企業にとって「決算月(決算期)」は、1年間の経営活動を締めくくる重要なタイミングです。財務状況を整理し、税金の申告や利益の確定を行うための基準となるものであり、会社の経営計画や資金繰りにも大きく影響します。
多くの企業が3月を決算月にしているのは、行政や学校などの年度に合わせやすく、取引先との整合も取りやすいからです。一方で、9月や12月を選ぶ企業もあり、それぞれに合理的な理由があります。本記事では、決算月の基本的な考え方から、3月・9月・12月に多い背景、決め方や変更方法までをわかりやすく解説します。
目次
そもそも決算とは?
決算とは、企業が一定期間の経営活動を総括し、利益や損失を明確にするための手続きです。具体的には、売上や経費を整理し、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を作成して会社の経営成績を可視化します。
例えば、年間を通じて得た売上から仕入や人件費などを差し引き、最終的にどれだけの利益が出たのかを算出することが決算の目的です。この結果は、株主や金融機関などの利害関係者が企業の健全性を判断する重要な材料となります。また、決算の数値は税金の計算にも直結するため、企業にとって避けて通れない重要な業務です。
なお、決算についてはこちらの記事も参考にしてください。

決算月(決算期)とは?
決算月(決算期)とは、企業が1年間の経営成績を締めくくる月、つまり会計年度の最終月を指します。例えば、3月を決算月とする会社であれば、4月から翌年3月までが事業年度となり、その期間の売上や経費をまとめて決算処理を行います。
決算月の設定は法律で固定されているわけではなく、企業が自由に選ぶことができます。そのため、業種や繁忙期、資金繰りの状況などを考慮して最も効率的な月を決めるのが一般的です。決算月の違いは、税金の申告時期や経理業務の負担にも影響するため、会社運営において慎重に検討すべきポイントといえます。
決算月が多いのは3月と9月と12月な理由
企業の決算月には自由があるものの、実際には3月・9月・12月に集中しています。これは、取引先や行政、税務上の都合など、実務的な背景が影響しているためです。それぞれの月には選ばれるだけの理由があり、業界や経営サイクルとの関係も深く関わっています。
決算月(決算期)に3月が多い理由
3月を決算月にする企業が多いのは、行政機関や学校など多くの組織の年度が4月から始まるため、会計処理のタイミングをそろえやすいからです。例えば、取引先の決算や契約更新時期が同時期であれば、請求や支払の調整がしやすく、経理処理の整合性も保ちやすくなります。
また、税制改正や補助金制度などの適用が4月を起点としていることも、3月決算を選ぶ理由のひとつです。さらに、金融機関や株主が3月決算を基準として業績を比較する傾向があるため、情報開示の時期を合わせるメリットもあります。これらの要因が重なり、多くの企業が自然と3月を選択する結果となっています。
決算月(決算期)に9月が多い理由
9月決算を採用する企業が多いのは、事業の繁忙期を避けて落ち着いた時期に決算業務を行えるからです。例えば、小売業や観光業など、年末や春先に繁忙期を迎える業種では、3月や12月に決算を迎えると処理が重なり負担が大きくなります。
その点、9月は業務が比較的安定しており、在庫の棚卸や経理処理に十分な時間を確保しやすいのが特徴です。また、3月決算の企業が多いため、取引先の会計処理と時期をずらすことで請求や入金の確認がスムーズになるというメリットもあります。経営のリズムを整えやすいことから、特に中堅企業や中小企業で選ばれやすい時期といえるでしょう。
決算月(決算期)に12月が多い理由
12月を決算月にする企業が多いのは、暦年と一致するため、会計処理がわかりやすく整理しやすい点にあります。例えば、1月から12月までの売上や経費をそのまま1年分としてまとめられるため、年間の業績管理や比較分析がしやすくなります。
また、海外では12月決算が主流であることから、海外取引のある企業や外資系企業では国際基準に合わせて12月を選ぶ傾向が強いです。さらに、年末という区切りのよい時期に経営の総括を行える点も魅力のひとつです。従業員の賞与や年末調整の処理と合わせて業務を整理できるため、効率的な管理体制を築きやすいのも12月決算の特徴といえます。
決算月(決算期)の決め方とポイント
決算月(決算期)の決め方として、以下のようなポイントを意識しましょう。
