株式上場(IPO)は、企業にとって大きな目標であり、同時に大きな挑戦です。この挑戦を成功に導くためには、万全の準備が必要不可欠です。
特に、経理部門は、企業の財務状況を正確に開示し、投資家からの信頼を獲得するために、重要な役割を担います。
本記事では、上場準備における経理の具体的な業務内容や役割について紹介します。また、上場準備企業の経理が大変な理由と、上場までの一般的なスケジュールについて詳しく解説します。
目次
上場(IPO)準備とは?
上場(IPO)準備とは、企業が株式公開を目指すための準備のことです。そもそも、上場とは、証券取引所から自社の株式を誰でも自由に売買できるように登録することです。
上場準備では、まず企業の財務状況や経営体制を整備することから始まります。具体的には、財務諸表の整備や内部統制の強化、法務部の設立などがあげられます。
これに加えて、主幹事証券会社や監査法人、法律事務所などの専門家と連携し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
また、企業価値を高めるための事業戦略や成長計画の策定も行います。さらに、証券取引所や証券取引監視委員会への提出書類の準備も必要になります。
これらの準備を通じて、企業は投資家に対して信頼性と透明性を示すことができるようになります。そのため、上場準備は幅広い業務が発生するため、計画的かつ綿密な準備が求められるでしょう。
上場(IPO)準備にかかる期間
上場(IPO)準備にかかる期間は、一般的に少なくとも3年程度が必要と言われています。ただし、3年という期間は企業の現状や準備の進捗状況、さらに市場の変動によっても左右されるため、必ずしも一律ではありません。
上場準備にかかる期間が長引く理由としては、主に以下の4点があげられます。
- 事業が複雑な企業
- 規制の厳しい業界
- 厳格な審査基準のある市場
- 社会の急激な変動
まず、大企業や事業が複雑な企業は、内部統制の整備や財務情報の開示体制の構築に時間がかかることが多くあります。
次に、業界によっては、厳しい規制が設けられている場合もあります。例えば、金融業や製造業などは規制が厳しくなります。その他にも、専門性の高い業界は、上場審査のハードルが高く、準備期間が長くなる傾向があります。
そして、上場市場によっては、厳格な審査基準を設けていることもあります。例えば、東証プライム市場など、大規模な市場への上場は、より厳格な審査基準をクリアする必要があるため、準備期間が長くなります。
最後に、社会の急激な変動も上場準備の期間に影響を与えます。例えば、新型コロナウイルス感染症などの世界的危機や、市場の急激な変動は、上場計画に遅延をもたらす可能性があります。
上場(IPO)準備のスケジュールと対応事項
上場準備は主に以下のスケジュールで行われます。
- 直前々々期(N-3期)以前
- 直前々期(N-2期)
- 直前期(N-1期)
- 申請期(N期)
ここでは、それぞれの期間における対応事項を詳しく解説します。ぜひ上場準備の参考にしてください。
直前々々期(N-3期)以前
上場を真剣に検討するフェーズを直前々々期やN-3期と呼びます。この段階に入ると、社内の体制整備が急務になります。そのため、経理や財務、法務部門の担当者は対応に追われることになります。
例えば、会計基準の国際化への対応や、内部統制の強化、上場に向けた財務情報の開示体制の構築など、多種多様な課題に取り組む必要があるでしょう。
特に、内部統制に関しては、上場企業として求められる水準にまで引き上げるための具体的なロードマップを作成し、着実に実行していくことが重要です。また、この段階から、上場準備に向けたコンサルティング会社や監査法人の選定も開始し、外部の専門家の知見を積極的に活用していくことが望ましいでしょう。
直前々期(N-2期)
より具体的な準備が本格化する段階を直前々期またはN-2期と呼びます。
このフェーズに入ると、監査法人の選定を完了させ、監査契約を締結します。そして、監査法人によるショートレビューを受けます。ショートレビューとは、上場準備企業に対して、監査法人が上場に対する課題を確認するための調査のことです。
直前々期では、上場に向けた課題を洗い出し、改善を進めていきます。同時に、上場における重要な役割を担う主幹事証券会社を選定し、上場計画の詳細な検討を開始します。
さらに、企業のビジネスモデルや収益構造の見直しを行い、上場後の成長を見据えた戦略を立案します。また、投資家向けのIR資料の作成や、プレゼンテーションの実施に向けた準備も進めていきます。
直前期(N-1期)
上場申請に向けた最終準備段階のことを直前期やN-1期と呼びます。直前期では、監査法人による最終的な監査を受け、監査報告書の作成を完了します。また、上場申請書類の作成や、証券取引所への提出に向けた準備も進めていきます。
この期間は、経理部門や財務部門も特に忙しく、関係各所との連携が必要不可欠となります。特に、証券取引所からの質問への回答や、修正指示に対応するため、迅速かつ正確な対応が求められます。また、修正指示が出された場合も、迅速に対応しなければ、上場スケジュールに遅れが生じる可能性があります。
さらに、直前期には、投資家向けの説明会開催なども予定される場合が多く、経営陣も多忙を極めます。これらの説明会では、企業の魅力を最大限にアピールし、投資家からの信頼を獲得することが求められます。
申請期(N期)
