近年、多くの企業で「経理部門の仕事が回らない!」という声が聞かれます。なぜ経理に限って人材不足が深刻なのでしょうか。経理の人材不足には、少子高齢化による労働人口の減少や、働き方改革による長時間労働の改善など、社会全体の変化が背景にあります。加えて、経理という業務に特有の要因も大きく影響しています。
この記事では、経理の人材不足がなぜ起こっているのか、その背景や理由、そして企業が抱える課題と、それらを解決するための具体的な方法について解説します。
目次
経理が人材不足と言われる理由と背景
経理が人材不足と言われる理由や背景として主に以下のような点があげられます。
- 労働人口が減少傾向にある
- 専門知識をもつ人材が見つからない
- 求人倍率が高騰している
- 間接部門のため積極採用をしていない
- 業務の忙しさで採用に手が回らない
ここでは、それぞれの背景が経理の人手が不足している現状に対して、どのように影響を与えているかを詳しく解説します。
労働人口が減少傾向にある
経理部門において人材不足が深刻化している背景のひとつには、労働人口が減少しているという現実があります。少子高齢化に伴い、日本の総人口は減少傾向にあり、特に生産年齢人口の縮小が顕著です。
経理業務は専門知識と経験が要求されるため、簡単に他の職種から補充することは難しく、労働力不足の影響を大きく受けやすい部門です。さらに、働き方改革や企業の効率化に伴い、経理部門に求められる役割が広がり、従来の処理能力では対応が困難になるケースも増加しています。業務量が増え続ける中で、人材の確保が難しくなり、結果として既存のスタッフにかかる負担が一層大きくなっているのです。
こうした状況下では、企業は限られた人員で効率的に業務を進めるための工夫や、テクノロジーの活用が欠かせなくなってきていますが、それだけでは問題の根本的な解決には至らない場合も多く、人材不足が慢性化しているのが現状です。
専門知識をもつ人材が見つからない
経理の人材不足が深刻化している理由として、専門知識を持つ人材の確保が困難である点が挙げられます。経理は企業の財務における健全性を支える重要な部門であり、正確さと迅速さが求められるため、高度な専門知識と経験が必要です。
特に、税務や法改正、会計基準の変動に対応できる人材は、ますますその重要性が増している一方で、こうしたスキルを持つ人材は限られています。さらに、経理に求められる業務範囲は幅広く、即戦力となる人材を育てるには時間がかかり、即座に充足することが難しい状況です。そのため、企業は研修制度の充実を図る一方で、外部からの専門家の採用に頼らざるを得ないケースも増加しています。
しかし、こうした専門職人材は求人市場においても引く手あまたであり、採用が困難であることから、経理部門は慢性的に人手が足りなくなっているのが現状です。
求人倍率が高騰している
経理部門における求人倍率の高騰も、経理の人材不足を深刻化させる要因のひとつです。経理は企業活動の根幹を支える部門であり、適切な人材を確保するためには十分なスキルと経験が求められます。
一方で、他の企業も同様のニーズを抱えているため、優秀な人材の奪い合いが激化しています。特に、中小企業にとっては、大手企業と比べて給与や待遇面で競争力が劣ることが多く、求人を出してもなかなか応募者が集まらないケースもあります。
このような状況が続くことで、企業は人材の確保に苦戦し、結果的に求人倍率が上昇するという悪循環に陥っています。さらに、コロナ禍以降、リモートワークやテレワークの導入が進み、都市部以外でも経理人材の需要が高まったことで、全国的に求人倍率が上がり続けているのです。このような背景から、経理人材の確保は一層困難な課題となっています。
間接部門のため積極採用をしていない
経理部門は、直接収益を生む営業部門とは異なり、企業の間接部門として位置づけられていることが多く、そのため採用が積極的に行われないケースも少なくありません。間接部門はコストと見なされることが多いため、経営陣の関心が低く、リソースが十分に割り当てられない傾向があります。
特に、経理は日常業務がスムーズに回っている限りでは、目立った問題が表面化しにくく、深刻な人材不足に陥っている状況でも、表立って改善策が講じられないことがあります。また、企業全体の経費削減や効率化の圧力が強まる中、間接部門の採用予算が後回しにされるケースも多く、結果的に経理部門の人員不足が長期化することにつながっています。
こうした事情から、経理部門における人材確保はますます難しくなり、その影響は他の部門にも波及していく可能性が高いのです。
業務の忙しさで採用に手が回らない
経理部門は日常業務が非常に忙しく、人材採用に十分なリソースを割くことができないという問題もあります。特に、決算期や年末調整の時期になると、膨大な業務量が発生し、通常業務とのバランスを取ることが難しくなります。このような忙しい時期に、新しい人材を採用して育成する余裕がないため、採用活動自体が後回しにされがちです。
また、経理部門は業務の性質上、ミスが許されないため、新しく採用した人材を即戦力として活用するのは困難です。採用しても、業務に慣れるまでには時間がかかり、その間に既存のスタッフに負担が集中することから、採用活動へのモチベーションが低下してしまうこともあります。こうした状況が続くことで、経理部門は常に人手不足の状態に陥り、業務の効率化やアウトソーシングなどの手段に頼る必要が生まれるでしょう。
