
経理の仕事は「出社が当たり前」と思われがちですが、近年ではテレワーク化への関心も高まっています。しかし、紙の書類の取り扱いやハンコの押印業務、情報漏えいのリスクといった課題から、テレワークの導入が難しいとされるケースも多くあります。一方で、テレワークを導入することで通勤時間の削減や作業への集中度向上といったメリットも得られるため、今後の経業務のあり方を考える上で避けては通れない内容です。
この記事では、経理のテレワークができないとされる理由や、導入時の課題、円滑に進めるための対応策について詳しく解説します。
目次
テレワークとは?
テレワークとは、情報通信技術(ICT)を活用して、会社のオフィス以外の場所で働く柔軟な勤務形態のことを指します。例えば、自宅やカフェ、コワーキングスペースなど、インターネット環境が整っていれば業務を遂行できる点が特徴です。
テレワークは、働き方改革の一環として注目されるようになり、通勤時間の削減やワークライフバランスの向上など、多くのメリットがある一方で、情報セキュリティや業務管理、コミュニケーションの問題といった課題もあります。
従来は営業職やIT系の職種での導入が進んでいましたが、最近では経理や総務など、バックオフィス業務でもテレワークを取り入れる動きが広がっています。業務のデジタル化が進むなかで、経理のような定型的かつ正確性が求められる職種においても、テレワークは決して不可能ではなく、工夫次第で十分に対応できる働き方になりつつあります。
経理のテレワークができないとされる理由
経理のテレワークができないとされる理由として以下のような点があげられます。
- 紙ベースの書類でやり取りが多いから
- ハンコ文化の名残りに対応できないから
- 在宅勤務でのセキュリティに不安があるから
ここでは、それぞれの理由について詳しく解説していきます。
紙ベースの書類でやり取りが多いから
経理業務がテレワークに向かないとされる理由のひとつが、紙ベースでの書類のやり取りが依然として多いことです。請求書や領収書、契約書類など、物理的に原本の確認や保管が必要とされる書類は今なお少なくありません。例えば、取引先から郵送で届いた請求書に対し、そのまま支払い処理や保管作業を行うには、オフィスにいなければ対応できないケースもあるでしょう。
また、複数人が同時に書類を閲覧や確認をする場面では、電子化されていない紙の書類では効率が大幅に低下してしまいます。こうした書類中心の業務体制が残っていると、経理担当者は出社せざるを得ず、テレワークが進まない大きな要因となっているのです。
ハンコ文化の名残りに対応できないから
日本の企業文化に深く根付いている「ハンコ文化」も、経理のテレワーク化を阻む大きな壁のひとつです。例えば、請求書の承認や支払い処理において、決裁権を持つ上司の印鑑が必要な場合、書類を直接持ち回る必要があり、どうしても出社が前提となってしまいます。
押印が業務フローの一部として組み込まれている企業では、単にテレワークを導入するだけでは回らず、業務自体の見直しが求められます。電子印鑑やワークフローシステムの導入が進んでいないと、承認が遅れる、印刷やスキャンの手間がかかるなど、非効率な対応が続き、結果的にテレワークが難しいと判断されがちです。このように、形式重視の文化がテレワーク推進の足かせとなっているのです。
在宅勤務でのセキュリティに不安があるから
経理業務では、企業の財務情報や個人情報など、極めて重要な機密データを扱うため、在宅勤務による情報漏えいや不正アクセスに対する不安が根強く存在します。例えば、自宅のネットワーク環境が十分に安全でない場合、外部からの不正侵入やウイルス感染のリスクが高まり、業務の継続が危険にさらされる可能性があります。
また、家族と共有するPCを使用していたり、作業中の画面が第三者に見られてしまったりするなど、社内環境とは異なる制約も多くあります。こうしたセキュリティ上の懸念がある限り、経理の在宅勤務を全面的に導入することに対して慎重になる企業は少なくありません。適切な対策が講じられていなければ、かえってトラブルの原因となりかねないのです。
経理をテレワークにするメリット
経理をテレワークにするメリットとして以下のような点があげられます。