上場準備の最終フェーズを申請期やN期と呼びます。これまでの準備期間を経て、いよいよ上場の実現が現実味を帯びてくる、最も緊張感に満ちた時期です。
申請期では、直前期(N-1期)に作成した上場申請書類を証券取引所に提出し、主幹事証券会社による厳格な引受審査を受けながら、上場承認に向けて尽力します。
主幹事証券会社とは、IPO(新規株式公開)において、企業の上場をサポートする証券会社のことです。企業が発行する株式を引き受け、一般投資家に販売する役割を担います。
引受審査とは、主幹事証券会社が、企業の財務状況や事業内容などを詳細に審査し、上場しても問題がないかどうかを判断するプロセスです。引受審査では、企業の過去数年間の財務状況、事業計画の実現可能性、経営陣の能力など、さまざまな項目が評価されます。証券取引所の審査基準を満たしているかどうかだけでなく、投資家にとって魅力的な企業であるかどうかも重要な評価基準となります。
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上場(IPO)準備企業と中小企業との経理の違い
上場(IPO)準備企業と中小企業では、経理の業務内容も大きく異なります。ここでは、以下の4点の違いについて詳しく解説します。
- 監査対応の違い
- 決算書作成の違い
- 内部統制の違い
- 財務情報の開示の違い
それぞれの違いを理解して、スムーズに上場準備を進めましょう。
監査対応の違い
上場準備企業と中小企業では、監査対応に違いがあります。
上場を目指す企業は、厳格な監査対応が求められます。監査対応は、企業が財務情報を正確に開示し、投資家に対する信頼性や透明性を担保するために必要です。具体的には、監査法人による定期的な外部監査が行われ、財務諸表の正確性や内部統制の適切性が評価されます。
上場企業はより高い信頼性を維持しやすくなりますが、コストや労力の面では負担が大きくなります。そのため、上場準備企業の経理部門は、監査法人とのやり取りに多くの時間を費やし、監査指摘事項への対応に追われることが一般的です。
一方、中小企業では、必ずしも外部監査が義務付けられていないことが多く、内部の経理担当者による自主的なチェックにとどまることが多いです。
そのため、中小企業では経理の部門の人員は少なくなってしまうこともあります。いわゆる「一人経理」と呼ばれ、ひとりですべての経理業務を行わなければならない場合も多々あります。
「一人経理」のリスクについては、以下の記事も参考にしてください。
決算書作成の違い
上場準備企業と中小企業では、決算書作成にも違いがあります。
上場準備企業では、決算書は厳密な基準に従って作成される必要があります。これは、投資家や規制当局に対して正確な財務状況を示すためです。
例えば、国際財務報告基準(IFRS)や日本基準(J-GAAP)に準拠することが求められます。また、詳細な注記や付属資料の作成も必要です。厳密な基準に沿った決算書は、企業の信頼性と透明性を高めるために欠かせません。
一方、中小企業では、決算書作成において柔軟性が高く、企業独自の基準で行われることが多くあります。そのため、作業負担が軽減されますが、外部への信頼性という面では劣る可能性があります。
さらに、中小企業は決算書を内部や関係者向けに簡略化して作成することが多く、外部投資家に対する透明性が欠如してることもあります。
なお、決算書の作成にお困りなら、決算代行サービスを検討することもひとつの手です。決算代行サービスについては、以下の記事も参考にしてください。
内部統制の違い
上場準備企業と中小企業では、内部統制にも違いがあります。
上場準備企業では、内部統制システムの整備が非常に重要です。内部統制とは、企業の業務が適正に行われるようにするための仕組みであり、財務報告の信頼性を確保する役割を持ちます。
具体的には、業務プロセスの見直しやリスク管理の強化、定期的な内部監査の実施などが含まれます。内部統制を行うことで、企業における業務の効率化とリスクの最小化につながります。
一方、中小企業では、内部統制が必ずしも整備されていないことが多く、経営者の直接的な管理に依存するケースが見られます。そのため、上場企業に比べてリスク管理の面で劣ることがありますが、柔軟な運営が可能であるともいえるでしょう。
また、中小企業ではコスト面の負担から、内部統制の強化が難しい場合もあります。
財務情報の開示の違い
上場準備企業と中小企業では、財務情報の開示にも違いがあります。
上場準備企業は、財務情報を公開する義務があります。投資家や規制当局に対して企業の財務状況や経営成績を開示することで、企業の信頼性や透明性を高めることにもつながります。
例えば、四半期ごとの決算報告や、重要な経営事項の開示などが求められます。その結果、投資家は事業の健全性を評価しやすくなり、追加投資にもつながるでしょう。
一方、中小企業では、財務情報の開示は限定的であり、主に関係者や金融機関向けに提供されます。そのため、上場企業と比べて外部への情報開示の負担は軽減されますが、透明性という点では劣ることになります。
中小企業にとっては、財務情報の開示が少ないことで経営の柔軟性が保たれますが、外部からの信用を得るための努力が必要となります。
上場(IPO)準備で経理が求められる役割
上場(IPO)準備で経理が求められる役割はさまざまですが、代表的なものとして以下の3点があげられます。
- 財務諸表の作成と整備
