キャッシュアウトという言葉は、ビジネスの場面で使われることが多いものの、その意味は文脈によって大きく異なります。会社法の分野では、現金を対価として少数株主に株式を買い取らせ、会社から退出してもらう手法を指し、一般的にスクイーズアウトと呼ばれます。一方で、キャッシュフローの文脈では、企業の資金が外部へ流出することを意味し、日常的な資金管理の中でも使われる表現です。
本記事では、会社法におけるキャッシュアウト(スクイーズアウト)の意味や手法、メリット・デメリットを解説します。
目次
キャッシュアウトとは?
キャッシュアウトとは、文脈によって2通りの意味がある言葉です。一般的には資金が外部へ流出することを指す場合が多いですが、会社法の分野では、現金を対価として少数株主の株式を買い取り、会社から退出してもらう手法を意味し、スクイーズアウトとも呼ばれます。
例えば、企業の資金管理の場面では「今月は設備投資によってキャッシュアウトが増えた」といった形で資金流出を表すことがあります。一方で、M&Aや企業再編の場面では、少数株主の株式を取得して完全子会社化を進めるための手法としてキャッシュアウトという言葉が使われます。
キャッシュアウトとキャッシュフローの違い
キャッシュアウトとキャッシュフローの違いは、資金の動きを示す範囲にあります。キャッシュアウトは企業から外部へ資金が流出することだけを指す言葉であるのに対し、キャッシュフローは資金の流入と流出の両方を含めた資金の流れ全体を意味します。つまり、キャッシュアウトはキャッシュフローの一部を構成する概念といえます。
例えば、商品を仕入れて代金を支払う場合や、従業員へ給与を支払う場合は資金が外部へ出ていくためキャッシュアウトに該当します。一方で、売上代金が入金される場合はキャッシュインとなり、これらの資金の出入りを総合的に把握する考え方がキャッシュフローです。
なお、キャッシュフロー計算書についてはこちらの記事も参考にしてください。

会社法でのキャッシュアウト(スクイーズアウト)の意味
キャッシュアウト(スクイーズアウト)とは、会社が少数株主の株式を取得し、株主構成を整理するための手法です。一般的には、現金などの対価を支払って少数株主の株式を買い取り、最終的に親会社や主要株主が会社の株式をすべて保有する状態を目指します。こうした手法は、企業グループの再編や完全子会社化を進める際に活用されることがあります。
例えば、親会社が上場子会社を完全子会社にしたい場合、少数株主が保有する株式を買い取ることで株主を一本化し、経営判断を一体的に行える体制を整えることが可能になります。株主が多数存在すると、株主総会の手続きや意思決定に時間がかかることもありますが、スクイーズアウトを実施することで株主構成を整理しやすくなります。
会社法でのキャッシュアウト(スクイーズアウト)の手法
会社法でのキャッシュアウト(スクイーズアウト)には、主に以下の4つの手法があります。
- 全部取得条項付種類株式
- 株式併合
- 株式交換の応用
- 株式等売渡請求
ここでは、それぞれの手法の特徴について詳しく解説します。自社の状況にあった手法を活用しましょう。
全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式とは、会社が株主総会の決議によってその種類の株式をすべて取得できる仕組みを持つ株式です。この制度を活用することで、会社は特定の種類株式を一括して取得し、少数株主の株式を整理することが可能になります。キャッシュアウトの場面では、まず定款を変更して全部取得条項付種類株式を設定し、既存の普通株式をその種類株式に転換したうえで会社が株式を取得するという流れで進められることが一般的です。
例えば、複数の少数株主が存在する会社が株主構成を整理したい場合、株式を全部取得条項付種類株式へ変更し、その株式を会社が取得する対価として現金を交付することで株主関係を整理できます。
株式併合
株式併合とは、複数の株式を一定の割合でまとめてひとつの株式にする手続きです。この仕組みを利用すると、株主が保有する株式数を調整できるため、キャッシュアウトの手法として用いられることがあります。併合の結果として1株未満の端数が発生した場合、その株式は金銭などで処理されるため、少数株主が会社の株主でなくなる形になることがあります。
例えば、10株を1株に併合する決議を行った場合、多くの株式を保有している株主は併合後も株主として残りますが、少数の株式しか持っていない株主は1株未満となり、株主としての地位を失う可能性があります。その際には、株式の価値に応じた金銭が支払われることでキャッシュアウトが実現します。
株式交換の応用
