通勤手当は、従業員が自宅から職場まで通う際にかかる交通費を補助する制度です。しかし、通勤手当の扱いには「課税・非課税」の区別があり、支給額や通勤手段によって税金がかかるかどうかが変わります。公共交通機関を利用する場合と自家用車で通勤する場合では、非課税限度額の考え方も異なります。
さらに、通勤手当は法律で支給が義務づけられているわけではなく、企業の判断に委ねられています。本記事では、通勤手当の基本的な仕組みから、課税・非課税の違い、計算方法、企業が支給する際のメリット・デメリットまでをわかりやすく解説します。
目次
通勤手当とは?
通勤手当とは、従業員が自宅から勤務先まで通う際にかかる交通費を企業が補助するために支給する手当のことです。例えば、電車やバスなどの定期券代、自家用車のガソリン代などが対象になります。通勤手当は給与の一部として扱われますが、一定の非課税限度額が設けられており、範囲内であれば所得税は課されません。
企業にとっては、従業員の通勤負担を軽減し、働きやすい環境を整えるための福利厚生のひとつでもあります。通勤手当の内容は会社ごとに異なり、支給方法や範囲も就業規則などで明確に定める必要があります。
通勤手当の支払いは企業の義務ではない
通勤手当の支給は、法律で義務づけられたものではありません。つまり、会社が従業員に通勤手当を支払うかどうかは、あくまで企業の裁量によって決められます。
例えば、全額を会社が負担するケースもあれば、一定額のみ支給するケース、あるいは支給自体を行わないケースもあります。ただし、支給する場合には、基準や計算方法を就業規則に明記しなければなりません。労働条件として明確にしておくことで、従業員とのトラブルを防ぎ、公平な運用が可能になります。
通勤手当と通勤交通費(通勤費)の違い
通勤手当と通勤交通費は、ほぼ同じ意味で使われる言葉です。通勤交通費は、一般的に「通勤費」と呼ばれることも多く、日常的には通勤手当と同義として扱われています。ただし、厳密に言えば「通勤交通費」には税法上の非課税限度額が定められており、その範囲内であれば所得税がかからない点に特徴があります。
例えば、電車やバスを利用して通勤する場合は、実際にかかる定期代などが非課税対象となります。一方で、支給額が限度額を超えると課税対象となるため、会社は適切な計算が必要です。
通勤手当と旅費交通費の違い
通勤手当と旅費交通費は、似た言葉でも性質が異なります。通勤手当は毎日の通勤にかかる費用を補助するための手当で、給与の一部として支給されます。
一方で、旅費交通費は、単に「交通費」とも呼ばれ、出張など業務上の一時的な移動にかかる費用を指します。例えば、出張先への電車代や宿泊費などがこれにあたり、原則として非課税扱いになります。つまり、通勤手当は日常的な通勤費用、旅費交通費は業務遂行に必要な移動費用と区別されるべきものです。両者の違いを理解しておくことは、経理処理や税務上の正確な対応につながります。
なお、旅費交通費以外にも出張手当という制度があります。出張手当については、こちらの記事をご覧ください。

通勤手当は課税と非課税どちらか?
