任意監査という言葉を耳にしたことはあっても、法定監査との違いや、どのような場面で実施すべきかまで正確に理解している方は多くありません。企業規模や成長段階によっては、法令上の義務がなくても、あえて監査を受ける判断が求められることがあります。
将来の上場準備やM&Aを見据える場合、任意監査は自社の財務情報や内部体制を客観的に見直す有効な手段となります。本記事では、任意監査と法定監査の違いを整理したうえで、実施する目的やメリット・デメリット、進め方のポイントまでをまとめて解説します。自社にとって任意監査がどのような意味を持つのかを考えるための参考としてご覧ください。
目次
任意監査とは?
任意監査とは、法律で義務付けられていないにもかかわらず、企業が自らの判断で実施する監査のことです。法定監査が会社法や金融商品取引法などに基づいて行われるのに対し、任意監査は企業の目的や課題に応じて柔軟に内容や範囲を決められる点が特徴です。
例えば、経理処理が属人化していないかを確認したり、内部統制が実態に合っているかを点検したりするなど、実務に即した視点で活用されるケースが多く見られます。決算書の正確性を確かめるだけでなく、日常業務の改善点を洗い出す機会にもなるため、成長段階にある企業や組織体制を見直したい企業にとって、実務的な意味を持つ取り組みといえます。
なぜ任意監査をするのか?
任意監査を行う理由は、企業が将来を見据えた経営判断を行うためです。法定監査の対象外であっても、財務情報の信頼性や業務プロセスの妥当性を客観的に確認することは、経営リスクの把握につながります。
例えば、上場準備や資金調達を検討している段階では、第三者の視点で会計処理や管理体制を点検しておくことで、後の修正や手戻りを抑えやすくなります。また、社内だけでは気付きにくい運用上の課題が明らかになる点も目的のひとつです。任意監査は単なるチェック作業ではなく、経営の土台を整えるための手段として位置付けられています。
いつ任意監査は行われるのか?
任意監査は、任意のため時期は決まっていません。しかし、企業の節目や環境が変化するタイミングで行われることが多いです。決算期に合わせて実施されるケースもありますが、必ずしも年度末に限定されるものではありません。
例えば、組織拡大によって経理体制を見直す必要が生じたときや、M&Aや事業譲渡を検討する段階で実施されることがあります。また、外部からの出資や融資を受ける前に、財務状況を整理する目的で行われる場合もあります。このように、任意監査は事業の成長や転換点に合わせて計画的に行うことで、効果をより実感しやすくなります。
誰が任意監査を実施するのか?
任意監査を実施する主体は、社内で行う内部監査と、外部の専門家に依頼する外部監査の大きく2つに分かれます。内部監査は、業務内容を理解している担当者が中心となるため、実態に即した確認がしやすい点が特徴です。
一方で、外部監査は公認会計士や監査法人など第三者が関与するため、客観性が確保されやすくなります。例えば、投資家や取引先への説明を想定する場合には、外部の視点が重視されることもあります。企業の目的や求める水準に応じて、内部と外部を使い分けることが重要です。
なお、会計監査については、こちらの記事でも解説しています。

任意監査と法定監査の違い
任意監査と法定監査の違いは、実施が義務か任意かという点にあります。法定監査は会社法や金融商品取引法などに基づき、一定規模以上の企業に対して実施が求められる監査であり、監査の内容や手続きも法律によって定められています。
一方、任意監査は企業が自らの判断で行うもので、目的や範囲を柔軟に設定できる点が特徴です。例えば、将来の上場準備を見据えて内部管理体制のみを確認したり、特定の会計処理について妥当性を検証したりすることも可能です。このように、両者は法的な位置付けだけでなく、活用される場面や役割にも違いがあります。
任意監査を行う目的
任意監査を行う目的として、以下のような点があげられます。
- 将来の上場を見据えた体制整備のため
- 事業譲渡やM&Aにおける信頼性の確保のため
- 投資家や取引先への説明責任を果たすため
- グループ全体の統制やガバナンス強化のため
ここでは、それぞれの目的について具体的に解説します。
将来の上場を見据えた体制整備のため
