
病院の経理業務は、一般企業の経理とは異なる特徴を持ち、専門的な知識や対応が求められます。診療報酬の請求や医療機器の購入、特殊な勤務形態への対応など、医療機関ならではの経理処理が必要となります。さらに、会計基準や資金管理の面でも独自のルールが存在し、業務の複雑さが増します。
本記事では、病院の経理業務の具体的な内容や、一般企業との違い、効率化のポイントについて詳しく解説します。経理担当者の業務負担を軽減し、医療機関のスムーズな運営を目指しましょう。
目次
病院の経理業務とは?
病院やクリニックなどの医療機関における経理業務は主に以下の3つにわけられます。
- 日次業務
- 月次業務
- 年次業務
ここでは、それぞれの時期にどのような業務があるのか具体的に解説していきます。ぜひ、病院の運営をされる方は参考にしてください。
病院の経理の日次業務
病院の経理の日次業務には、日々の入出金管理や伝票処理、レセプト請求(診療報酬明細書請求)の確認などが含まれます。例えば、外来患者や入院患者の診療費の支払いを確認し、現金やクレジットカード、電子マネーなどの入金処理を正確に行うことが求められます。
また、医療機器や薬品の購入に伴う支払業務も発生するため、仕入れ伝票や領収書を適切に整理し、データを会計ソフトに入力する作業も欠かせません。さらに、診療報酬の請求漏れや誤りがないか確認し、修正が必要な場合は早急に対応することも重要です。
特に、レセプト請求に関しては、病院の収益に直結するため、医療事務担当者と連携しながら慎重にチェックを行います。こうした日々の業務を正確かつ迅速に進めることで、経理全体の効率を高め、経営の安定にもつながります。
病院の経理の月次業務
病院の経理の月次業務では、売上や経費の集計、給与計算、診療報酬の請求状況の確認などが中心となります。例えば、医師や看護師、事務スタッフなど多様な職種の給与計算を行う際には、夜勤手当や残業代、非常勤職員の勤務実績などを細かく確認する必要があります。
また、病院では高額な医療機器や薬品を仕入れることが多いため、それらの支払い状況を管理し、資金繰りを適切に行うことも求められます。さらに、月末には診療報酬の請求状況をチェックし、未収金が発生していないか確認する作業も重要です。
特に、診療報酬は病院の主な収益源であるため、請求ミスがあると経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。これらの月次業務を正確にこなすことで、病院の経営状況を把握し、適切な資金管理を行うことができます。
病院の経理の年次業務
病院の経理の年次業務では、決算処理や税務申告、予算策定などの重要な業務が行われます。例えば、1年間の収益や支出を集計し、財務諸表を作成することで、病院全体の経営状況を把握します。特に医療機関では、診療報酬や補助金など、一般企業とは異なる収益構造を持つため、正確な数値管理が求められます。
また、税務申告においては、医療法人としての特例措置や減免制度などを活用し、適切な節税対策を行うことも重要です。さらに、翌年度の予算策定では、医療機器の更新や病院設備の改修、スタッフの人件費などを考慮しながら、無駄のない資金計画を立てる必要があります。
こうした年次業務は病院の経営方針にも関わるため、経営陣と密に連携しながら進めることが求められます。
病院の経理業務と一般企業の経理業務の違い
病院やクリニックなどの医療機関における経理と一般企業の経理には以下のような違いがあります。
- 収益構造の違い
- かかる費用の違い
- 会計基準や制度の違い
- 資金管理の違い
- 業務の複雑さの違い
ここでは、それぞれの経理業務の違いを具体的に紹介します。
収益構造の違い
病院の経理業務と一般企業の経理業務の違いのひとつに、収益構造の違いがあげられます。一般企業では、商品やサービスの販売によって売上が発生し、その収益を基に経営を成り立たせます。一方、病院の場合、主な収益源は診療報酬であり、患者からの自己負担分に加えて、健康保険や公的機関から支払われる報酬が大きな割合を占めます。
例えば、外来患者の診察料や手術費用は、一部は患者が窓口で支払い、残りは保険者に請求されるため、収益の回収までに一定の期間を要します。また、医療機関によっては補助金や助成金を受けることもあり、これらの収益を適切に管理する必要があります。
このように、病院の収益は即時に回収されるものではなく、請求から入金までに時間がかかる点が、一般企業と大きく異なるポイントです。
かかる費用の違い
