
企業の経理や会計において欠かせないのが「計上」です。一見すると「記帳」と似ていますが、意味や役割には明確な違いがあります。
この記事では、計上と記帳の違いや、計上の3つのタイミングである発生主義・現金主義・実現主義について紹介します。また、売上計上・仕入計上における基準の種類やタイミングも詳しく解説しました。正確な計上のための注意点やポイントもまとめていますので、経理業務のミス防止や効率化に役立てましょう。
目次
計上とは?
計上とは、企業が発生した取引や経済的事象を会計帳簿に数値として反映させる行為を指します。単に現金のやり取りを記録するものではなく、発生したタイミングや内容に応じて、損益や財政状況に適切に反映させるための重要な手続きです。
例えば、ある月に商品を販売して請求書を発行した場合、その時点で売上として計上する必要があります。実際に代金が支払われるのは翌月であっても、会計上は請求した月に売上が発生したと認識するのが原則です。
このように、取引の実態に基づいてタイミングよく帳簿に記録することが、企業の経営状況を正確に把握するためには欠かせません。
計上と記帳の違い
計上と記帳はどちらも会計処理において欠かせない用語であり、似た意味で使われることも多いですが、実際には使われる場面や文脈に違いがあります。計上は「売上を計上する」や「費用を計上する」といったように、経営全体の視点で用いられることが多く、財務諸表にどのように反映させるかという判断を伴います。例えば、ある取引についてどのタイミングで収益や費用として認識するかを考える際に使われるのが「計上」です。
一方で記帳は、日々の取引を帳簿に記録する作業を指し、実務的で手続き的な意味合いが強く、経理担当者の業務の中で頻繁に使われます。つまり、計上は企業の会計方針に基づいた判断を含む行為であり、記帳はその判断に基づいて具体的に記録を残す作業といえるでしょう。
なお、記帳についてはこちらの記事もご覧ください。

計上の種類と3つのタイミング
計上には主に「いつ取引を帳簿に反映させるか」という観点から、発生主義・現金主義・実現主義という3つの考え方があります。これらは企業が収益や費用を認識するタイミングを決める基準となるもので、会計処理の前提として重要です。
例えば、同じ売上でも、商品を出荷した時点で計上するのか、代金を受け取った時点で計上するのかによって、業績の見え方が大きく変わることがあります。会計基準や業種によってどの考え方を採用するかは異なり、それによって計上の時期や処理方法も変わります。
発生主義
発生主義とは、現金の受け渡しの有無に関係なく、取引が発生した事実をもとに収益や費用を認識する会計の考え方です。企業会計では発生主義が基本とされており、取引の実態に即した財務状況を表すために用いられます。例えば、ある月に商品を納品して請求書を発行した場合、代金の入金が翌月であっても、売上は納品月に計上するのが発生主義です。
発生主義の考え方により、収益と費用を対応させて期間損益を正しく把握できるため、経営判断にとっても効果的です。ただし、取引の記録タイミングと実際の入出金のタイミングがずれることもあるため、帳簿管理には注意が必要です。
現金主義
現金主義は、現金の受け取りや支払いが実際に行われた時点で、収益や費用を計上する会計の方法です。現金の動きに連動して帳簿に反映するため、記録はシンプルで分かりやすく、個人事業主や小規模事業者などで広く使われています。
例えば、商品を販売してもその代金をまだ受け取っていない場合、現金主義では売上とはみなさず、入金があった段階で初めて売上として計上します。このように、実際の資金の流れを重視するため、資金繰りの把握には向いていますが、取引の実態を反映しにくいという側面もあります。企業会計では原則として発生主義が求められており、現金主義は飲食店や小売業などの事業者で用いられています。
実現主義
実現主義とは、取引が完了して収益として認識できる状態になった時点で、売上などを計上する考え方です。単に契約を結んだり注文を受けたりしただけでは収益とはみなされず、成果が確定し、対価を受け取る権利が明確になった段階で初めて計上します。
例えば、商品を出荷し顧客が受領を確認した時点や、サービスの提供が完了して請求可能な状態になった時点が、実現のタイミングとなります。これにより、将来不確実な取引を過大に評価することを防ぎ、財務情報の信頼性が高まります。特に上場企業や大企業では、この実現主義に基づいた収益認識が基本となっており、透明性と正確性の高い財務報告を支える重要な原則となっています。
売上計上とは?
