電子記録債権(でんさい)は、紙の手形に代わる新しい決済手段として広まりつつあり、企業間取引の効率化を目指すうえで注目されています。紙の手形や小切手は2026年に廃止される予定であり、電子化への移行は今後さらに加速すると考えられます。
本記事では、電子記録債権の基本的な仕組みから、手形やファクタリングとの違い、利用の流れ、導入によって得られるメリットと注意点までを解説します。電子化への対応を検討中の方は、自社に合った運用方法を考えるきっかけとして役立ててください。
目次
電子記録債権(でんさい)とは?
電子記録債権(でんさい)とは、紙の手形に代わる電子的な債権を扱う仕組みです。債権情報を電子的に記録することで、受け渡しや管理をスムーズに行える点が特徴です。
例えば、支払期日や譲渡記録をオンラインで確認できるため、従来の手形のように原本の保管や郵送に手間をかける必要がありません。こうした電子化によって事務負担の削減や紛失リスクの低減が期待され、企業間取引における決済手段として広がっています。これから紙の手形が廃止される流れを踏まえると、より多くの企業が検討すべき仕組みと言えるでしょう。
電子記録債権(でんさい)と手形の違い
電子記録債権と紙の手形の違いは、記録と管理の方法にあります。紙の手形は現物を発行し保管する必要がありますが、電子記録債権はすべての情報が電子的に記録されるため原本の受け渡しが不要です。
例えば、紙の手形では紛失や破損のリスクが避けられませんが、電子記録債権ではその心配がなく、取引履歴もオンラインで確認できます。また、印紙税が不要となる点も大きな違いで、結果としてコスト削減にもつながります。こうした特徴から、紙の手形特有の手続きやトラブルを避けたい企業にとって、電子記録債権は移行の候補となる仕組みとして注目されています。
なお、通常の手形についてはこちらの記事も参考にしてください。

電子記録債権(でんさい)とファクタリングの違い
電子記録債権とファクタリングの違いは、資金化の目的や仕組みにあります。電子記録債権はあくまで支払いや受け取りを電子的に管理する決済手段であるのに対し、ファクタリングは売掛金などを第三者に売却して資金を早期化する手法です。
例えば、電子記録債権は期日通りの受取りを前提とするのに対し、ファクタリングは早期の資金確保を目的として利用されます。また、電子記録債権は取引先との継続的な決済管理に適していますが、ファクタリングは一時的な資金繰りの改善に役立つ点で性質が異なります。
なお、ファクタリングについてはこちらの記事も参考にしてください。

紙の手形や小切手は2026年に廃止される
紙の手形や小切手は2026年に廃止され、決済手段の電子化が一段と進みます。この方針は、事務負担の軽減や紛失リスクの解消を目的としており、企業の取引環境にも大きな影響を与えます。
例えば、これまで手形の受け渡しを中心に業務を組み立てていた企業は、電子的な仕組みへの移行を検討せざるを得なくなります。また、金融機関のサービスも電子化を前提としたものへと変化していくため、早めに新しい決済手段を理解しておくことが重要です。こうした背景から、電子記録債権のような仕組みへの関心が高まり、今後は企業の標準的な手段となっていくことが予想されます。
電子記録債権(でんさい)の仕組み
電子記録債権の仕組みは、債権情報を電子的に登録や管理をすることで、安全かつ確実に取引を進める点にあります。記録機関である「でんさいネット」が情報を一元的に管理し、債権の発生から譲渡、消滅までを電子上で処理します。
例えば、取引先が支払手続きを行うと、その内容が即時に反映され、受取側もオンラインで状況を確認できます。紙の手形のように受け渡しや郵送の手間がないため、事務作業の効率化が期待できます。また、電子記録によって取引履歴が明確に残るため、管理負担の軽減やリスクの把握にも役立ちます。
電子記録債権(でんさい)の受取利用の流れ
電子記録債権(でんさい)の受取利用は以下の流れで進みます。
- step1:でんさいネットに申し込む
- step2:取引先情報の確認をする
- step3:支払い手続きをする
- step4:自動的に送金される
- step5:取引内容を確認する
ここでは、それぞれの手順について具体的に解説します。
