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芸能事務所の経理とは?よく使う勘定科目や効率化のポイントを解説
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芸能事務所の経理とは?よく使う勘定科目や効率化のポイントを解説

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華やかなスポットライトを浴びる芸能事務所ですが、裏側では、タレントの活躍を支える経理担当者の方が、日々の膨大な取引を正確に処理しています。芸能事務所の経理業務は、一般企業とは異なる特徴を持ち、収入源の多様さや複雑な報酬体系、権利関係の取引など、専門的な知識と細やかな対応が求められます。

 

本記事では、芸能事務所における経理の基本業務から、よく使う勘定科目、業務を効率化するためのポイントまでわかりやすく解説します。これから芸能事務所の経理に携わる方や、経理業務の改善を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

 

芸能事務所における経理業務とは?

芸能事務所における経理業務は主に「日次業務(毎日の仕事)」「月次業務(毎月の仕事)」「年次業務(毎年の仕事)」にわけられます。それぞれの大事な仕事となるので、どのような業務があるのか理解しておきましょう。

 

芸能事務所の経理の日次業務

 

芸能事務所の経理における日次業務では、日々発生する収入や支出の記録が中心となります。例えば、所属タレントが出演したテレビ番組やイベントの出演料の入金処理、マネージャーが立て替えた交通費の精算、必要経費の現金支払いなどがあげられます。こうした取引を適切な勘定科目で仕訳し、帳簿に正確に記録することが大切な仕事です。

 

また、仮払金や未精算の経費など、小さな金額でも放置すると後々の確認が煩雑になるため、こまめなチェックと対応が求められます。業務の性質上、タレントごとの収支を管理するケースも多く、例えば同じ日に複数のタレントが異なる案件で活動していた場合、それぞれの取引を個別に管理する必要があります。

 

日々の業務が正確に行われているかどうかは、後の月次業務や年次業務の正確性にも関わってくるため、地道でありながらも大切な役割を果たしています。

 

芸能事務所の経理の月次業務

 

月次業務では、月末に向けた集計作業や管理資料の作成など、より広い視野での業務が求められます。例えば、その月に支払われた出演料や広告収入の集計を行い、各タレントごとの収支バランスを確認します。また、マネージャーやスタッフに支払われる給与の計算や、社会保険料や源泉所得税などの法定控除の処理も月次決算のタイミングで行われます。

 

その他にも、経費の確認や未払い請求書の処理、仮払金の精算状況をチェックし、月次での損益計算書やキャッシュフローの把握を通じて、事務所全体の経営状況を可視化することが目的となります。例えば、今月はCM出演の仕事が多くて収入が大きかったが、遠方ロケによる出張費も増加したといった分析が行われることもあります。こうした月次のサイクルをきちんと回すことで、経営判断の基礎となる正確な数字を提供することができるのです。

 

芸能事務所の経理の年次業務

 

年次業務は、1年間の経営活動の総まとめともいえる作業で、決算や税務申告の準備が中心となります。例えば、1年分の売上や経費の集計をもとに、貸借対照表や損益計算書などの財務諸表を作成し、税理士や会計士と連携して法人税や消費税の申告資料を整えます。

 

また、所属タレントやスタッフに対する源泉徴収票の発行や法定調書の作成も月次決算の時期に必要となる重要な業務です。加えて、年末調整や賞与計算、役員報酬の見直しといった人件費に関わる処理も含まれます。

 

例えば、タレントによっては国外での収入が発生しており、それに応じた処理を求められることもあり、特有の判断が必要となる場面も少なくありません。年次業務は、日々の記録や月次での集計が正確に行われていればスムーズに進められますが、どこかで記録ミスや未処理の項目があると対応に時間を取られることもあります。そのため、年間を通じた地道な業務の積み重ねが、年次業務を円滑に進めることにつながるでしょう。

芸能事務所でよく使う勘定科目と仕訳例

芸能事務所では、所属タレントの活動に関連した売上や経費が複雑であるため、他業種とは異なる勘定科目が多く使われます。以下の表では、芸能事務所でよく使われる勘定科目をまとめました。

 

