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旅行代理店業の経理とは?よく使う勘定科目や効率化のポイントを解説
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旅行代理店業の経理とは?よく使う勘定科目や効率化のポイントを解説

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旅行代理店業の経理業務は、日々の取引記録や入出金の管理に加え、航空会社やホテル、現地ツアー会社などさまざまな取引先とのやり取りがあります。また、予約変更やキャンセルによる返金処理、海外取引に伴う為替レートの管理など、他の業種にはない要素を多く含みます。

 

加えて、シーズンによる売上の変動や社会情勢の影響も大きく、柔軟かつ正確な対応が求められる点も特徴です。本記事では、旅行代理店業における経理の基本的な業務内容から、よく使われる勘定科目と仕訳例を紹介します。業務を効率化するためのポイントも解説するので、ぜひ最後までご覧ください。

 

旅行代理店業における経理業務とは?

旅行代理店業における経理業務は、「日次業務(毎日の仕事)」「月次業務(毎月の仕事)」「年次業務(毎年の仕事)」に分けられます。ここでは、それぞれの時期にどのような仕事があるのかを具体的に紹介していきます。

 

旅行代理店業の経理の日次業務

 

旅行代理店業における経理の日次業務では、日々発生する取引の記録が中心となります。例えば、航空券や宿泊施設の予約に伴って顧客から受け取った入金や、現地手配先への支払いなど、様々なお金の出入りを正確に帳簿へ反映させる必要があります。

 

クレジットカード決済の確認や、現金出納帳の整合性を取る作業も重要です。特に旅行業は現金取引が多い傾向にあるため、毎日の現金管理が経理にとって大きな責任を伴います。また、レシートや領収書の整理、各種伝票の入力業務も含まれ、これらを確実に処理していくことが、後の月次決算や年次決算業務の正確性に直結します。

 

旅行代理店業の経理の月次業務

 

旅行代理店業の経理における月次業務では、日次業務で記録された取引を集計し、月単位の収支状況を明確にすることが主な目的となります。例えば、ツアーごとの収益性を分析したり、月末に発生する売上や仕入の締め処理を行ったりすることがあげられます。

 

月次決算には、請求書の発行や入金確認、未収金や未払金の管理も含まれます。また、勘定科目ごとに費用を分類し、予算と実績の差異を確認する作業も欠かせません。旅客数やキャンセル率なども経営指標として重視されるため、データの取りまとめと報告も求められます。そのため旅行代理店は季節変動の影響が大きくなり、月ごとの動向分析は重要になっていきます。

 

旅行代理店業の経理の年次業務

 

年次業務では、旅行代理店の経理において年間の総まとめとしての役割を担い、税務申告や決算書の作成を中心に行います。例えば、年間の売上高や経費、利益の確定、棚卸資産の評価などが該当し、法人税や消費税の計算のために正確な数値を導き出す必要があります。

 

月次決算の時期には税理士と連携しながら、会計データの精査や不備の修正を行い、外部に提出する書類の準備も進められます。特に旅行業では、団体旅行のキャンセル料や前受金の処理など、特有の会計処理が発生するため、年間を通じた取引の把握が欠かせません。内部監査や金融機関との取引に影響する決算書は、信頼性が重要視されるため慎重な作業が求められるでしょう。

旅行代理店業でよく使う勘定科目と仕訳例

旅行代理店業でよく使われる勘定科目を以下の表にまとめました。

 

 