結論、通勤手当は支給額や通勤手段によって「課税」と「非課税」に分かれます。国税庁では非課税とされる上限額を定めており、その範囲内であれば所得税がかかりません。一方、上限を超える部分は給与とみなされ課税対象になります。正しい扱いを理解することで、無用な税負担を防ぐことができます。
非課税限度額内の通勤手当なら非課税
通勤手当は、一定の非課税限度額内であれば税金がかかりません。例えば、公共交通機関を利用して通勤する場合は1ヵ月あたり15万円までが非課税となり、その範囲で支給される定期代などは課税対象外です。
自家用車や自転車通勤の場合も、片道の通勤距離に応じて非課税の上限が決められています。これらの基準は従業員の通勤実態を踏まえて設定されており、企業は適正な通勤経路を確認したうえで支給額を決定することが求められます。非課税の範囲を理解しておくことで、従業員も企業も正しい税務処理を行うことができます。
限度額を超えた場合の通勤手当は課税される
通勤手当の支給額が非課税限度額を超えると、超過分は課税対象となります。例えば、公共交通機関で通勤していても、会社が支給する金額が1ヵ月あたり15万円を上回る場合、差額分は給与として所得税や社会保険料の計算に含まれます。
自動車通勤の場合も同様で、片道距離に応じた非課税限度額を超える支給は課税扱いになります。公平な課税を保つために定められている制度であり、誤った処理を行うと源泉徴収の漏れなどにつながるおそれがあります。企業は就業規則や支給基準を明確にし、限度額を超えない適切な設計を心がけることが重要です。
通勤手当ではなく交通費の場合は非課税
通勤手当と似た言葉に「交通費(旅費交通費)」がありますが、業務上の移動にかかる交通費は原則として非課税です。例えば、営業先への訪問や出張、研修会への参加など、勤務先以外の場所へ業務目的で移動した際の交通費は、実費として精算されても給与所得には含まれません。
一方、通勤手当は自宅と職場を往復する日常的な通勤費用を補助するものであり、税法上は給与の一部とみなされます。そのため、非課税となるかどうかは支給額が限度額の範囲内かどうかで判断されます。このように、交通費と通勤手当では性質が異なるため、経理処理や税務判断の際には明確に区別する必要があります。
通勤手当の対象となる交通手段と計算方法
通勤手当の対象となる交通手段と計算方法は、主に以下のようにわけられます。
- バスや電車など公共交通機関で通勤する場合
- マイカーや自転車で通勤する場合
- 徒歩で通勤する場合
ここでは、それぞれの交通手段における通勤手当の計算方法をまとめて紹介します。
バスや電車など公共交通機関で通勤する場合
公共交通機関を利用して通勤する場合、通勤手当は実際にかかる運賃または定期券代を基準として支給されます。例えば、電車とバスを乗り継いで通勤している場合、最も合理的で経済的な経路の運賃が支給額の対象となります。
税法上は、1ヵ月あたり15万円までが非課税限度額として定められており、その範囲内であれば所得税はかかりません。通勤経路が複数ある場合は、会社が「最も経済的かつ合理的なルート」を選定することが原則です。企業は交通系ICカードや定期券の写しなどを確認し、正確な経路に基づいて支給額を算出する必要があります。
なお、バス代の経費精算については、こちらの記事も参考にしてください。

マイカーや自転車で通勤する場合
マイカーや自転車で通勤する場合は、通勤距離に応じて非課税限度額が定められています。非課税となる1ヵ月当たりの限度額を以下の表でまとめています。
| 片道の通勤距離 | 1ヵ月あたりの非課税限度額 |
|---|---|
| 55km以上 | 31,600円 |
| 45km以上55km未満 | 28,000円 |
| 35km以上45km未満 | 24,400円 |
| 25km以上35km未満 | 18,700円 |
| 15km以上25km未満 | 12,900円 |
| 10km以上15km未満 | 7,100円 |
| 2km以上10km未満 | 4,200円 |
| 2km未満 | 全額課税 |
例えば、片道が2km未満の場合は全額課税となり、55km以上の場合は上限額が31,600円に設定されています。距離が延びるほど限度額も増えますが、上限を超えた部分は課税対象となります。
自動車通勤を認めるかどうかは企業ごとの判断に委ねられており、燃料費や駐車場代の支給方法も会社によって異なります。正確な距離を把握し、税法に沿った支給を行うことが求められます。
なお、高速道路を利用する際のETC料金の経費精算については、こちらの記事もご覧ください。

徒歩で通勤する場合
徒歩で通勤する場合、一般的には通勤手当の支給対象外となります。例えば、自宅から会社までの距離が短く、交通機関や自動車を利用しない場合には交通費が発生しないためです。