売上計上とは、商品やサービスの提供により企業が得る収益を、会計上どのタイミングで売上として認識するかを決める処理のことです。適切なタイミングで売上を計上することで、財務諸表の信頼性が保たれ、経営状況を正確に把握できます。
例えば、商品を出荷した時点で売上とするか、顧客が受け取って確認した時点で売上とするかなど、業種や契約内容に応じて基準が異なります。売上の計上基準を誤ると、収益の過大計上や計上漏れが生じる恐れがあるため、慎重な判断が求められます。
売上計上の基準の種類
売上計上の基準として以下のような種類があげられます。
- 出荷基準
- 検収基準
- 検針基準
- 使用収益開始基準
- 役務提供完了基準
- 工事進行基準
- 工事完成基準
ここでは、それぞれの種類について詳しく解説していきます。ぜひ参考にしてください。
出荷基準
出荷基準とは、商品を顧客に向けて発送したタイミングで売上を計上する考え方です。商品が出荷されたことで販売活動が完了したとみなされる場合に適用され、主に製造業や卸売業、小売業などの物販系取引で広く使われています。
例えば、倉庫から商品を出荷した記録がある段階で売上を認識し、その後の入金や検収に関係なく処理を行うケースが該当します。この方法は、出荷という明確な証拠があるため管理しやすいメリットがありますが、返品や不良品リスクがある取引では慎重な対応が求められます。
検収基準
検収基準とは、顧客が納品された商品やサービスの内容を確認し、問題がないと正式に受け入れたタイミングで売上を計上する方法です。出荷や納品だけでは売上として認識せず、あくまでも検収の完了が必要とされます。
例えば、業務用機器を納入した後、顧客が性能確認や検品を終えて承認した日が売上計上日になるケースが該当します。この基準は、売上を確定的なものとして認識できるため、会計の正確性を高める手法として有効です。一方で、検収が遅れると売上計上も遅れるため、進捗管理と記録の徹底が求められます。
検針基準
検針基準とは、電気・水道・ガスなどの継続的なサービスを提供する業種で用いられる計上方法です。サービスの利用量をメーターで検針した時点をもって売上を計上します。
例えば、毎月20日に電力使用量を検針し、そのデータをもとに請求書を発行する場合、20日が売上計上日となります。定期的なサービス提供において、実際の使用実績を基に収益を認識できるため、計上の根拠が明確である点が特徴です。ただし、検針の精度やデータ管理の正確さが売上の正確性に直結するため、定期的な検証と業務体制の整備が重要です。
使用収益開始基準
使用収益開始基準は、顧客が商品やサービスの使用を開始し、経済的な便益を実際に得るようになったタイミングで売上を計上する方法です。主にリース契約やクラウドサービス、サブスクリプション型のソフトウェアなどで用いられます。
例えば、システム導入が完了し、顧客が本稼働を開始した日が計上日となるケースです。契約や提供準備だけでは売上を認識せず、実際の使用が開始された事実に基づくため、実態に即した収益認識が可能です。サービス開始日を明確にすることが、正確な会計処理につながります。
役務提供完了基準
役務提供完了基準は、サービスや業務の提供が完了した時点で売上を計上する考え方です。目に見えない成果を対象としたサービスに適用されます。例えば、コンサルティング業務や研修サービス、デザイン制作など、形のない役務を提供する業種で使われます。
契約に基づく業務が完了し、報酬を請求できる状態になった段階で売上を認識するため、提供の範囲や完了の定義を明確にしておく必要があります。作業が部分的に分割されている場合には、個別に完了を判定し、計上タイミングを慎重に管理することが求められます。
工事進行基準
工事進行基準とは、工事の進捗状況に応じて段階的に売上を計上する方法です。建設業やシステム開発など長期プロジェクトを扱う業種で使われます。例えば、全体工事費の40%が完了したと認められる段階で、40%分の売上を計上するという形です。
収益と費用を同じ期間に対応させやすく、経営状況をより正確に反映できる点がメリットです。ただし、進捗の評価には客観的な根拠が必要であり、見積の変更や作業遅延などによるずれが会計処理に影響を与えるため、綿密なプロジェクト管理と定期的な評価が欠かせません。
工事完成基準
工事完成基準は、工事や開発プロジェクトがすべて完了し、顧客への引き渡しが終わった時点で売上を一括して計上する方法です。例えば、ビル建設がすべて終了し、引き渡しと検収が完了した日をもって売上を計上するケースが該当します。
工事進行基準と異なり、途中段階での売上計上がないため、進行中の期間は売上がゼロに見えることになりますが、処理がシンプルであるため中小企業などで採用されることが多いです。なお、完成までの期間が長い場合は、資金繰りや業績管理に影響を与えることもあるため、注意が必要です。
仕入計上とは?
