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歩引きは下請法で規制されている!違反事例や対処方法と下請け企業が受けるリスクを解説
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歩引きは下請法で規制されている!違反事例や対処方法と下請け企業が受けるリスクを解説

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企業間取引においてしばしば問題となる「歩引き」は、リベートや本部手数料と呼ばれることもあり、下請け企業にとって大きな負担となり得る慣行です。発注元との力関係から不利な契約を強いられることも多く、下請け企業は仕入や人件費の支払いに支障をきたす恐れもあります。

 

こうした取引は下請法によって規制されており、違反とされる事例も数多く報告されています。本記事では歩引きの仕組みやリスク、実際の違反事例に加え、持ち掛けられた際の対処方法や未然に防ぐためのポイントについても解説していきます。

 

歩引きとは?

歩引きとは、取引先に支払う代金から一定の割合や金額を差し引く商慣習のことを指します。例えば商品を納品した後に、本来の請求額から数%を差し引かれるようなケースが典型です。

 

一見すると値引きと似ていますが、値引きが取引成立前に価格交渉の一環として行われるのに対し、歩引きは契約後や納品後に発生することが多いため、下請け企業にとっては予想外の負担となる点が特徴です。この仕組みは発注元が優位な地位を背景に成り立つ場合が多く、公正な取引関係を損ねやすいため、法律によって規制の対象とされています。

 

歩引きは「リベート」や「本部手数料」とも呼ばれる

 

歩引きは、取引の場面によって「リベート」や「本部手数料」といった呼び方をされることがあります。例えば小売業界では販売促進のためにメーカーからリベートが支払われることがありますが、これが歩引きという形になると、納品代金から強制的に差し引かれる仕組みとなり、下請け企業の資金繰りを圧迫します。

 

またフランチャイズ契約では「本部手数料」として定期的に徴収されるケースがあり、実質的には歩引きと同様の役割を果たすことも少なくありません。名称が違っていても、取引の実態として代金が減額される点は共通しており、下請け企業にとって看過できない影響を及ぼすのが実情です。

歩引き取引の仕組みと流れ

歩引き取引は、まず通常の取引が成立し、商品やサービスの提供後に代金が支払われる段階で金額が差し引かれるという流れをたどります。例えば、納品が完了し請求書を発行しても、発注元から「販売促進費」や「協力金」といった名目で一部を控除され、実際の入金額が減るケースがあります。

 

表面上は相手の要請に応じた費用負担のように見えても、実態は一方的な値引きであることが少なくありません。このような仕組みは契約段階で明示されない場合も多く、下請け企業が取引継続を望むがゆえに受け入れざるを得ない構造となりやすいのが特徴です。そのため、資金計画の不透明さや不利益が生じやすい点が問題視されています。

歩引き取引が生まれた背景

歩引き取引が広がった背景には、発注元と下請け企業との間に存在する力の差があります。例えば大手小売業者や製造業者は、購買力や流通網を武器に取引条件を主導できる立場にあり、その結果として下請け側が不利な条件を受け入れる状況が生じました。

 

また、市場競争が激化する中でコスト削減を優先する企業が増え、協力金や販促費といった名目で歩引きが常習化した面もあります。本来であれば価格交渉によって調整されるべき部分が、発注元の優位な地位の濫用によって不透明な形で差し引かれるようになり、業界慣習として定着してしまったのです。

歩引き取引により下請け企業が受けるリスク

歩引き取引により下請け企業が受けるリスクとして、以下のような点に注意しましょう。

 

  • 一方的な値引き要求で疲弊する
  • 発注元の力が強く不利な契約になりやすい
  • 仕入や人件費の支払いに支障をきたしやすい

 

ここでは、それぞれのリスクについて詳しく解説していきます。

 

一方的な値引き要求で疲弊する

 

一方的な値引き要求は、下請け企業の経営を圧迫し続ける大きな要因となります。例えば納品後に突然「今回は販売促進費を理由に1割値引きしてほしい」と伝えられるような場面では、すでに発生した原価を見直すことはできず、その負担はそのまま下請け側にのしかかります。

 