病院の経理業務では、一般企業とは異なる費用の種類や特性に対応する必要があります。例えば、一般企業では原材料費や広告宣伝費、販管費が主な支出になりますが、病院では医療機器の購入費や薬品費、人件費が大きな割合を占めます。
特に、医療機器は高額なものが多く、MRIやCTスキャンなどの設備は数千万円から数億円に及ぶこともあります。また、薬品費も安定的な診療を提供するために欠かせない支出であり、新薬の導入や専門的な治療薬の仕入れには大きなコストがかかります。
さらに、病院は24時間体制で運営されるため、夜勤や交代勤務のスタッフの給与も考慮しなければなりません。これらの費用は一般企業には見られない特殊な支出であり、病院経理ならではの管理が求められます。
会計基準や制度の違い
病院の経理業務では、一般企業とは異なる会計基準や制度に準拠する必要があります。例えば、一般企業では企業会計基準や会社法に基づいて財務処理を行いますが、病院では医療法人会計基準や診療報酬制度など、独自のルールに則って経理を行います。
特に、診療報酬の算定に関しては厚生労働省の指針に従う必要があり、誤った請求をすると返還や罰則の対象になるため、慎重な管理が求められます。また、公的医療機関の場合、補助金や助成金の適正な利用が義務付けられており、支出の透明性を確保することが重要です。
さらに、病院経営は社会保険や税制の影響も受けるため、税務処理においても特別な配慮が必要となります。このように、病院の経理は通常の企業とは異なる制度や規則に対応しなければならず、高度な専門知識が求められる分野です。
資金管理の違い
病院の経理業務における資金管理は、一般企業の資金管理とは異なり、特有の課題を抱えています。例えば、一般企業では売上に応じたキャッシュフロー管理を行い、仕入れや人件費を調整することが可能ですが、病院では診療報酬の請求から入金までにタイムラグが生じるため、資金繰りを慎重に行う必要があります。
また、病院では高額な医療機器の購入や施設の維持費が定期的に発生するため、突発的な支出に備えて資金を確保しておくことが求められます。さらに、公的医療機関の場合、補助金や助成金の交付タイミングも影響を及ぼすため、補助金や助成金の入金予定を考慮した資金計画を立てることが重要です。
資金繰りを誤ると、必要な医療サービスの提供に支障をきたす可能性があるため、病院経理担当者には的確な資金管理能力が求められます。
業務の複雑さの違い
病院の経理業務は一般企業に比べて複雑であり、専門的な知識や細かな対応が必要とされます。例えば、一般企業では売上や経費の管理が主な業務となりますが、病院では診療報酬請求や補助金の管理、医療機器の減価償却など、さまざまな要素が絡み合います。
また、病院は医師や看護師、事務スタッフなど多様な職種が働く環境であり、それぞれの雇用形態に応じた給与計算が必要です。特に、夜勤手当や非常勤職員の報酬計算など、一般企業にはない複雑な計算が求められます。
さらに、診療報酬の請求業務では、法改正や制度変更に迅速に対応しなければならず、誤った処理があると病院の収益に直接影響を与えるため、細心の注意を払う必要があります。このように、病院の経理は一般企業よりも業務範囲が広く、専門的な知識と柔軟な対応が求められる分野と言えます。
病院の経理における課題
病院やクリニックなどの医療機関における経理には、以下のような課題があります。
- 診療報酬の制度への対応の難しさ
- 夜勤や非常勤などの勤務形態への対応
- 高額な医療機器の購入が発生する
ここでは、それぞれの課題について詳しく解説します。
診療報酬の制度への対応の難しさ
病院の経理業務において、診療報酬制度への対応は難しい課題のひとつです。例えば、診療報酬は公的な保険制度のもとで細かく規定されており、医療行為ごとに請求額が決まっています。しかし、制度は定期的に見直され、診療報酬の点数が変更されたり、新たなルールが追加されたりするため、常に最新の情報を把握しながら正確に請求処理を行わなければなりません。
さらに、請求内容に誤りがあると、支払いが遅れるだけでなく、不正請求と見なされるリスクもあるため、慎重な対応が求められます。例えば、手術や検査の種類によって適用される診療報酬の算定基準が異なり、一つのミスが病院の収益に大きな影響を与えることもあります。
また、審査機関からの指摘によって返還請求が発生することもあり、これが病院経営にとって大きな負担となるケースも少なくありません。そのため、医療事務担当者や経理担当者は制度変更に迅速に対応できるよう、定期的な研修や情報収集を欠かさず行う必要があります。
夜勤や非常勤などの勤務形態への対応