将来の上場を見据えた体制整備のために任意監査は効果的です。上場準備では、財務諸表の正確性だけでなく、内部統制や業務フローが適切に機能しているかが重視されますが、上場準備は短期間で整えられるものではありません。
例えば、経理処理が担当者ごとに異なっていたり、承認手続きが曖昧であったりすると、後の是正に多くの時間を要します。任意監査を通じて早い段階で課題を把握しておくことで、計画的な改善が可能になります。上場直前になって慌てるのではなく、準備段階から客観的な視点を取り入れることが、体制構築を進めるうえで重要となります。
なお、上場準備についてはこちらの記事も参考にしてください。

事業譲渡やM&Aにおける信頼性の確保のため
事業譲渡やM&Aにおける信頼性の確保のために任意監査は活用されます。取引の場面では、対象会社の財務状況や会計処理が適切かどうかが重要な判断材料となり、不透明な点が多いほど条件交渉に影響を与えやすくなります。
例えば、収益認識の基準があいまいであったり、過去の処理に一貫性がなかったりすると、買い手側の不安要素となります。事前に任意監査を実施しておくことで、財務情報の信頼性を高めるとともに、説明に必要な資料を整理しやすくなります。その結果、交渉を円滑に進める土台づくりにつながります。
投資家や取引先への説明責任を果たすため
投資家や取引先への説明責任を果たすために任意監査は役立ちます。外部から資金提供や継続的な取引を受ける場合、企業には財務状況や経営管理体制について合理的な説明が求められます。
例えば、決算数値の根拠や内部管理の考え方を問われた際、第三者の視点で確認された情報があることで、説明の説得力は高まります。任意監査は単に数字を確認するだけでなく、運用面の課題や改善点を整理する機会にもなります。こうした取り組みを通じて、外部との信頼関係を維持しやすくなる点が特徴です。
グループ全体の統制やガバナンス強化のため
グループ全体の統制やガバナンス強化のためにも任意監査は効果的です。複数の子会社や関連会社を持つ場合、会計処理や業務ルールが各社で異なっていると、全体像の把握が難しくなります。
例えば、同じ取引でも会社ごとに処理方法が違えば、連結決算や管理資料の作成に支障が出ます。任意監査を通じて各社の運用状況を確認することで、統一すべき点や見直すべき点が明確になります。結果として、グループ全体の管理水準を底上げし、安定した経営体制の構築につなげることができます。
なお、グループ会社との連結決算についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

任意監査の種類
任意監査の種類は、内部で行う監査と外部に依頼する監査の2つです。内部監査は社内の人材が実施するため業務実態を踏まえた確認がしやすく、外部監査は第三者が関与することで客観性が確保されます。目的や求める水準に応じて使い分けられる点が特徴です。
内部監査
内部監査は、自社の従業員や内部組織が主体となって行う任意監査です。業務内容や社内ルールを理解している立場で実施されるため、日常業務に即した確認ができる点が特徴といえます。
例えば、経理処理の流れや承認手続きが実際の運用と合っているかを点検することで、形式だけが先行していないかを確認できます。また、改善点が見つかった場合でも、現場の状況を踏まえた現実的な対応策を検討しやすい点もメリットです。
一方で、社内の人間が行う以上、判断が甘くなったり、指摘が控えめになったりする可能性もあります。そのため、内部監査は定期的な見直しや体制づくりとあわせて活用することが重要です。
外部監査
外部監査は、公認会計士や監査法人など社外の専門家が実施する任意監査です。第三者の立場から確認が行われるため、監査結果の客観性や信頼性が高まりやすい点が特徴です。
例えば、投資家や金融機関に対して財務状況を説明する場面では、外部監査の意見があることで説明に一定の説得力を持たせることができます。また、社内では当たり前になっている慣行や処理についても、専門的な視点から改善点を指摘してもらえる可能性があります。
ただし、依頼費用が発生する点や、監査範囲を事前に整理しておく必要がある点には注意が必要です。目的を明確にしたうえで依頼することが、外部監査を効果的に活用するポイントとなります。
任意監査のメリットと効果
任意監査のメリットや効果として以下のような点があげられます。
- 決算書や会計処理の客観性が担保できる
- 経理や内部管理体制の課題を早期発見できる
