経理業務の効率化や、人材育成の観点から、経理業務の属人化の解消は今すぐにでも解決すべき課題のひとつです。経理業務が属人化することによって発生する無駄なコストや、人材の流動性の低下といった問題を解決することで、企業全体の生産性を向上させることができます。
この記事では、企業において経理業務の属人化がなぜ起こってしまうのかの原因と直面するリスクについて紹介します。また、属人化を解消することで得られるメリットについて詳しく解説します。加えて、属人化を解消するための具体的な方法もまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
目次
経理業務の属人化とは?
経理業務の属人化とは、特定の経理担当者に業務が集中し、担当者が持つ知識やスキルが組織全体で共有されていない状態になってしまうことです。経理が属人化した状況では、担当者以外が業務を正確に把握するのが難しくなり、業務の効率化や安定性に悪い影響を及ぼします。
経理業務の属人化が進むと、担当者が退職や部署異動で不在になった際に業務が停滞しやすくなることに加えて、新たな人材が業務に馴染むまで時間がかかるという問題が生じてしまいます。
さらに、特定の経理業務が担当者に依存する状況は、会計情報の透明性が失われる原因ともなり、全体の経営管理においてリスクを引き起こします。そのため、属人化は、経理業務を組織的かつ効率的に行ううえで大きな障壁となってしまうのです。
経理業務が属人化する原因
経理業務が属人化してしまう原因にはさまざまなものがありますが、代表的な原因として以下のような点があげられます。
- 人材不足により担当業務の幅が広い
- 業務内容がマニュアル化されていない
- ジョブローテーションがしづらい
人材不足により担当業務の幅が広い
経理業務の属人化は、しばしば人材不足によって加速されてしまいます。経理部門における人員が不足している組織では、ひとりの担当者が複数の業務を兼任する状況が生まれがちです。
特に、中小企業では限られた人材で多くの業務をカバーする必要があり、結果として業務が特定の担当者に集中してしまいます。このような環境では、あらゆる業務の専門性や効率性が求められる一方で、他の社員が経理業務を代行する余裕や機会がなくなりがちです。
その結果、担当者の不在時に業務が滞るリスクが高まり、組織全体の柔軟性が損なわれてしまうのです。経理の人材不足という状況を解消するには、人材配置の見直しや適切なサポート体制の整備が求められます。
業務内容がマニュアル化されていない
業務内容がマニュアル化されていないことは、属人化の大きな要因のひとつです。業務における手順が担当者の記憶や個人の経験に依存してしまっている場合に、担当者が持つ知識が組織内で共有されず、他の人が代わりに業務を行うことが困難になります。
特に、経理業務では、法令遵守や正確性が求められるため、手順の標準化やテキスト化が欠かせません。しかし、日常業務の忙しさからマニュアル作成が後回しにされるケースも少なくありません。
この結果、新人が業務を学ぶのに時間がかかり、属人化が慢性的なものにされてしまいます。マニュアル化の徹底をすることで、効率化だけでなく、リスク管理や業務の安定化にもつながる重要な取り組みにつながります。
ジョブローテーションがしづらい
ジョブローテーションがしづらい環境も、経理業務の属人化を際立たせてしまいます。経理業務は専門性が高く、業務の習得に時間がかかるため、担当者を固定しやすい傾向があります。
また、担当者変更によるミスを懸念してローテーションを避ける組織も少なくありません。これにより、特定の担当者に業務が集中し、知識やノウハウが他の社員に広がらない状況が生まれます。
さらに、業務のローテーションが行われないことで、社員が幅広いスキルを身につける機会が失われ、組織全体の成長が止まってしまう可能性もあります。そのため、ジョブローテーションの推進には、計画的な人材育成や業務の引き継ぎにおける強化が求められます。
経理業務の属人化により直面するリスク
経理業務が属人化することで企業側が直面するリスクには、以下のような点があげられます。
- 急な退職で業務が滞る
- 不正やミスに気づきづらい
- 業務の改善につながりづらい
ここでは、それぞれのリスクについて詳しく解説していきます。
急な退職で業務が滞る
経理業務の属人化が進むと、特定の担当者に知識やノウハウが集中するため、その担当者が急に退職した場合に業務が滞るリスクが高まります。新しい担当者が業務を引き継ぐ際に十分な情報が共有されていないと、作業内容がわからなくなるだけでなく、重要な締め切りや税務申告などに遅れが生じる可能性があります。
また、引き継ぎに膨大な時間とコストがかかり、組織全体のパフォーマンス低下を招くこともあります。属人化のリスクを防ぐには、業務フローや手順を文書化し、全体で共有することで属人化を解消することが重要です。これにより、誰が担当しても一定の基準で業務を遂行できる仕組みが整い、突然の担当者変更にも柔軟に対応できます。
不正やミスに気づきづらい
経理業務の属人化は、不正やミスに気づきにくくなるリスクをもたらします。ひとりの担当者が業務を完全に把握している場合、他の人がその作業内容を十分にチェックできず、透明性が欠如することがあります。