株式交換の応用とは、株式交換の仕組みを利用して少数株主の株式を整理する方法です。株式交換は本来、子会社の株式を親会社の株式と交換することで完全子会社化を進める制度ですが、その手続きの組み合わせによってキャッシュアウトの目的で活用されることがあります。
例えば、株式交換によって子会社の株主が親会社の株式を受け取る形にしたあと、親会社側で株式併合などを行うことで少数株主の持株を端数にし、その対価として金銭を支払う方法があります。このような方法を取ることで、直接株式を買い取る形ではなく、企業再編の手続きを組み合わせながら少数株主の整理を進めることが可能になります。
株式等売渡請求
株式等売渡請求とは、議決権の大部分を保有する株主が、他の株主に対して株式の売却を求めることができる制度です。会社法では、議決権の90%以上を持つ特別支配株主がこの制度を利用できるとされており、比較的明確な条件のもとでキャッシュアウトを実現できる手法とされています。この制度を利用する場合、特別支配株主は取得する株式の対価や取得日などを定め、会社の承認を得たうえで対象となる株主へ通知を行います。
例えば、親会社が子会社の議決権の大半をすでに保有している場合、残りの株式を売渡請求によって取得することで株主構成を一本化することが可能になります。株式等売渡請求は比較的新しい制度として整備されたもので、株主総会の決議を必要としない場合もあるため、他の手法と比べて手続きの流れが整理しやすいという特徴があります。
キャッシュアウト(スクイーズアウト)のメリット
キャッシュアウト(スクイーズアウト)のメリットとして、以下のような点があげられます。
- 意思決定がスピーディになる
- 長期的な視点で投資ができる
- 完全子会社化にできる
ここでは、それぞれのメリットについて詳しく解説します。
意思決定がスピーディになる
意思決定がスピーディになることは、キャッシュアウト(スクイーズアウト)のメリットのひとつです。会社に多数の株主が存在する場合、重要な経営判断を行う際には株主の意見を調整する必要があり、意思決定までに時間がかかることがあります。少数株主の株式を整理して株主構成をシンプルにすることで、経営方針の決定や組織再編などを進めやすくなります。
例えば、新規事業への投資や組織体制の変更を検討する場合、株主の数が多いほど利害関係の調整が複雑になり、判断が遅れることがあります。キャッシュアウトによって株主構成が整理されると、主要株主や親会社の方針に基づいて経営判断を進めやすくなります。
長期的な視点で投資ができる
長期的な視点で投資ができることも、キャッシュアウト(スクイーズアウト)のメリットです。上場会社や株主が多い企業では、短期的な業績や株価を意識した経営判断が求められることがありますが、株主構成を整理することで長期的な経営戦略に基づいた投資判断を行いやすくなります。
例えば、新しい事業分野への参入や研究開発の強化などは、成果が出るまでに時間がかかることが多く、短期的な利益だけを重視すると実行が難しい場合があります。キャッシュアウトによって少数株主がいない状態になると、親会社や主要株主の方針に沿って長期的な投資計画を進めやすくなります。
完全子会社化にできる
完全子会社化にできることは、キャッシュアウト(スクイーズアウト)のメリットです。完全子会社化とは、親会社が子会社の株式をすべて保有している状態を指し、グループ全体の経営を一体的に進めやすくなる特徴があります。少数株主が存在する場合、企業再編やグループ戦略の実行にあたって一定の手続きや配慮が必要になることがありますが、完全子会社化することでその調整が不要になる場合があります。
例えば、グループ内で事業の再編を行う場合や、組織統合を進める場合には、株主構成が統一されている方が手続きを進めやすくなります。キャッシュアウトによって少数株主の株式を取得すれば、親会社が子会社の株式をすべて保有する形となり、グループ全体の経営方針に沿った意思決定を進めやすくなります。
なお、子会社の経理のポイントについてはこちらの記事も参考にしてください。

キャッシュアウト(スクイーズアウト)のデメリット
キャッシュアウト(スクイーズアウト)には、以下のようなデメリットもあるため注意しましょう。
- 手続き上の制約がある
- 対価を支払う必要がある
- 実行まで時間がかかる
ここでは、それぞれのデメリットについて具体的に解説します。
手続き上の制約がある
手続き上の制約があることは、キャッシュアウト(スクイーズアウト)のデメリットのひとつです。会社法に基づく手法であるため、定款変更や株主総会の特別決議など、法律で定められた手続きを踏まなければ実行できません。また、株主に対する通知や情報開示、反対株主への対応なども求められるため、一定の準備と事務手続きが必要になります。
