
経費精算は、業務に必要な支出を従業員が立て替えた際に、その費用を会社が後から支払う仕組みです。一見シンプルに思える経費精算の作業も、関係者が多く、手続きや確認の流れが複雑になりがちです。特に現場の従業員と経理担当者それぞれの業務が絡むため、ルールの不備や手間の多さがトラブルの原因になることもあります。
本記事では、経費精算の基本的な流れから、よくある種類や費用の区分、業務効率におけるポイントまでをわかりやすく解説します。経費精算を正しく、かつスムーズに進めるための参考にしてください。
目次
経費精算とは?
経費精算とは、業務上必要となった支出について、従業員がいったん立て替えた費用を会社があとから支払う手続きのことを指します。精算業務は、企業活動における日常的な経理業務のひとつであり、適切な管理がされていないと、無駄な支出や不正経理につながる恐れがあります。
例えば、交通費や出張にかかる宿泊費、営業先との会食費などが対象となるケースが多く、どこまでが会社の経費として認められるのかという判断も重要なポイントです。経費精算は単にお金を戻す作業ではなく、業務の透明性や社内ルールの整備、会計上の正確性を保つうえでも欠かせないプロセスといえるでしょう。
従業員が行う経費精算
従業員による経費精算は、業務に必要な支出を立て替えたあとに、領収書や申請書をもとに会社へ費用の返還を求める流れで進みます。例えば、クライアントとの打ち合わせで利用したカフェの飲食代や、出張先で使用したタクシー料金などがその対象になります。
申請の際には、使用目的が業務上適切であることを明確にし、必要な書類をそろえて提出する必要があります。経費精算における一連の流れが滞ると、支払いが遅れるだけでなく、経理側の確認作業にも負担がかかってしまいます。従業員にとってもスムーズな経費精算は働きやすさに直結するため、ルールを理解したうえで正しく手続きを行うことが求められます。
経理担当者が行う経費精算
経理担当者が行う経費精算の役割は、提出された申請内容や領収書をもとに、費用が会社のルールや会計処理の基準に沿っているかを確認し、精算を完了させることです。例えば、ある従業員が接待費として申請した飲食代が、実際には私的な用途だった場合、それを見抜いて差し戻すことも経理の大切な仕事です。
申請内容が正確か、金額に誤りはないか、費用の分類が適切かなど、細かく確認する必要があるため、ミスのない処理と時間効率の両立が求められます。経理担当者のチェックが甘いと、税務調査時に指摘を受ける可能性もあるため、地道ながら重要なプロセスとして位置づけられています。
経費精算の種類
経費精算には主に以下の3種類があります。
- 小口精算
- 交通費精算
- 旅費精算
これらを適切に使い分けることで、経費処理の正確性や効率性が大きく向上します。そのため。各精算の特徴を理解し、ルールに沿って申請を行うことが、経理業務の負担軽減にもつながるでしょう。
小口精算
日常業務で発生する細かな立て替え費用を対象とするのが小口精算です。少額とはいえ、積み重なれば経費全体に与える影響も小さくありません。例えば、文房具の購入代や郵便料金、備品の電池など、一つひとつは数百円程度の支出でも、業務を支えるうえで欠かせないものばかりです。
こうした支出はつい申請を後回しにしがちですが、記録を残さないままにすると精算漏れや経理上の不整合が生じる原因にもなります。小口精算をきちんと管理することで、企業全体の支出の透明性を高め、無駄なコストを見直すきっかけにもなります。
交通費精算
業務に関連して移動する際に発生する電車代やバス代、タクシー代などの精算が交通費精算です。出張や営業活動が多い職種ほど、その申請頻度は高くなります。例えば、営業先へ訪問するために利用した電車や、緊急対応のために乗ったタクシーなどが対象となりますが、申請の際には区間や利用日時を正確に記録する必要があります。
また、ICカードの履歴を活用するケースもありますが、個人利用との区別がつきにくい場面もあるため注意が必要です。交通費精算を正確に行うことは、従業員への適切な補填だけでなく、会計処理や税務上の整合性を保つためにも重要です。
旅費精算
出張などで遠方に出向いた際の費用を精算するのが旅費精算です。交通費に加えて宿泊費や出張手当など、通常の勤務とは異なる費用が含まれるため、申請時の確認事項も多くなります。例えば、出張先で宿泊したホテルの料金や、現地での移動にかかったレンタカー代などが当てはまります。
企業によっては、旅費規程を定めて金額の上限や利用可能な手段を制限している場合もあります。自社のルールを踏まえて申請を行わないと、後から差し戻しになることもあるため、正確でわかりやすい申請が求められます。加えて、旅費精算は費用が大きくなりやすいため、他の精算よりも慎重な対応が必要です。
経費精算の対象になる費用
経費精算の対象になる費用として、主に以下のような経費があげられます。
- 旅費交通費
- 接待交際費
- 消耗品費
