
企業の経理業務と一口に言っても、金融機関と一般企業では経理の役割や求められるスキルが大きく異なります。特に金融機関では、銀行法や金融商品取引法といった厳格な規制のもと、専門的な会計処理や監査対応が求められます。
本記事では、金融機関の経理と一般企業の経理の違いをまとめて、それぞれの業務内容や必要なスキルについて詳しく解説します。金融機関の経理業務を効率化するポイントについても触れていきますので、ぜひ参考にしてください。
目次
金融機関の経理と一般企業の経理の違い
金融機関の経理と一般企業の経理には、以下のような違いがあります。
項目 | 一般企業の経理 | 金融機関の経理 |
---|---|---|
業務内容の違い | 売上・経費管理、決算処理、税務対応が中心 | 預金・貸出金管理、金融商品の評価、監査対応が多い |
会計基準の違い | 日本基準、IFRS(国際会計基準)、US GAAP(米国会計基準)が一般的 | 銀行業会計基準、金融商品会計基準など特有の基準あり |
求められるスキルの違い | 決算処理、税務知識、会計ソフトの操作スキル | 金融規制、内部監査、リスク管理、金融商品の知識 |
キャリアプランの違い | CFOや管理会計、経営企画などへのキャリアアップ | 内部監査、リスク管理、監査法人やコンサル業界への転職も可能 |
ここでは、それぞれの違いを具体的に紹介します。
業務内容の違い
金融機関の経理と一般企業の経理では、日々の業務内容に大きな違いがあります。一般企業では、売上や経費の管理、決算処理、税務対応などが主な業務となりますが、金融機関の経理では、加えて金融取引に関する複雑な処理が求められます。
例えば、銀行では預金や貸出金の管理、証券会社では金融商品の評価や売買の処理が発生し、一般的な企業よりも膨大なデータを扱うことが特徴です。また、金融機関では金融庁や監査法人によるチェックが頻繁に行われるため、日々の記帳や報告業務にも高い精度が求められます。
さらに、金融機関独自の勘定科目や帳簿処理が存在するため、経理担当者は通常の会計業務に加えて、金融特有の専門知識を備えておく必要があります。
会計基準の違い
金融機関と一般企業では、適用される会計基準にも大きな違いがあります。一般企業では、日本基準、IFRS(国際会計基準)、US GAAP(米国会計基準)などが採用され、収益や費用の認識を基準に則って行います。
一方、金融機関ではこれらに加え、金融商品会計基準や銀行業会計基準といった特有のルールが適用されます。例えば、銀行では貸倒引当金の計上が厳格に求められ、融資先の信用状況に応じた細かなリスク評価が必要になります。
また、証券会社では金融商品の時価評価が義務付けられ、市場変動によって財務状況が大きく変わるため、より柔軟な対応が求められます。このように、金融機関の会計基準は一般企業に比べて細かく、専門的な知識がなければ適切な処理ができない点が特徴です。
求められるスキルの違い
金融機関の経理では、一般企業の経理に比べて、より専門的で高度なスキルが求められます。例えば、一般企業の経理では、日常的な仕訳や決算書の作成、税務申告などが中心となりますが、金融機関では、これらに加えて金融商品やリスク管理の知識が欠かせません。
例えば、銀行では貸出金の管理や引当金の計算が必要であり、証券会社では金融商品の時価評価やデリバティブ取引(債券や株式などの原資産と呼ばれる金融商品から派生した取引)の処理が求められます。
また、金融機関は金融庁や監査法人の監査を頻繁に受けるため、内部監査やコンプライアンス対応のスキルも重要になります。加えて、業務の正確性とスピードが厳しく求められるため、ITツールを活用したデータ分析や自動化のスキルも身につける必要があります。
キャリアプランの違い
金融機関の経理と一般企業の経理では、キャリアの形成にも違いがあります。一般企業の経理では、決算業務や税務処理を経験した後、管理会計や経営企画などにキャリアを広げるケースが多く、最終的にはCFO(最高財務責任者)を目指す道もあります。