仕入計上とは、企業が商品や原材料などを購入した際に、それを会計上の費用や在庫として認識する処理のことを指します。仕入の実態が発生した時点で正しく計上することが、財務諸表の信頼性や経営判断の正確性につながります。
例えば、実際の入荷日や検収日を基準として仕入計上を行うことで、在庫のずれや原価管理のミスを防ぐことが可能になります。売上計上と同様に、企業の取引内容や業種によって基準の選び方が異なるため、契約条件や物流の実態を把握したうえで、最も適切なタイミングを見極めることが重要です。
仕入計上の基準の種類
仕入計上には、発送基準・入荷基準・検収基準など、複数のタイミングがあります。ここでは、それぞれの仕入計上の種類やタイミングについてメリットや注意点など詳しく解説します。ぜひ仕入計上の基準を策定する際の参考にしてください。
発送基準
発送基準とは、仕入先が商品を出荷した時点で仕入計上を行う方法です。商品が自社に到着していなくても、出荷の事実が確認できれば会計処理を進めることができます。
例えば、出荷日ベースで月次処理を行っている企業では、当月の出荷実績に基づいて仕入を計上し、売上との対応を取りやすくしています。この基準は、迅速な経理処理や棚卸資産の管理に役立つ一方で、商品の破損や誤配送といったリスクがある場合は慎重な運用が求められます。そのため、出荷記録の正確な管理と、実際の受領との整合性を保つ仕組みが欠かせません。
入荷基準
入荷基準とは、商品が実際に自社に到着し、倉庫などに受け入れられた時点で仕入計上を行う方法です。例えば、納品書や入荷伝票をもとに会計処理を行うケースが多く、物理的な受領が伴うため、在庫管理や物流業務との連携が取りやすいという特徴があります。
実際の取引内容が目に見える形で確認できるため、過不足の把握や棚卸との照合もしやすく、会計の正確性を高めることができます。ただし、入荷が月をまたぐ場合には、売上との対応がずれてしまう可能性があるため、月末処理時の対応には注意が必要です。
検収基準
検収基準は、納品された商品を自社が検品し、数量や品質に問題がないことを確認した時点で仕入を計上する方法です。例えば、製造業などでは、部品の寸法や性能を確認して正式に受け入れる検収作業を経て、はじめて会計処理を行うことが一般的です。
検収基準は、取引の実態に即した計上を行う点で信頼性が高く、返品やクレームのリスクを考慮できるメリットがあります。一方で、検収の遅延が発生すると仕入計上もずれるため、検品作業の効率化や記録の徹底が正確な経理処理において重要なポイントとなります。
正確な計上のための注意点とポイント
企業の健全な運営には、正確な計上が欠かせません。正確な計上のための注意点とポイントとして以下のような点があげられます。
- 売掛金・買掛金に注意する
- 二重計上や計上漏れに注意する
- 在庫のずれに注意する
- 計上の基準選びは慎重に行う
ここでは、それぞれの注意点やポイントについて詳しく解説します。
売掛金・買掛金に注意する
売掛金や買掛金は、取引の発生と実際の入出金が異なるタイミングで生じるため、正確な計上が求められる重要な項目です。例えば、売上を計上したにもかかわらず、売掛金が記録されていなければ、債権の管理ができず、資金回収の見通しも立たなくなります。買掛金についても、仕入計上と支払い義務の発生が一致していないと、支出の管理に誤差が生じ、キャッシュフローの予測に影響します。
帳簿と請求書や納品書などの書類を突き合わせて確認し、計上漏れや誤計上を防ぐことが正確な経理処理には不可欠です。
二重計上や計上漏れに注意する