このような要求は継続的に繰り返されることもあり、利益率の低下だけでなく、資金繰りや従業員の士気にも悪影響を与えます。取引を維持するためにやむを得ず応じてしまうケースも多く、結果として長期的に企業体力を奪いかねない点が問題視されています。

 

発注元の力が強く不利な契約になりやすい

 

発注元の力が強い場合、下請け企業は交渉の余地が乏しく、不利な契約を受け入れざるを得ない状況になりやすいといえます。例えば契約書に曖昧な条件が盛り込まれたまま契約が締結され、その後に「特別協力金」や「販売支援費」といった名目で追加の負担を強いられるケースがあります。

 

本来なら双方の合意のもとで取り決めるべき条件が、優越的な地位を背景に一方的に設定されることで、下請け企業は予期せぬリスクを抱えやすくなります。交渉力の差が大きいほど契約は発注元に有利に傾き、公正な取引関係が損なわれてしまうのが現実です。

 

仕入や人件費の支払いに支障をきたしやすい

 

歩引きによって収入が減ると、下請け企業は日々の資金繰りに直結する仕入や人件費の支払いに支障をきたす危険があります。例えば請求額の一部を突然差し引かれてしまえば、仕入先への支払い期日に間に合わなくなったり、従業員の給与を予定どおりに支給できない事態に陥ることもあります。

 

このような状況が繰り返されれば、信用力の低下や人材流出といった二次的な問題にも発展しかねません。本来であれば安定した経営の基盤となるはずの資金繰りが、歩引きによって不安定化することは、下請け企業にとって深刻なリスクといえるでしょう。

歩引き取引の条件は交渉次第で決まる

歩引き取引の条件は、発注元と下請け企業との交渉次第で決まる性質を持っています。例えば契約前に販売協力費として一定割合の控除が提示され、それを受け入れるかどうかで取引の行方が左右されるケースがあります。

 

しかし現実には、発注元の立場が強ければ下請け側が不利な条件を受け入れざるを得ない状況も少なくありません。そのため、条件交渉が形式的なものにとどまり、実質的には一方的に取り決められてしまうこともあります。こうした構造は取引の公正さを損ねやすく、歩引きの問題点を浮き彫りにする特徴のひとつといえるでしょう。

歩引き取引は下請法で規制されている

歩引き取引は、下請法によって一定の規制を受けています。例えば納品後に一方的に代金を減額するような行為は、優越的地位の濫用とみなされ、違法とされる可能性が高いといえます。

 

下請法は取引上の弱い立場に置かれやすい中小企業を保護するために制定されており、契約条件や支払方法について発注元が不当に決定することを防ぐ役割を担っています。それにもかかわらず、慣習として歩引きが温存される業界も存在し、違反事例が後を絶ちません。規制の趣旨を理解し遵守することは、健全な取引関係を維持するうえで欠かせません。

歩引き取引の違反事例

歩引き取引の違反事例として、以下のようなケースが想定されます。

 

  • ケース1:納品後の一方的な値引き
  • ケース2:受注の条件としての歩引き要求
  • ケース3:キャンペーン費用の肩代わり

 

ここでは、それぞれの違反事例における注意点を紹介します。

 

ケース1:納品後の一方的な値引き

 

納品後に一方的な値引きを求められるケースは、歩引き取引の典型的な違反事例といえます。例えば契約時には定められた価格で合意していたにもかかわらず、納品後に「市場価格が下がった」や「販売促進費の負担をお願いしたい」といった理由で請求額を減額されることがあります。

 

このような対応は下請け企業の経営を直撃し、資金繰りを不安定にするだけでなく、契約の信頼性そのものを損ないます。本来なら契約で確定した代金を受け取るのが当然であり、一方的な値引きは下請法で禁止されている行為です。

 

ケース2:受注の条件としての歩引き要求

 

受注の条件として歩引きを要求される事例も少なくありません。例えば新しい取引を始める際に「今後の発注を継続するためには販売協力金として代金の一部を差し引く」と告げられるケースがあります。

 

このような条件は表面的には双方合意のように見えても、実際には発注元の優位な立場を利用した強制に近いものであり、公正な契約関係とはいえません。下請け企業は取引を失いたくないがためにやむを得ず応じてしまうことが多いものの、下請法に抵触する可能性が高く、違反事例として扱われる典型的なパターンです。