一方、金融機関の経理では、財務報告や監査対応を経験しながら、内部監査やリスク管理部門にキャリアをシフトするケースが多く見られます。例えば、銀行では財務経理の専門性を高めた後、コンプライアンス部門や経営戦略部門に異動することも珍しくありません。
また、金融機関の経理経験者は、専門性の高さから監査法人やコンサルティングファームへの転職もしやすい傾向にあります。こうした違いを理解し、自身のキャリア目標に合わせたスキルアップが重要になります。
金融機関における経理の特徴と課題
金融機関における経理には、以下のような業界特有の特徴と課題があります。
- 銀行法や金融商品取引法を遵守する必要がある
- 預金や有価証券など特有の勘定科目がある
- 監査法人や金融庁の監査などの対応が多い
- 厳格なコンプライアンスの管理がある
ここでは、それぞれの特徴と課題を具体的に解説します。
銀行法や金融商品取引法を遵守する必要がある
金融機関の経理業務においては、銀行法や金融商品取引法といった厳格な法律を遵守することが欠かせません。一般企業の経理でも会社法や法人税法に則った処理が求められますが、金融機関の場合はさらにハードルの高い法規制が適用されます。例えば、銀行法では自己資本比率の維持が求められ、財務データを正確に管理することが経営の健全性に直結します。
また、証券会社では金融商品取引法に基づき、投資家保護の観点から透明性のある会計処理が必要とされます。金融商品に関する法律は頻繁に改正されるため、経理担当者は最新の法規制を把握し、対応できるスキルを備えていなければなりません。
加えて、金融庁などの監督機関への報告義務も多く、誤った処理が経営リスクにつながる可能性があるため、常に高い専門性と正確性が求められます。
預金や有価証券など特有の勘定科目がある
金融機関の経理業務では、一般企業には存在しない特有の勘定科目が多く登場します。例えば、銀行では「預金」や「貸出金」といった勘定科目があり、これらの管理が経営の基盤となります。預金には普通預金、定期預金、当座預金など複数の種類があり、それぞれ異なる処理方法が求められます。
また、証券会社では「有価証券」や「デリバティブ取引(債券や株式などの原資産と呼ばれる金融商品から派生した取引)」などの勘定科目が重要になり、市場価値の変動に応じて適切な評価を行わなければなりません。例えば、保有する株式の時価が下落した場合、減損処理が必要になることもあります。
このように、金融機関の経理では、一般企業の売上や費用の管理とは異なり、金融取引に伴う複雑な会計処理を正確に行う必要があり、対応する専門知識が求められます。
監査法人や金融庁の監査などの対応が多い
金融機関の経理担当者は、監査法人や金融庁といった外部機関の監査対応を日常的に行う必要があります。一般企業でも会計監査や税務調査の対応は求められますが、金融機関ではその頻度と厳格さがより高い基準となっている点が特徴です。
例えば、銀行は金融庁の検査を受ける際、自己資本比率や不良債権の状況について詳細な報告を求められることがあります。また、証券会社では金融商品の取引状況やリスク管理体制が重点的にチェックされ、少しの不備でも指摘を受ける可能性があります。
さらに、監査法人の会計監査では、財務諸表の正確性だけでなく、内部統制の整備状況まで厳しく評価されるため、経理部門は日頃から正確な帳簿管理と適切な報告体制を整えておく必要があります。このように、金融機関の経理は外部監査への対応が重要な業務のひとつであり、経理担当者へのプレッシャーも大きくなるでしょう。
厳格なコンプライアンスの管理がある
金融機関では、法令遵守の観点から非常に厳格なコンプライアンス管理が求められます。一般企業の経理でもコンプライアンス対応は必要ですが、金融機関では特に重要視されており、違反が発覚すれば経営全体に大きな影響を及ぼす可能性があります。
例えば、マネーロンダリング対策として、不正取引の疑いがある場合には即座に報告を行い、適切な対応を取る必要があります。また、インサイダー取引を防ぐため、証券会社では社員の株式取引に関する厳しいルールが設けられており、違反すれば厳重な処分が下されることもあります。