例えば、株式併合や全部取得条項付種類株式を利用する場合には、株主総会で所定の議決要件を満たす必要があり、決議内容や手続きの進め方にも注意が求められます。こうした手続きは会社法に基づいて厳格に定められているため、単純に株式を買い取るだけでは完了しない点が特徴です。
対価を支払う必要がある
対価を支払う必要があることも、キャッシュアウト(スクイーズアウト)のデメリットです。少数株主の株式を取得する際には、株式の価値に応じた金銭などの対価を支払う必要があり、そのための資金を事前に確保しておかなければなりません。株式の評価額が高い場合や対象となる株式数が多い場合には、企業にとって一定の資金負担が発生することがあります。
例えば、親会社が上場子会社を完全子会社化するケースでは、市場価格や企業価値を踏まえて株式の取得価格を設定することになるため、まとまった資金が必要になることがあります。また、株主が提示された価格に納得しない場合には、価格の妥当性が議論になることもあります。
実行まで時間がかかる
実行まで時間がかかることは、キャッシュアウト(スクイーズアウト)のデメリットのひとつです。会社法に基づく手続きでは、株主総会の開催や通知、各種書類の準備などを段階的に進める必要があるため、計画から実行まで一定の期間を要します。さらに、手続きの内容によっては公告や事前備置などの対応が求められることもあり、スケジュール管理が重要になります。
例えば、株式併合や全部取得条項付種類株式を利用する場合には、株主総会の決議を経た後も効力発生日まで一定期間を設ける必要があり、その間に株主への説明や社内の準備を進めることになります。こうしたプロセスを踏むことで手続きの透明性が確保されますが、迅速に実行したい場合には時間がかかると感じることもあります。
会社法におけるキャッシュアウトを実施する注意点
会社法におけるキャッシュアウトを実施する際には、以下のような注意点も意識しましょう。
- 十分に資金を準備しておく
- スケジュールは余裕をもって決める
- 訴訟リスクを意識して行動する
ここでは、それぞれの注意点について詳しく解説します。
十分に資金を準備しておく
十分に資金を準備しておくことは、会社法におけるキャッシュアウトを実施するうえでの注意点です。キャッシュアウトでは、少数株主が保有している株式を取得する際に金銭などの対価を支払う必要があるため、そのための資金をあらかじめ確保しておかなければなりません。株式の取得価格は企業価値や市場価格などを踏まえて決定されるため、想定以上の資金が必要になる場合もあります。
例えば、親会社が子会社を完全子会社化する目的でキャッシュアウトを実施する場合、少数株主の保有株式をまとめて取得することになるため、相応の資金を用意する必要があります。また、資金調達の方法によっては金融機関との調整や社内の意思決定も必要になるため、事前の準備が欠かせません。
スケジュールは余裕をもって決める
スケジュールは余裕をもって決めることが、キャッシュアウトを実施する際の注意点です。会社法に基づく手続きでは、株主総会の開催や株主への通知、各種書類の備置など、複数の手続きを順序立てて進める必要があります。そのため、短期間で完了させることは難しく、計画的なスケジュール管理が求められます。
例えば、株式併合や全部取得条項付種類株式を利用する場合には、株主総会での特別決議を経た後も効力発生日まで一定の期間を設ける必要があり、その間に株主への説明や社内手続きを進めることになります。また、企業再編やグループ戦略と合わせてキャッシュアウトを実施する場合には、関連する手続きとの調整も必要になります。
訴訟リスクを意識して行動する
訴訟リスクを意識して行動することも、キャッシュアウトを進めるうえで重要な注意点です。少数株主にとっては株主としての地位を失う手続きになるため、提示された株式の取得価格や手続きの妥当性について争いが生じる可能性があります。そのため、手続きを進める際には株式価値の算定方法や意思決定の過程について、合理的な根拠を示せるように準備しておくことが重要です。
例えば、株式の取得価格について株主から疑問が示された場合、企業価値の評価や算定の考え方を説明できる体制が整っていないと、紛争につながる可能性があります。また、手続きの透明性を確保することも、トラブルを防ぐうえで大切です。
キャッシュフローでのキャッシュアウトを改善するポイント
キャッシュフローにおけるキャッシュアウトを改善するポイントとして、以下のような点を意識しましょう。
- 資金繰り表を作成する
- 未収の売掛金を回収する
- 固定費と変動費を見直す
ここでは、それぞれのポイントについて詳しく解説します。
