企業でのキャッシュレス化が進むなか、従業員が個人のポイントを使って経費に該当する支払いを行う場面が増えています。ただし、ポイントが個人の所有物か会社の所有物か迷うシーンも多いでしょう。
ポイントの経費精算の仕組みを理解しないまま精算を進めると、所有権の誤認や税務上のリスクにつながる可能性があります。本記事では、個人ポイントを利用した際の経費精算の流れや必要な仕訳例、法人カードにおけるポイントの扱い方などをまとめて解説します。
目次
個人のポイントを利用して会社の費用を支払える
個人が保有するポイントを使って会社の経費に当たる支払いを行うことは認められています。例えば、従業員が自身のポイントを利用して事務用品を購入し、後から会社へ経費精算するケースが考えられます。
個人のポイントを利用して会社へ経費申請する場合、金銭と同様に領収書を取得し、通常の経費精算と同じ手続きを踏むことで問題なく処理できます。ただし、ポイント利用はあくまで個人の判断で行う行為であり、会社がポイント利用を強制することはできません。また、後日のトラブルを防ぐためにも、ポイント利用時の申請方法や証憑の扱いについて社内で一定のルールを整えておくことが望まれます。
個人のポイントの所有権は個人にある
個人が貯めたポイントの所有権は、その名義人である個人にあります。例えば、日常の買い物やクレジットカード利用で獲得したポイントは、企業の業務に関連して付与されたものであっても個人の資産として扱われます。
したがって、個人がそのポイントを経費支払いに充てるかどうかは本人の自由であり、企業側が使い方を制限したり回収したりすることはできません。ただし、ポイントを利用した場合の精算方法や証憑の提出方法については会社ごとのルールに従う必要があります。こうした前提を理解しておくことで、実務上の混乱を避けやすくなります。
会社のポイントを個人で利用することはできない
会社が保有するポイントは、会社の事業活動に伴って付与されるものであり、個人が自由に使用することはできません。例えば、法人カードの利用によって貯まったポイントを従業員が私的な買い物に利用することは認められず、不適切な会計処理として判断される可能性があります。
会社ポイントは福利厚生ではなく会社の資産として管理されるもののため、利用目的や使用手続きも会社側が明確に定める必要があります。ポイントの運用ルールを曖昧にすると、個人利用と業務利用の線引きが難しくなり、内部統制の観点でも問題を生じる可能性があるため注意が必要です。
会社のポイントの所有権は会社に帰属する
会社の名義で付与されたポイントは、その所有権が会社に帰属します。例えば、法人カードや企業向けサービスの利用によって獲得したポイントは、会社の営業活動に伴って得られた便益であり、従業員個人の判断で使えるものではありません。
法人カードのポイントは備品の購入や出張旅費の削減など、業務上の必要に応じて会社が利用方法を決めることが前提となります。また、不適切な個人利用が発生すると、経理処理の誤りだけでなく不正とみなされるおそれもあります。所有権の考え方を明確にし、運用ルールを社内に周知することが重要です。
立替払いの際のポイントは誰のものか?
立替払いによって付与されるポイントは、原則として支払いを行った個人に認められます。例えば、従業員が自分のクレジットカードで出張費を立替え、利用に伴ってポイントが付与された場合、ポイントは従業員個人の所有として扱われます。
会社のための支払いであっても、ポイントプログラムの契約主体は個人であるため、その付与分を会社が取得することはできません。ただし、ポイントの付与を目的として過度な立替払いを行うと、公私混同と受け取られる可能性もあるため、業務効率や会社ルールとの整合性を意識することが重要です。そのため、運用面のバランスを保ちながら取り扱う姿勢が求められます。
立替払いした際に得たポイントに税金はかかるのか?