 

ケース3:キャンペーン費用の肩代わり

 

キャンペーン費用を下請け企業に負担させる形で歩引きが行われることもあります。例えば発注元が販売促進イベントを実施する際、本来は主催者側が負担すべき広告宣伝費や割引費用を、下請けの代金から差し引いて補填するようなケースです。

 

一見すると共同で販促活動に取り組んでいるように見えますが、実態としては下請け側に一方的なコストを押し付けている構造になっています。こうした行為は取引の公平性を欠くだけでなく、継続的に行われれば下請け企業の利益を大きく削り、事業の存続を脅かす要因ともなり得ます。

歩引き取引を求められた際の対処方法

歩引き取引を求められた際の対処方法として、以下のような方法があります。

 

  • 歩引きを求められても拒否する
  • 弁護士や専門家に相談する
  • 悪質な場合は公正取引委員会に申告する

 

ここでは、それぞれの対処方法について詳しく解説していきます。

 

歩引きを求められても拒否する

 

歩引きを求められた場合でも、まずは毅然とした態度で拒否することが重要です。例えば納品後に「慣例だから」と代金の一部を差し引かれそうになった際に、そのまま受け入れてしまうと次回以降も同様の要求が繰り返される恐れがあります。

 

契約時に取り決めた条件に従い、正当な代金を支払うよう求めることで、公正な取引関係を維持する姿勢を示すことができます。発注元との関係を損ねないよう丁寧に説明しながらも、不当な要求には応じないことが長期的に事業を守るうえで欠かせない対応です。

 

弁護士や専門家に相談する

 

歩引きの要求にどう対応すべきか判断に迷う場合には、弁護士や専門家に相談することがおすすめです。例えば、契約書の条項が曖昧で発注元から歩引きを当然のように求められたとき、自社だけで対処しようとすると法律的な根拠に欠ける主張になりかねません。

 

専門家に相談することで、下請法や独占禁止法の観点から妥当性を検証し、必要に応じて交渉の方針を固めることができます。外部の知見を活用することで不当な取引条件に巻き込まれるリスクを減らし、より安心して事業を継続できる体制を整えることにつながります。

 

悪質な場合は公正取引委員会に申告する

 

歩引きの要求が悪質で繰り返し行われる場合には、公正取引委員会に申告することもできます。例えば、一度断ったにもかかわらず強い圧力をかけられたり、取引停止をちらつかせながら不当な費用負担を迫られるといったケースは、発注元の優位な地位の濫用にあたり違法性が高いと考えられます。

 

申告を行えば調査が入り、発注元に是正措置が求められる可能性があります。企業単独で対応するのが難しいときでも、行政の関与によって公正な取引環境が守られることが期待できるため、最後の手段として検討すべき方法です。

歩引き取引を持ち掛けられないようにするポイント

歩引き取引を持ち掛けられないようにするポイントとして、以下のような点を意識しましょう。

 

  • 発注前の見積書や契約書で金額を明記する
  • 下請法や独占禁止法の知識を持って方針を定める
  • 発注元に依存しない複数の取引先を確保する
  • 口頭での発注を避けて書面で残す

 

ここでは、それぞれのポイントを詳しく解説します。

 

発注前の見積書や契約書で金額を明記する

 

歩引きを防ぐためには、発注前の見積書や契約書に金額を明確に記載しておくことが基本です。例えば「後日協議のうえ調整」といった曖昧な表現を残してしまうと、納品後に一方的な減額を求められる余地が生まれてしまいます。

 

事前に金額や支払い条件をはっきりと示しておくことで、取引後にトラブルとなるリスクを最小限に抑えることができます。契約の段階で透明性を確保することは、下請け企業にとって安心して取引を継続するための土台となるでしょう。

 

なお、契約書の書き方についてはこちらの記事も参考にしてください。

 

契約書の作成でおさえておくポイント!書き方や注意点と必要な理由を解説
契約書の作成でおさえておくポイント!書き方や注意点と必要な理由を解説

 

下請法や独占禁止法の知識を持って方針を定める

 