- 通勤時間の削減により生産性が向上する
- 静かな環境で集中できるためミスが減る
- オフィススペースや設備コストを削減できる
ここでは、それぞれのメリットについて具体的に解説していきます。
通勤時間の削減により生産性が向上する
経理業務をテレワーク化することで得られる大きなメリットのひとつが、通勤時間の削減による生産性の向上です。例えば、往復で1〜2時間かかる通勤時間がなくなることで、その分の時間を業務やスキルアップに充てることができ、効率的に1日を過ごせるようになります。
また、満員電車などによる身体的かつ精神的なストレスからも解放されるため、始業時の集中力が高く保たれやすくなります。こうした時間と心身のゆとりは、結果的に業務の質やスピードにも好影響を与えます。通勤による疲労が減るだけでも、日々のパフォーマンスに大きな違いが生まれるのです。業務時間以外の余裕が生まれることは、ワークライフバランスの向上にもつながり、従業員の定着率改善にも影響を与えるでしょう。
静かな環境で集中できるためミスが減る
テレワークのメリットのひとつに、静かで集中しやすい環境で作業できる点があります。特に経理業務のように、細かな数字や帳簿の確認、仕訳処理など正確性が求められる作業では、落ち着いた作業環境が大きな意味を持ちます。例えば、オフィスでは電話応対や周囲の雑談、急な来客など、集中を妨げる要因が多く、作業の流れが断ち切られることもしばしばあるでしょう。
一方、自宅では自分のペースで業務に取り組むことができ、ミスや見落としのリスクも軽減されます。こうした集中力の維持は、チェック業務や締め作業など重要なタイミングでのパフォーマンスにも直結し、結果として業務の品質向上につながります。
オフィススペースや設備コストを削減できる
経理業務を含めたテレワークの導入は、企業にとっても経費削減という明確なメリットがあります。例えば、固定席が不要になることでデスクやチェアといった家具の数を減らすことができ、専用の経理スペースやファイル保管用の棚なども縮小可能です。これにより、オフィス全体のスペースを有効に使えるようになり、場合によっては小規模なオフィスへの移転や、フリーアドレス制の導入なども視野に入ります。
また、紙の書類を電子化すれば、コピー機や印刷用紙の使用も減り、備品コストや光熱費も抑えられます。このように、経理のテレワーク化は業務の効率化だけでなく、会社の運営コストの見直しにもつながる重要な取り組みとなるのです。
なお、経理のコスト削減については、こちらの記事も参考にしてください。

経理をテレワークにするデメリット
経理をテレワークにするデメリットとして以下のような点があるため注意しましょう。
- 社内外とのコミュニケーションが取りにくくなる
- 環境整備やツール導入に初期コストがかかる
- 紙の書類の保管や管理が難しい
ここでは、それぞれのデメリットについて詳しく解説します。
社内外とのコミュニケーションが取りにくくなる
経理業務をテレワークで行う場合、社内外とのコミュニケーションが取りにくくなるという課題があります。例えば、経費精算の不明点をその場で口頭確認できていたオフィス環境と違い、テレワークではチャットやメールでのやり取りが中心となり、タイムラグが生じやすくなります。取引先とのやり取りでも、ちょっとした確認事項に対して電話やWEB会議を調整する必要が出てくるなど、対応に手間がかかることがあります。
また、経理部内の連携も、隣の席で気軽に相談できる状況がなくなることで、情報共有のタイミングがずれたり、業務の進行に支障をきたしたりするケースも見られます。こうしたやり取りの変化に柔軟に対応できないと、業務全体の効率が下がる可能性があるのです。
環境整備やツール導入に初期コストがかかる
テレワークの実施には、業務環境を整備するための初期コストがかかる点も無視できません。例えば、自宅で安全かつ快適に業務を行うためには、ノートパソコンや外部モニター、安定した通信環境の確保が必要です。加えて、業務を円滑に進めるためには、クラウド会計ソフトやワークフロー管理ツール、セキュリティ対策ソフトなどの導入が求められます。