立替払いによって個人に付与されたポイントには、現状では課税されないとされています。例えば、従業員が自分のカードで宿泊費を立替え、決済でポイントを獲得した場合でも、ポイントが経済的利益として課税対象になることはありません。
これは、ポイントが取引上の付随的な値引きに近い性質を持ち、従業員が意図的に利益を得る行為とは扱われないためです。ただし、ポイント制度の設計や利用状況によっては課税関係が議論される可能性もあるため、今後の制度変更や税務の考え方には注意が必要です。現行制度の理解を踏まえつつ、社内ルールと併せて運用することが大切です。
なお、立替精算については、こちらの記事も参考にしてください。

個人のポイントを利用した際の経費精算の流れ
個人のポイントを利用した際の経費精算は、以下の流れで進みます。
- step1:事前に経理部門に確認する
- step2:経費が発生する
- step3:領収書を取得する
- step4:経費精算の申請をする
- step5:上長の承認が下りる
ここでは、それぞれの経費精算の流れを詳しく解説します。
step1:事前に経理部門に確認する
経費をポイントで支払う場合は、まず経理部門へ事前確認を行うことが欠かせません。例えば、会社によってはポイント利用時の領収書の扱い方や申請方法に独自のルールが定められている場合があり、知らずに購入すると精算できない可能性もあります。
事前に確認しておくことで、後から追加資料を求められたり、申請が差し戻されたりするリスクを避けられます。また、ポイント利用が認められる範囲を明確にしておくことで、担当者と申請者の双方にとって無駄のない流れをつくることができます。
step2:経費が発生する
経費として扱われる支出が発生した時点で、ポイントを使った精算の流れがスタートします。例えば、事務用品を購入したり、出先で必要な消耗品を購入したりと、業務遂行に伴う負担が生じる場面が該当します。このとき、ポイントを利用した支払いであっても通常の経費と同様に業務上の必要性が求められます。
購入内容が私的利用と誤解されないよう、用途や目的を明確にしておくことが大切です。また、ポイント決済でも支払金額や購入内容が証憑として残るため、後続の精算処理にスムーズにつなげることができます。適切な手順を意識することで、後の申請作業が整いやすくなります。
step3:領収書を取得する
ポイントを利用した支払いであっても、経費精算には領収書の取得が必須です。例えば、ポイント全額で商品を購入した場合でも、購入金額や取引内容が明記された領収書がなければ会社として経費と認めることができません。支払方法が現金かポイントかに関わらず、証憑として残すべき情報は変わらないため、購入直後に確実に入手する習慣が必要です。
また、電子領収書が一般化している現代では、メールやアプリでの発行も増えており、管理の方法も事前に経理と共有しておくと安心です。領収書の有無は精算の可否に直結するため、ポイントを利用した際も、現金での精算と同様に行うことが求められます。
step4:経費精算の申請をする
領収書が揃ったら、社内規定に沿って経費精算の申請を行います。例えば、経費精算システムを導入している企業では、領収書の画像をアップロードし、支払方法の欄にポイント利用であることを明記する必要があります。
申請内容に不備があると差し戻しとなり、再提出の手間が発生するため、金額・日付・用途など必要事項を正確に入力することが重要です。また、ポイントを利用した理由や会社にとって必要な支出であることを補足説明として添えておくと、承認プロセスがスムーズになります。経費精算はルールに沿った正確な記録が求められるため、慎重に申請を進めていきましょう。
step5:上長の承認が下りる
申請後は、上長の承認を経て精算処理が進みます。例えば、業務上必要な支出であるか、申請内容が社内ルールに沿っているかを上長が確認し、問題がなければ経理部門へ処理が引き継がれます。承認プロセスは、会社としてのガバナンスを保つ役割を持ち、不適切な支出や誤った精算を防ぐために重要です。
また、ポイント利用が含まれる場合は、用途の妥当性がより細かく確認されることもあり、申請内容の明確さが承認スピードに影響します。承認が下りることで経費精算が正式に認められ、最終的な支払いが確定するため、申請者としては整った書類と説明を用意することが求められます。
ポイント利用時の勘定科目と仕訳例
ポイント利用時の勘定科目として以下の仕訳例を紹介します。
- ポイントで事務用品を購入した際の勘定科目と仕訳例
- ポイントを商品券と交換した際の勘定科目と仕訳例
- ポイントのキャッシュバックを受けた際の勘定科目と仕訳例
- ポイントをマイルと交換した際の勘定科目と仕訳例
それぞれ、確認していきましょう。
ポイントで事務用品を購入した際の勘定科目と仕訳例
ポイントで事務用品を購入した場合は、「値引処理」か「両建処理」のいずれかで会計処理することになります。例えば、ポイント分を値引きとして扱うのか、一度収入として計上するのかによって仕訳が変わります。
