巷では「経理DX」という言葉が話題に上がっています。しかし、具体的にどういった取り組みを指すのかわからないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)について、IT化との違い、経理部門のDX化が推進される背景を踏まえて紹介します。また、経理DXの始め方や求められる理由、導入するメリットや成功の秘訣についても詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して、企業や組織のビジネスモデルや業務プロセスに根本的な変革を与えることを指します。
単なる業務のデジタル化に留まらず、デジタル技術を駆使して新しい価値や競争優位性を創出することが目的です。具体的には、AIやIoT、ビッグデータ解析、クラウドコンピューティングなどの先端技術を活用し、製品やサービスの革新、顧客体験の向上、業務効率の最大化を図ります。
DXは、企業が市場の変化に迅速に対応し、競争力の維持や向上をさせるための必要不可欠な戦略とされています。また、DXの推進には、組織全体の文化や思考の変革も重要であり、従来の枠組みを超えた新たな発想と柔軟な対応が求められます。これにより、企業は持続的な成長と発展を実現し、社会全体にも大きな影響を与えることが期待されています。
DXとIT化の違い
DXとIT化は、一見すると似たような概念に思えますが、その目的と範囲には明確な違いがあります。
IT化は、業務プロセスやサービスの一部をデジタル技術によって効率化することを指し、主にコスト削減や作業の迅速化が目的です。例えば、紙の書類を電子化してデータベースに保存する、手作業の業務をソフトウェアで自動化する、といった具体的な取り組みがIT化に該当します。
一方、DXはこれをさらに一歩進め、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルそのものを変革し、新たな価値創出や市場競争力の強化を図ることが目的です。DXの取り組みでは、AIやビッグデータ、IoTなどの先端技術を活用し、製品やサービスのイノベーションを促進し、顧客体験の向上や新しいビジネスチャンスの創出を目指します。
このように、IT化が既存業務の効率化に重点を置くのに対し、DXは企業全体の変革と進化を目指す点で本質的に異なります。
経理DXとは?
経理DXとは、デジタル技術を駆使して経理業務を根本的に変革し、業務の効率化と精度向上を図る取り組みです。従来の経理業務は、手作業や紙ベースの処理が多く、時間と労力がかかる上にヒューマンエラーのリスクも伴っていました。
経理部門におけるDX化としては、クラウド会計ソフト、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)、AIを活用したデータ分析などの技術を導入し、日常的な経理作業の自動化があげられます。
これにより、経理担当者はルーチンワークから解放され、より戦略的な業務に注力することが可能となります。
また、リアルタイムでのデータ処理と分析が可能となるため、経営層は迅速かつ正確な意思決定を行うことができます。経理DXは、単なる業務効率化にとどまらず、企業全体の競争力強化や持続可能な成長を支える重要な要素となっています。
経理部門のDX化が推進される背景
経理部門のDX化が推進される背景には、いくつかの要因が存在します。
まず、ビジネス環境の急速な変化と競争の激化が挙げられます。企業は迅速な意思決定を求められており、従来の手作業による経理業務では対応が難しくなっています。
次に、テクノロジーの進展により、クラウド会計ソフトやRPA、AIといった先端技術が手軽に導入可能となり、これらを活用することで業務の効率化と精度向上が期待できる点です。
さらに、働き方改革や労働力不足の問題も大きな要因です。とくに、経理業務は複雑で時間がかかるため、人手不足の影響を強く受けやすく、DX化により人的リソースに依存しない仕組みを構築することが求められています。
これに加えて、コロナ禍によるリモートワークの普及も後押ししています。リモート環境下でもスムーズに業務を遂行できるよう、経理業務のデジタル化が急務となっています。
これらの要因が重なり、経理部門のDX化が推進されています。なお、経理の将来性については、こちらの記事もご覧ください。
経理部門のDX化の意義と必要性
経理部門のDX化には、さまざまな意義と必要性があります。
まず第一に、業務効率の大幅な向上が挙げられます。デジタル技術を活用することで、日常の経理業務が自動化され、作業時間を大幅に削減できます。これにより、経理担当者は日々の単純作業から解放され、より戦略的なコア業務に集中できるようになります。
次に、データの正確性と透明性の向上です。デジタル技術により、リアルタイムでのデータ入力や処理が可能となり、ヒューマンエラーのリスクが減少します。また、DX化によりデータの一元管理が進むことで、透明性が高まり、迅速な意思決定が可能となります。
さらに、経理DXは企業の競争力強化にもつながります。スピーディかつ正確な会計データを基にした経営判断が可能となるため、市場の変化に柔軟に対応できるようになります。
加えて、働き方改革やリモートワークの推進にも対応できるため、労働力不足や現代の多種多様な働き方への対応が進みます。
このように、経理部門のDX化は、企業の持続可能な成長と発展を支える重要な取り組みとして、その意義と必要性がますます高まっています。
経理DXが求められる理由
多くの企業で経理DXが求められる理由には、以下のような点があげられます。
- 「2025年の崖」問題への対策
