
ビジネスや日常生活において、契約書は取引の安心を守るために欠かせない存在です。口頭での約束やメールのやり取りだけでは、後々のトラブルに発展するリスクが高く、証拠としての力も十分ではありません。そこで重要となるのが、契約内容を明確にし、双方の権利や義務をきちんと記録する契約書です。
この記事では、契約書が必要な理由から、代表的な契約書の種類、訂正方法、作成時に注意すべきポイントまでをわかりやすく解説します。初めて契約書を作成する方や、見直しを検討している方にとって役立つ内容となっているため、ぜひ参考にしてください。
目次
契約書とは?
契約書とは、当事者間で合意した内容を文章として明確に記録する書面です。例えば、商品の売買やサービスの提供に関する条件、支払方法や納期など、口頭だけではあいまいになりやすい取り決めを具体的に残すことができます。
契約書には双方が署名や押印を行い、その合意があったことを証明する役割があります。これにより、後になって「言った」「言わない」といった認識の食い違いを防ぎ、スムーズな取引の進行が可能になります。
また、契約書は民法や商法といった法律に基づき効力を持つため、万が一のトラブルの際にも重要な証拠となり得ます。こうした性質から、ビジネスだけでなく個人間のやり取りにおいても契約書の存在は欠かせません。
なお、契約書などの書類を「証憑」とも呼びます。証憑についてはこちらの記事も参考にしてください。

契約書が必要な理由
契約書が必要な理由として、以下のような点があります。
- 契約内容を明らかにするため
- トラブルを防止するため
- 取引の記録を残すため
ここでは、契約書が必要な理由について背景を踏まえて具体的に解説します。ぜひ、参考にしてください。
契約内容を明らかにするため
契約内容を明らかにすることは、契約書を作成する目的のひとつです。例えば、商品の納品日や金額、支払い期限、役務の範囲といった条件は、口頭だけでは細かい点まで正確に覚えておくことが難しくなります。契約書に記載することで、双方が共通の理解を持ち、取引の条件が明確になります。
契約書があることで、後から「こう聞いていた」という解釈のずれや、条件の抜け漏れによる混乱を防ぐことができます。さらに、契約内容が文書化されていれば、取引先の担当者が変わった場合でも同じ基準で話を進められるため、継続的かつ安定した関係構築にも役立ちます。契約の土台を固めるうえで、契約書による明文化は欠かせない工程といえます。
トラブルを防止するため
契約書は、将来発生し得るトラブルを未然に防ぐためにも重要な役割を果たします。例えば、商品の品質に関する基準や納品の遅延時の対応、支払いが滞った場合の措置などをあらかじめ明記しておけば、問題が発生しても解決方法が明確になります。
口頭の約束では、時間が経つにつれて記憶があいまいになり、双方の認識が食い違う可能性がありますが、契約書があればその時点で合意した事実を証明できます。また、事前に想定されるリスクを洗い出し、契約条項に盛り込むことで、不測の事態が起きた際にも感情的な対立を避け、冷静に対処することが可能になります。このように契約書は、取引関係を長期的に安定させるための予防策として機能します。
取引の記録を残すため
契約書は、単なる合意の証明にとどまらず、取引の記録を残すという重要な役割も担っています。例えば、数年前に行った取引内容を正確に思い出すのは困難ですが、契約書があれば当時の条件や背景を確認できます。これは、取引先との関係性の変化や条件の更新を検討する際にも有効で、過去の記録が判断材料となります。
また、企業においては契約書が会計監査や税務調査の際に裏付け資料となり、法的な根拠を示すことができます。さらに、長期的な取引や複数の案件を並行して進める場合にも、契約書は情報を整理し、スムーズな業務遂行を支える役割を果たすでしょう。
契約書の法的効力
契約書は、それ自体に特別な法的効力を持つものではなく、あくまで当事者間で合意があった事実を証明するための書類にすぎません。例えば、商品の売買や業務委託などの契約は、口頭で条件を交わした場合でも、双方の意思が一致していれば法律上は成立します。
ただし、口頭だけのやり取りでは後に条件や認識があいまいになり、合意の内容を証明するのが難しくなります。そこで契約書を作成しておけば、合意内容を明確に記録し、万が一のトラブルの際に証拠として提示することが可能です。
つまり、契約の成立には必須ではないものの、契約書は合意の存在や詳細を裏付ける重要な役割を果たし、安心して取引を進めるために大事な書面といえます。
見積書やメールだけではダメな理由は?