- 福利厚生費
- 通信費
- 研修費
- 支払手数料
ここでは、それぞれの費用について詳しく解説していきます。
旅費交通費
旅費交通費は、業務に関連した移動や出張にかかる費用を指し、多くの企業で経費精算の頻度が高い項目です。例えば、電車や飛行機を使って地方の拠点へ出向く場合の往復交通費や、宿泊が伴う出張でのホテル代などが旅費交通費に含まれます。
日常の通勤費とは区別され、あくまで業務の一環として発生した移動費であることが必要です。また、領収書の提出や移動経路の明示が求められることも多く、正確な記録が重要となります。適切に精算することで、業務遂行に必要な支出として、会計処理や税務対応の際にも明確な根拠を残すことができます。
接待交際費
接待交際費とは、取引先との関係構築や営業活動の一環として発生する飲食や贈答、会合費などの費用を指します。例えば、新規の取引先との初回打ち合わせ後に行う食事会や、長年の関係がある顧客へのお中元やお歳暮などの贈り物などがその対象となります。
ただし、私的な飲食や過度な支出は経費として認められないため、業務上の必要性や金額の妥当性を説明できることが求められます。接待交際費は税務処理でも扱いが複雑になる場合があるため、領収書の保管だけでなく、参加者や目的の記録を残しておくことが大切です。
消耗品費
消耗品費は、日々の業務で使われる文房具やコピー用紙など、短期間で使い切る物品の購入費用が対象となります。例えば、ペンやノート、プリンタのインクといった備品の補充にかかる費用があげられます。耐久性がある高額な機器や設備と異なり、消耗品は使用頻度が高く、頻繁に購入されるため、経費のなかでも小口精算として申請されることが多い項目です。
購入時には領収書の提出はもちろん、用途を簡潔に説明することで、経理処理がスムーズになります。また、少額とはいえ、集計すれば年間で大きな金額となるため、管理体制を整えておくことが重要です。
福利厚生費
福利厚生費は、従業員の働きやすさや職場環境の改善を目的とした支出に対して認められる経費です。例えば、社内レクリエーションの開催費や健康診断の補助、オフィスに設置されたコーヒーマシンの維持費などが該当するケースがあります。
あくまでも業務との関連性があり、全従業員を対象にしていることなどの条件を満たす必要があります。また、従業員満足度の向上を図る取り組みにかかる費用として、税務上でも一定の条件のもとで認められます。そのため、支出内容によっては判断が分かれることもあるため、記録を正確に残すことが重要になります。
通信費
通信費は、業務上の連絡や情報のやり取りを行うために必要なインターネットや電話に関する費用が対象となります。例えば、営業担当者がスマートフォンを使って取引先と連絡を取る際の通話料や、テレワークにおいて利用するモバイルWi-Fiの月額料金などが含まれます。
通信インフラは現代の業務に欠かせないものとなっているため、支出として認められる範囲も広がっていますが、私的利用との線引きが難しい場合もあります。そのため、契約名義や使用目的を明確にし、業務に必要な範囲での利用であることを証明できるようにしておくことが大切です。
研修費
研修費は、従業員のスキル向上や知識習得を目的とした社内外の研修やセミナー参加にかかる費用を指します。例えば、業務に関連する資格取得のための外部セミナーや、新入社員向けの導入研修などに支払った受講料が当てはまります。
こうした研修活動は、企業の成長を支える人材育成の一環として位置づけられており、業務との関連性が明確であれば経費として処理することができます。ただし、娯楽的な内容や業務と関係の薄いセミナーは対象外となる場合もあるため、事前に内容を精査し、参加報告などの記録を残しておくことが望ましいです。
支払手数料
支払手数料は、業務上の取引や決済に伴って発生する各種手数料のことを指し、見落としがちなもののひとつです。例えば、振込時に銀行へ支払う振込手数料や、クラウドサービスの決済に伴う決済代行会社への手数料などが該当します。
単体では小額であっても、取引件数が多い企業では年間を通して積み上がる金額も無視できません。また、業務に必要な支出であることが明確でなければ、経費として認められないケースもあるため、内容や対象取引の記録を残すことが求められます。そのため、手数料も立派な経費の一部であるという認識を持つことが大切です。
経費精算の対象にならない費用
以下のような費用は経費精算の対象にならない費用としての代表例です。
- スーツの購入費
- プライベートの飲食費
- 承認を得ていない高額な物品の購入費
ここでは、それぞれの費用について詳しく解説していきます。トラブルを未然に防ぐためにもしっかり理解しておきましょう。
スーツの購入費
スーツの購入費は経費として認められない場合が多いです。業務の一環として身だしなみを整えることは大切ですが、そのための費用がすべて経費として認められるわけではありません。