step1:でんさいネットに申し込む
電子記録債権を受取利用するには、まず記録機関である「でんさいネット」への申し込みが必要です。登録手続きによって、自社名義の電子記録債権を受け取るための環境が整います。
例えば、銀行口座だけでは受取りを完了できないため、あらかじめ登録しておくことが前提となります。申し込みは金融機関を通じて行い、契約後はオンライン上で債権の確認や管理が可能になります。今後紙の手形が廃止される流れを踏まえると、初期設定をしておくことは、スムーズな利用のための重要なステップと言えるでしょう。
step2:取引先情報の確認をする
受け取りの準備が整ったら、次に行うのは取引先の登録内容や指定された情報の確認です。取引先が入力した内容に誤りがあると、後の記録手続きが正しく進まないため、しっかりとチェックをする必要があります。
例えば、会社名や取引金額、支払期日などにわずかな相違があっても、修正に時間がかかることがあります。電子的な取引であるからこそ、記録内容が正確であることが重要であり、確認作業は受取り手続き全体の基盤となります。スムーズに進めるためにも、事前に必要情報を共有しておくと安心です。
step3:支払い手続きをする
支払い手続きが進むと、債権の発生記録が行われ、受取り側にも通知されます。発生記録は電子記録債権の中心となるプロセスであり、この処理が完了することで債権が正式に成立します。
例えば、取引先が金額や期日を入力して発行手続きを行うと、その情報が即時に記録され、受取側はオンラインで内容を確認できます。紙の手形では郵送や受け渡しが必要でしたが、でんさいネットでは電子上で完結するため、手続きの透明性が高まり、管理の負担も軽減されます。
step4:自動的に送金される
支払期日を迎えると、登録された口座へ自動的に送金されます。これは電子記録債権の大きな特徴であり、紙の手形のような取り立てや銀行への持ち込みが不要です。
例えば、出張中や月末の繁忙期でも、自動処理によって入金が行われるため、業務の負担を増やさずに資金を受け取れます。この仕組みにより、入金漏れのリスクが減り、資金繰りの見通しも立てやすくなります。また、自動処理は履歴として記録されるため、後から確認することも簡単です。
step5:取引内容を確認する
入金後は、記録された内容を確認して取引全体が正しく処理されたかをチェックします。電子記録債権は自動的に履歴が残るため、取引内容をいつでも確認できる点が特徴です。
例えば、支払金額や入金日時にずれがないかを見ておくことで、後の会計処理や消込作業がスムーズになります。紙の手形のように原本の管理が不要なため、情報の照合もオンライン上で完結します。こうした確認作業まで行うことで、電子記録債権の受け取りにかかるプロセスがひと通り完了し、正確な取引につなげることができます。
電子記録債権(でんさい)の支払利用の流れ
電子記録債権(でんさい)の支払利用は以下の流れで進みます。
- step1:でんさいネットに申し込む
- step2:取引先へ情報を共有する
- step3:取引先が手続きを進めると通知が届く
- step4:内容を確認する
- step5:自動送金される
ここでは、それぞれの手順について詳しく解説します。
step1:でんさいネットに申し込む
電子記録債権を支払いに利用するには、まず「でんさいネット」へ申し込むことが欠かせません。登録によって、電子的な支払手続きを行うための環境が整います。
例えば、紙の手形を発行する場合とは異なり、電子記録を前提とした契約が必要となるため、事前の申し込みが重要な準備となります。金融機関を通じて手続きを進めると、自社名義のアカウントが作成され、以降はオンラインで支払い内容の入力や確認が可能になります。こうした初期設定を完了させることで、電子化された決済へスムーズに移行できます。
step2:取引先へ情報を共有する
支払いの準備が整ったら、次に行うのは取引先への情報共有です。支払金額や期日など、でんさいネットへの記録に必要な内容を事前に伝えることで、相手側の手続きが正確に進むようになります。