- 自社の資金繰りで考える
- 繁忙期・閑散期から考える
- なるべく設立日から決算日の期間を空ける
- 大きな売上が上がる時期の直前にする
- 自社内の各部署での動きも考慮する
- 納税義務が免除される期間を長くする
ここでは、それぞれのポイントについて具体的に解説します。
自社の資金繰りで考える
決算月を決める際は、まず自社の資金繰りを基準に考えることがポイントです。例えば、売上が一時的に減少する時期や支出が増えるタイミングに決算を迎えると、納税や決算処理の負担が重なってしまいます。反対に、資金が潤沢な時期を決算月に設定すれば、税金の支払いや賞与などの出費にも余裕を持って対応できます。
特に中小企業では、資金繰りが経営の安定に直結するため、キャッシュフローの動きを把握したうえで決算月を決めることが大切です。資金の流れを軸にすることで、経営判断や税務対応をスムーズに進めることができます。
繁忙期・閑散期から考える
決算月は、業種ごとの繁忙期や閑散期を考慮して決めるのが効率的です。例えば、小売業や観光業では年末年始や連休前が繁忙期となり、会計処理や棚卸の時間を確保しにくくなります。
そのため、繁忙期を避けた閑散期に決算月を設定すれば、業務負担を軽減しながら正確な決算処理を行うことができます。また、経理部門だけでなく全社的に落ち着いた時期を選ぶことで、各部署から必要な情報をスムーズに集められる点もメリットです。自社の業務サイクルを踏まえ、余裕を持って決算に臨める時期を選ぶことが望ましいでしょう。
なるべく設立日から決算日の期間を空ける
新設法人の場合は、設立から最初の決算日までの期間をできるだけ長く取ることもおすすめです。例えば、設立からわずか数か月で決算を迎えると、決算書作成や税務申告の準備に追われ、経理体制が整わないまま処理を行うリスクがあります。
設立初年度は手続きや営業活動の立ち上げで忙しくなるため、決算月を後ろ倒しにして1年以上の事業期間を確保することで、より正確で安定した決算が可能になります。結果として、経営状況を把握しやすくなり、税務対応にも余裕を持てる点がメリットです。
大きな売上が上がる時期の直前にする
決算月を大きな売上が見込まれる時期の直前に設定すると、業績をより良い状態で締めくくることができます。例えば、年末や年度末などに売上のピークを迎える企業では、その直前に決算を設定することで、在庫調整や経費計上を計画的に進めやすくなります。
また、売上が確定する前に決算を迎えると、正確な利益の把握が難しくなる場合もあるため、売上の増減を見通せるタイミングを選ぶことが重要です。事業の収益構造や販売サイクルを分析し、成果が反映されやすい時期を決算月として設定すると、経営の見通しも立てやすくなります。
自社内の各部署での動きも考慮する
決算月を決める際には、経理部門だけでなく他部署の業務スケジュールも考慮することが欠かせません。例えば、営業部が年度末の契約対応に追われる時期や、人事部が採用や異動の準備を進めている時期に決算が重なると、必要なデータの共有が遅れ、決算処理全体の効率が下がります。
そのため、全社的な業務の流れを見渡し、情報が集まりやすく協力体制を取りやすい時期を選ぶことが理想的です。特に中小企業では、限られた人員で複数の業務を兼任しているケースも多いため、社内の動きを把握したうえで現実的なスケジュールを組むことが求められます。
納税義務が免除される期間を長くする
新設法人の場合、設立から最初の決算までの期間を長く設定することで、法人税や事業税などの納税義務が発生するまでの期間を延ばすことができます。例えば、7月に設立した会社が翌年6月を決算月に設定すれば、最初の納税は翌年度になるため、創業期の資金繰りに余裕を持たせられます。
ただし、過度に延ばすと経営実績の把握が遅れ、融資や補助金の申請に支障をきたす場合もあります。そのため、税務上のメリットと経営上の実務バランスを考慮して設定することが重要です。設立初期の資金状況を踏まえた判断が、安定した経営基盤を築く第一歩となります。
後から決算月(決算期)を変える方法
後から決算月(決算期)を変える方法は、以下のステップで進みます。
- step1:株主総会で定款を変更する
- step2:特別議会の議事録を作成する
- step3:異動届出書を提出する
ぜひ、決算月の変更を検討する際は参考にしてください。
step1:株主総会で定款を変更する