どちらの方法を選ぶかは会社の会計方針によりますが、処理の違いを理解しておくことで、日々の事務用品購入の記録がスムーズになります。ポイント利用後の支払額は経費に反映されますが、ポイント分をどう扱うかが重要な観点です。
以下に、8,000円の商品を2,000円分のポイント使用した場合の、それぞれの仕訳例を紹介します。
値引処理の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 6,000円 | 未払金 | 6,000円 |
両建処理の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 8,000円 | 雑収入 | 2,000円 |
| 未払金 | 6,000円 |
ポイントを商品券と交換した際の勘定科目と仕訳例
ポイントを商品券に交換した場合は、資産として扱う点が特徴です。例えば、商品券を後日の備品購入や福利厚生などに使用するケースでは、現金同様に扱えるため、「前払金」や「貯蔵品」で計上することになります。
また、交換時点でポイント分を収入として認識する方法が一般的です。利用目的によって科目が変わるため、商品券をどの場面で使うかを踏まえて処理する必要があります。会社として資産管理を正確に行うためにも、交換時の会計処理をミスなく行うことが求められます。
以下に、15,000円の商品券と交換した際の仕訳例を紹介します。
前払金として計上する際の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 前払金 | 15,000円 | 雑収入 | 15,000円 |
貯蔵品として計上する際の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貯蔵品 | 15,000円 | 雑収入 | 15,000円 |
ポイントのキャッシュバックを受けた際の勘定科目と仕訳例
ポイントのキャッシュバックを受ける場合は、「雑収入」として処理するのが基本です。例えば、現金として振り込まれるのか、カード利用代金の引き落とし時に自動で差し引かれるのかで会計処理が異なります。
現金で受け取る場合はそのまま収入計上となりますが、引き落とし時のキャッシュバックは、通常の値引きではなく両建処理として扱う点がポイントです。資金の流れや処理方法を理解しておくことで、キャッシュバックが発生したときにも落ち着いて対応できます。
以下は、1万円分のキャッシュバックを現金で受け取る場合と、10万円が口座から引き落としされる際に、1万円のキャッシュバックを受けた場合の仕訳例を紹介します。
現金で受け取る場合の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 10,000円 | 雑収入 | 10,000円 |
口座引き落とし時の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 100,000円 | 普通預金 | 90,000円 |
| 雑収入 | 10,000円 |
ポイントをマイルと交換した際の勘定科目と仕訳例
ポイントをマイルに交換しただけでは仕訳は不要ですが、マイルを使って航空券を取得した場合は会計処理が必要です。例えば、出張時に航空券の一部をマイルで賄った場合、その分をどう記録するかは事務用品のポイント利用と似ており、値引処理か両建処理を選択できます。
マイルも会社の資産として扱われるため、使用方法に応じた適切な処理が求められます。航空券は高額になりやすいため、仕訳の考え方を押さえておけば実務でも迷わずに処理できるでしょう。
以下に、航空券3万円のうち1万円をマイルで支払い、2万円を法人カードで支払った際の、値引処理と両建処理の仕訳例を紹介します。
値引処理の場合の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 20,000円 | 未払金 | 20,000円 |
両建処理の場合の仕訳例
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 旅費交通費 | 30,000円 | 雑収入 | 10,000円 |
| 未払金 | 20,000円 |
法人カードのポイント利用に関する注意点
法人カードのポイント利用に関する注意点として、以下のような点を意識しましょう。
- ポイントの使用に関するルールを決めておく
- 法人カードのポイントは個人利用しない
- ギフトカードなど換金性の高い場合は事前確認する
- ポイントの利用履歴を残すようにする
ここでは、それぞれの注意点について具体的に解説します。
ポイントの使用に関するルールを決めておく