例えば、伝達事項に漏れがあると、取引先での入力内容と自社の認識がずれてしまい、記録の修正が必要になることがあります。電子的な仕組みは正確なデータを前提としているため、共有は後工程のスムーズさに直結します。また、取引先とのコミュニケーションを丁寧に行っておくことで、双方にとって負担の少ない取引につながります。
step3:取引先が手続きを進めると通知が届く
取引先が発生記録の手続きを進めると、自社にもその内容を知らせる通知が届きます。通知は、取引が電子上で進行していることを確認できる大切なタイミングです。
例えば、紙の手形であれば受け渡しや郵送が必要でしたが、でんさいネットでは処理状況がリアルタイムで共有されるため、進捗を把握しやすくなります。通知内容には金額や期日などの記録情報が含まれ、次の確認作業へスムーズにつながります。こうした仕組みによって、手続きの透明性が保たれ、双方の認識違いを防ぐ効果も期待できます。
step4:内容を確認する
通知を受け取ったら、内容に誤りがないかを確認します。電子記録債権では、記録された情報が正式な取引内容として扱われるため、確認作業が重要なステップとなります。
例えば、金額や期日、取引先名が正しく入力されているかを確かめることで、後の修正やトラブルを未然に防ぐことができます。紙の手形のような原本照合は必要ありませんが、電子データであるからこそ慎重なチェックが求められます。内容の確認を終えると、支払手続きは完了へ近づき、あとは期日を待つだけになります。
step5:自動送金される
支払期日になると、登録された口座から自動的に送金が行われます。この仕組みによって、従来の手形のように銀行へ持ち込む必要がなく、決済が効率的に進みます。
例えば、月末で忙しい時期でも、自動処理によって入金が確実に行われるため、人的な手間をかけずに済みます。また、送金は履歴として記録されるため、会計処理や取引内容の確認もスムーズです。こうした自動化された流れにより、支払い業務の負担が軽減され、安定した資金管理につながります。
電子記録債権(でんさい)のメリット
電子記録債権(でんさい)のメリットとして、以下のような点があげられます。
- 印紙税が不要のためコスト削減できる
- 未回収リスクを軽減できる
- 譲渡や分割の柔軟性が高い
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
印紙税が不要のためコスト削減できる
印紙税が不要になる点は、電子記録債権を導入するメリットです。紙の手形を発行する場合には印紙の貼付が欠かせず、取引が多い企業ほど負担は積み重なります。
例えば、毎月複数の手形を取り扱う企業では、年間の印紙代が想像以上のコストになることがあります。でんさいネットでは電子的に記録が行われるため印紙税の対象外となり、そうした経費を圧縮できます。コスト削減は財務面の改善につながり、他の業務投資に振り向ける余力も生まれます。紙から電子への転換が進むなかで、印紙代がかからない点は魅力的です。
未回収リスクを軽減できる
未回収リスクを軽減できる点は、電子記録債権のメリットです。電子的な仕組みによって支払期日に自動で送金が行われるため、紙の手形のように取り立てに行く必要がありません。
例えば、手形の受け取り忘れや銀行への持ち込み遅れが原因でトラブルになることがありますが、でんさいネットではそうした心配が大幅に減ります。さらに、記録内容は電子上で管理されるため、取引の透明性が高まり、支払い状況も把握しやすくなります。結果として、債権管理の負担も軽くなり、安定した資金確保につながります。
譲渡や分割の柔軟性が高い
譲渡や分割の柔軟性が高いことも、電子記録債権のメリットとしてあげられます。紙の手形では譲渡のたびに裏書が必要で、物理的な受け渡しが伴います。しかし、電子記録債権の場合は電子的に記録を更新するだけで対応できます。
例えば、資金繰りの都合に合わせて一部だけ譲渡したいケースでも、でんさいネットの仕組みならスムーズに手続きが行えます。こうした柔軟性は、取引回数が多い企業や複数の取引先を抱える企業にとって使いやすさにつながります。
電子記録債権(でんさい)のデメリット
電子記録債権(でんさい)のデメリットとして、以下のような点には注意しましょう。
- でんさいネットへの事前申し込みが必要になる
- 勘定科目を変更する必要がある
- 導入している企業がまだまだ少ない