決算月を変更するためには、まず株主総会を開き、会社の基本規則である「定款」を修正する必要があります。定款には事業年度(決算期)が明記されているため、変更を正式に承認することが最初のステップです。
例えば、現在3月決算の会社が9月決算に変更したい場合は、株主総会で「事業年度を毎年10月1日から翌年9月30日までとする」といった内容を決議します。この決議には株主の特別決議が必要であり、過半数ではなく3分の2以上の賛成を得ることが条件です。会社法上の正式な手続きとなるため、議事録や登記書類の整備を怠らないよう注意が必要です。
step2:特別議会の議事録を作成する
株主総会で決算月変更を承認したら、その内容を正式に記録した「議事録」を作成します。議事録は、決議内容を証明する法的な書類として扱われるため、正確な記載が求められます。
例えば、会議の開催日時や場所、議題、出席株主の数、決議の結果などを明確に残しておくことが重要です。特別決議による定款変更であることを明示し、署名または記名押印を行うことで効力を持ちます。この議事録は、後に税務署や法務局へ提出する際の添付書類として必要になるため、形式や内容に不備がないよう慎重に確認しておきましょう。誤記や抜け漏れがあると、変更手続きが受理されないケースもあるため注意が必要です。
step3:異動届出書を提出する
株主総会での決議と議事録の作成が完了したら、最後に「異動届出書」を提出して行政手続きを行います。この届出は、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場など、法人の所在地を管轄する複数の機関に対して行う必要があります。
例えば、税務署に提出する際には「異動事項」として新しい事業年度を記載し、株主総会の議事録や定款の写しを添付します。提出期限は変更後の事業年度開始日から1か月以内が目安とされていますが、自治体によって異なる場合もあるため事前確認が大切です。手続きを完了することで、正式に決算月の変更が認められます。そのため、スムーズな変更のためには、必要書類の準備と期限管理を徹底することが欠かせません。
決算月(決算期)を決める際の注意点
決算月(決算期)を決める際の注意点として、以下のような点に注意しましょう。
- 何となく3月で決めるのは避ける
- 4月1日の税制改正も意識して決める
- 新入社員の4月入社も考慮する
ここでは、それぞれの注意点について具体的に解説します。
何となく3月で決めるのは避ける
決算月を何となく3月に設定するのは避けたほうがよいといえます。3月決算は日本企業に多いものの、同時期に会計事務所や税理士が繁忙期を迎えるため、サポートを受けづらくなる場合があります。
例えば、初めての決算を迎える中小企業が3月決算にすると、税務申告の期限が集中し、余裕を持った対応が難しくなることもあります。また、同業他社や取引先が同じ決算月だと、請求や支払処理が重なりやすく、事務作業が煩雑になるリスクもあります。自社の業務スケジュールや経営リズムに合った月を選ぶことが、スムーズな決算処理につながります。
4月1日の税制改正も意識して決める
決算月を決める際には、4月1日に施行される税制改正の影響も意識しておく必要があります。日本では、多くの税法改正が新年度の始まりである4月に合わせて実施されるため、その直前や直後に決算を迎えると、異なる税率や控除制度が適用される可能性があります。
例えば、法人税率の変更や交際費の損金算入範囲の見直しなどが行われた場合、決算期が3月末か4月末かによって納税額が変わることもあります。そのため、制度改正のタイミングを把握し、自社にとって有利または安定的に対応できる時期を選ぶことが重要です。税理士や会計担当者と相談しながら決算月を検討すると、不要な混乱を避けられるでしょう。
新入社員の4月入社も考慮する
決算月を設定する際には、新入社員の入社時期との兼ね合いも考慮しておくことが大切です。多くの企業では4月に新入社員が入社するため、その時期に決算業務が重なると、教育や引き継ぎと並行して会計処理を行う必要があり、社内が慌ただしくなります。
例えば、経理部門に新入社員が配属される場合、決算対応の真っ只中では十分な指導や実務経験の積み上げが難しくなります。一方で、決算月を数か月ずらせば、新入社員が業務に慣れた後に決算を迎えられるため、業務効率や正確性の向上につながります。人事スケジュールと決算時期をうまく調整することで、社内全体の働きやすさと生産性のバランスを保つことができます。
忘れてしまった決算月を調べる方法