歩引きに対抗するには、下請法や独占禁止法に関する知識を持ち、会社としての方針をあらかじめ定めておくことが欠かせません。例えば、納品後に協力金名目での値引きを迫られた場合も、法律上は違反にあたる可能性があると理解していれば、根拠を示して拒否することができます。

 

現場担当者が判断に迷わないように社内でルールを共有し、対応方針を統一しておくことが、取引先との関係を維持しながらも不当な要求を回避するために有効な手段となります。

 

発注元に依存しない複数の取引先を確保する

 

特定の発注元に依存しすぎないよう、複数の取引先を確保しておくことも歩引き対策として効果的です。例えば売上の大半を一社に依存している状況では、不利な条件を提示されても拒否しづらくなり、結果として歩引きを受け入れてしまうリスクが高まります。

 

複数の取引先と関係を築いておけば、万が一に、ひとつの会社との交渉が難航しても事業全体への影響を抑えることができます。さまざまな取引先を持つことで交渉力が高まり、健全で対等な取引環境を維持しやすくなるのです。

 

口頭での発注を避けて書面で残す

 

口頭での発注に頼らず、書面に残すことは歩引きの発生を未然に防ぐうえで重要です。例えば電話や会話だけで取引条件を決めてしまうと、後になって「そんな取り決めはしていない」と発注元から主張される可能性があり、不利な立場に追い込まれることがあります。

 

書面化しておけば条件が明確に記録として残り、支払いに関するトラブルが起きた際の証拠としても活用できます。記録を残す習慣は、歩引きを含む不当な要求を抑止する効果も持ち、安定した取引関係を築くうえで大きな意味を持ちます。

 

なお、取引の証拠となる書類のことを証憑とも呼びます。証憑についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。

 

証憑とは?証憑書類の種類・読み方・保存期間・帳票との違いを解説
証憑とは?証憑書類の種類・読み方・保存期間・帳票との違いを解説

まとめ

歩引きは発注元の優位な立場を背景に行われやすく、下請け企業に資金繰りや契約上のリスクをもたらす不公正な取引慣行です。下請法で規制されているにもかかわらず、納品後の値引きや協力金の要求といった違反事例は後を絶ちません。

 

対策方法としては拒否の姿勢を示すことや専門家への相談、公正取引委員会への申告などが挙げられます。さらに契約内容を明記し複数の取引先を確保するなど、未然に防ぐ工夫も重要です。また、取引先とのやり取りの効率化には、経理代行会社に相談することもひとつの手です。

 

弊社では、経理代行と記帳代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な記帳業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。

 

歩引きに関するよくあるご質問

歩引きについてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、歩引きに関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。

「歩引き」とはどういう意味ですか?

歩引きとは、取引代金から一定割合を差し引くよう発注元が下請け企業に求める慣行を指します。「リベート」や「本部手数料」、「協力金」といった名目で行われることも多く、通常の値引きとは異なり下請け側の利益を削る不当な取引となる場合があります。納品後に突然代金を減額されるといったケースが典型的です。

値引きと歩引きの違いは何ですか?

値引きは商品やサービスの提供前に双方が合意したうえで価格を下げる行為で、契約条件の一部として正当に認められるものです。これに対して歩引きは、契約後や納品後に発注元が一方的に代金を差し引く点に大きな違いがあります。歩引きは交渉の余地が乏しく、不公正な取引とされることが多いのです。

歩引きは違法ですか?

歩引きは状況によって違法となる場合があります。特に下請法では、発注元が優越的な立場を利用して下請け企業に一方的な減額を強いる行為を禁止しており、これに該当する歩引きは違反とみなされます。例えば納品後に「慣例だから」と代金を減額される場合や、取引の条件として協力金を求められる場合が典型です。

この記事の監修者

菊池 星

菊池 星

東北大学卒業後に野村證券株式会社入社。資産運用における法人営業成績では同世代で全国1位を獲得し、その後中小企業向けの財務コンサルタントに選抜される。2021年からは、金融・ITコンサルタントとして企業向けに活動を始め、2022年6月から株式会社 full houseをスタートさせる。コンサルティングの経験から、代表取締役として、経理代行・アウトソーシングの「ビズネコ」を事業展開している。