勘定科目 内容 具体例
出演料収入 タレントの出演に対して支払われる報酬の収入 テレビ番組、CM、イベント出演による報酬
前受金 収録前やイベント開催前に受け取った出演料など イベント出演の契約時に受け取る内金
版権収入 著作権や肖像権の使用に関して得られる収入 写真集の販売印税、キャラクター使用料
外注費 外部のクリエイターやスタッフに支払う業務委託費 ヘアメイク、スタイリスト、カメラマンへの謝礼
旅費交通費 タレントやスタッフの移動にかかる費用 ロケやイベントでの新幹線・飛行機代、タクシー代
仮払金 支払い内容が未確定のまま一時的に渡すお金 マネージャーへの仮払交通費、海外出張時の先渡し費用
消耗品費 一定額以下の備品・事務用品などの購入費用 台本の印刷費、スケジュール帳、文具類
広告宣伝費 所属タレントや事務所自体のプロモーション費用 SNSプロモーション、広告掲載料
地代家賃 事務所のオフィスやスタジオの賃料 都内の事務所テナント料、レッスンスタジオの賃借料
支払手数料 金融機関や外部サービス利用時にかかる手数料 クレジット決済手数料、振込手数料
預り金 給与などから控除する税金や社会保険料 源泉所得税、健康保険・年金保険料などの控除分
未払金 物品やサービスの提供を受けたが未払の費用 ヘアメイクの謝礼の未払分、衣装レンタル費用の未払分

 

以下は、芸能事務所における仕訳の一例です。例えば、所属タレントがテレビ番組に出演し、出演料として500,000円の請求を行い、翌月に入金される場合を想定します。

 

仕訳例(出演が完了した12月)

 

借方科目 金額 貸方科目 金額
売掛金 500,000円 出演料収入 500,000円

 

仕訳例(翌月の入金時)

 

 

借方科目 金額 貸方科目 金額
普通預金 500,000円 売掛金 500,000円

 

このように、芸能事務所では出演が完了した時点で「出演料収入」として売上を計上し、実際の入金が翌月であっても「売掛金」で処理します。入金時には、カード会社や代理店からの振込額が手数料を差し引かれているケースも多く、差額に「支払手数料」が発生することもある点に注意しましょう。

芸能事務所の経理における特徴と課題

芸能事務所の経理における特徴と課題として以下のような点があげられます。

 

  • 所属タレントごとに収支管理が必要になる
  • 出演料や広告収入など収入源の幅が広い
  • 歩合制など報酬携帯の管理が煩雑になる
  • 現金精算や仮払金が多い
  • 著作権や肖像権に関する取引も生まれる

 

ここでは、それぞれの特徴と課題について詳しく解説します。

 

所属タレントごとに収支管理が必要になる

 

芸能事務所の経理では、所属タレントごとに細かな収支管理を行う必要があります。例えば、同じ月に複数のタレントが異なる番組に出演した場合、それぞれの出演料、交通費、衣装代などを個別に記録しなければなりません。

 

単に会社全体の売上や費用をまとめるのではなく、タレント単位で正確に管理することで、後日の報酬精算や内部分析、税務申告にも対応しやすくなります。また、タレント自身への支払いだけでなく、所属タレントの活動に付随する経費の立替えや仮払金も個別に管理することが求められます。このような事情から、通常の企業会計以上に細かい記録と迅速な処理が重要となります。

 

出演料や広告収入など収入源の幅が広い

 

芸能事務所では、収入源がさまざまであるため、経理業務も収入源に応じた対応が求められます。例えば、テレビ出演料だけでなく、雑誌のインタビュー記事掲載による報酬、ラジオ出演料、企業広告への起用料、SNSを通じたプロモーション契約料など、タレント活動の幅が広がると収入の形態も増えていきます。

 

そのため、それぞれの契約内容や支払い条件に応じた適切な売上計上が必要です。また、時には海外からの収入が発生することもあり、為替レートの管理や源泉徴収の取り扱いにも注意を払わなければなりません。収入源が多様であることは、事業機会を広げる一方で、経理面では管理の複雑さを増す要因ともなっています。

 

歩合制など報酬形態の管理が煩雑になる

 

