企業間取引で使われる手形は、将来の支払いを約束する信用取引の代表的な手段です。しかし、支払期日に資金が用意できず、決済が行われない場合には不渡手形となり、企業の信用に大きなダメージを与えます。例えば一度でも不渡りを出せば、取引先からの信頼を失うだけでなく、金融機関の融資審査にも影響するおそれがあります。
さらに半年以内に2回不渡りを起こせば、銀行取引停止という深刻な処分を受けることもあります。本記事では、不渡手形の基本的な仕組みから、発生時の仕訳や勘定科目、再発防止策までをわかりやすく解説します。
目次
そもそも手形とは?
手形とは、将来の一定期日に代金を支払うことを約束する有価証券のことです。企業間取引では、商品の納入後すぐに現金を支払う代わりに、後日の支払いを約束するために手形が使われてきました。例えば、取引先への支払いを2か月後に設定した約束手形を発行すれば、発行側は一時的に資金繰りの余裕を確保できます。
一方で、受け取る側は期日までに確実に資金を受け取れるという信用取引の形が成り立ちます。このように手形は、現金決済を伴わずに企業間の取引を円滑にする役割を果たしてきましたが、運用には信用力の維持と管理が欠かせません。
手形や小切手は2026年までに廃止される
かつては企業取引に欠かせなかった手形や小切手ですが、これらの紙による決済手段は2026年をめどに廃止される予定です。背景には、電子化の進展と事務コスト削減の流れがあります。例えば、電子記録債権やオンライン送金など、デジタル手段による資金決済が普及したことで、紙の手形や小切手に依存する必要が少なくなりました。
また、印紙税や郵送などの手間もかからず、より迅速かつ確実な取引が可能になります。今後は、これまで手形を利用していた企業も電子債権や振込取引へと移行していくことが求められ、経理実務にも大きな変化が訪れようとしています。
なお、手形取引については、こちらの記事も参考にしてください。

不渡手形とは?
不渡手形とは、支払期日に資金が用意できず、銀行が決済を行えなかった手形を指します。つまり、手形の発行者が支払いの約束を果たせなかった状態です。例えば、当座預金の残高不足や口座の閉鎖などが原因で、不渡りとして処理されます。
不渡手形が発生すると、受取側の企業は代金を受け取れなくなるだけでなく、発行側の企業も信用を大きく失われてしまいます。さらに、半年以内に2回不渡りを出すと、金融機関から銀行取引停止処分を受けることになり、実質的に経営の継続が難しくなります。このように不渡手形は単なる支払い遅延ではなく、企業の信用問題に直結する重要なリスクです。
手形が不渡りになるとどうなるのか?
手形が不渡りになると以下のような影響が発生します。
- 取引先が代金を受け取れなくなる
- 金融機関から融資を受けられなくなる
- 半年以内に2回不渡りを出すと銀行取引が停止される
ここでは、それぞれのリスクについて詳しく解説します。
取引先が代金を受け取れなくなる
手形が不渡りになると、取引先は本来受け取るはずだった代金を回収できなくなります。これは単なる支払いの遅延ではなく、取引先にとっては資金計画が崩れる深刻な事態です。例えば、納品後に受け取った約束手形が決済不能となれば、仕入代金や人件費の支払いに支障をきたすこともあります。
その結果、連鎖的に資金繰りが悪化し、他の取引にも影響が及ぶ可能性があります。こうした事態を避けるためには、取引先の信用状況を確認し、必要に応じて与信管理を行うことが大切です。そのため、不渡りは一社だけの問題ではなく、取引全体の信頼を揺るがす要因といえるでしょう。
金融機関から融資を受けられなくなる
不渡手形を出すと、企業の信用力は大きく低下し、金融機関からの融資が難しくなります。銀行は企業の資金管理能力や支払能力を重視しており、一度でも不渡りを出すと「資金繰りに問題がある」と判断されやすくなります。
例えば、短期的な資金不足で一時的に不渡りを起こしたとしても、その記録は金融機関に残り、以後の融資審査で不利に働く可能性があります。これにより、運転資金の確保や設備投資が困難となり、事業の拡大どころか継続にも影響が出ることがあります。そのため、不渡りは信用低下の象徴であり、資金調達の道を狭める重大なリスクといえます。
半年以内に2回不渡りを出すと銀行取引が停止される