さらに、金融機関は顧客の資産を預かる立場にあるため、情報管理の徹底も不可欠であり、不正アクセスやデータ漏洩を防ぐための対策が日々強化されています。このように、金融機関の経理業務では、単に会計処理を行うだけでなく、法令遵守の観点からあらゆるリスクに目を光らせ、適切な管理を行うことが欠かせません。
金融機関の経理に求められるスキル
金融機関の経理を担当する際には、以下のようなスキルが求められます。
- 決算処理の正確性とスピード感
- 金融規制への知識
- 内部監査対応のノウハウ
ここでは、それぞれのスキルや知識を具体的に解説しますので、ぜひ参考にしてください。
決算処理の正確性とスピード感
金融機関の経理担当者にとって、決算処理の正確性とスピード感は重要なスキルのひとつです。例えば、決算期に向けて膨大な取引データを処理する際、精度を欠いた処理が続くと、後々の作業で問題を引き起こすことになります。
金融機関は非常に厳格な基準に従って決算を行うため、誤った計算や記録があると、信頼性に疑問が生じ、規制機関からの指摘を受ける可能性もあります。そのため、迅速でありながら正確な決算処理を行うことが求められます。
そのため、効率的に業務を進めるには、会計ツールの活用や業務フローの改善が求められ、スピードと正確性の両立が不可欠といえるでしょう。
金融規制への知識
金融機関の経理担当者には、金融規制に関する深い知識が求められます。例えば、金融商品取引法や銀行法など、業界特有の法律に従う必要があり、規制の変更にスピーディに対応できる柔軟性も必要です。
金融機関に特有の規制に準拠した経理を行うことが、金融機関としての信頼性を支える基盤となります。加えて、規制違反を避けるためには、適切な報告や申告が求められる場面が多く、専門的な知識を持つことが、経理担当者としての大切なスキルとなります。規制遵守が欠かせない環境で働くためには、日々の学習や最新の情報に対する敏感さも求められます。
内部監査対応のノウハウ
金融機関では、内部監査が定期的に行われ、監査結果に基づいて改善策が求められることがあります。例えば、内部監査では経理業務が正しく行われているか、リスクが管理されているかがチェックされます。
監査に対応するためには、経理担当者が自社の業務フローや規定を十分に理解し、必要なデータや資料を迅速に提供できる準備をしておくことが大切です。さらに、監査結果に基づく改善策を実施するためには、実務に即した対応力と問題解決能力が求められます。
なお、内部監査への対応は、経理業務の改善を図る大きなチャンスとも言えるため、事前に準備を整えておくことが重要です。
金融機関の経理を効率化するポイント
金融機関の経理を効率化するためには、以下のようなポイントを意識しましょう。
- 業務フローの見える化で属人化をなくす
- ペーパーレス化を進める
- 業務にAIを活用してみる
- 経理代行会社に相談する
ここでは、それぞれのポイントについて具体的に解説します。
業務フローの見える化で属人化をなくす
金融機関の経理業務では、属人化を防ぐために業務フローの見える化が重要です。例えば、業務の流れを明確に可視化することで、誰がどの業務を担当し、どのタイミングで次の作業を進めるべきかがひと目でわかります。
その結果、特定の担当者に負担が偏ることを防ぎ、業務の透明性が向上します。また、業務フローの見える化は新たに人員が加わった場合でもスムーズに業務を引き継ぐためにも有効で、全体の効率を上げることができます。
そのため、属人化が解消されることで、チーム全体での協力が進み、安定した経理業務が実現するでしょう。なお、経理の業務フローについてはこちらの記事も参考にしてください。

ペーパーレス化を進める
金融機関の経理業務では、ペーパーレス化を進めることもひとつのポイントです。例えば、取引明細や伝票のデジタル化を進めることで、書類の保管や管理の手間を大幅に削減できます。
また、紙の書類を保管するためのスペースや、物理的な取り扱いにかかる時間を削減することで、効率的な業務が実現できるようになります。加えて、データのデジタル化により、情報の検索や共有が効率よく行えるようになり、業務のスピードが向上します。