勘定科目 内容 具体例
旅行収入 ツアー代金や手配手数料などによる収益 パッケージツアー代金、航空券発券手数料
前受金 旅行実施前に受け取った代金 出発前に受け取ったツアー料金や宿泊代
仕入高 他社手配分や旅行商品を構成する費用 宿泊施設や航空会社への支払い
外注費 現地ガイドやオプショナルツアーの委託費用 現地送迎業者への外注費
広告宣伝費 販促のための費用 パンフレット制作費、WEB広告費
旅費交通費 社員の出張や下見などにかかる費用 添乗員の交通費、下見旅行の交通費
減価償却費 固定資産の費用を分割して計上する項目 店舗什器やシステム設備の減価償却費
支払手数料 決済や送金などに伴う手数料 クレジットカード手数料、送金手数料
預り金 顧客や従業員から一時的に預かっている金銭 顧客からの旅費の一時預り金、源泉所得税の預かり
水道光熱費 事務所の基本的なインフラにかかる費用 旅行カウンターの電気・水道代
通信費 旅行業務で必要な通信にかかる費用 電話代、FAX代、ネット回線費用
消耗品費 細かな物品購入にかかる費用 旅行パンフレットスタンド、文房具
未払金 仕入などの債務でまだ支払っていない金額 宿泊施設への未払分、航空券手配代金の後払い
売掛金 請求済みだが未回収の売上 法人顧客へのツアー代請求後の未入金分

 

以下は、旅行代理店業における仕訳例です。

 

例えば、12月にパッケージツアー代金100,000円をクレジットカード決済で受け付け、実際の旅行出発は翌年1月というケースを想定します。

 

仕訳(12月時点)

 

借方 金額 貸方 金額
売掛金 100,000円 前受金 100,000円

 

仕訳(1月に旅行実施)

 

 

借方 金額 貸方 金額
前受金 100,000円 旅行収入 100,000円

 

このように、旅行業では代金の受け取りとサービス提供のタイミングが異なることが多いため、収益の認識を適切に行うことが重要です。サービス提供前は「前受金」として処理し、実際に旅行が開始された時点で「旅行収入」に振り替えるのが基本です。

旅行代理店業の経理における特徴と課題

旅行代理店業の経理における特徴と課題として以下のような点があげられます。

 

  • 航空会社やホテルなど複数の取引先がある
  • 予約変更やキャンセルの返金対応がある
  • 海外旅行では為替レートの管理が大変になる
  • シーズンによって売上が変動しやすい
  • 社会情勢や景気に左右されやすい

 

ここでは、それぞれの特徴と課題を具体的に紹介します。

 

航空会社やホテルなど複数の取引先がある

 

旅行代理店の経理では、航空会社やホテル、バス会社など多様な取引先とのやり取りが日常的に発生します。例えば、ひとつのパッケージツアーを手配するだけでも、航空券、宿泊施設、現地ガイド、送迎業者など複数の契約が必要になるため、それぞれの仕入や支払いを個別に管理する必要があります。

 

また、これらの取引先は国内外にわたるため、請求書の形式や締め日も異なることが多く、経理担当者はそれに応じて柔軟に対応しなければなりません。取引の多様性は旅行業において特有の特徴であり、会計処理の正確性や効率化のためには、業務フローの整備やシステム化が求められる場面も少なくありません。

 

予約変更やキャンセルの返金対応がある

 

旅行代理店の業務には、予約の変更やキャンセルがつきものであり、それに伴う返金処理も経理の重要な役割となります。例えば、出発直前にキャンセルされた場合、すでに支払い済みの費用がある中で、返金額をどこまで対応できるかを判断するには、取引条件や契約書の内容を正確に把握する必要があります。

 

さらに、キャンセルポリシーに基づく取消料の計上や、返金処理に伴う売上の修正など、仕訳も複雑になりがちです。顧客への返金方法もクレジットカードや銀行振込など複数あるため、それぞれの対応に合わせた会計処理が求められます。このように、旅行業ならではの変動対応は、経理担当者にとって日々の工夫と柔軟性が必要な業務のひとつといえるでしょう。

 

海外旅行では為替レートの管理が大変になる

 

海外旅行を取り扱う旅行代理店では、外貨での取引が発生するため、為替レートの変動に対応した会計処理が必要となります。例えば、「ドル」で宿泊施設に支払いを行う契約がある場合、その支払時点の為替レートをもとに「日本円」に換算する必要があります。そのため、実際の支払時期によって金額に差異が生じることもあるでしょう。