不渡手形を半年以内に2回出すと、銀行取引停止という厳しい処分を受けます。これは金融機関が企業の信用喪失を正式に認定するもので、事実上の倒産とみなされることも少なくありません。
例えば、2回目の不渡りが発生すると、日本銀行の「手形交換所」により取引停止処分が公表され、他の銀行や取引先にも情報が共有されます。その結果、当座預金口座が利用できなくなり、小切手や手形の発行も不可能になります。こうした状態になると、取引の継続はほぼ不可能となり、企業は廃業や再建手続きに追い込まれることになります。そのため、不渡りの重みを理解し、早期の資金対策を取ることが重要です。
手形における不渡りの種類
手形が支払期日に決済できなかった場合でも、その原因や状況によって不渡りの分類は異なります。不渡りは大きく0号・1号・2号に分かれ、それぞれに異なる意味と扱いがあります。正確に区別して理解しておくことで、誤解や信用低下を防ぎ、適切な対応が取りやすくなります。
0号不渡り
0号不渡りとは、正式な不渡りとして扱われる前段階の状態を指します。例えば、手形に記載された支払期日が誤っていたり、印影の相違や記入漏れなどの形式的な不備によって決済が行えなかったりした場合がこれに該当します。
0号不渡りの段階では、銀行取引停止などの厳しい処分は受けませんが、放置しておくと1号不渡りへと進行する可能性があります。つまり、0号不渡りは「注意段階」のサインであり、原因を迅速に修正して再呈示することが重要です。実務上は軽微なミスとして扱われることが多いものの、繰り返せば信用に影響することもあるため、早期対応が求められます。
1号不渡り
いわゆる不渡りは、1号不渡りを指します。 1号不渡りとは、手形の支払期日に資金が不足しており、決済できなかった場合に発生します。例えば、当座預金の残高が手形金額を下回っていると、銀行は支払い不能として「不渡り処理」を行います。
1号不渡りは正式な不渡り記録として扱われ、手形交換所に報告されます。とはいえ、1回だけでは即座に取引停止にはなりませんが、企業の信用は確実に低下します。取引先からの信頼を取り戻すには、速やかに資金を用意し、再呈示によって支払いを完了させることが重要です。1号不渡りは信用不安の警告であり、資金管理体制の見直しが必要なサインといえます。
2号不渡り
2号不渡りは、半年以内に2回の不渡りを出した場合に適用され、最も重い処分にあたります。例えば、1号不渡りの後に資金繰りの改善ができず、再び支払い不能となると、銀行は手形交換所を通じて「取引停止処分」を通知します。
取引停止処分を受けると、当座預金の使用が停止され、新たな手形や小切手の発行もできなくなります。事実上の経済活動停止に等しく、取引先にも情報が共有されるため、信用回復は極めて難しくなります。2号不渡りは単なる決済遅延ではなく、企業の存続に関わる重大な信用問題であり、早期の資金調達や再建策が欠かせません。
手形が1号不渡りになるまでの流れ
手形が1号不渡りになるまでの流れは以下のとおりです。
- 流れ1:A社(自社)からB社に約束手形を振り出す
- 流れ2:A社(自社)の当座預金残高が不足する
- 流れ3:B社が支払期日に呈示すると不渡りになる
ここでは、それぞれの流れについて具体的に解説します。
流れ1:A社(自社)からB社に約束手形を振り出す
企業間取引では、商品の納品やサービスの提供に対して、支払いを後日に行うために「約束手形」を発行することがあります。例えば、A社がB社から商品を仕入れた際に、代金を3か月後に支払う約束を手形で行うとします。
手形には、支払期日や金額、振出人の署名・押印などが記載され、B社はこれを受け取ることで、期日になれば確実に代金を得られるという信用を得ます。こうして発行された手形は、期日までの間、B社が資金化したり、別の取引に利用することも可能です。つまり、約束手形の振り出しは信用取引の最初のステップであり、企業間の信頼を前提とした取引形態といえます。
流れ2:A社(自社)の当座預金残高が不足する
手形の支払期日が近づくと、振出人であるA社の当座預金から支払いが行われます。しかし、口座残高が手形金額に満たない場合、決済ができず不渡りのリスクが生じます。例えば、予定していた入金が遅れたり、予想外の支出が発生したりする結果、資金が一時的に不足してしまうケースがあります。