病院の経理業務では、さまざまな勤務形態への対応が求められるため、給与計算の複雑さが大きな課題となります。例えば、一般企業では基本給と残業代の計算が主ですが、病院では夜勤手当や宿直手当、オンコール手当(待機手当・出勤手当)など、特有の手当が加わるため、給与計算が複雑になります。
特に、夜勤を行う看護師や医師の場合、勤務時間帯によって手当の計算方法が異なり、適切に処理しなければ従業員の不満や労務トラブルの原因になる可能性があります。また、病院には非常勤職員やパート職員も多く働いており、勤務日数や時間に応じた報酬計算が必要です。
例えば、非常勤の医師は診療ごとに報酬が決まるケースもあり、一般の給与計算とは異なる方法で処理する必要があります。さらに、病院では急な人員不足を補うためにスポットでの勤務が発生することもあり、その都度適切な給与計算を行うことが求められます。
こうした多様化された勤務形態に対応するためには、給与計算のシステム化や専門知識を持つ担当者の配置が不可欠となります。
高額な医療機器の購入が発生する
病院の経理業務において、高額な医療機器の購入は資金計画に大きな影響を与える課題のひとつです。例えば、MRIやCTスキャンなどの医療機器は数千万円から数億円に及ぶことがあり、購入のタイミングや資金調達の方法を慎重に検討しなければなりません。
高額な医療機器は一度導入すれば長期間使用するものの、技術革新が進む中で定期的な更新が求められ、古くなった設備を維持するコストも無視できません。また、病院の規模や診療科によって必要な機器が異なり、導入計画を適切に立てることが求められます。
例えば、新しい診療科を開設する場合には、医療技術に対応する専門機器をそろえる必要があり、初期投資が膨らむことになります。さらに、機器の購入だけでなく、保守やメンテナンスの費用もかかるため、長期的な視点での資金管理が欠かせません。
そのため、病院の経理担当者は、購入時の資金調達手段としてリースやローンを活用するなど、コストの分散を図りながら最適な財務戦略を立てることが重要になります。
病院の経理業務を効率化するポイント
病院やクリニックなどの医療機関における経理業務を効率化するポイントとして、以下のような点があげられます。
- 会計ソフトと医療システムの統合をする
- ダブルチェックを徹底する
- キャッシュレス決済を導入する
- 経理代行会社に相談する
ここでは、それぞれの効率化ポイントを詳しく解説します。
会計ソフトと医療システムの統合をする
病院の経理業務を効率化するためには、会計ソフトと医療システムを統合し、データの一元管理を行うことがポイントです。例えば、診療報酬の請求情報や患者の支払い履歴を医療システムと連携させることで、経理業務の負担を大幅に軽減できます。
通常、診療報酬の請求業務は医療事務部門が担当し、そのデータを経理部門が別途入力するケースが多いため、手作業によるミスやデータの重複が発生しやすくなります。しかし、医療システムと会計ソフトを統合すれば、診療報酬の請求データが自動的に会計ソフトに反映されるため、二重入力の手間がなくなり、ヒューマンエラーも防ぐことができます。
また、仕入れや経費の支出もシステム上で一括管理できるようになれば、資金管理がより正確に行えるようになります。例えば、薬品の購入や医療機器のリース費用をリアルタイムで反映することで、経営状況の可視化が進み、財務戦略の精度も向上します。
このように、システムの統合は経理業務を効率化し、正確性とスピードの両面で大きなメリットをもたらします。なお、会計システムの導入については、こちらの記事も参考にしてください。

ダブルチェックを徹底する
病院の経理業務では、診療報酬の請求や給与計算など、ミスが許されない作業が多いため、ダブルチェックを徹底することが重要です。例えば、診療報酬の請求データに誤りがあると、審査機関から差し戻しが発生し、支払いが遅れるだけでなく、最悪の場合、不正請求と見なされるリスクもあります。
そのため、請求データの作成後に別の担当者が再確認する体制を整えることで、ミスを未然に防ぐことができます。また、給与計算においても、夜勤手当や非常勤職員の勤務時間が適切に反映されているかを確認し、誤った支払いが発生しないようにする必要があります。
例えば、夜勤手当の計算ミスが続くと、従業員の不満が高まり、病院の信頼にも影響を及ぼしかねません。そのため、給与計算後に担当者が相互にチェックし、間違いがないことを確認した上で最終承認を行うことが望ましいです。
さらに、経費精算や仕入れ処理においても、不正や誤りを防ぐために複数人でのチェック体制を設けることがおすすめです。ダブルチェックの習慣を徹底することで、経理業務の正確性を保ち、安定した病院経営につながります。なお、経理の業務フローの効率化については、こちらの記事でまとめています。