これらのツールは便利である反面、導入時に費用がかかるだけでなく、操作習得のための教育やサポート体制の整備も必要になる場合があります。こうした初期投資に対して明確な効果がすぐに見えづらいこともあり、導入に踏み切るのをためらう企業も少なくありません。
紙の書類の保管や管理が難しい
経理業務では、取引先との契約書や領収書、請求書など、多くの紙の書類を扱うことが一般的であり、それらの保管や管理がテレワークでは難しくなるという課題があります。例えば、会社のキャビネットに保管されている過去の会計書類を確認したい場合、出社しなければ確認できず、迅速な対応が難しくなります。さらに、法的に一定期間の保管が義務付けられている書類も多く、これを自宅で個別に管理するのは現実的ではありません。
スキャンして電子化する方法もありますが、すべての書類を対象にするには時間と手間がかかり、分類のルールも整備する必要があります。このように、紙ベースの管理体制を前提とした業務のままでは、テレワークへの完全移行は難しいといえるでしょう。
経理のテレワークに必要な準備と対応
経理のテレワークに必要な準備と対応として以下のような点があげられます。
- 各種書類の電子化
- クラウド会計ツールの導入
- 情報セキュリティ教育と社内ルールの設定
ここでは、それぞれの準備や対応について具体的に解説していきます。
各種書類の電子化
経理業務をテレワークで行うには、まず紙ベースの各種書類を電子化することが欠かせません。例えば、請求書や領収書、見積書、契約書などをスキャンしてPDF形式にし、クラウド上で一元管理できるようにすることで、物理的な書類への依存を減らすことができます。電子化を進めることで、自宅からでも必要な書類にすぐアクセスできるようになり、確認や承認のスピードも向上します。
また、ファイリングや保管スペースの問題も解消され、業務の効率化と情報の整理整頓にもつながります。ただし、電子化のルールや保存方法を統一しておかないと、かえって混乱を招く恐れがあるため、導入前に明確な運用ルールを整備することも重要です。
なお、電子化やペーパーレス化についてはこちらの記事も参考にしてください。

クラウド会計ツールの導入
経理のテレワークを実現するには、クラウド会計ツールの導入が不可欠です。クラウド型のサービスは、インターネット環境があればどこからでもアクセス可能で、リアルタイムでデータを確認や入力ができます。一方で、従来のように社内ネットワークに依存した会計ソフトでは、自宅から業務を行うことが難しく、テレワークの大きな障害となってしまいます。
クラウド型であれば複数人による同時作業もスムーズになり、仕訳入力、経費精算、帳簿管理など、経理業務のほぼすべてをオンライン上で完結できます。また、自動仕訳や銀行連携などの機能により業務の効率も向上します。
なお、クラウド会計ソフトのメリットについては、こちらの記事でもまとめています。

情報セキュリティ教育と社内ルールの設定
テレワークを安全に進めるうえで重要なのが、情報セキュリティ教育と社内ルールの明確な設定です。例えば、業務用パソコンを自宅で使う際には、ウイルス対策ソフトの導入やパスワード管理の徹底、Wi-Fiの暗号化設定など、基本的なセキュリティ対策を従業員が理解し、実践する必要があります。
加えて、書類の取り扱いやデータ共有時の注意点、USBメモリの使用禁止など、企業としてのガイドラインを整備し、明文化しておくことで、トラブルの予防につながります。テレワーク環境では物理的な監視が難しいため、一人ひとりのセキュリティ意識が重要になります。
経理のテレワークで失敗しないコツ
経理のテレワークで失敗しないコツとして以下のような点があげられます。
- 定期的なミーティングで進捗管理をする
- ダブルチェック体制でミスや不正を防止する
- 経理代行会社に相談する
ここでは、それぞれのコツについて具体的に解説します。
定期的なミーティングで進捗管理をする
経理業務をテレワークで円滑に進めるためには、定期的なミーティングによる進捗管理が重要なポイントとなります。例えば、週に一度オンラインで全体会議を設けることで、各担当者のタスクの進行状況や懸念点を共有し、遅れやミスを早期に把握できます。オフィス勤務のように日常的な雑談や声かけが難しいテレワークでは、計画的にコミュニケーションの機会を設けることが欠かせません。