- 投資家や取引先からの評価が向上しやすい
ここでは、それぞれのメリットや効果について詳しく解説します。
決算書や会計処理の客観性が担保できる
決算書や会計処理の客観性が担保できる点は、任意監査のメリットです。日常の経理業務は社内ルールや慣習に基づいて行われるため、知らず知らずのうちに判断が偏ることがあります。
例えば、過去から続く処理方法が現在の実態に合っていない場合でも、疑問を持たれないまま継続されているケースは少なくありません。任意監査を通じて第三者や別の視点から確認を受けることで、数値や処理の妥当性を冷静に見直すことができます。その結果、決算書の信頼性が高まり、社内外に対して説明しやすい財務情報を整えることにつながります。
なお、決算書の書き方や読み方についてはこちらの記事も参考にしてください。

経理や内部管理体制の課題を早期発見できる
経理や内部管理体制の課題を早期発見できる点も、任意監査のメリットです。業務が円滑に回っているように見えても、実際には属人化や手続きの形骸化が進んでいることがあります。
例えば、特定の担当者しか処理内容を把握していない場合、急な人事異動や退職が起きると業務に支障が出る可能性があります。任意監査では、こうしたリスクを表面化させ、改善が必要な箇所を整理することができます。問題が大きくなる前に手を打てる点は、安定した経営体制を維持するうえで重要な要素といえるでしょう。
投資家や取引先からの評価が向上しやすい
投資家や取引先からの評価が向上しやすい点も、任意監査を行うメリットです。企業の財務情報や管理体制は、外部から見ると実態が分かりにくい部分が多く、不透明さは不安要素になりがちです。
例えば、資金調達や新たな取引を検討する場面では、数字の根拠や内部管理の考え方について説明を求められることがあります。任意監査を実施していれば、一定の確認が行われている事実を示すことができ、説明の裏付けになります。内部監査を行う姿勢は、長期的な信頼関係の構築にもつながります。
任意監査のデメリットとリスク
任意監査のデメリットとリスクとして、以下のような点があることには注意しましょう。
- 経理や現場の負担が一時的に増える
- 監査の依頼費用が発生する
- 監査結果の扱いを誤ると社内の混乱を招く
ここでは、それぞれのデメリットやリスクについて詳しく解説します。
経理や現場の負担が一時的に増える
経理や現場の負担が一時的に増える点は、任意監査のデメリットのひとつです。監査を行う際には、帳簿や証憑の提出、業務内容の説明など、通常業務とは別の対応が必要になります。
例えば、過去の取引内容について根拠資料を整理したり、処理方法を改めて説明したりする場面が生じることがあります。その結果、経理担当者だけでなく、関連部署の業務量も一時的に増える傾向があります。ただし、こうした負担は監査期間中に集中するものであり、事前にスケジュールや役割分担を共有しておくことで、影響を抑えることも可能です。
監査の依頼費用が発生する
監査の依頼費用が発生する点も、任意監査に伴うリスクとして考慮が必要です。特に外部監査を依頼する場合、監査範囲や期間に応じて一定のコストがかかります。
例えば、決算書全体を対象とするのか、特定の会計処理や業務プロセスに限定するのかによって、費用は大きく変わります。目的があいまいなまま依頼すると、想定以上のコストが発生し、費用対効果が見えにくくなる可能性があります。そのため、任意監査を検討する際は、何を確認したいのかを整理したうえで、適切な範囲を設定することが重要です。
監査結果の扱いを誤ると社内の混乱を招く
監査結果の扱いを誤ると社内の混乱を招く点も、任意監査における注意点です。監査で指摘された事項は、改善に向けた材料として活用することが本来の目的ですが、伝え方や対応を誤ると誤解を生むことがあります。
例えば、個人の責任を過度に強調してしまうと、現場の萎縮や不信感につながる可能性があります。任意監査は組織全体を見直すための取り組みであることを共有し、指摘事項を前向きな改善課題として整理する姿勢が重要です。適切な対応を行うことで、混乱を避けつつ監査結果を有効に活かすことができます。
任意監査の進め方とポイント
任意監査の進め方とポイントとして、以下のような点を意識しましょう。
- 任意監査を実施する目的を明確にする
- 指摘事項への対応方針を決めておく
- 経理や関係部署へ早めに共有しておく