例えば、営業活動の場で着用するために新しくスーツを購入したとしても、そのスーツは個人の所有物となるため、原則として経費精算の対象外です。スーツは業務専用ではなく、私生活でも使用できるため、業務との直接的な関係が認めにくいのです。
経費として認められるかどうかは、その支出が会社の業務に必要不可欠であるか、という観点から判断されます。服飾に関する支出は線引きが難しいため、あらかじめ会社の規定を確認しておくことが重要です。
プライベートの飲食費
プライベートの飲食費も接待交際費にはならないため注意しましょう。経費精算では、その支出が業務に直接関係しているかどうかが大きな判断基準となります。例えば、仕事終わりに同僚と行った飲み会の費用や、休日に家族と外食した際の食事代などは、たとえ領収書があってもプライベートな飲食費として扱われ、経費精算の対象にはなりません。
業務と関係のない私的な出費を経費として申請することは、場合によっては不正とみなされる可能性もあるため注意が必要です。食事代が経費として認められるのは、業務上の打ち合わせや接待など、会社の活動に明確な関連がある場合に限られます。そのため、正しい判断をするためにも、支出の目的と背景を常に意識することが大切です。
承認を得ていない高額な物品の購入費
高額な物品の購入は、たとえ業務で使用するものであっても、上司や部門の承認を経ていなければ経費として精算できないケースがあります。例えば、業務効率を上げるために個人の判断で高性能なPC周辺機器や什器を購入したとしても、事前に承認が得られていない場合、その費用は自己負担となることがあります。
会社としては、予算管理や購入ルールの明確化を図っているため、申請前の確認と承認フローの順守が重要です。特に高額な支出については、業務への必要性だけでなく、コストの妥当性も慎重に判断されるため、計画的な申請が求められます。そのため、社内での事前の相談がトラブルを未然に防ぐことにもつながるでしょう。
経費精算のやり方と流れ
経費精算のやり方は以下の流れで進みます。
- step1:従業員が費用を立て替える
- step2:領収書をもらう
- step3:上司の承認をへて経理部門へ提出する
- step4:経理部門が確認して精算する
ここでは、それぞれの流れについて詳しく解説します。
step1:従業員が費用を立て替える
経費精算の流れは、従業員が業務に必要な費用を一時的に立て替えるところから始まります。例えば、取引先との打ち合わせのために移動した際の交通費や、会議に使う備品を急きょ購入した場合などがこれに該当します。
こうした費用は、会社の業務に関係していれば後で精算されますが、事前に申請や承認が必要なケースもあるため、立て替えの段階でルールを意識しておくことが重要です。また、金額が大きくなる場合や特殊な支出の場合には、上司に相談することも求められるでしょう。なお、立て替えの判断は個人に委ねられる場面が多いため、会社の規定やガイドラインをあらかじめ理解しておくことが円滑な申請につながるでしょう。
step2:領収書をもらう
立て替えた費用を精算するためには、支出を証明する書類の提出が必要です。その代表的なものが領収書です。例えば、昼食を伴う打ち合わせで発生した飲食費や、文具店で購入した備品代なども、領収書がなければ経費として認められないことがほとんどです。
レシートでも対応可能な場合がありますが、会社によっては書式に指定があるため注意が必要です。領収書には日付、金額、宛名、支払内容などが明記されていることが求められ、これらがそろっていないと再提出になることもあります。小さな金額であっても、証憑の管理は経費処理の基本となるため、忘れずにもらい、きちんと保管しておくことが大切です。
step3:上司の承認をへて経理部門へ提出する
領収書などの証憑がそろったら、次に行うのが上司による承認です。例えば、営業担当者が取引先との会食費を申請する場合、業務上必要な支出であることを上司に説明し、承認を得る必要があります。
説明や承認は経費が適切に使われているかを確認する大切なプロセスであり、企業の内部統制の一環でもあります。申請内容に不明瞭な点があると差し戻されることもあるため、使途や金額、日付などを明確に記載することが求められます。
承認を受けたら、経理部門に書類一式を提出しましょう。スムーズな精算のためには、上司と申請者の間で情報を共有し、申請のタイミングにも気を配ることが重要です。
step4:経理部門が確認して精算する
経費精算の申請書と領収書が提出されたら、最終的なチェックと支払いを担当するのが経理部門です。例えば、申請内容と領収書の金額に差異がないか、日付に整合性があるか、既存の規定に沿った支出であるかなどを慎重に確認します。
不備があれば申請者に修正依頼が返されるため、確認の精度とスピードが重要な工程です。問題がなければ、給与と合算して振り込まれたり、別途指定口座に返金されたりと、企業ごとの運用方法に従って精算が実行されます。経理部門の視点からは、証憑の明確さと申請内容の一貫性が判断材料になるため、申請者が丁寧な書類作成を心がけることで、全体の処理がスムーズになります。