ただし、企業によっては就業規則で徒歩通勤者にも一定額を支給する場合があります。これは、他の通勤手段との公平性を保つためや、従業員への福利厚生の一環として設けられることが多いです。そのため、徒歩通勤者が通勤手当をもらえるかどうかは、会社の規定次第といえます。支給の有無や基準を明確にしておくことで、従業員との認識のずれを防ぐことができます。
企業が通勤手当を支給するメリット
企業が通勤手当を支給するメリットとして、以下のような点があげられます。
- 福利厚生として社員の満足度向上につながる
- 定期券を購入すると通勤交通費を抑えられる
- 社員の通勤ルートの把握や管理がしやすくなる
ここでは、それぞれのメリットについて具体的に解説します。
福利厚生として社員の満足度向上につながる
通勤手当は、社員の生活を支える福利厚生のひとつとして、満足度の向上につながります。例えば、交通費の全額または一部を会社が負担することで、社員は経済的な負担を減らすことができ、安心して働き続けられる環境が整います。
通勤にかかる費用が支給されることで、職場への通いやすさが増し、仕事への意欲や定着率にも良い影響を与えます。また、福利厚生が整っている企業は求職者からの評価も高く、人材採用の面でも有利に働きます。このように、通勤手当の支給は社員の働きやすさを支える重要な制度といえるでしょう。
定期券を購入すると通勤交通費を抑えられる
通勤手当を支給する際に定期券の購入を前提とすることで、企業側の交通費負担を抑えられる場合があります。例えば、毎回の運賃を支給するよりも、1ヵ月または3ヵ月単位の定期券代を支給したほうが結果的に費用を節約できるケースがあります。
社員にとっても定期券を利用すれば通勤以外の移動でも割安に交通機関を利用できるため、利便性が高まります。また、定期券区間が明確になることで、不正な経路申告の防止にもつながります。通勤手当の運用を工夫することで、経済的な効率と管理のしやすさを両立することができます。
社員の通勤ルートの把握や管理がしやすくなる
通勤手当を支給する際には、社員の通勤経路を申告してもらう必要があるため、企業は自然と従業員の通勤ルートを把握できるようになります。例えば、通勤途中で災害や事故が発生した際には、労災保険の適用範囲を判断するために通勤経路の情報が役立ちます。
また、交通費の過払い防止や経路の合理性の確認といった管理面でも有効です。通勤経路を正確に把握しておくことは、企業のリスク管理や勤怠管理の精度向上にもつながります。このように、通勤手当の支給は単なる費用補助にとどまらず、企業運営の透明性を高める効果もあります。
企業が通勤手当を支給するデメリット
企業が通勤手当を支給するデメリットとして、以下のような点があげられます。
- そもそも通勤手当の支給に費用がかかる
- 会社が負担する社会保険料が増える
- 社員一人ひとりの支給額を計算するのが大変
ここでは、それぞれのデメリットについて具体的に解説します。
そもそも通勤手当の支給に費用がかかる
通勤手当を支給するうえで最も基本的な負担は、企業が直接支払う費用そのものです。例えば、社員数が多い企業では、全員分の交通費を毎月支給するだけで大きな支出となります。さらに、通勤ルートや利用交通機関が異なれば支給額も人によってばらつくため、予算の見通しを立てにくい点も課題です。
新入社員の入社や異動があるたびに申請内容を更新する必要があり、その都度の事務手続きにもコストがかかります。福利厚生としての意義は大きいものの、長期的に見れば企業の経費を圧迫する要因にもなり得るため、支給基準の明確化や経費管理の工夫が求められます。
会社が負担する社会保険料が増える
通勤手当は給与の一部として扱われるため、非課税限度額を超えた分は社会保険料の算定対象になります。例えば、上限を超える通勤手当を支給している場合、その分だけ厚生年金や健康保険などの保険料負担が増える仕組みです。
企業にとっては、人件費だけでなく社会保険料という形でもコストが上昇することになります。特に社員数が多い場合や通勤距離が長い社員が多い場合には、年間で見た際の負担額が大きくなる可能性があります。そのため、通勤手当の支給ルールを見直したり、非課税限度額内に収まるよう調整したりすることで、負担を軽減する工夫が求められます。
社員一人ひとりの支給額を計算するのが大変
通勤手当は社員ごとに通勤経路や交通手段が異なるため、支給額を正確に計算するのが手間となります。例えば、電車とバスを乗り継ぐ社員もいれば、自動車や自転車で通勤する社員もおり、それぞれ非課税限度額や合理的な経路が異なります。
人事や経理担当者は、最も経済的な通勤ルートを確認したうえで支給額を算出しなければならず、異動や引っ越しのたびに内容を見直す必要もあります。さらに、誤った金額を支給すれば税務処理にも影響が及ぶため、慎重な確認が欠かせません。こうした個別対応の積み重ねが、企業にとって事務負担を増やす一因となります。