ここでは、それぞれの進め方とポイントについて詳しく解説します。
任意監査を実施する目的を明確にする
任意監査を実施する目的を明確にすることは、監査を有効に進めるための出発点です。目的があいまいなまま進めてしまうと、確認範囲が広がりすぎたり、期待する成果が得られなかったりする可能性があります。
例えば、上場準備を意識した体制整備なのか、特定の会計処理の妥当性確認なのかによって、必要な資料や監査の視点は大きく異なります。あらかじめ何を明らかにしたいのかを整理しておくことで、監査内容に一貫性が生まれ、関係者の理解も得やすくなります。目的を共有したうえで進めることが、任意監査を意味のあるものにするポイントです。
指摘事項への対応方針を決めておく
指摘事項への対応方針を決めておくことは、任意監査後の混乱を防ぐために重要です。監査では、想定していなかった課題や改善点が指摘されることも珍しくありません。例えば、内部管理の不備や処理方法の見直しを求められた場合、誰がどの範囲まで対応するのかを決めていないと、対応が後回しになりがちです。
任意監査の事前に、指摘事項は段階的に改善するのか、優先順位を付けて対応するのかといった方針を定めておくことで、監査結果を実務に反映しやすくなります。準備があることで、監査を前向きな改善の機会として活用できるでしょう。
経理や関係部署へ早めに共有しておく
経理や関係部署へ早めに共有しておくことは、任意監査を円滑に進めるうえで欠かせません。監査は経理部門だけで完結するものではなく、実際の取引や業務に関わる部署の協力が必要になります。
例えば、契約内容や業務フローについて説明を求められる場面では、現場の理解が不可欠です。事前に監査の目的やスケジュールを伝えておくことで、不要な不安や混乱を避けることができます。関係部署が状況を把握していれば、資料準備や対応もスムーズになり、監査全体の負担軽減にもつながります。
なお、任意監査の準備として決算業務がありますが、外部に依頼することで効率化も図れます。決算代行についてはこちらの記事も参考にしてください。

まとめ
任意監査は、法令上の義務がなくても企業が自らの課題や将来像に応じて活用できる点に特徴があります。法定監査との違いを理解したうえで目的を明確にし、内部監査と外部監査を適切に使い分けることで、財務情報の信頼性や内部管理体制の質を高めることができます。
一方で、実施には一時的な負担や費用が伴い、結果の扱い方次第では社内に混乱を生む可能性もあります。そのため、事前準備や関係部署との共有、指摘事項への対応方針を含めた進め方が重要です。任意監査を単なる確認作業に終わらせず、経営基盤を整えるための取り組みとして位置付けることが、継続的な成長につながります。なお、任意監査に必要な準備には経理代行会社を活用することもひとつの手です。
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任意監査に関するよくあるご質問
任意監査についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、任意監査に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
任意監査はいつ行うものですか?
任意監査は、法律で時期が定められているものではなく、企業の判断で必要なタイミングに行うものです。そのため、実施時期は企業ごとの状況によって異なります。また、決算期に合わせて行うケースもありますが、必ずしも年度末に限定されるわけではありません。自社の課題を整理したい時点で計画的に行うことが重要です。
任意監査と法定監査の違いは何ですか?
任意監査と法定監査の違いは、実施が義務かどうかにあります。法定監査は会社法や金融商品取引法に基づき、一定の要件を満たす企業に対して義務付けられている監査です。一方、任意監査は法律上の義務はなく、企業が目的に応じて自主的に実施します。範囲や内容を柔軟に設定できる点が任意監査の特徴といえます。
任意監査にはどのような種類がありますか?
任意監査には、内部監査と外部監査の2つがあります。内部監査は社内の担当者や部署が主体となり、業務実態に即した確認がしやすい点が特徴です。一方、外部監査は公認会計士や監査法人など第三者が実施するため、客観性を確保しやすくなります。経営改善であれば内部監査、外部説明であれば外部監査が選ばれます。