経費精算を効率化するポイント
経費精算を効率化するポイントとして以下のような点があげられます。
- 経費精算システムを導入する
- 社内のルールをマニュアル化する
- 経理代行会社に相談する
ここでは、それぞれの効率化のポイントについて具体的に解説します。
経費精算システムを導入する
経費精算にかかる手間や時間を減らすには、システムの活用が有効です。例えば、紙の申請書を使って手書きで記入し、上司のハンコをもらってから経理に提出するといったフローは、申請者にも経理担当者にも負担がかかります。
経費精算システムを導入すれば、パソコンやスマートフォンから申請から承認、確認までを一元管理できるようになり、ミスの軽減や承認のスピードアップが期待できます。また、領収書の写真をアップロードするだけで必要情報が自動で入力される機能などもあり、入力作業の手間も大幅に削減できます。そのため、業務負荷を軽減し、透明性を保つうえでも、システムの導入は重要なポイントといえるでしょう。
なお、経費精算システムについては、こちらの記事も参考にしてください。

社内のルールをマニュアル化する
経費精算の手順や判断基準を明確にすることは、処理の効率化に大きく影響を与えます。例えば、どの費用が経費として認められるか、申請時に必要な書類は何かといった情報が個人の経験や口頭のやり取りに依存していると、申請者ごとに対応がばらつき、経理部門での確認作業が複雑になります。
混沌とした状況を防ぐために、経費精算のルールを文書化し、マニュアルとして全社に共有することがポイントです。誰もが同じ基準で対応できるようになれば、申請ミスや確認の手間が減るだけでなく、社内全体の処理速度も向上します。また、マニュアルは一度作って終わりではなく、制度変更や実務に合わせて定期的に見直すことも大切です。
なお、経理業務のマニュアル化については、こちらの記事も参考にしてください。

経理代行会社に相談する
経費精算の業務を自社だけで抱えることが難しい場合には、外部の専門家に依頼する方法もあります。例えば、社員数が少ない企業で、営業や管理部門が兼任で経理処理を行っているようなケースでは、ミスの発生や対応の遅れが業務全体に影響を与えることもあります。
経理代行会社に相談すれば、経費精算のフローを見直してくれるだけでなく、実際の処理や帳簿作成を代行してもらうことも可能です。また、最新の制度や税務上の注意点にも対応してくれるため、自社だけで進めるよりも正確かつ効率的に運用できます。
そのため、社内リソースの限界を感じている場合には、外部の力を借りることで、経理の負担軽減と業務の質向上が図れるでしょう。なお、経理代行については、こちらの記事も参考にしてください。

まとめ
経費精算とは、業務上必要となった支出について、従業員がいったん立て替えた費用を会社があとから支払う手続きのことを指します。精算業務は、企業活動における日常的な経理業務のひとつであり、適切な管理がされていないと、無駄な支出や不正経理につながる恐れがあります。
スムーズな経費精算のためには、システムの導入や社内のルールのマニュアル化が大切です。また、煩雑な経費精算業務は経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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経費精算に関するよくあるご質問
経費精算についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、経費精算に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
経費精算は何種類ありますか?
経費精算には主に「小口精算」「交通費精算」「旅費精算」の3種類があります。例えば、事務用品の購入費用は小口精算、電車やバスなど日常の移動費用は交通費精算、宿泊や出張など長距離移動を伴う業務では旅費精算として扱われます。使用目的や支出の内容によって、会社ごとにルールが定められているケースが多いです。
レシートは経費精算に使えますか?
レシートが経費精算に使えるかは企業のルールによります。基本的には可能ですが、レシートの内容が不明瞭であったり、紛失した場合には領収書が求められることがあります。特に、経費として認められるかどうかを確認するためには、支出内容を証明できる書類が必要です。そのため、領収書のほうが無難といえるでしょう。
交通費は経費精算の対象ですか?
交通費は業務に関連する移動にかかった費用であれば、経費精算の対象となります。例えば、営業活動で顧客先を訪問した際の電車代や、セミナー参加のためのバス料金などが該当します。ただし、通勤定期の範囲内での移動や、私用目的の交通費は対象外とされるのが一般的のため注意しましょう。