った時点では「預り金(預り敷金)」と管理します。

敷金は経費になりますか?

敷金は原則として経費にはなりません。敷金は返還されることを前提に差し入れる担保金であり、支払時点では事業活動の費用とはいえないためです。そのため、会計上は資産として計上します。ただし、退去時に原状回復費用へ充当された金額や、契約で返還されないことが決まっている償却部分については経費として処理します。

この記事の監修者

菊池 星

菊池 星

東北大学卒業後に野村證券株式会社入社。資産運用における法人営業成績では同世代で全国1位を獲得し、その後中小企業向けの財務コンサルタントに選抜される。2021年からは、金融・ITコンサルタントとして企業向けに活動を始め、2022年6月から株式会社 full houseをスタートさせる。コンサルティングの経験から、代表取締役として、経理代行・アウトソーシングの「ビズネコ」を事業展開している。