 

また、前受金として受け取った代金が「日本円」であっても、実際の支払いが外貨である場合には、為替差損益の管理が必要です。こうした為替リスクの把握と計算は、旅行業の経理にとって重要な業務のひとつであり、通貨ごとに仕訳を丁寧に処理する力が求められます。海外旅行の需要増加や訪日外国人の増加により、会計システムや為替管理ツールの活用も検討されることが多くなっています。

 

シーズンによって売上が変動しやすい

 

旅行代理店では、観光シーズンや連休、学校の長期休暇などによって売上が大きく変動する傾向があります。例えば、ゴールデンウィークや夏休み、年末年始などは旅行の需要が高まり、売上も一時的に増加します。しかし、長期休みではない期間では落ち着いた動きになることもあります。

 

このような季節的な変動は、経理業務にも影響を与え、繁忙期には多くの入出金処理や仕訳が集中するため、業務負担が大きくなります。一方で、閑散期には予算管理やキャッシュフローの見直しといった業務が求められることもあります。そのため、収益の予測が難しいなかで、計画的な経理運営を行うためには、事前の見通しと適切な人員配置が重要です。

 

社会情勢や景気に左右されやすい

 

旅行代理店業は社会情勢や景気の影響を受けやすい業種であり、それに伴い経理業務も柔軟な対応が求められます。例えば、自然災害やパンデミック、国際情勢の変化によって旅行の需要が急減することがあり、キャンセルの増加や収益の減少が会計処理に影響を及ぼします。

 

また、為替レートの急変や原油価格の変動なども、仕入原価や運送費に影響を与える要因となります。こうした外部要因による影響は予測が難しく、事後的な損益調整や将来のリスク評価を含めた経理処理が求められる場面が多くあります。そのため、経理部門としては、状況に応じた柔軟な会計方針の見直しや経営層への情報提供が重要です。

旅行代理店業の経理を効率化するポイント

旅行代理店業の経理を効率化するポイントとして以下のような点があげられます。

 

  • 予約システムと経理システムを連携させる
  • 書類の電子化やDX化を進める
  • キャンセルの手続きをマニュアル化する
  • 経理代行会社に相談してみる

 

ここでは、それぞれの効率化ポイントについて具体的に解説していきます。

 

予約システムと経理システムを連携させる

 

旅行代理店業の経理を効率化するうえで、予約システムと経理システムを連携させることは、業務の重複を減らすうえで有効な手段となります。例えば、航空券やホテル予約が確定した際に、予約内容がそのまま売上データとして会計ソフトに取り込まれるようにしておけば、手入力の手間や転記ミスを防ぐことができます。

 

また、仕入先への支払い情報も同時に連携できれば、支払管理の精度も向上します。こうした連携は、特に件数の多い繁忙期に効果が出やすく、経理担当者の作業量を軽減することが期待できます。そのため、システム導入にあたっては、自社の業務フローに合った設計を心がけることが大切です。

 

書類の電子化やDX化を進める

 

書類の電子化やDX化を進めることは、旅行代理店の経理業務における効率化のポイントです。例えば、紙でやり取りしていた請求書や領収書をPDFやクラウドサービスで保存や管理をすることで検索性が高まり、必要な情報をすぐに確認できるようになります。

 

また、社内稟議や精算業務も電子化することで、承認フローのスピードアップが期待できます。日々の伝票入力や出納帳の管理も、クラウド型会計ソフトを活用すれば、複数名での同時作業やリアルタイムでの進捗確認も可能になります。加えて、業務のペーパーレス化はスペースの削減にもなり、物理的なコスト面でもメリットがある手法といえるでしょう。

 

なお、経理業務のDX化についてはこちらの記事も参考にしてください。

 

経理DXとは?始め方と導入するメリットや成功の秘訣を解説
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キャンセルの手続きをマニュアル化する

 

旅行のキャンセルは突然発生することも多く、都度の対応に時間がかかるケースも少なくありません。そのため、キャンセルの手続きをマニュアル化しておくことは、経理業務をスムーズに進めるために効果的です。