その結果、故意または無意識のミスが見逃される可能性が高まり、財務情報の信頼性が損なわれることがあります。不正に関しても、監視が行き届かない環境では悪意を持った行為が発生しやすくなります。
不正やミスを防ぐためには、業務を複数人で分担し、適切なチェック体制を構築することが欠かせません。また、定期的な監査や外部の第三者による検証を導入することで、業務の透明性と正確性を高めることができます。
業務の改善につながりづらい
属人化された経理業務では、業務改善のチャンスが失われることが少なくありません。担当者が自分のやり方に固執することで、新しいツールやプロセスの導入が進まず、非効率な作業が長期化することがあります。
また、他の社員が業務内容を把握していない場合、改善案を提案することも難しくなります。さらに、属人化が進むと業務の全体像が見えにくくなるため、ボトルネックの特定や効率化のための具体的な手段を見出すことが困難です。
このような状況を防ぐには、定期的に業務内容を見直し、関係者全員で共有する仕組みを構築することが重要です。これにより、新しい視点を取り入れた改善活動が可能となり、業務全体の効率化につながります。
経理業務の属人化を解消するメリット
経理業務の属人化を解消することで、以下のようなメリットが得られます。
- 退職や異動時にスムーズに引き継げる
- ムダなコストの削減ができる
- 日々のルーティン業務を効率化できる
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説していきます。
退職や異動時にスムーズに引き継げる
経理業務の属人化を解消することによって、社員の退職や異動時に業務の引き継ぎがスムーズに行えます。特定の担当者に依存していた業務が標準化やマニュアル化されることで、新しい担当者が業務内容を素早く理解でき、円滑に業務を引き継ぐことが可能になります。
引き継ぎのプロセスを効率化することで、業務の滞りを防ぎ、次の担当者がすぐに業務を開始できるようにするため、会社全体の生産性も維持できます。
また、引き継ぎ作業にかかる時間やコストも削減でき、会社の業務運営におけるリスクが低減します。引き継ぎの効率化が積み重なることで、経理部門全体の運営効率も向上します。
ムダなコストの削減ができる
経理業務の属人化が解消されることで、無駄なコストを削減することができます。属人化した業務では、特定の担当者がいないと業務が停滞し、他の部署の社員がその業務を代わりに行うことになります。そのため、時間や人件費が無駄に消費されることになります。
しかし、業務を標準化し、ツールやシステムを導入することで、効率的に業務を進めることができ、余分なコストを抑えることが可能になります。例えば、重複作業の削減や、ルーティン業務の自動化により、人的リソースを最適に配分することができ、結果的に経費削減につながります。このように、経理業務の効率化はコスト削減にも貢献するといえるでしょう。
日々のルーティン業務を効率化できる
経理業務の属人化を解消することで、日々のルーティン業務を効率化できる点もメリットです。これまで手作業や個人の経験に依存していた業務が標準化されることにより、作業時間を大幅に短縮できます。
また、ツールやソフトを活用することで、定型業務の自動化やミスの削減が進み、より効率的に作業を進めることができます。経理業務の流れがスムーズになれば、担当者は余裕を持って業務をこなすことができ、企業のコアとなる他の重要な業務に集中することができます。
これにより、業務の精度が向上し、経理部門全体の生産性が向上することが期待できます。さらに、効率化により、業務負担が軽減され、チーム全体の士気も向上するでしょう。
経理業務の属人化を解消する方法
経理業務の属人化を解消するには、以下のような方法が有効です。
- 抱えている業務を洗い出す
- 「一人経理」の状態をなくす
- 経理業務のペーパーレス化を進める
- 経理業務をマニュアル化する
- 経理代行会社を活用する
ここでは、それぞれの方法について詳しく解説していきます。
抱えている業務を洗い出す
経理業務の属人化を解消する第一歩は、現在抱えている業務をしっかりと洗い出すことです。まずは、各担当者が日々行っている業務内容を詳細に把握し、何が重要な業務で、何が非効率的な作業かを明確にする必要があります。
洗い出した業務の中には、重複している作業や不要な手順が見つかることも多く、それらを整理し改善することで、業務の効率化が進みます。また、業務の洗い出し作業を行うことで、どの部分が誰でも対応可能であるかを把握し、属人化のリスクを減らすための改善策を立てることができます。
洗い出しのプロセスを通じて、業務全体を見直し、どの作業を標準化すべきかを判断し、最適な経理体制を構築していくことが可能となります。なお、業務フローの洗い出しについては、以下の記事も参考にしてください。
「一人経理」の状態をなくす
「一人経理」の状態をなくすことも、経理業務の属人化を解消するために重要な対策です。単独で経理業務を担当する場合、業務負担が大きくなり、万が一退職なので、その担当者が不在になると、業務が滞ってしまいます。