- 経理業務における属人化の解消
- ペーパーレス化によるSDGsへの貢献
- 企業のグローバル展開の加速
- 改正電子帳簿保存法・インボイス制度への対策
「2025年の崖」問題への対策
「2025年の崖」とは、経済産業省の「DXレポート」で提唱された問題です。日本の企業が旧式のシステムを維持し続けた場合に直面する経営危機を指します。
この問題に対処するためには、経理DXが不可欠です。経理業務のデジタル化により、旧システムへの依存から脱却し、最新のテクノロジーを活用することで、業務効率を高めつつ迅速かつ正確な意思決定が可能となります。これにより、企業は競争力を維持し、持続的な成長を実現できます。
経理業務における属人化の解消
経理業務における属人化の解消は、経理DXの重要な目的のひとつです。属人化とは、特定の社員に業務が集中し、その人がいないと業務が滞る状態を指します。
経理DXにより、業務プロセスが標準化され、デジタル化されることで、誰でも同じように業務を遂行できる環境が整います。これにより、業務の一貫性と効率性が向上し、経理担当者の異動や退職時にもスムーズな引き継ぎが可能となります。
なお、経理の属人化として「一人経理」と呼ばれる状況もみられます。「一人経理」について詳しくはこちらをご覧ください。
ペーパーレス化によるSDGsへの貢献
ペーパーレス化は、経理DXの一環として推進される取り組みであり、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献にも繋がります。紙の使用量を削減することで、森林資源の保護や二酸化炭素(CO2)の排出量削減に貢献し、環境負荷を軽減します。
また、デジタルデータの活用により、業務効率が向上し、無駄なコスト削減にもつながります。その結果、企業は持続可能な経営を実現し、社会的責任を果たすことができます。
企業のグローバル展開の加速
企業のグローバル展開を加速するためにも、経理DXが必要不可欠です。デジタル技術を活用することで、各国の異なる会計基準や税制に迅速に対応でき、グローバルな経理業務の一元管理が可能となります。
これにより、国際的な競争力を強化し、新たな市場への進出や現地法人の迅速な設立が実現します。また、リアルタイムでの財務データの把握が可能となるため、経営判断のスピードと精度も向上します。
改正電子帳簿保存法・インボイス制度への対策
改正電子帳簿保存法やインボイス制度への対応は、経理DXの推進において重要な課題です。これらの法改正により、電子データの保存や適切なインボイス(請求書)の発行が求められるため、企業のDX化やデジタル化が必要不可欠です。
経理DXを通じて、これらの法的要件に対応するシステムを整備することで、法令遵守と業務効率の両立が可能となります。また、デジタル技術を活用することで、監査対応や税務調査の際にもスピーディかつ正確な対応できて、不正防止にもつながります。
経理DXを導入するメリット
経理部門におけるDX化を導入するメリットには、大きく以下のようなものがあります。
- 業務の効率化とコスト削減
- 迅速な経営分析や意思決定
- ガバナンスやコンプライアンスの強化
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
業務の効率化とコスト削減
経理DXにより、手作業の多い経理業務が自動化され、業務プロセスが大幅に効率化されます。これにより、データ入力や帳簿管理にかかる時間と労力が削減され、人件費や運用コストの削減が実現します。
また、デジタル化によってエラーが減少し、再作業の手間も減少します。結果として、企業全体の生産性向上が図れ、コスト削減につながります。
迅速な経営分析や意思決定
経理DXを導入することで、リアルタイムで正確な会計データの収集と分析ができるようになります。これにより、経営陣はスピーディに的確な意思決定が可能となり、変化する市場環境にも柔軟に対応できます。
デジタル技術を活用したデータ分析により、経営戦略の立案や業績の予測も可能であり、企業の競争力が向上します。その結果、迅速な情報共有も可能となり、組織全体の連携が強化されます。
ガバナンスやコンプライアンスの強化
経理DXは、企業のガバナンスやコンプライアンスの強化にも大きなメリットをもたらします。デジタル化により、データの一元管理と監視が容易になり、不正防止や内部統制の強化が可能となります。
また、法規制への迅速な対応や監査対応が効率的に行え、法令遵守が確実に担保されます。これにより、企業の信頼性が向上し、リスクマネジメントの強化も図れます。
経理DXの始め方と手順
経理DXを始めるには以下のステップで進みます。
- step1:経理DXの目的や目標を決める
- step2:既存の書類を電子化する
- step3:業務プロセスの自動化を検討する
- step4:電子契約やツールを導入する
- step5:ガバナンスや運用ルールのPDCAを回す
step1:経理DXの目的や目標を決める
経理DXの最初のステップは、デジタル化の目的や目標を明確に設定することです。企業は、業務効率の向上やコスト削減、データの正確性向上など、具体的な成果を定義する必要があります。
これにより、プロジェクトの進捗を測定し、成功を評価する基準を確立できます。また、関係者全員が同じ目標に向かって取り組むための共通認識を持つことが重要です。
step2:既存の書類を電子化する
次に、既存の紙ベースの書類を電子化することが必要です。これには、スキャンやOCR技術(画像データをテキストデータに変換する技術)を活用して書類をデジタルデータに変換し、電子ファイルとして保存するプロセスが含まれます。