資金繰り表を作成する
資金繰り表を作成することは、キャッシュフローにおけるキャッシュアウトを改善するための基本的な方法です。企業活動では仕入代金や給与の支払い、設備投資などさまざまな場面で資金が外部へ流出しますが、資金の出入りを把握していないと、どの時期に資金が不足するのかを予測することが難しくなります。
資金繰り表を作成すれば、将来の入金予定と支払予定を時系列で整理できるため、資金の流れを具体的に把握することが可能です。例えば、売上は順調でも入金までの期間が長い場合、その間に仕入代金や人件費の支払いが重なることで資金が不足する可能性があります。資金繰り表を活用すれば、このような資金不足のタイミングを事前に把握でき、支払時期の調整や資金調達の検討などの対策を立てやすくなります。
なお、資金繰りについてはこちらの記事も参考にしてください。

未収の売掛金を回収する
未収の売掛金を回収することは、キャッシュアウトを改善するうえで重要なポイントです。売上が計上されていても、代金が入金されなければ資金としては利用できないため、支払いが先行すると資金が外部へ流出し続ける状態になってしまいます。売掛金の回収を適切に行うことで、資金の流入を確保し、キャッシュアウトとのバランスを整えることができます。
例えば、取引先によっては入金期限を過ぎても支払いが遅れることがあり、そのまま放置してしまうと資金繰りに影響を与える可能性があります。請求書の発行や入金確認のタイミングを見直し、必要に応じて取引先へ連絡するなどの対応を行うことで、売掛金の回収を促すことができます。
なお、売掛金の管理についてはこちらの記事も参考にしてください。

固定費と変動費を見直す
固定費と変動費を見直すことは、キャッシュアウトの改善につながる取り組みです。企業の支出には毎月一定額が発生する固定費と、売上や生産量に応じて変動する変動費があり、それぞれの内容を把握することで支出の見直しがしやすくなります。特に固定費は売上の状況に関係なく支払いが続くため、資金の流出を抑えるためには定期的な確認が重要です。
例えば、オフィス賃料やサブスクリプションサービス、保守契約などは一度契約すると見直しの機会が少なくなりがちですが、実際の利用状況を確認すると不要な支出が見つかることがあります。また、変動費についても仕入条件や取引先の見直しによって支出を調整できる場合があります。
まとめ
キャッシュアウトとは、文脈によって意味が異なる言葉です。会社法の分野では、現金などの対価を支払って少数株主の株式を取得し、株主構成を整理する手法を指し、企業再編や完全子会社化を進める際に活用されます。一方で、キャッシュフローの文脈では、企業から外部へ資金が流出することを意味し、日常的な資金管理の中でも使われる概念です。
会社法におけるキャッシュアウトを実施する際には、手続きの流れや法的要件を理解し、十分な資金の準備やスケジュール管理、株主への配慮などを意識することが重要になります。なお、経理や財務に関するお悩みは経理代行会社に相談することもひとつの手です。
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キャッシュアウトに関するよくあるご質問
キャッシュアウトについてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、キャッシュアウトに関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
「キャッシュアウトする」とはどういう意味ですか?
「キャッシュアウトする」とは、一般的には企業や個人の資金が外部へ流出することを指します。仕入代金の支払いや給与の支払い、設備投資など、現金が外へ出ていく場面で使われることが多い表現です。一方で、会社法の分野では、少数株主の株式を現金などの対価で取得し、会社から退出してもらう手法を指す場合もあります。
キャッシュアウトの目的は何ですか?
キャッシュアウトの目的は、使用される文脈によって異なります。会社法の分野では、少数株主の株式を取得して株主構成を整理し、完全子会社化や企業再編を進めやすくすることが目的です。一方で、キャッシュフローの文脈では、キャッシュアウトそのものが目的というよりも、資金繰りを管理することが目的になります。
キャッシュアウトの反対は何ですか?
キャッシュアウトの反対は、一般的にキャッシュインと呼ばれます。キャッシュインとは、企業に資金が流入することを意味し、売上代金の入金や融資の受け入れ、出資の受け入れなどが該当します。キャッシュインが安定すると支払いに対応しやすくなりますが、キャッシュアウトが先行すると資金繰りが厳しくなります。