経理業務が滞ってしまうリスクを回避するためには、業務を複数の担当者で分担し、協力体制を築くことが求められます。経理部門内でのタスクの分担や、複数人で対応できる体制を整えることで、どの担当者が休暇を取っても業務がスムーズに進むようになります。
また、担当者がいないと進まない業務が減少するため、経理業務の属人化を防ぎ、組織全体の業務効率が向上します。複数人で業務をカバーすることで、柔軟で安定した経理体制を確立することが可能になります。「一人経理」の課題については、こちらの記事も参考にしてください。
経理業務のペーパーレス化を進める
経理業務のペーパーレス化は、業務の効率化と属人化の解消につながります。書類の管理や帳簿の記録をデジタル化することで、紙の書類に頼ることなく、どこからでもアクセスできるようになります。
デジタル化された環境を整えることで、業務の進行がスムーズになり、書類紛失のリスクや管理の手間も軽減されます。また、ペーパーレス化により、データの共有が簡単になり、担当者間でのコミュニケーションが円滑に進みます。
加えて、経理業務がオンラインで完結することで、リアルタイムでの情報共有や業務の進捗状況の把握がしやすくなり、属人化も解消されます。紙の管理にかかるコストやスペースを削減できるため、企業全体のコスト削減にもつながります。なお、ペーパーレス化については、こちらの記事も参考にしてください。
経理業務をマニュアル化する
経理業務をマニュアル化することは、業務の属人化を解消するために欠かせません。マニュアル化によって、業務フローや処理手順が明確になり、誰が担当しても同じ結果を出せるようになります。
業務内容が標準化されることで、経理担当者が異動したり休暇を取ったりしても、他のスタッフがスムーズに業務を引き継ぐことが可能です。なお、マニュアルは、作業手順だけでなく、注意点やコツも盛り込むことで、より実践的で効果的なものになります。これにより、業務の品質が均一化され、担当者間でのばらつきを減らすことができます。
また、マニュアル化された業務は、新しい担当者にとっても実践しやすく、いち早く業務に慣れることができます。経理のマニュアル化についてはこちらの記事も参考にしてください。
経理代行会社を活用する
経理業務の属人化を解消する手段として、経理代行会社の活用も効果的です。経理代行会社とは、企業の経理業務を外部の専門家に委託することで、業務の効率化を図るサービスです。社内で経理業務を担当していた社員の負担が軽減され、業務の専門性が向上します。
また、経理代行会社を活用することで、最新の税務や会計の知識を持ったプロに対応してもらえるため、法令遵守や業務の精度も向上します。さらに、経理業務の一部を外部に委託することで、社内の経理部門はより重要なコア業務に集中でき、業務の効率も高まります。
そのため、経理代行の活用は、経理業務の属人化を防ぎ、企業全体の業務の安定性と生産性を向上させる手段として有効な手段といえるでしょう。経理代行については、こちらの記事でも触れています。
まとめ
経理業務の属人化は、企業にとって大きなリスクです。人材不足や専門性の低下など、様々な問題を引き起こし、企業の成長を阻害する可能性があります。
このような状況を改善するためには、業務の標準化やシステム導入など、様々な取り組みが必要となります。しかし、自社だけでこれらの取り組みを進めるのは、時間やコストがかかり、難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。
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経理業務の属人化に関するよくあるご質問
経理業務の属人化についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、経理業務の属人化に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
経理の属人化を解消するにはどうすればいいですか?
経理の属人化を解消するためには、業務の標準化とマニュアル化が重要です。業務プロセスを可視化し、全員が同じ手順で作業を行えるようにすることで、特定の担当者に依存する状況を減らせます。また、定期的な教育や研修を実施し、チーム全体のスキルを向上させることも大切です。
経理部にジョブローテーションはありますか?
経理部門におけるジョブローテーションは、一般的に大企業でよく見られます。ジョブローテーションでは、社員がさまざまな業務を経験し、業務全体の理解を深めることができます。また、他の部署との連携も強化され、社員のスキル向上につながります。しかし、専門知識が必要な場合も多いため、実施が難しいことも多いです。
経理は異動が少ないですか?
経理部門は、他の部署と比較して異動が少ない傾向があります。経理業務は専門的な知識や経験を必要とするためです。しかし、異動が少ないことは、社員のモチベーション維持やスキルアップに課題があります。そのため、異動が少ない場合でも、ジョブローテーションや社内研修を活用して、スキルの幅を広げることが重要です。