見積書やメールのやり取りだけでは、契約内容を完全に裏付ける証拠としては不十分な場合があります。例えば、見積書には金額や品目が記載されていても、納期や支払い条件、トラブルがあった場合の対応など、契約の全体像を示すには情報が足りないことが多いです。
また、メールは簡単に送受信できる反面、やり取りの一部が抜け落ちたり、送信者や受信者の真正性について争いになる可能性もあります。契約書であれば、条件を網羅的に明記し、双方が署名や押印をすることで、合意があった事実とその内容を明確に残せます。こうした理由から、見積書やメールだけに頼らず、契約書を作成することが望ましいのです。
契約書は誰が作成をするのか?
契約書は、必ずしも弁護士や専門家だけが作成する必要はなく、当事者のどちらが作成しても構いません。例えば、発注者側が条件をまとめて提示する場合もあれば、受注者側が自社の契約書ひな形をもとに作成する場合もあります。大切なのは、取引条件や責任範囲、支払い方法など、必要な事項を漏れなく盛り込み、双方が納得できる内容に仕上げることです。
また、作成の段階で不明点や不安があれば、法務担当者や弁護士に確認してもらうことで、将来のトラブル防止につながります。このように契約書の作成主体は状況によって柔軟に決められますが、重要なのは中身の正確さと明確さです。
契約書の種類
契約書の種類として、以下のような書類があります。
契約書名 | 契約書の内容と役割 |
---|---|
取引基本契約書 | 長期的・継続的な取引における共通ルールを定める契約書 |
売買契約書 | 商品や権利の売買条件を明記する契約書 |
雇用契約書 | 会社と従業員の労働条件を明文化する契約書 |
業務委託契約書 | 外部に業務を委託する際の条件を定める契約書 |
秘密保持契約書(NDA) | 秘密情報の漏洩防止を約束する契約書 |
工事請負契約書 | 建設や改修工事の内容と条件を明確にする契約書 |
ここでは、それぞれの契約書について詳しく解説していきます。
取引基本契約書
取引基本契約書は、長期的かつ継続的に取引を行う際の共通ルールを定めるための契約書です。例えば、商品の仕入れや販売を定期的に行う場合、毎回条件を細かく交渉していると時間や手間がかかります。
取引基本契約書を結んでおけば、納期や支払条件、検収方法などをあらかじめ定め、各個別契約では数量や単価など必要な部分だけを取り決めれば済みます。これにより、取引を効率的に進められるだけでなく、条件の不一致によるトラブルを防止できます。
また、長期の取引関係を安定させ、双方の信頼関係構築にもつながるため、ビジネスの基盤を整えるうえで欠かせない書類といえます。
売買契約書
売買契約書は、物品や権利の売買条件を明確に示すための契約書です。例えば、商品の販売では代金額や支払方法、納期、引き渡し条件、トラブルがあった場合の対応など、取引の根幹に関わる事項が多く存在します。口頭だけでのやり取りでは誤解や条件漏れが起こりやすく、後のトラブルの原因になりかねません。
売買契約書を作成すれば、こうした条件を具体的に記載し、双方が合意した証拠として残すことができます。特に高額商品や納期が重要な案件では、細かな条件を明記しておくことで、万一の際にも冷静な解決が可能になります。取引の安全性と透明性を確保するため、売買契約書は重要な役割を果たします。
雇用契約書
雇用契約書は、会社と従業員の間で取り交わされる労働条件を明文化する契約書です。例えば、勤務時間や休日、賃金、業務内容などの条件は、双方にとって重要なポイントですが、口頭だけでは記憶や解釈の違いが生じやすくなります。
雇用契約書にこれらを記載しておけば、後から条件を確認でき、労働トラブルの予防につながります。労働基準法でも労働条件の明示が義務付けられており、雇用契約書はその証拠としても機能します。また、契約書があることで従業員の安心感が高まり、企業側もルールに沿った人事管理が行いやすくなります。働く環境の安定を支えるうえで欠かせない書類です。
業務委託契約書
業務委託契約書は、特定の業務を外部の事業者や個人に委託する際に結ぶ契約書です。例えば、システム開発やデザイン制作などを外注する場合、業務の範囲や納期、報酬額、成果物の著作権の扱いなどを明確にしておかないと、納品後に「依頼内容が違う!」といったトラブルが起こりかねません。