ここでは、それぞれのデメリットについて具体的に解説します。
でんさいネットへの事前申し込みが必要になる
でんさいを利用するには、事前に「でんさいネット」へ申し込む必要があります。紙の手形のようにすぐ発行できるわけではなく、まず利用環境を整える手続きを経てからでなければ取引を開始できません。
例えば、新規取引が急に発生した場合でも、申し込みが完了していないと発生記録を行えず、支払いスケジュールに影響が出ることがあります。申し込み自体は金融機関を通じて行いますが、社内の担当者情報や利用口座の確認など準備が必要です。導入時にはこの初期設定のハードルを理解しておくことが求められます。
勘定科目を変更する必要がある
電子記録債権を利用する場合、会計処理で用いる勘定科目を変更する必要があります。従来の「受取手形」や「支払手形」ではなく、「電子記録債権」や「電子記録債務」といった科目に切り替えることが求められます。
例えば、会計ソフトに自動仕訳を設定している企業では、科目名称を修正しなければ誤った仕訳が発生することがあります。こうした変更は日々の実務にも影響するため、経理担当者が新しい処理方法を理解する時間も必要になります。電子化によって業務は効率化しますが、導入期の科目変更は避けられない対応といえるでしょう。
導入している企業がまだまだ少ない
電子記録債権は普及が進んでいるものの、導入企業がまだ十分に多いとは言えません。取引先がでんさいを利用していなければ、こちらが導入していても電子記録による取引を行えず、結局は従来の手形や別の支払方法を併用する必要が生じます。
例えば、資金繰りの効率化を目的に導入しても、主要な取引先が未導入であれば期待した効果を得にくいケースも考えられます。普及状況は業界によって差があるため、自社だけでなく取引先の状況も踏まえて検討することが重要です。
まとめ
電子記録債権(でんさい)は、紙の手形が2026年に廃止される流れのなかで、企業の取引を大きく変える仕組みとして注目が高まっています。受け渡しや保管が必要だった従来の手形と比べて、電子的な管理によって事務負担やリスクを抑えられる点は、多くの企業にとって導入を検討する理由となるでしょう。
また、ファクタリングとは目的が異なるものの、資金管理の手段のひとつとして理解しておくことは今後の取引にも役立ちます。本記事で紹介した仕組みや特徴を踏まえ、自社の取引状況に合わせてどの方法が適しているかを見極めることが、円滑な資金管理や業務効率化につながります。なお、資金管理や記帳管理は、経理代行会社に相談することもおすすめです。
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電子記録債権(でんさい)に関するよくあるご質問
電子記録債権(でんさい)についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、電子記録債権(でんさい)に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
電子手形と電子記録債権(でんさい)の違いは何ですか?
電子手形と電子記録債権(でんさい)は、ほぼ同じ意味の言葉ですが、仕組みに違いがあります。電子手形は紙の手形を電子化したもので、オンラインで発行や譲渡を行う仕組みです。一方、電子記録債権は手形とは異なる制度として設計されており、債権の発生から譲渡、消滅までを電子的に一元管理できます。
電子記録債権(でんさい)のメリットは何ですか?
電子記録債権(でんさい)のメリットは、事務作業の効率化とコスト削減につながる点にあります。また、支払期日には自動で送金が行われる仕組みのため、手形の取り立てや持ち込みといった作業が不要になり、未回収リスクの軽減にも役立ちます。さらに、記録内容をオンラインで確認でき、譲渡や分割にも柔軟に対応できます。
電子記録債権(でんさい)のデメリットは何ですか?
電子記録債権(でんさい)にはメリットが多い一方で、導入時にはいくつかのデメリットも存在します。利用するには「でんさいネット」への事前申し込みが必要で、紙の手形のようにすぐに発行できない点があげられます。また、会計処理では「電子記録債権」や「電子記録債務」といった勘定科目へ切り替える必要があります。