もし、決算月を忘れてしまった際には、以下のような方法で調べることができます。
- 定款の事業年度を確認する
- 法人設立届出書の控えを確認する
- 税務署に問い合わせてみる
ここでは、それぞれの方法について詳しく解説します。
定款の事業年度を確認する
決算月を確認する最も基本的な方法は、会社の定款を確認することです。定款には「事業年度」が明記されており、その末日が決算月にあたります。
例えば、「事業年度は毎年4月1日から翌年3月31日までとする」と記載されていれば、3月が決算月となります。定款は法人設立時に作成し、法務局へ登記申請する際に提出しているため、会社の保管書類や登記簿謄本を見直すことで確認が可能です。また、定款のコピーを税務署や金融機関に提出している場合もあるため、そちらから確認する方法もあります。まずはこの定款をチェックするのが、最も確実で手間の少ない方法といえるでしょう。
法人設立届出書の控えを確認する
法人設立時に税務署へ提出する「法人設立届出書」にも、決算月の情報が記載されています。法人設立届出書は法人が税務上の管理を受けるために必要な書類で、提出時に「事業年度の開始日および終了日」を明記する欄があります。
例えば、「事業年度の開始:4月1日 終了:3月31日」と記載していれば、3月が決算月であることが分かります。会社によっては税理士が代行して提出している場合もあるため、届出書の控えを経理担当者や顧問税理士に確認するとスムーズです。
控えが見当たらない場合は、法人設立時の提出書類一式をまとめたファイルを探してみましょう。
税務署に問い合わせてみる
もし定款や設立届出書が手元にない場合は、税務署に直接問い合わせるのが確実です。法人の所在地を管轄する税務署であれば、提出された法人設立届出書の情報をもとに、決算月を教えてもらうことができます。
例えば、担当部署である法人課税部門に問い合わせれば、本人確認を経たうえで決算期や申告期限を確認することが可能です。ただし、プライバシー保護の観点から、代表者本人や委任状を持つ関係者でなければ教えてもらえない場合もあります。電話での問い合わせが難しい場合は、直接窓口に出向くと手続きがスムーズです。正式な情報源から確認することで、誤りのない決算月を把握できるでしょう。
まとめ
決算月(決算期)は、企業にとって1年の経営を締めくくる大切な節目です。多くの企業が3月や12月、あるいは9月を選ぶ背景には、それぞれ業務サイクルや取引先との関係、税務上の都合など、合理的な理由があります。例えば、3月決算は行政や学校の年度と合わせやすく、12月決算は暦年と一致して管理しやすいなど、どの月にも明確なメリットが存在します。
一方で、決算月の設定や変更には、資金繰りや繁忙期、税制改正のタイミングなど、慎重な判断が欠かせません。自社の業務リズムに合った決算月を選ぶことで、経理の効率化や経営判断の精度向上にもつながります。また、多忙な決算をスムーズに行うために、経理代行や記帳代行サービスの活用もおすすめです。
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決算月に関するよくあるご質問
決算月についてのお問い合わせを多くいただきます。ここでは、決算月に関するよくあるご質問についてまとめて紹介します。
なぜ3月決算の会社が多いのですか?
日本で3月決算の会社が多いのは、国や地方自治体の会計年度が4月から翌年3月までであるためです。行政や教育機関、取引先の多くが同じ年度区切りで動くため、業績や契約内容を年度単位で整理しやすくなります。また税務署の繁忙期も3月決算を基準に組まれているため、実務上扱いやすい時期といえます。
決算月が9月になるメリットは何ですか?
9月決算を採用する企業には、季節や業種に合わせた業績管理のしやすさというメリットがあります。例えば夏場に売上が集中する観光業や小売業では、繁忙期を終えた9月に決算を迎えることで、より正確に業績を把握できます。また、会計事務所や税理士の繁忙期を避け、スムーズに決算処理を進められる点もメリットです。
12月決算にする理由は何ですか?
12月決算を選ぶ理由は、暦年(1月〜12月)と一致しているため、年間の業績管理や税務計算が直感的でわかりやすいことにあります。また、海外企業の多くが12月決算であるため、グローバル企業は、連結決算や報告書の作成が効率的になります。また年末で区切ることで、年明けに新しい事業計画を立てやすくなります。