業務委託契約書を作成することで、業務の進め方や責任分担が明確になり、双方が納得した形で作業を進められます。また、成果物の利用範囲や秘密保持の取り決めを盛り込むことで、事後のリスクを減らすことも可能です。そのため、外注取引の透明性と安全性を確保するために欠かせない書類といえるでしょう。
秘密保持契約書(NDA)
秘密保持契約書(NDA)は、取引や業務上知り得た秘密情報を第三者に漏らさないことを約束する契約書です。例えば、新製品の開発計画や顧客リスト、技術仕様などは、外部に漏れると企業の競争力に大きな影響を与える可能性があります。
NDAを結んでおくことで、情報を受け取った側は契約で定められた範囲内でしか利用できず、違反した場合には損害賠償などの責任が生じます。これにより、安心して情報を共有でき、ビジネスを円滑に進められます。特に共同開発や提携交渉の初期段階では、NDAは信頼関係を築くための重要な書類となります。
工事請負契約書
工事請負契約書は、建設や改修などの工事を依頼する際に、施工内容や条件を明確にするための契約書です。例えば、建物の新築工事では工期や工事内容、使用する資材、支払条件など、多くの重要事項があります。これらを口頭だけで決めてしまうと、仕上がりや費用に関する認識の違いが生じ、トラブルの原因になります。
工事請負契約書を作成しておけば、完成の基準や追加工事の取り扱い、欠陥が見つかった場合の修補義務なども明確にできます。これにより、依頼主と施工業者双方の立場を守り、工事を円滑かつ安全に進めることが可能になります。
契約書の書き方と注意するポイント
契約書の書き方と注意するポイントとして、以下のような点を意識しましょう。
- 契約書の目的を把握する
- 権利と義務を明記する
- 法律に違反していないか確認しておく
ここでは、それぞれのポイントを具体的に解説していきます。
契約書の目的を把握する
契約書の作成にあたっては、まず目的を明確にすることが大切です。例えば、長期的な取引の条件を安定させるためなのか、特定のプロジェクトにおける役割分担を定めるためなのかによって、記載すべき内容や重点が変わってきます。
目的がはっきりしていないまま作成すると、必要な項目が抜け落ちたり、不要な情報が盛り込まれて読みづらくなる可能性があります。また、目的を理解していれば、契約書全体の構成や用語の選び方にも一貫性が生まれ、双方が内容を正しく理解しやすくなります。契約書は単なる形式ではなく、当事者間の合意を確実に実現するための手段であることを意識して作成することが重要です。
権利と義務を明記する
契約書では、当事者双方の権利と義務を明確に示すことがポイントです。例えば、商品を納品する側は納期や品質を守る義務があり、受け取る側には代金を支払う義務があります。また、納品後の検収方法や返品条件、著作物の利用権など、契約の性質によって必要な取り決めは異なります。
権利や義務を具体的かつ分かりやすく記載しておくことで、後になって「そんな約束はしていない!」という誤解や争いを防ぐことができます。さらに、権利や義務がはっきりしていれば、契約期間中に予期せぬ事態が発生した場合でも、契約書を基準に適切な対応を取ることが可能になります。
法律に違反していないか確認しておく
契約書の内容は、必ず関連する法律に適合していなければなりません。例えば、労働契約で法定労働時間を超える勤務を義務付けたり、売買契約で法的に禁止されている商品の取引を定めたりすると、その部分は無効となる可能性があります。また、独占禁止法や下請法など、取引の種類によって適用される法律も異なります。
そのため、契約書を作成する際には、事前に関連法令を確認し、不適切な条項が含まれていないかをチェックすることが重要です。法律に沿った契約であれば、双方が安心して合意でき、万一のトラブル時にも有効な証拠として機能します。
契約書を訂正する方法
契約書に誤りや変更が見つかった場合、そのまま放置すると後に大きな誤解やトラブルにつながる恐れがあります。訂正には以下のような方法があり、状況や訂正内容の性質によって適切な手段を選ぶことが重要です。
- 方法1:訂正印を使用する