 

例えば、キャンセルが発生した場合に、誰がどのタイミングでどの項目を処理するか、返金の条件や取消料の計上方法を事前に定めておくことで、現場の混乱を避けることができます。さらに、キャンセル料の有無や返金方法によって仕訳内容も変わるため、具体的な事例に基づいた対応ルールがあると処理の正確性も高まります。業務の属人化を防ぐ意味でも、マニュアルの整備は有効な手法といえるでしょう。

 

なお、経理のマニュアル化についてはこちらの記事も参考にしてください。

 

経理マニュアルの作り方!作成時の注意点とマニュアル化の重要性を解説
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経理代行会社に相談してみる

 

経理業務の負担が大きい場合には、経理代行会社に相談してみるのもひとつの手です。例えば、月末や決算期などの忙しい時期に、一部の記帳や振込業務を外部に依頼することで、社内リソースを営業や顧客対応など他の業務に振り向けることができます。

 

経理代行会社は会計知識を持った専門スタッフが対応してくれるため、複雑な処理や法令対応にも安心して任せられる場合があります。また、クラウド会計ソフトと連携したサービスを選べば、業務の透明性や進捗管理もしやすくなります。さらに、経理代行会社では完全なアウトソーシングではなく、部分的な外注もできる点がおすすめです。

 

なお、経理代行会社についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

 

経理代行とは?サービス内容・メリット・選び方を詳しく解説
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まとめ

旅行代理店業の経理では、航空会社やホテルなど複数の取引先があり、予約変更やキャンセルの返金対応がある点が特徴です。そのため、経理担当者に負担がかかりやすい点が課題になっています。また、シーズンや社会情勢、景気によって売上が変動しやすく、経理業務の見通しがしづらい点も難しいところです。

 

そのため、旅行代理店業の経理では、予約システムと経理システムを連携させ、書類の電子化やDX化を進めることが効率化のポイントです。また、業務をマニュアル化しておくこともよいでしょう。なお、経理代行会社の活用を検討することもひとつの手です。

 

弊社では、経理代行と記帳代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な記帳業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。

 

旅行代理店業の経理に関するよくあるご質問

旅行代理店業の経理についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、旅行代理店業の経理に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。

旅行代理店業の経理の仕事内容は何ですか?

旅行代理店業の経理は、航空券やパッケージツアーの販売による売上計上、宿泊施設や交通機関など外部手配先への支払い処理、顧客からの入金管理が中心となります。また、旅行のキャンセルに伴う返金対応や、海外手配に関する為替レート管理、前受金の処理など、旅行業特有の会計処理も多く発生します。

ホテル業の経理業務とは何ですか?

ホテル業の経理は、宿泊料やレストラン・宴会場の利用料などさまざまな収益源の管理に加え、施設運営に関する経費の処理を行います。また、備品やリネンなどの消耗品費、建物や設備に関する減価償却費の計上も重要な業務の一部です。給与計算や社会保険手続きといった労務関連の会計処理も経理が担当することが多いです。

旅行代理店業の経理に必要なスキルは何ですか?

旅行代理店の経理には、基本的な簿記や会計の知識に加えて、旅行業ならではの取引に対応できる専門的なスキルが求められます。また、複数の予約システムや経理ソフトを扱うことが多いため、ITリテラシーも欠かせません。さらに、英語での対応が必要になる場面もあるため、語学力があると業務の幅が広がります。

この記事の監修者

菊池 星

菊池 星

東北大学卒業後に野村證券株式会社入社。資産運用における法人営業成績では同世代で全国1位を獲得し、その後中小企業向けの財務コンサルタントに選抜される。2021年からは、金融・ITコンサルタントとして企業向けに活動を始め、2022年6月から株式会社 full houseをスタートさせる。コンサルティングの経験から、代表取締役として、経理代行・アウトソーシングの「ビズネコ」を事業展開している。