取引の重複や漏れは、経理の正確性に大きく影響を与えるため、日々の記録を丁寧に行うことが必要です。例えば、請求書の内容を会計システムに入力したうえで、別の担当者が同じ情報を再入力してしまうと、同一取引が二重に計上されてしまいます。
一方で、請求書の確認が漏れた場合には、取引そのものが計上されないリスクもあります。こうしたミスは、決算数値の信頼性を損ねるだけでなく、税務調査などで問題になることもあるため、業務フローの見直しやチェック体制の強化が重要です。
在庫のずれに注意する
在庫の計上ミスは、仕入や売上といった他の会計項目にも波及しやすいため、慎重な管理が求められます。例えば、仕入を計上したにもかかわらず、実際の在庫に反映されていなかった場合、帳簿上の在庫数と実物が合わず、財務状況の正確な把握が困難になります。
逆に、実際に出荷した商品が未計上のまま在庫に残っていれば、利益や原価計算にも誤差が生じる可能性があります。定期的な棚卸やシステム上の在庫管理を徹底し、記録と現物の整合性を保つことが、計上の信頼性を高めることにもつながります。
計上の基準選びは慎重に行う
計上の基準は、企業の業種や取引形態によって最適な方法が異なるため、安易に判断せず慎重に選定することが大切です。例えば、売上を出荷基準で計上している企業が、検収基準の取引先と契約しているにもかかわらず、出荷日に売上計上を行えば、タイミングのずれによってトラブルや会計上の誤差が生じることになります。
基準選びを誤ると、決算内容の信頼性を損ねるだけでなく、税務リスクを抱えることにもなりかねません。業務の実態と照らし合わせて、根拠ある基準を設けることが重要です。
まとめ
計上とは、企業が発生した取引や経済的事象を会計帳簿に数値として反映させる行為を指します。計上には主に「いつ取引を帳簿に反映させるか」という観点から、発生主義・現金主義・実現主義という3つの考え方があります。
正確な計上を行うためには、売掛金・買掛金の管理や、二重計上や計上漏れに注意し、在庫のずれにも気を付けなければなりません。なお、計上の基準選びは慎重に行うことも大切であるため、経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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計上に関するよくあるご質問
計上についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、計上に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
計上とはどういう意味ですか?
計上とは、企業が取引を会計帳簿に金額として反映させる会計処理を指します。単なる現金のやり取りではなく、商品を販売した、仕入れた、サービスを提供したなどの事実をもとに、売上や費用として損益や財政状況に正確に反映させます。たとえば、商品を納品して請求書を発行した時点で売上として計上していきます。
計上と記帳の違いは何ですか?
計上と記帳はどちらも会計処理に関わる行為ですが、役割に違いがあります。計上は「売上計上」「費用計上」といったように、経営的判断に基づき、どのタイミングで収益や費用として認識するかを決定します。一方、記帳は日々の取引を帳簿に記録していく作業です。つまり計上は判断行為、記帳は記録行為という位置づけです。
仕入れの計上日はいつですか?
仕入れの計上日は、企業の会計方針や契約内容、取引の実態に応じて異なりますが、主に発送基準・入荷基準・検収基準が用いられます。発送基準では仕入先が出荷した時点で計上し、入荷基準では実際に商品が倉庫などに到着した時点で計上します。検収基準の場合は、受け入れた商品が問題ないと判断された時点で仕入とします。