このような状況では、手形の決済資金を準備できず、期日に支払う義務を果たせなくなります。資金繰りの管理が甘いと、こうした事態が突然起こることも珍しくありません。不渡りを避けるためには、期日前に口座残高を確認し、必要に応じて短期借入や資金繰り調整を行うことが欠かせません。
流れ3:B社が支払期日に呈示すると不渡りになる
手形の支払期日になると、受取人であるB社は銀行に手形を呈示し、支払いを求めます。ところが、A社の当座預金に十分な残高がない場合、銀行は支払いを行えず「不渡り」として処理します。例えば、A社が資金調達の見通しを誤り、期日までに資金を準備できなかった場合、このような結果になります。
不渡りになると、銀行はその旨を手形交換所に通知し、A社の信用情報に記録されます。この時点でA社は「1号不渡り」として扱われ、取引先にも不安が広がる可能性があります。こうした事態を防ぐためには、期日管理の徹底や資金の確保が欠かせず、日常的な資金繰りの見直しが重要になります。
不渡手形の勘定科目と仕訳例
不渡手形における勘定科目と仕訳例として以下のパターンがあります。
- 不渡りが発生した時
- 不渡手形を回収できた時
- 不渡手形を回収できなかった時
ここでは、それぞれの事例における不渡手形の取り扱いや、勘定科目と仕訳例を紹介します。
不渡りが発生した時の仕訳例
取引先から受け取った約束手形が支払期日に決済されず、不渡りとなった場合は、「受取手形」を「不渡手形」に振り替えます。例えば、A社が振り出した10万円の約束手形が不渡りとなり、償還請求を行うために1,000円の費用を支払ったケースを考えます。
この場合、手形の元本に加えて請求にかかった費用を合算し、「不渡手形」として計上します。不渡手形は一時的に資産として扱われますが、回収できなければ貸倒れに繋がるため、その後の対応が重要です。不渡り発生時には、すぐに取引先へ連絡し、資金回収の見通しを確認することが求められます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 不渡手形 | 101,000円 | 受取手形 | 100,000円 |
| 現金 | 1,000円 |
不渡手形を回収できた時の仕訳例
不渡りとなった手形を後日回収できた場合は、「不渡手形」を減少させ、現金の受け取りとして処理します。例えば、A社の約束手形10万円が不渡りになっていたものの、後日支払いが行われ、さらに延滞利息として100円を受け取ったケースを想定します。
このときは、不渡手形の回収分と利息分を合わせて現金が増加したことを記録します。不渡手形の回収は信用回復の第一歩ですが、再発防止のために取引条件の見直しや与信管理の強化を検討することも大切です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 100,100円 | 不渡手形 | 100,000円 |
| 受取利息 | 100円 |
不渡手形を回収できなかった時の仕訳例
不渡手形を最終的に回収できず、債権を放棄する場合は「貸倒損失」として処理します。例えば、A社が振り出した約束手形10万円が不渡りとなり、回収不能と判断した場合を考えます。
すでに貸倒引当金として1万円を計上していた場合、その分を差し引いた残額9万円を貸倒損失として処理します。こうすることで、実際に損失が発生した分だけを費用として計上することになります。回収不能が確定した段階で速やかに処理することで、正確な財務状況を把握し、税務上の損金算入にも対応できます。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒損失 | 90,000円 | 不渡手形 | 100,000円 |
| 貸倒引当金 | 10,000円 |
手形が不渡りになるのを回避する方法
手形が不渡りになるのを回避する方法として、主に以下のような方法があります。
- 手形のジャンプ
- 過振り
- ファクタリング(売掛金の資金化)
ここでは、それぞれの方法について具体的に解説します。ぜひ、参考にしてください。
手形のジャンプ
手形のジャンプとは、支払期日を迎える手形を新しい手形で置き換え、支払いを先延ばしにする方法です。例えば、支払期日に資金が不足している場合、振出人は取引先に相談し、新たな期日を設定した手形を再び発行して支払いを延長します。