経理の人材不足から起こる課題
経理の人材不足から起こる課題としては、以下のような点があります。
- 担当者の負担が増えて人的ミスが起きやすい
- 属人化による不正のリスクが高まる
- オーバーワークから離職につながる
- 企業全体のパフォーマンスが低下する
担当者の負担が増えて人的ミスが起きやすい
経理の人材不足が続くと、既存の担当者にかかる業務負担が増加し、人的ミスが起こりやすくなります。経理業務は精密さが求められるため、ミスが生じると財務状況の誤認や税務上の問題に発展するリスクがあります。
特に、決算期や予算管理の時期には、処理すべきデータや書類の量が一気に増加し、限られた人員では全ての業務を正確に処理することが困難です。また、疲労や焦りから小さなミスが積み重なり、結果として大きな問題に発展する可能性があります。
加えて、ミスが発覚して修正を行うために、さらなる時間と労力が必要となり、負の連鎖が生じることも少なくありません。経理部門の信頼性が揺らぐと、企業全体の信用にも悪影響を与えるため、人材不足によるミスは企業にとって大きな課題となります。
属人化による不正のリスクが高まる
経理の人材不足によって業務が属人化し、不正リスクが高まる可能性があります。属人化とは、特定の人が業務を一手に引き受けることで、その業務の詳細や進行状況が他者に共有されず、透明性が欠ける状態を指します。
属人的な状況では、業務の監視やチェックが不十分となり、不正行為が発生するリスクが高まります。経理業務では、現金の取り扱いや支払い、資産管理など、金銭に関わる重要な業務が多いため、監視の目が行き届かない環境では、意図的に不正が行われる危険性が大きくなります。
また、特定の担当者が辞職や休職した場合、その業務を引き継ぐ体制が整っていないため、業務の滞りが生じ、結果として企業全体の業務フローにも悪影響を及ぼす可能性があります。したがって、経理の属人化は避けるべき重要な課題となっています。
オーバーワークから離職につながる
経理部門の人材不足は、既存の従業員に過度な負担を強いる結果となり、オーバーワークが深刻化します。特に、月末月初や期末などの繁忙期には長時間労働が当たり前となり、慢性的な疲労やストレスが蓄積されます。
こうした状況が続くと、従業員のモチベーションやパフォーマンスは低下し、最終的には離職へとつながることがあります。経理の仕事は、正確さや迅速さが求められるため、精神的なプレッシャーも大きいものです。
長期間にわたって適切な休息が取れない場合、心身の健康を害するリスクが高まり、結果として優秀な人材が職場を去る原因となるのです。さらに、離職した社員の業務を残された少数のスタッフでカバーすることになり、人材不足が一層深刻化するという悪循環に陥る恐れがあります。このため、適切な人員配置や業務負担の軽減を検討する必要性が生まれます。
なお、経理の退職理由などについては以下の記事も参考にしてください。
企業全体のパフォーマンスが低下する
経理部門の人材不足は、最終的に企業全体のパフォーマンスにも悪影響を及ぼします。経理業務は、企業の財務状況を正確に把握し、適切な資金管理や経費削減の対策を練るために欠かせない部門です。
しかし、経理の人材不足が長引くと、データ処理の遅れやミスが頻発し、適切な経営判断が行えない状況に陥ります。また、財務情報の精度が低下すると、取引先や株主に対しての信頼も損なわれ、企業の信用力が低下する可能性があります。
さらに、経理部門が効率的に機能しないことで、他の部門にも業務の遅延や混乱が広がり、全社的なパフォーマンスの低下を招くことになります。特に、資金繰りや予算管理が適切に行われないと、事業戦略や投資計画にも悪影響が及び、長期的な成長が妨げられる可能性があります。
経理の人材不足の解決方法
経理の人材不足を解決するには、以下のような方法を試してみることがおすすめです。
- 早めに人材採用を始める
- 社内で経理人材を育成する
- 業務フローを見直してマニュアル化する
- ペーパーレス化やデジタル化を進める
- 経理代行サービスを利用する
早めに人材採用を始める
経理の人材不足を解決するためには、早めの人材採用が効果的です。経理業務は高度な専門知識と実務経験を必要とするため、即戦力の人材を確保するのは容易ではありません。
しかし、企業が人手不足に直面してから急いで採用活動を行うと、適切な人材が見つからず、結果として経理部門全体の負担が増してしまいます。そのため、将来的な業務拡大や退職者の発生を見越して、早い段階で採用活動を始めることが重要です。
また、早期の採用活動によって、候補者を丁寧に選び、時間をかけて育成する余裕も生まれます。その結果、既存の経理チームに過度な負担をかけずに、新たな人材が徐々に業務へ慣れていくことができます。特に、企業の成長に伴って経理部門の負担が増えることが予想される場合は、余裕を持った採用計画が欠かせません。
社内で経理人材を育成する
社内で経理人材を育成することも、人材不足の有効な解決策です。外部から即戦力を求めるのは難しい場合も多く、既存の従業員に経理業務の知識やスキルを習得させることで、社内で人材を補うことが可能です。