キャッシュレス決済を導入する
病院の経理業務を効率化するポイントのひとつとして、キャッシュレス決済の導入があげられます。例えば、クレジットカードや電子マネー、QRコード決済を利用できるようにすることで、患者の支払い手続きをスムーズにし、現金管理の手間を削減できます。
現金決済の場合、会計時にお釣りの用意が必要であり、レジ締め作業や入金処理に時間がかかります。しかし、キャッシュレス決済を導入すれば、これらの作業が不要になり、経理担当者の負担が大幅に軽減されます。また、未収金の発生を防ぐ効果も期待できます。
例えば、高額な治療費をクレジットカードで分割払いできるようにすることで、支払いの負担を軽減し、病院側も確実に収益を回収できる仕組みを構築できます。さらに、キャッシュレス決済のデータはデジタル化されているため、会計ソフトと連携させることで、売上データを自動的に記録でき、手入力によるミスも防ぐことができます。
このように、キャッシュレス決済の導入は、患者の利便性を向上させるだけでなく、病院の経理業務を効率化し、正確な資金管理を実現するための有効な手段となるでしょう。
経理代行会社に相談する
病院の経理業務は複雑であり、専門知識が必要な業務が多いため、経理代行会社に相談することも効率化のポイントです。例えば、診療報酬の管理や給与計算、税務処理など、負担の大きい業務を専門の経理代行会社に委託することで、院内の担当者は本来の業務に集中できるようになります。
特に、医療機関特有の会計処理や税制に対応するためには、専門知識が求められるため、経験豊富な外部のプロに任せることで、ミスを防ぎ、業務の精度を向上させることができます。例えば、診療報酬請求のチェックや財務諸表の作成を外部に委託することで、病院経営の透明性が向上し、税務調査のリスクも軽減できます。
また、経理代行会社のサポートを受けることで、最新の法改正や助成金の活用など、有益な情報を得ることも可能になります。さらに、病院の規模に応じて必要な業務だけを委託できるため、コストを抑えながら効率的に経理業務を運用することができます。
このように、経理代行会社の活用は、病院の経理業務をスムーズにし、経営の安定化にもつながる効果的な手段となるでしょう。なお、経理代行会社についてはこちらの記事も参考にしてください。

まとめ
病院やクリニックをはじめとした医療機関の経理業務は、収益構造やかかる費用、会計基準や制度、資金管理、業務の複雑さという観点から一般企業とは異なる難しさがあります。また、夜勤や非常勤などの勤務形態に応じた対応が求められ、MRIなど高額な医療機器の購入が発生する点も特徴的です。
病院やクリニックの経理業務を効率化するためには、会計ソフトと医療システムを統合し、ダブルチェックやキャッシュレス決済を導入することがポイントです。また、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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病院の経理に関するよくあるご質問
病院やクリニックなど医療機関の経理についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、病院やクリニックなど医療機関の経理に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
医療事務と経理の違いは何ですか?
医療事務と経理は、病院の運営を支える重要な業務ですが、役割が異なります。例えば、医療事務は受付業務や診療報酬の請求、患者情報の管理などを担当し、医療現場を円滑に運営する役割を担います。一方、経理は病院全体の資金管理や会計処理、財務計画を担当し、収益や支出の管理を行います。
病院の経理担当の役割は何ですか?
病院の経理担当は、資金管理や会計処理、税務申告などを行い、病院の財務における健全性を保つ役割を担います。例えば、診療報酬の請求状況を確認し、未収金を管理することで安定した収益を確保します。また、医療機器や薬品の購入費用を適切に管理し、無駄な支出を抑えることも重要です。
医療経理とは何ですか?
医療経理とは、病院や診療所などの医療機関に特化した経理業務のことを指します。例えば、診療報酬の管理や医療機器の購入費用の計算、医療法人に関する会計処理など、一般企業の経理とは異なる専門的な知識が求められます。また、診療報酬制度の変更や補助金制度など、医療業界特有の財務管理や正確な処理が求められます。