芸能事務所においては、歩合制を採用しているケースが多く、報酬の計算や支払い管理が煩雑になる傾向があります。例えば、タレントの出演料が契約に基づき「事務所とタレントで7:3に分配する」という条件の場合、出演料の入金後にまず事務所の取り分とタレントへの支払額を分け、それぞれの会計処理を行う必要があります。

 

さらに、契約によっては源泉所得税を控除したうえで支払うケースもあり、金額計算がさらに細かくなります。歩合率が案件ごとに異なるタレントもいるため、一般的な給与計算システムだけでは対応できないことも少なくありません。このため、正確な契約内容の把握と、都度の計算ミスを防ぐための慎重な管理体制が必要とされます。

 

現金精算や仮払金が多い

 

芸能事務所の経理では、現金精算や仮払金の取扱いが多く発生するのも特徴のひとつです。例えば、ロケ地への移動費用や急遽必要になった衣装購入費など、タレントやマネージャーが立て替えた経費について、後日精算するケースが頻繁にあります。

 

事前に仮払金として現金を渡しておく場合もあり、その場合は仮払金の管理台帳と、実際の使用明細を突き合わせる必要があります。こうした日々の現金の動きが多くなると、管理ミスや不明金が発生するリスクも高まるため、経理担当者にはこまめな記録とスピーディな精算処理が求められます。

 

また、経費精算システムを活用して、タレントやマネージャー自身がスマートフォンなどから経費申請できるようにするなどの工夫も、業務効率化に役立ちます。

 

著作権や肖像権に関する取引も生まれる

 

芸能事務所では、タレントの活動に伴い著作権や肖像権に関する取引が発生することもあります。例えば、タレントが出版した写真集の売上から得られる印税収入や、企業がタレントの肖像を広告に使用する権利料の受け取りなどが該当します。これらの収益は、単なる出演料とは異なり、使用期間や範囲、再利用条件など、契約内容に応じた取り扱いが必要となるため、経理処理にも注意が求められます。

 

また、権利譲渡や二次使用料の精算が発生する場合には、一般的な売上とは別に管理しなければならないため、契約書に基づく正確な内容把握と、それに沿った仕訳処理が重要です。著作権や肖像権に関する取引は単発では終わらず、継続的なロイヤリティ支払いが発生することもあり、長期的な視点での管理も欠かせません。

芸能事務所の経理を効率化するポイント

芸能事務所の経理を効率化するポイントとして以下のような点があげられます。

 

  • タレント単位で管理できる会計システムを導入する
  • 経費精算システムをモバイル対応にする
  • 権利関係の会計処理ルールをマニュアル化する
  • 経理代行会社に相談してみる

 

ここでは、それぞれの効率化ポイントについて具体的に解説していきます。

 

タレント単位で管理できる会計システムを導入する

 

芸能事務所の経理を効率化するためには、タレント単位での管理が可能な会計システムの導入が役立ちます。例えば、複数のタレントがさまざまな収入源を持っている場合でも、それぞれの売上や経費、仮払金などを個別に記録や集計ができる機能を持ったシステムがあれば、管理がしやすくなります。

 

エクセルや手作業ではどうしてもミスが発生しやすく、確認作業にも多くの時間を要しますが、専用システムを導入すれば、収支データを瞬時に集計と可視化をすることが可能です。また、タレントごとの損益管理ができれば、事務所としての戦略立案にも役立つため、単なる経理業務の効率化にとどまらず、経営面でもプラスになります。なお、会計システムの選び方についてはこちらの記事もご活用ください。

 

クラウド会計のメリットデメリットは?従来の会計ソフトとの違いを解説
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経費精算システムをモバイル対応にする

 

日々の経費処理をスムーズにするためには、経費精算システムをモバイル対応にするのも効果的な方法です。例えば、タレントやマネージャーが外出先で立て替えた交通費や食事代などを、その場でスマートフォンから簡単に申請できる仕組みを整えれば、申請漏れや領収書紛失のリスクを減らせます。

 

従来のように手書きの申請書にまとめて提出する方法では、事務所に戻るまでに時間がかかり、経理担当者も確認作業に手間取ってしまうことがありますが、モバイル対応ならリアルタイムで情報が共有されるため、精算スピードが上がります。さらに、承認フローもオンライン化できるため、責任者の不在による遅延も防ぐことができるでしょう。