- 内部統制の強化と実施状況の監視
- 各種関連者との連携
まず、財務諸表の作成と整備が、経理部門の最も重要な役割のひとつです。企業の財務状況の正確性と透明性を担保するために、過去数年分の財務諸表を整えて、適切な会計基準に従って情報を開示する必要があります。
次に、内部統制の強化と実施状況の監視も経理の重要な役割です。内部統制は企業の業務プロセスの効率化とリスク管理にも直結しており、経理部門がその整備と運用を主導していきます。
また、主幹事証券会社や監査法人、法律事務所など、各種関係者との連携も求められます。企業の財務状況やリスク管理体制についてのアドバイスを受け、上場準備を円滑に進めていきます。
上場(IPO)準備企業の経理に必要なスキル
上場(IPO)準備企業の経理に必要なスキルとしては主に以下の3点があげられます。
- 財務や会計への深い知識
- 実施に向けた行動力
- 高い倫理観と責任感
まず、財務報告や会計基準に関する深い知識が必要不可欠です。国際財務報告基準(IFRS)や日本基準(J-GAAP)などの基準に従って正確な財務諸表を作成できる能力が求められます。
次に、実施に向けた行動力も大切です。例えば、内部統制の実施にむけた動きなどがあげられます。企業の内部統制システムを構築し、運用状況を監視するためには、リスク管理や業務プロセスの効率化についての実務経験や遂行力が必要です。
最後に、高い倫理観と責任感も重要です。経理は企業の財務情報を扱うため、その正確性と透明性を維持する責任があります。
上場(IPO)準備企業の経理が激務で大変な理由
上場(IPO)準備企業の経理は、激務で大変だといわれています。経理への負担が大きい理由には、以下のような点があります。
- 理由膨大な業務量と厳しいスケジュール
- 高度な専門知識とスキルが求められる
- 人手不足と意識改革の難しさ
膨大な業務量と厳しいスケジュール
上場準備企業の経理が激務で大変な理由には、膨大な業務量と厳しいスケジュールという点があります。
上場準備には、財務諸表や報告書など何件もの書類の作成、内部統制の整備、監査法人や証券取引所との連携など、幅広い業務が含まれます。これらの業務を限られたスケジュールで完了させる必要があり、経理部門には相当な負担がかかります。
高度な専門知識とスキルが求められる
経理には高度な専門知識とスキルが求められる点も、上場準備企業の経理が激務で大変だといわれる理由です。
例えば、通常の簿記や会計の知識だけではなく、国際財務報告基準(IFRS)や日本基準(J-GAAP)に基づく財務報告の知識が必要です。また、リスク管理や内部統制に対するノウハウも取得しなければなりません。
豊富な知識とスキルを駆使して、正確な財務情報の開示を行う必要があるため、経理部門の担当者には、日々の業務でも高度な専門性が要求されます。
人手不足と意識改革の難しさ
加えて、人手不足と意識改革の難しさも大きな課題です。上場準備には多くの人手が必要ですが、専門的な知識を持つ人材が不足していることが多いです。また、上場を目指すためには、社内の全員が高い意識を持って取り組む必要がありますが、この意識改革は簡単ではありません。これらの要因が重なり、経理部門は大変な激務に直面することになります。
なお、忙しさによって経理部門の担当者が辞めてしまうこともあるでしょう。経理の担当者が退職する理由については、こちらの記事も参考にしてください。
まとめ
株式の上場は企業の成長を示して、ビジネスの成長に役立つ大きな機会です。しかし、外部への情報公開のためには、厳しいスケジュールで幅広い業務をこなしていく必要があります。
上場準備企業における経理部門の担当者は、簿記や会計以外にも財務や内部統制に関する深い知識が必要であり、実行力や倫理観も求められます。そのため、上場準備企業の経理は激務で大変といわれています。
スピーディに上場を目指すには、経理代行サービスに依頼することもおすすめです。
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上場(IPO)準備のよくあるご質問
上場準備についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、上場準備に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
上場準備では何をするのでしょうか?
上場準備では、企業は財務諸表の整備、内部統制の強化、法務面の整理、主幹事証券会社や監査法人との連携を行います。また、投資家向け資料の作成やプレゼンテーションも重要な作業です。全体を通じて、投資家に対する信頼性と透明性の担保が求められます。
上場するまでに何年の準備が必要ですか?
上場するまでに必要な準備期間は、一般的に3年程度です。ただし、準備期間の長さは、企業の規模や状況、業界の特性によっても左右されます。この期間中に企業は内部統制の整備や財務報告の整理を進めて、外部専門家との協力を通じた具体的な準備を行います。また、成長戦略の策定や市場環境の分析も重要です。
上場するのにどれくらい費用がかかりますか?
上場するには、一般的に数千万円のコストがかかります。会社の規模や株式の発行数によっては、数億円かかることもあります。費用の内訳としては、主幹事証券会社の手数料、監査法人の費用、法務コスト、上場申請手数料などが含まれます。また、内部統制の整備や財務報告の準備にもコストが発生します。