これにより、当面の資金繰りを維持しながら不渡りを回避することができます。ただし、ジャンプを繰り返すと資金繰りの根本的な改善にはつながらず、信用不安を招くおそれがあります。そのため、ジャンプは一時的な資金対策として利用し、次の決済に向けた資金調達計画や経営改善策を同時に進めることが重要です。
過振り
振過振りとは、当座預金の残高を超える金額の手形を銀行に立て替えてもらうことで決済を行う仕組みです。例えば、支払期日に10万円の手形を振り出しているものの、当座預金に8万円しか残高がない場合、残りの2万円を銀行が一時的に建て替えることで不渡りを回避します。
このような取引は「信用貸し」の一種であり、取引先との信頼だけでなく、金融機関からの信用が厚い企業でなければ認められません。また、過振りを依頼する時点で資金不足が明らかになるため、銀行との関係性によっては信用度が下がるリスクもあります。そのため、過振りはあくまで一時的な資金繰り対策であり、日常的な利用は避けるべき対応策といえます。
ファクタリング(売掛金の資金化)
ファクタリングとは、保有している売掛金を専門業者に売却し、早期に資金化する方法です。例えば、取引先からの入金が翌月末に予定されている場合でも、ファクタリングを利用すればすぐに現金を手にすることができ、手形の支払期日までに必要な資金を確保できます。
ファクタリングの仕組みは融資ではなく売掛債権の譲渡であるため、借入金のように負債が増えることもありません。不渡りを防ぐための資金調達手段として有効であり、資金繰りが厳しい企業にとって柔軟な対応策となります。ただし、手数料が発生する点や、信頼できる業者を選ぶことが重要である点にも注意が必要です。
なお、ファクタリングについてはこちらの記事もご覧ください。

まとめ
不渡手形は、単なる支払いの遅延ではなく、企業の信用や経営の安定性に深く関わる重大なリスクです。一度でも発生すれば、取引先からの信頼を損ない、金融機関の融資判断にも影響を及ぼします。例えば、1号不渡りであっても信用不安の兆候と見なされ、2号不渡りに進むと銀行取引が停止されるなど、経営継続に大きな支障をきたします。
そのため、資金繰りの見直しや期日管理の徹底はもちろん、ジャンプやファクタリングなどの一時的な対策も検討すべきです。手形取引は2026年の廃止を控えていますが、信用管理の重要性は今後も変わりません。万が一の不渡りに備え、日常的な資金管理体制を強化しておくことが企業防衛の第一歩といえるでしょう。なお、資金管理や記帳管理は、経理代行会社に相談することもおすすめです。
弊社では、経理代行と記帳代行サービスのビズネコを提供しています。日常的な記帳業務だけではなく、会計ソフトの導入支援から財務のコンサルティングまで幅広く対応が可能です。まずは、お気軽にお問い合わせください。
不渡手形に関するよくあるご質問
不渡手形についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、不渡手形に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
不渡手形とはどういう意味ですか?
不渡手形とは、手形の支払期日に資金が口座に用意されておらず、銀行が決済できなかった手形を指します。当座預金の残高不足や口座の閉鎖などが原因で支払いが不可能になった場合、手形は不渡りとして処理されます。不渡手形が発生すると、受取側は代金を回収できず、発行側の信用は大きく低下するため注意しましょう。
不渡手形の勘定科目は何ですか?
不渡手形が発生した場合、受け取った側の企業では「受取手形」を「不渡手形」に振り替えて処理します。手形が決済不能になった場合、「受取手形」と仕訳し、資産として一時的に計上します。その後、取引先からの支払いがあれば回収処理を行い、回収不能となった場合は「貸倒損失」などの費用勘定で処理します。
不渡りを2回すると銀行取引停止処分を受けますか?
はい、半年以内に2回の不渡りを出すと、銀行取引停止処分を受けます。金融機関が企業の信用喪失を公式に認定するもので、日本銀行の手形交換所を通じて公表されます。2回目の不渡りが発生した時点で当座預金口座は利用できなくなり、手形や小切手の発行も不可能になります。実質的に倒産とみなされることもあります。