電子化により、書類の検索や共有が容易になり、保管スペースの削減や紛失リスクの低減が実現します。また、デジタルデータは分析や報告書作成に活用でき、業務の効率化が図れます。
step3:業務プロセスの自動化を検討する
経理DXの次のステップは、業務プロセスの自動化を検討することです。これには、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIを活用して、データ入力や集計、報告書作成などの反復的な作業を自動化する方法が含まれます。
自動化により、ヒューマンエラーのリスクが減少し、経理担当者はより戦略的な業務に専念できるようになります。また、業務のスピードと正確性が向上し、全体の効率が大幅に改善されます。
step4:電子契約やツールを導入する
次に、電子契約やその他のデジタルツールを導入します。電子契約システムを活用することで、契約書の作成、署名、保管を全てオンラインで行うことができ、プロセスが迅速かつ効率的になります。
また、クラウド会計ソフトやデータ分析ツールなど、業務に適したデジタルツールを選定し、導入することで、経理業務のさらなる効率化と精度向上が期待できます。これにより、業務の透明性と一貫性も高まります。
step5:ガバナンスや運用ルールのPDCAを回す
最後に、ガバナンスや運用ルールのPDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを回すことが重要です。経理DXの導入後も、定期的に運用状況を見直し、改善点を特定して適切な対応を行います。
これにより、経理業務の効率化と正確性を維持しつつ、常に最適な状態を保つことができます。また、法令遵守や内部統制の強化にもつながり、企業全体の信頼性を向上させます。
経理DXを成功に導くポイント
経理部門におけるDVを成功に導くには、以下のようなポイントを意識することが大切です。
- 経理DXを推進する目的を明確にする
- 経営者の視点を持って検討する
- 全社規模での協力体制を構築する
ここでは、それぞれのポイントを詳しく解説します。
経理DXを推進する目的を明確にする
経理DXを推進するためには、その目的を明確にすることが重要です。具体的には、業務効率の向上、コスト削減、データの正確性向上、迅速な意思決定の支援など、何を達成したいのかを明確に設定します。
目的を明確にすることで、プロジェクトの方向性がブレず、関係者全員が同じ目標に向かって取り組むことができます。その結果、経理DXの成功に直結します。
経営者の視点を持って検討する
経理DXを成功させるためには、経営者の視点を持って検討することが必要不可欠です。経理部門だけでなく、企業全体の戦略や目標と整合性を持たせ、デジタル化がもたらす全体的なメリットを検討します。
経営層の理解と支援があれば、必要なリソースや予算の確保が容易になり、プロジェクトの実行力が高まります。経営者視点での検討が、長期的な成功を支える鍵となります。
全社規模での協力体制を構築する
経理DXの成功には、全社規模での協力体制が必要です。経理部門だけでなく、他部門との連携や情報共有が不可欠であり、全社的なサポートがあることで、デジタル化の効果を最大限に引き出せます。
各部門が協力し合い、相互に補完し合うことで、経理DXはひとつの部門だけでの改革に留まらず、企業全体の業務効率化と競争力強化につながります。全社的な協力体制の構築が、プロジェクトの成功を支えるといえるでしょう。
まとめ
経理部門におけるDX化は、昨今の生成AIの登場や、IT技術の革新によって注目を集めています。経理DXを進めることで、人材不足の問題を解決して、会計データの見える化にもつながるでしょう。
経理DXには、目的と経営者の視点を持って、全社規模の強力体制を構築することがポイントです。
しかし、DX化を進めるにも人材リソースや専門的な知見が必要になるため、経理代行サービスや、コンサルティング会社に相談することもひとつの手です。
なお、経理DXの導入には、経理代行サービスのビズネコがおすすめです。記帳代行から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。
経理DXのよくあるご質問
経理DXについてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、経理DXに関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
経営DXとは何ですか?
経営DXとは、デジタル技術を活用して経営全体の戦略や意思決定プロセスを革新し、企業の競争力と持続可能な成長を実現する取り組みです。これにより、経営者はリアルタイムでデータに基づいた戦略的な判断を下し、市場の変化に迅速に対応できるようになります。
業務DXとは何ですか?
業務DXとは、日常業務や業務プロセスにデジタル技術を導入し、業務の効率化と生産性向上を図る取り組みです。これには、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAIを活用した業務の自動化、ペーパーレス化、データのデジタル化などが含まれます。業務DXにより、企業全体の業務効率が向上します。
財務DXとは何ですか?
財務DXとは、デジタル技術を活用して財務業務を革新し、正確かつ迅速な財務分析や意思決定を支援する取り組みです。クラウド会計ソフトやAIによるデータ解析の導入が含まれ、財務報告の精度向上やリアルタイムでのデータアクセスが可能となります。財務DXにより、財務管理がより効率的かつ戦略的に行われます。