ポイントの使用ルールを明確にしておくことは、法人カードの管理において欠かせません。例えば、どの支出にポイントを充当してよいのか、誰が利用の判断を行うのかといった基準があいまいなままだと、後から私的利用か業務利用かを区別しづらくなり、経理処理にも影響が及びます。
利用範囲を明確に定めておくことで、担当者ごとの判断のばらつきを抑え、内部統制としても適切な運用が可能になります。また、ルールが共有されていれば、ポイントの使い方を巡るトラブルも避けやすくなります。法人としてポイントを管理する以上、事前の取り決めが安定した運用の土台といえるでしょう。
法人カードのポイントは個人利用しない
法人カードで貯まったポイントは会社の資産であり、個人が利用することは認められません。例えば、従業員が自身の買い物にポイントを充当してしまうと、不正使用とみなされるおそれがあり、経理上の誤りだけでなく社内の信頼関係にも影響します。
法人カードは会社名義で契約されているため、付与されたポイントも会社の業務に還元されるべき性質を持っています。個人利用と業務利用の線引きを曖昧にすると、支出の妥当性が判断しにくくなるため、社内での明確な禁止を周知する必要があります。適切な管理を行うことで、カード全体の運用も健全に保つことができます。
ギフトカードなど換金性の高い場合は事前確認する
ポイントをギフトカードなど換金性の高いものに交換する際は、必ず事前の確認を行うことが重要です。例えば、ポイントを商品券に替えて備品を購入するケースでも、会社によっては換金性の高さから利用を制限している場合があります。
交換方法によっては経理処理が複雑になったり、私的流用と誤解される可能性もあるため、事前に経理部門へ相談し、問題がないかを確認するのが安全です。また、規定に沿った利用であっても、交換過程の記録や用途の説明が求められることがあります。
ポイントの利用履歴を残すようにする
ポイントの利用履歴を残しておくことは、法人カード運用の信頼性を保つうえで重要です。例えば、ポイントを備品購入に充当した際に記録が残っていないと、後から用途や金額を確認できず、経理処理や監査の場面で説明が難しくなります。
履歴を保存しておけば、利用目的の正当性を示せるだけでなく、会社としてポイントの運用状況を把握する助けにもなります。また、定期的な確認によって不適切な利用を早期に発見できるなど、内部統制の観点でも効果があります。透明性を高めるためには、日常的な記録の積み重ねが欠かせません。
なお、領収書やレシートといった、証憑書類の大切さについては、こちらの記事も参考にしてください。

まとめ
個人のポイントを利用して会社の費用を支払うことは可能です。ただし、その際には所有権の扱いを理解し、会社のポイントを私的に使わないことや、ポイント利用分の仕訳方法を間違えないこと、商品券やキャッシュバックなど換金性の高いケースでの処理を事前に確認しておくことには注意しましょう。
また、立替払いで発生したポイントの扱いを巡ってトラブルになることもあるため、社内ルールを整えておくことが重要です。ポイント利用は便利ですが、判断を誤ると経理処理が煩雑になったり、内部統制面で問題が生じたりする可能性があります。なお、経費精算の運用に不安がある場合や、社内だけで管理するのが難しいと感じる場合は、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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ポイントの経費精算に関するよくあるご質問
ポイントの経費精算についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、ポイントの経費精算に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
ポイントは経費になりますか?
ポイントそのものを経費として計上することはできません。事務用品を購入する際にポイントを充当した場合、経費として扱えるのは実際に支払った金額のみで、ポイント分は値引きとして処理するか、収入とみなして両建処理を行う必要があります。また、商品券やマイルなどに交換した場合も資産や雑収入として扱われます。
経費でポイントを貯めることは違法ですか?
経費の支払いによってポイントが貯まること自体は違法ではありません。立替払いの際に個人のカードにポイントが付与されたとしても、現状の制度では課税対象にはならず、法律上の問題もありません。ただし、会社としては不正利用を防ぐために、ポイントの扱いについて一定のルールを設けておくことが望ましいです。
法人カードのポイントを個人で使えますか?
法人カードで貯まったポイントを個人が利用することは認められていません。法人カードのポイントは会社が支払った費用によって付与されるため、商品券に交換した場合でも、その所有権は会社に帰属します。個人が私的に利用してしまうと、不正利用とみなされる可能性があり、場合によっては処分の対象になることもあります。