また、会議では業務の優先順位のすり合わせや、経理処理のルールの再確認なども行えるため、業務の一貫性を保つことにもつながります。定期的な報告の場があることで、個々のモチベーション維持や孤立防止にも効果があり、チームとしての連携を強化するうえでも大きな意味を持つのです。
ダブルチェック体制でミスや不正を防止する
経理業務では金額の誤りや不正のリスクが常につきまとうため、テレワーク環境においてもダブルチェック体制を整えることが重要です。例えば、伝票の入力や経費精算の処理を終えた後、別の担当者が内容を再確認することで、見落としや数字の入力ミスを防ぐことができます。
対面での確認が難しいテレワークでは、チェック体制が曖昧になりやすく、見落としや不正、重大なミスの温床になりかねません。そのため、クラウドツール上での承認フローを明確にし、誰がどの段階で確認を行うのかをルール化することが大切です。チェック体制を組織的に整備することにより、業務の信頼性が高まり、安心して経理を任せられる体制を構築することができるのです。
経理代行会社に相談する
テレワークで経理業務を運用するうえで、リソース不足や専門知識の不安がある場合は、経理代行会社に相談するのも有効な手段です。例えば、自社内で請求書発行や仕訳処理をすべてカバーするのが難しい場合、代行会社に一部業務を委託することで、作業の負担を軽減しつつ、正確かつ迅速な処理が可能になります。
また、経理代行会社は法令対応や最新ツールの活用にも精通しているため、テレワークへの移行や体制構築についてのアドバイスも得られます。自社で無理にすべてを対応しようとせず、専門家の力を借りることで、リスクを抑えながら安定した経理体制を実現できるのです。限られた人材で業務を回す中小企業などには、経理代行会社の活用はおすすめといえるでしょう。
なお、経理代行についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

まとめ
結論、経理のテレワークは環境を整えることで実現することが可能です。経理のテレワークには、通勤時間の削減や在宅での静かな仕事環境などのメリットがありますが、社内外とのコミュニケーションが取りづらく、紙の書類の保管や管理ができない点がデメリットです。
そのため、経理のテレワークは、先に環境整備をしなければ難しいといえるでしょう。各種書類の電子化やクラウド会計ツールの導入、情報セキュリティ教育の実施などの準備を進めていくことが大切です。なお、経理のテレワークで失敗しないためには、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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経理のテレワークに関するよくあるご質問
経理のテレワークについてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、経理のテレワークに関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
経理の在宅勤務(テレワーク)は難しいですか?
経理の在宅勤務(テレワーク)は可能です。しかし、情報セキュリティの確保や紙書類の電子化、コミュニケーション不足の解消といった課題があり、導入には慎重な検討が必要です。自社の状況や業務内容を十分に分析し、適切な対策を練りながら、経理のテレワークを導入していきましょう。
経理のテレワーク化に必要なことは何ですか?
経理のテレワーク化には安全なネットワーク環境とセキュリティ対策が必要です。また、会計ソフトや経費精算システムなどのクラウド化、紙書類のデータ化も大切です。オンラインでのコミュニケーションツールの導入、業務プロセスの見直し、勤怠管理の確立も必要です。従業員への研修やサポート体制も忘れてはなりません。
在宅で経理業務をするにはどうしたらいいですか?
在宅で経理業務をするには、まずは、会社にテレワークの制度があるかを確認しましょう。制度があれば、必要な申請手続きを行います。自宅に業務に適した環境を整備し、セキュリティ対策をしっかりと行いましょう。コミュニケーションツールを積極的に活用し、報連相を密にすることが大切です。