通勤手当を支給する際の注意点
通勤手当を支給する際の注意点として、以下のような点に気を付けましょう。
- 不正受給のリスクがある
- 就業規則を明記しなければならない
- 非正規社員にも支給する必要がある
ここでは、それぞれの注意点について具体的に解説します。
不正受給のリスクがある
通勤手当の支給にあたっては、社員による不正受給のリスクを考慮する必要があります。例えば、実際よりも長い通勤経路を申告したり、すでに定期券を持っているにもかかわらず別経路で申請したりといったケースが挙げられます。
通勤手当における不正が発覚すると、企業は支給額の返還を求めるだけでなく、社員との信頼関係にも影響を及ぼします。また、経理処理上の誤りや税務上のトラブルにもつながる可能性があるため、申請時には通勤経路の確認や証明書類の提出を義務づけるなどの対策が重要です。そのため、透明性の高い運用ルールを設けることで、リスクを未然に防ぐことができるでしょう。
就業規則を明記しなければならない
通勤手当を支給する場合は、条件や支給方法を就業規則に明記することが必要です。例えば、どの交通手段を対象とするのか、支給額の上限をどう設定するのか、非課税限度額を超える場合の扱いなどを明確にしておくことで、社員との間でトラブルを防ぐことができます。
就業規則に定めがないと、支給対象外の社員から不公平感が生まれたり、恣意的な判断が疑われたりする恐れもあります。企業は通勤手当を福利厚生としてではなく労働条件の一部として捉え、社内規程の整備を徹底することが求められます。明確なルールづくりが、公平で安定した運用につながります。
非正規社員にも支給する必要がある
通勤手当は正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの非正規社員にも支給する必要があります。例えば、同じ距離を通勤しているのに雇用形態の違いだけで支給の有無を分けると、不当な待遇差とみなされる可能性があります。
労働基準法やパートタイム・有期雇用労働法では、職務内容や責任の範囲が同等であれば、通勤手当などの待遇も均等に扱うことが求められています。そのため、企業は雇用形態を問わず、公平な基準に基づいて支給ルールを設けることが大切です。結果として、非正規社員への配慮は、職場全体の信頼関係やモチベーションの向上にもつながるでしょう。
まとめ
通勤手当は、社員の通勤負担を軽減するうえで欠かせない制度ですが、支給方法や金額設定には慎重な判断が求められます。非課税限度額を超える支給は課税対象となるため、企業は税法上のルールを正しく理解し、経理処理を適切に行う必要があります。
また、就業規則への明記や通勤経路の確認を怠ると、思わぬトラブルや不正受給のリスクを招くおそれもあります。通勤手当は単なる交通費補助ではなく、企業の姿勢や管理体制を反映する制度でもあります。そのため、社員の公平性と企業の負担の両立を意識しながら、透明性の高い運用を心がけることが大切です。なお、通勤手当や交通費の経費処理は、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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通勤手当に関するよくあるご質問
通勤手当についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、通勤手当に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
通勤手当は課税と非課税どちらですか?
通勤手当は、支給額や通勤手段によって課税・非課税が分かれます。例えば、公共交通機関を利用する場合は1か月15万円まで、自動車通勤の場合は通勤距離に応じて上限が定められており、範囲内なら非課税です。一方で、上限を超える支給分は給与と同様に所得税や社会保険料の課税対象になるため注意が必要です。
会社の通勤手当の決め方はどのようにしますか?
通勤手当の支給ルールは法律で一律に定められておらず、各企業が就業規則などで独自に決めます。例えば、全額を会社が負担するケースもあれば、上限額を設けて支給するケースもあります。決め方のポイントは、合理的な通勤経路と非課税限度額を基準にすることです。社員間の不公平を防ぐため就業規則に明記しましょう。
通勤手当が多すぎると損ですか?
通勤手当の支給額が非課税限度額を超えると、超過分が課税対象となり、所得税や社会保険料の負担が増えるため「損」と感じる場合があります。例えば、公共交通機関利用者で15万円を超える支給を受けた場合、差額分に税金がかかります。企業にとっても社会保険料負担が増えるため、支給額が多ければ良いとは限りません。