社内の他部門からの異動や、若手社員を対象にした経理研修を実施することで、時間をかけて専門知識を備えた人材を育成することができます。また、社内育成は、企業文化や業務フローに精通した社員を活用できるというメリットもあります。さらに、教育の一環として、資格取得支援制度を導入することで、社員の成長意欲を高め、経理に必要な専門スキルの向上を図ることも可能です。
長期的な視点で人材を育成することで、経理部門の安定した運営が期待できると同時に、離職防止にもつながるでしょう。
業務フローを見直してマニュアル化する
経理の人材不足を解消するためには、業務フローを見直し、マニュアル化することが重要です。属人化している業務や、担当者にしか分からない手順があると、担当者が不在になった際に業務が滞る可能性が高くなります。そこで、経理業務を体系的に整理し、誰でも理解できる形でマニュアル化することが求められます。具体的には、日常の仕訳作業や支払処理、決算業務の進行手順を言語化し、チーム全体で共有することがおすすめです。
その結果、新たに採用された人材や異動してきた社員が迅速に業務を把握し、スムーズに仕事を進めることができます。また、マニュアル化は業務の標準化にもつながり、業務効率を向上させる効果も期待できます。マニュアルの整備によって、経理業務の透明性が高まり、リスク管理にも貢献するでしょう。
なお、経理のマニュアル化については、以下の記事も参考にしてください。
ペーパーレス化やデジタル化を進める
ペーパーレス化やデジタル化を進めることも、経理の人材不足の解決策として有効です。紙での書類処理は時間がかかり、確認作業や保管に多くの労力を必要としますが、デジタル化することで大幅な業務効率化が可能です。
また、経理システムを導入し、会計データの入力や集計を自動化することで、手作業によるミスを減らし、迅速に経理にかかる作業を処理できます。
加えて、ペーパーレス化は、書類の管理や検索もスムーズになるため、確認作業や報告書の作成にかかる時間を削減することができます。さらに、リモートワークが広がる中、クラウド型の会計ソフトや電子請求書の利用は、働く場所を問わず業務を遂行できる環境を整え、フレキシブルな働き方を実現する助けにもなります。
デジタル化の推進は、人材不足による負担を軽減し、業務の効率化を図るための重要な手段と言えるでしょう。なお、経理のペーパーレス化については以下の記事も参考にしてください。
経理代行サービスを利用する
経理代行サービスの利用も、人材不足の解決策として注目されています。経理代行サービスを利用することで、企業内の経理業務を外部の専門家に任せ、内部リソースを効率的に使うことが可能です。
特に、中小企業やスタートアップなど、限られた人材で経理業務をカバーしなければならない企業にとって、外部の力を借りることは大きなメリットとなります。経理代行サービスは、仕訳や決算業務、税務申告など、幅広い業務に対応しており、経理の専門知識が不足している企業でも安心して利用できます。また、経理代行サービスを利用することで、内部のリソースをより戦略的なコア業務に集中させることができ、企業全体の生産性を向上させる効果も期待できます。人材不足が続く中、外部のサポートを活用することは、経理部門の負担軽減におすすめです。
なお、経理代行サービスについては、こちらの記事でも詳しく触れています。
まとめ
経理の人材不足には、労働人口の減少や少子高齢化などの社会的背景がありますが、経理という業務に専門知識や経験が必要になるためという独自の理由もあります。
経理で人手が不足してしまうと、離職率の悪化や企業全体のパフォーマンス低下にもつながってしまうため、マニュアル化やデジタル化などの手段も検討しましょう。
なお、経理の人材不足には、経理代行サービスを活用するという手もあります。弊社では、経理代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な経理業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。
経理の人材不足に関するよくあるご質問
経理の人材不足についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、経理の人材不足に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
経理に向いている人の特徴は何ですか?
経理に向いている人は、細部に注意を払う慎重さや、正確さを重んじる性格を持っています。数字に強く、ルールに従って、地道な作業を継続的にこなす忍耐力が必要です。また、データやミスを防ぐための集中力や、問題解決のために論理的な思考力も求められます。さらに、法規制や税務に関する知識への意欲も大切です。
経理はなぜ忙しいのですか?
経理が忙しいのは、特に決算期や年末調整などの期限内で業務が集中するためです。日々の会計処理に加え、予算管理や税務申告の準備など多くの業務が同時進行で行われます。さらに、規制や法改正に対応し、ミスも許されないため、正確さを追求する時間も必要です。そのため、経理業務は時期によって非常に忙しくなります。
経理部門の問題点は何ですか?
経理部門の問題点は、業務の属人化や人材不足に起因するリスクが高い点です。特定の担当者に業務が集中すると、ミスや不正行為のリスクが高まります。また、経理業務は繁忙期に過度な負担がかかることが多く、オーバーワークや離職につながるケースもあります。さらに、紙ベースの作業が非効率な場合も課題です。