 

なお、経費精算システムの選び方についてはこちらの記事も参考にしてください。

 

経費精算システムの選び方とは?導入のメリット・デメリットを解説
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権利関係の会計処理ルールをマニュアル化する

 

芸能事務所の経理では、著作権や肖像権に関する取引が頻繁に発生するため、会計処理ルールをマニュアル化しておくと業務がスムーズになります。例えば、写真集の印税収入や広告における肖像使用料などは、契約内容に応じた売上計上や源泉徴収の処理が必要です。個別対応に頼っていると処理のバラつきが生じ、後々トラブルになるリスクもあります。

 

しかし、あらかじめ「こういう場合はこう仕訳する」という基準を文書化しておけば、誰が担当しても一定の精度を保つことができます。また、マニュアルがあることで新任スタッフへの教育もスムーズになり、担当者の異動や退職があっても業務の引き継ぎがシンプルになるというメリットもあります。なお、経理のマニュアル化については以下の記事も参考にしてください。

 

経理マニュアルの作り方!作成時の注意点とマニュアル化の重要性を解説
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経理代行会社に相談してみる

 

経理リソースが不足している場合や、より専門的な知識が必要とされる場面では、経理代行会社に相談してみるのもおすすめです。例えば、タレントが急増して個別管理が追いつかなくなってしまい、記帳や仕訳の業務がたまってしまうこともあるでしょう。

 

そうしたとき、経理代行会社にアウトソースすることで、業務の正確性とスピードを維持しながら、コア業務に集中できるようになります。必要な部分だけ依頼できるプランも多いため、状況に応じて柔軟に活用することが可能です。なお、経理代行会社については以下の記事でも詳しく解説しています。

 

経理代行とは?サービス内容・メリット・選び方を詳しく解説
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まとめ

芸能事務所の経理では、所属タレントごとに収支管理が必要にあり、出演料以外にも広告収入や出版など権利関係の収益もあります。加えて、歩合制などもあるため、売上の見通しをつけることが難しい点も課題といえるでしょう。

 

芸能事務所の経理を効率化するためには、タレント単位で管理できる会計システムを導入することや、経費精算をモバイル対応にすることがポイントです。また、会計処理のルールをマニュアル化することで、経理担当者の負担を削減することもよいでしょう。。なお、経理代行会社の活用を検討することもひとつの手です。

 

弊社では、経理代行と記帳代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な記帳業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。

 

芸能事務所の経理に関するよくあるご質問

芸能事務所の経理についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、芸能事務所の経理に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。

芸能事務所の経理の仕事内容は何ですか?

芸能事務所の経理は、タレントの出演料や広告収入の管理、経費精算、税金や社会保険料の処理などの業務を担います。例えば、タレントごとの売上管理や、著作権収入に関する会計処理も重要な仕事のひとつです。また、外部への支払いや立替経費の管理も日常的に発生するため、正確な記録とスピーディな処理が求められます。

芸能事務所の経理に必要なスキルは何ですか?

芸能事務所の経理には、基本的な簿記スキルはもちろん、タレント個別の収支を正確に管理するための高い精度とスピードが求められます。タレントやマネージャーと直接やりとりする場面もあるため、コミュニケーション能力や、状況に応じた柔軟な対応力もスキルとして求められるでしょう。

芸能事務所の経理に向いている人はどんな人ですか?

芸能事務所の経理に向いているのは、細かい数字を正確に扱うことが得意で、変化の多い環境にも柔軟に対応できる人です。例えば、スケジュール変更や急な収入発生にも冷静に対応し、ミスなく処理を進められる慎重さが求められます。また、権利関係や収益構造に興味を持ち、専門知識を積極的に吸収できる姿勢も大切です。

この記事の監修者

菊池 星

菊池 星

東北大学卒業後に野村證券株式会社入社。資産運用における法人営業成績では同世代で全国1位を獲得し、その後中小企業向けの財務コンサルタントに選抜される。2021年からは、金融・ITコンサルタントとして企業向けに活動を始め、2022年6月から株式会社 full houseをスタートさせる。コンサルティングの経験から、代表取締役として、経理代行・アウトソーシングの「ビズネコ」を事業展開している。