- 方法2:変更契約書を作成する
- 方法3:契約書を再発行する
ここでは、それぞれの訂正方法において正確な契約内容を反映させるための手順と注意点を紹介します。
方法1:訂正印を使用する
契約書の誤字脱字や数字の修正など、部分的な訂正を行う場合には訂正印を使用するのが一般的です。例えば、数量の記載を「100個」から「120個」に修正する際、誤記部分に二重線を引き、その上または余白に正しい数字を記載し、訂正印を押します。
これにより、意図的な改ざんではなく、双方の合意による修正であることを証明できます。ただし、大幅な変更や複数箇所の訂正が必要な場合には、この方法では管理が煩雑になり、誤解を招く可能性があるため、修正範囲を見極めることが大切です。
方法2:変更契約書を作成する
契約内容に大きな変更が生じる場合は、変更契約書を作成して対応するのが適切です。例えば、契約期間を1年間から2年間に延長する、支払い条件を分割払いから一括払いに変更するなど、契約の根幹に関わる修正は、新たな書面で合意内容を明確にします。
変更契約書を作成する方法では、元の契約書と変更契約書の両方が効力を持ち、必要に応じて合わせて参照する形になります。書面化することで、変更の経緯や詳細を明確に残せるため、後の証拠としても有効です。
方法3:契約書を再発行する
契約書の多数箇所に修正が必要な場合や、訂正によって文章が読みづらくなる場合は、契約書を再発行する方法がおすすめです。例えば、複数の条項で条件を変更する場合、訂正や追記を繰り返すと全体の可読性が低下し、誤解の原因となることがあります。
再発行であれば、最新の合意内容をひとつの契約書にまとめられるため、管理が容易で見落としも減らせます。ただし、再発行の際には元の契約書の破棄や保管方法についても双方で取り決めておくことが望まれます。
まとめ
契約書とは、当事者間で合意した内容を文章として明確に記録する書面です。契約書には双方が署名や押印を行い、その合意があったことを証明する役割があります。契約書が必要な理由として契約内容を明らかにするためやトラブルを防止するため、取引の記録を残すためなどがあげられるため、正しく発行することが大切です。
なお、契約書は、それ自体に特別な法的効力を持つものではなく、あくまで当事者間で合意があった事実を証明するための書類にすぎません。ただし、契約の成立には必須ではないものの、契約書は合意の存在や詳細を裏付ける重要な役割を果たし、安心して取引を進めるために大事な書面といえます。契約書まわりでお困りの際は、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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契約書に関するよくあるご質問
契約書についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、契約書に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
契約書には法的な効力はありますか?
契約書自体に特別な法的効力があるわけではなく、あくまで当事者間で合意が成立した事実を証明するための書類です。口頭でも契約は成立しますが、口頭のみだと合意内容の証明が難しくなります。契約書を作成することで、合意内容を明確に記録し、万一のトラブル時に証拠として提示できるため、安心して取引を進められます。
契約書に必要とされる項目は何ですか?
契約書には、契約の目的や取引内容、双方の権利と義務、支払い条件、納期など具体的な取り決めを漏れなく記載することが求められます。例えば、商品売買であれば金額や数量、検収方法、欠陥への対応などがあげられます。これにより、双方が同じ内容を理解し、後の誤解やトラブルを防ぐことができます。
契約書がないとどうなりますか?
契約書がない場合、口頭やメールだけでの約束になるため、合意内容の証明が難しく、トラブルに発展しやすくなります。例えば、納期や支払い条件の認識が異なった場合、解決策を示す根拠が不足し、対応が長引く恐れがあります。また、取引の記録が残らないことで、将来の見直しや監査時にも支障が生じる可能性があります。