ペーパーレス化は、環境にも優しく、企業の持続可能性向上にもつながるため、積極的に取り組むべき課題といえるでしょう。なお、経理のペーパーレス化についてはこちらの記事でもまとめています。

業務にAIを活用してみる
AIを経理業務に活用することは、効率化と精度向上に大きく影響をあたえます。例えば、AIを活用して大量の取引データを自動で仕訳処理することができれば、手作業によるミスが減り、作業がスピーディに進むようになります。
また、AIは過去のデータを分析して、将来に向けたシミュレーションを行うことも可能です。その結果、経理担当者は記帳や仕訳などの単純作業から解放され、戦略的な業務に集中することができるようになります。そのため、AIを導入することで、日常業務の負担が軽減され、より高い付加価値を提供できる経理担当者になれるでしょう。
なお、経理とAIについてはこちらの記事も参考にしてください。

経理代行会社に相談する
経理業務の負担が大きくなるなか、経理代行会社に相談することもおすすめです。例えば、経理業務が複雑で時間がかかる場合、専門の経理代行会社に外部委託することで、内部リソースを効率的に活用できます。
経理代行会社は専門的な知識と経験を持っており、法律や規制に対応した適切な経理業務を行うことができます。また、経理の負担を軽減することで、社内のリソースを他のコア業務に集中させ、企業全体の生産性を高めることができます。
そのため、経理代行を活用することは、業務の効率化だけでなく、経営戦略にも大きな影響を与えるといえるでしょう。なお、経理代行については、こちらの記事も参考にしてください。

まとめ
金融機関の経理は一般企業の経理と異なります。業務内容や会計基準、求められるスキル、キャリアプランなど、業界独自の特徴をもっています。そのため、金融機関の経理では、銀行法や金融商品取引法を遵守する必要があり、監査法人や金融庁の監査などの対応が多くなることから、経理担当者の負担やプレッシャーも大きくなります。
金融機関の経理を効率化するためには、業務フローの見える化を行い、ペーパーレス化やデジタル化の推進が大切です。また、最近ではAIを活用することで、単純作業を削減してコア業務に注力できる体制を構築する企業もあります。なお、経理の効率化には、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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金融機関の経理に関するよくあるご質問
金融機関の経理についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、金融機関の経理に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
金融機関の経理とは何ですか?
金融機関の経理とは、銀行や証券会社、保険会社など、金融サービスを提供する企業において、財務管理全般を行う業務のことです。預金や融資、投資商品、為替取引などに関する複雑な会計処理や報告を行い、規制に基づく監査対応や税務申告を担います。金融機関では、資本の健全性や流動性の管理も求められます。
金融機関の経理と一般企業の経理の違いは何ですか?
金融機関の経理と一般企業の経理では、業務内容に違いがあります。一般企業では、売上や経費の管理が主な業務ですが、金融機関では、金融取引の処理もあります。また、会計基準も違います。一般企業では、日本基準、IFRS、US GAAPが採用されますが、金融機関は、金融商品会計基準や銀行業会計基準が適用されます。
金融機関の経理に求められるスキルは何ですか?
金融機関の経理には、会計基準や金融規制に関する高度な知識、複雑な金融商品に対応するための深い理解が求められます。リスク管理能力や財務分析力、迅速な判断力が必要で、細部に対する高い注意力も欠かせません。また、AIやDXなどのテクノロジーの活用に長けたスキルも今後ますます重要になるでしょう。